ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~ 作:天舞蜜
【剣姫】陥穽劇
激しい激突音が連鎖する。
第一級冒険者の手によって吹き飛ばされた
もう何度とも知れない戦いを前に、手刀を突き出したアイズ・ヴァレンシュタインは、額から流れる汗に構わず辺りを警戒する。
本来なら呼吸一つ乱さず数体を同時に相手取れる
ガクリ、と右脚の力が抜けた。
ミノタウロスに痛めつけられた部位が今になって悲鳴を上げ、力を込めるのも一苦労だ。咄嗟に左脚を主軸にして腰に力を込め、膝をつくのを防いだ。
異常なまでの発汗に、気を抜くと閉じてしまいそうな
原因はアイズにもわかっている。
(
自身に負担をかけ過ぎたのだ。
ミノタウロスに足腰をやられ、装備一式を失った。そのマイナスを【エアリエル】という度重なる魔法行使で補っていた。
精神力の消費が少ない魔法とはいえ、ここまでの道のりは連戦に続く連戦だった。
長時間の魔法の行使。いかに魔力量が優れている冒険者とて、体に負担がかかるのは明白だ。
精神力を大量に消費したことで、アイズの体は限界に到達しようとしていた。
手元には
この状況を覆す方法が、今のアイズには無かった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
モンスターの影が消えて戦闘音が止み、自身の荒い呼吸の音以外何も聞こえなくなった途端、一気に周囲が暗くなったような気がした。
幻覚だ。太陽の光も届かないダンジョン内が急に暗くなることなどありえない。
だからこれは、ただの幻覚に違いない。
だからこれは、今のアイズが抱える心象風景だ。
パーティーを組んでいない今、頼れる仲間は近くにいない。たった独りっきりの不安と焦燥感。そして恐怖が、心の奥底から浮かび上がろうとしている。
やがて焦慮に駆られた鼓動が聞こえてきた。戦闘が終わってとっくに呼気は落ち着いているはずなのに、心拍音は増大する一方だ。
「……ッ‼」
ギリッ、とアイズは歯を、折れそうなくらい嚙み締めた。
右手に握られた剣の鞘を強く握りしめて。壁に寄り掛かる左腕に力を込めて。
(怯えてる暇なんて……私には、ない!)
そう、自分自身の心に言い聞かせる。
けれど体が重い。
全身が鉛でできているかのような感覚に否応なく陥る。風邪でも引いたときのような発汗が止まらない。
でも進める。動ける。【ステイタス】のおかげで吹けば飛ぶような細身の、体の内側からズタボロにされたアイズでも、まだ移動できる。
(またあのモンスターと遭遇する前に、早く上の階層へ……)
次に『
おそらく碌な戦闘もできないまま蹂躙されるか……、少なくとも無傷では済まないだろう。右脚も庇いきれない。逃げ出すのが関の山だ。
いや、それよりも。
最悪なのは、再びあのミノタウロスに遭遇することだ。
万全の状態だったLv.6のアイズを一方的に蹂躙し、あまつさえ犯すに至る。そしてなぜか殺すことなく洞穴の闇へと姿を消した。
最終的に見逃されたように終わったとはいえ、ここはまだダンジョン内だ。
再び出遭うようなことがあれば、今度こそ『死』を覚悟するしかない。
Lv.6の第一級冒険者を赤子のようにあしらう
地上へ生還できたら、ギルドへの報告は必須だ。
「(でも……戦闘のあとのことは、黙っていよう)」
あんな辱めを受けた事実は、口が裂けても他言できない。
そう心に決めて、アイズが震える声で呟くと、少女はいつの間にか
すると、
「オイオイ、獲物がかかったと駆けつけてみれば……よりにもよって【剣姫】とはなぁ」
アイズの背後から、男の軽薄な声が響き渡った。
「こんな上玉は久々だぞ」
体臭を無臭化させる匂い袋を投げ捨てながら、
男たちの中で、硬直するアイズの背後の通路口から姿を現した、
「ああ。こりゃあ、少しは手こずるかもなぁ」
男の唇の端が、飢えた狼のように吊り上がった。
「冒険者っ……!?」
……否、
種族は大きく分けて三つ。ヒューマンに獣人、そしてドワーフだ。
頭目と思しき
「私に……何の用?」
アイズは跳ね上がる鼓動を押し殺して、鞘を構えながら頭目らしき
すると男はフン、と鼻をひくつかせて、
「聞くまでもねえだろうがよ、【剣姫】さん。それともここまできて、まーだ状況がつかめねぇのか?」
「言っておくけど、こんなところで争うのは、おすすめしないよ。この階層には――」
「――
「ッ!?」
アイズしか知りえないはずの情報が、男の口から発せられた。それが、彼女の心を動転させる。
その瞬間を狙いすましたかのように、亜人集団のうちの一人がアイズの背中目がけてとびかかる。
ドスッ、と。
さく裂したのはアイズの胴回転回し蹴り。
右脚に大きな負荷をかけられないため、左脚一本で跳躍すると、そのまま空で左足のブーツ踵を獣人のこめかみに叩き込んだ。
「ぶげはぁっ!?」
奇襲に失敗して無様に地べたを転がされた獣人は、そのまま気を失って起き上がることはなかった。
「奇襲は無駄。そのLvじゃ、私は倒せないよ」
警告のつもりで周囲に聞こえるように、アイズは再度鞘を構える。
得物を使うまでもなく倒すことができる。そう見せつけることで、挑戦者たちが引いてくれるよう、わざと肉弾戦で圧倒的実力差を見せつけるという駆け引きをしたつもりだった。
しかし。
パチ、パチ、パチ、と。
それを本能的に不快に思ったアイズは、問う。
「何が、おかしいの?」
「いやいや、今の奇襲は無駄なんかじゃねえってことだ。現に収穫があったしな」
(……収穫?)
男の言葉の意図するところが分からず、アイズは訝しげな表情を見せる。
「今の回し蹴り、見事だった。さすが第一級冒険者、アイズ・ヴァレンシュタイン。剣技だけじゃなく、体術も抜群ってわけだ。ま、そんなモンを見せつけられちゃあ、大抵の挑戦者はビビッて遁走するだろうよ」
でもなあ、と。男は続ける。
「お前、見えちゃいけねえモンまで見せたな」
「――ッ!」
瞬間、アイズは男の台詞の意味を悟った。
回転蹴りなどという派手な技を決めれば、当然スカートはめくれ上がる。ましてやアイズの身に着けているワンピースは、ミニがつくほど裾が短いスカートだ。『中身』が見えないなんてことはありえない。
だから一瞬の出来事とはいえ、この男は見逃さなかったのだ。
「確信したぜぇ。お前、あのミノタウロスに負けて……犯されたな?」
「ッ!」
今度こそアイズは大きく動揺した。
敗北を悟られたこと。辱めを受けたことを他人に知られたこと。それも下卑た笑みを浮かべる、明らかに善人とは程遠い人間に知られた事実に、アイズの羞恥心は燃え上がり、無意識のうちに頬を赤く染める。
眼鏡の男は、凍り付いたアイズにねばつくような視線を向けて、口を開いた。
「よし――狩れ」
くだされた命令に、
「いよっしゃあああ‼」「久々の得物だああ!」「逃がすんじゃねえぞおお‼」
それまで大人しくアイズを囲むように陣形を組んでいた
見せつけるように白い歯を剝き出しにして、全方位からアイズ目がけて同時に突貫する。
「なっ!?」
逃げ道を塞がれたアイズは、やむを得ず地を蹴って高く飛び上がる。
そうして最も動きの鈍いドワーフの
瞬間、両脇から別の
アイズは腰を反るような姿勢で躱すと、手を地面につき、そのまま超低姿勢から蹴りを放って一人の
「ぎああああっっ!?」
アイズがどれだけ攻撃を浴びせようと、
一人が倒れようが、アイズの攻撃で生まれた隙を好機と見て、別の
彼らの行動に一貫して見られるのは、アイズを『殺す』のではなく『
アイズは名の知れた冒険者であり、分をわきまえない挑戦者に襲われるというのはダンジョンに限らず、よくある日常の一つだった。
だが、味方さえ囮にして白刃を突き出してくる無情な人間たち。遠距離から魔法詠唱や矢を番えて、味方もろとも打ち抜こうとする
そんな仲間すら道具の一部として行動する彼らに、幾多の修羅を潜り抜けてきたアイズも動揺を隠せない。
さらに
一人一人のLvがアイズを大きく下回るとはいえ、中にはLv.3に相当する戦闘能力を秘めた輩も混じっていた。
さしものアイズも分が悪く、独りで戦っている少女の形勢が、刻一刻と傾き始める。
「うぐっ!」
ついに、味方を囮にしてゼロ距離まで接近した獣人の拳がアイズの背中にめりこみ、姿勢が大きく崩れる。
その隙を逃す
多くの戦法と武器を駆使する彼らは、一度傾いた形勢をものにしてしまおうと、一気にアイズを蹂躙しにかかる。
しかし、そこで地に伏すのであればアイズは第一級冒険者などという地位に辿り着いてはいない。
「【
鞘に、全身に
アイズに襲い掛かろうとしていた
「「「―――――――――ッッ!?」」」
……ただ一人を除いて、だが。
「ひゅー、やるじゃねえか。もう魔法を使う力は残ってねえと踏んでたんだけどなぁ」
それまで傍観していただけの
アイズもまた、警戒心を周囲ではなく眼前の男一人に絞り、呼吸を整える。
すると男は何を思ったのか首を窄めて「やれやれ、価値が下がるな」と独り言ちり、
「できれば傷はつけたくないんでな……どうだ、ここらで降参するってのは」
アイズに向けて投降するよう提案をしてきた。
「馬鹿に、しているの?」
「いいやぁ? むしろ称賛している。ミノタウロスに犯され、下半身はズタボロだろう? だというのに俺の部下を全滅まで追い込む底力。さすがは第一級冒険者だ。だが――」
ガキイィィイイン、と。
急接近した男の赤い槍がアイズの鞘とぶつかる。
鍔迫り合いのまま数秒が過ぎたところで、ジリジリとアイズが押され始めた。
「――いかに第一級冒険者とて限界はある」
「ッ!?」
そのまま男は槍を薙ぎ払い、アイズを後方へ押し詰める。
「もうお前に魔法を発動させるだけの
「くっ!」
男の言う通り、アイズにはもうほとんど抵抗する力が残されていなかった。無理をすれば数秒くらいは【エアリエル】を発動できるかもしれないが、その後は確実に
そうなれば倒れている
だからアイズは普段の半分も出せない実力だけで、この壊れかけの鞘だけで、
「なぁ、サッサとあきらめろよ。今ならまだ――」
「黙って……!」
アイズはフラフラの身体とは対照的に、普段以上に意思のこもった目を向けて、
「私は、諦めないよ。あなたを倒して……ここを……ここ、を……?」
ふいにアイズの様子が豹変する。目がうつろになり、視界の焦点が定まらなくなった。
足元がおぼつかず、手に持っていた鞘を落としてしまい、ついには膝をついてしまう。
「……なに、これ……?」
自分の身体に何が起きているのか。
訳も分からず自問するアイズとは対照的に、
「……くくっ、…………くはっ、はははっ、はははははあぁ!」
「
その笑い声は、長い長い歳月をかけて育てた果実がようやく熟れたような、そんな喜びに近しいものだった。
「ここまで頑張ったご褒美に教えてやるよ、【剣姫】。あのミノタウロスはな、俺たちが育て上げた怪物なのさ」
「…………ぇ?」
育てる? 人が?
いったいどうやって育てるというのか。思考回路が安定しないアイズには、理解の出来ない言葉だった。
「
分からない。アイズには理解ができない。
「……なんで、そんな、こと……」
すると
「楽しいからに決まってるだろう?」
男はその冷徹な顔の前に手をかざし――、
「人も、
――かざした手で拳を作る。そしてふいに天井を仰ぎ、こう続けた。
「俺はな、
それは男の本音の一端だった。
「人間でもいい。怪物でもいい。本性と本性がぶつかり合うときに散らす感情、情欲の火花。刹那の輝きを、俺は何度でもこの目に刻みつけたい」
アイズは男の娯楽のための贄だった。
おそらくは、ミノタウロスの精液に体を麻痺させる何らかの成分が混ざっていたのだろう。
それを浴びるように体内へ放出された少女は、いかに【耐異常】のアビリティを保持していたとて、
いずれにしても、これでアイズは完全に勝機を失った。
「ま、それに俺たちの【ファミリア】はほとんどが男だ。少しは部下のストレスを発散させてやらねえと、俺の目の届かないところで何をしでかすか分かりゃしねえからな」
さてと、と話を終えた
「オイ、お前ら。いつまで寝てるつもりだ。サッサと起きて仕事をしろ」
男の凍てついた声音に、気絶していたはずの
「手足が無事な奴はこの『荷物』を運べ。残りは自力で
行くぞ、と告げて
アイズの手によって負傷した男たちがよろめきながら立ち上がり、
ほんの少し前まで激戦が繰り広げられた
今作の続編を執筆するとしたら、どのキャラクターがいいでしょうか?(ただし、ジャンルはR18の凌辱モノ系統になるとおもいます)
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引き続きアイズ・ヴァレンシュタイン
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リヴェリア・リヨス・アールヴ
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リュー・リオン