ダンジョンで犯されるのは間違っているだろうか ~アイズ・ヴァレンシュタイン編~ 作:天舞蜜
【剣姫】困惑劇
ギィ、ギィ、と。
金属と金属がこすれる音に、
「…………う」
朦朧とした意識がゆっくりと、次第に呼び起こされていく。
全身にズキズキという重苦な痛みが張り巡らされている中、アイズは活力のない動作で顔を上げた。
最初に目に入ったのは、向かって正面にある小さな魔石灯の光だった。
辺りはただ
背中にひんやりと冷たさが伝わってくる壁は、
大の大人が最低でも10人は横になれるほど広々としており、涼しさにも似ている冷気が足元を這うように漂っていた。
ゆっくりと部屋の薄暗さに目が慣れていく中、ここは、とおぼつかない思考を働かせていくと、
「……ッ⁉」
ドロリ、と。何かが太ももを伝って落ちていく不快な感触に襲われた。
恐る恐る下を――具体的には自分のスカートから出ている脚を――見れば、白濁液が床へポタポタと垂れているではないか。
その光景、その有様が、己の身に何が起きたのかを思い出すには十分な手がかりだった。
迷宮の中層、
最後に浮かんだプライドを捨て慈悲を乞う己の堕落した姿が、ズキンッと胸を痛ませ、過去から目を背けるように思わず瞼を閉じる。
そっか、私は……、
「犯された……」
アイズは気絶する瞬間まで……いや、気絶した後も尊厳を踏みにじられ続けたに違いない。
ぶるり、と身の毛のよだつ忌まわしい記憶が、アイズの意識をハッキリと覚醒させる。
(……そういえば)
と。
冷静になって周囲を見渡してみれば、辺りには誰もいない。それどころかこの部屋にある
だが出口には嵌め殺しの窓すらなく、ただただ分厚い
つまり普通なら光が差し込んでくる余地はない。
だというのに、光源になっているということは、扉が開け放たれているということだ。
(……どうして、開いてるの?)
扉の向こうには見張りの気配すら感じられなかった。
Lv.6であり第一級冒険者のアイズが、気配を感じられないということは、間違いなく牢屋とその周囲はもぬけの空ということになる。
(何が、起こっているんだろう……?)
金属床につま先を立てた格好。壁に背中を預ける姿勢で、頭の上には分厚い
人がいないのをいいことに、目を見開いて歯を食いしばり、
浅く息を切らしながら、身体を脱力させる。
「せめて、魔法が使えれば……」
絶望に打ちひしがれたように呟きを漏らす。
アイズは投獄されてからというもの、気絶しては様々な部屋へ運び込まれ、数多の種族、多種多様な
逃げようにも頑強な鎖で身体を繋がれ、魔法を封じられて、時には
(それでも治療は……されている、みたいだけれど……)
両手を頭上で拘束されたまま、自分の身体を見下ろす。
ミノタウロスとの戦闘で武器と防具のほとんどを失い、
振りかけるように
身体から熱が引いていき、頭も冴えていく中、アイズは今一度室内を見回した。
と。
そこでアイズは衝撃の事実に気づく。
「『
*
「アイズが帰ってきた、だと⁉」
【ロキ・ファミリア】の
【ロキ・ファミリア】の幹部の一人にして、ハイエルフと呼ばれるエルフ王族の出身であり、自他ともに認める現オラリオ最強の魔導士。
風貌にや種族に似つかわしく、知的で常に冷静な判断のもと、物事を見据える尊厳ある人物。……なのだが、このときのリヴェリアは珍しく目を見開き、明らかに動揺していた。
「しー! 気持ちはわかるが静かにせんか、馬鹿者」
そう言って彼女を制したのは、リヴェリアと同じくして【ロキ・ファミリア】幹部の一角、ガレス・ランドロック。
種族はドワーフで、その豪快な性格と戦いぶりから【
彼もまたリヴェリアの気迫に圧されたのか、少し慌てた様子で、
「何のために幹部内で
暴れるリヴェリアを何とか落ち着かせるのに、しばらくの時間を要した。
その後、予定の2日を過ぎても
それでも4日が過ぎたころ、流石におかしいと感づいた【ロキ・ファミリア】団長のフィン・ディムナは、慌ててロキの元へ駆けつけ、『恩恵』によるアイズとの
結果としてアイズが生きていることは確認が取れたが、「このことが他の団員に知れ渡るのはまずい」とフィンの親指が告げていた。
【ロキ・ファミリア】中核のメンバーの【剣姫】。その
ともすれば外部への情報漏洩も可能性として否定できず、弱体化した【ロキ・ファミリア】を脅かす不届き者が現れないとも限らない。
だからこそフィンは、この情報の共有を主神であるロキと、古参メンバーにして幹部であるリヴェリア、ガレスのみに留めていた。
「それで、アイズは今どこにいる?」
部屋中央のテーブル、それを囲むソファーに座るリヴェリアは落ち着かない様子で、同じく向かいの席に座るフィンに問いただすように目を向けた。
フィンの隣にはロキが座っており、リヴェリアのはす向かいのソファーはガレスが占拠していた。
今日の空は晴天のようで、窓からは白い光が差し込んでいたが、ひるがえって部屋の空気は今にも雨を落としそうな暗雲が立ち込めるように重い。
「アイズたんは自室で寝とるはずや」
フィンが口を動かすよりも早く、彼の隣に座っていたロキがどこか苛立たしそうに答えた。
「詳しいことは分からん。というかまだ何も聞けとらん」
そう言ってそっぽを向くロキの顔には、絆創膏が貼られていた。
アイズが行方不明になってからというもの、自暴自棄になっていたロキは、それはもう他の団員には見せられないほど酷い錯乱状態だった。終いにはアルカナを封印された
だからこそ、アイズが帰還したと聞いたロキは、それはそれは泣いて喚いて鼻水を垂らして……別の意味で暴れだした。ので、ガレスが軽く小突いて気絶……もとい、落ち着かせたのだ。
「アイズが帰ってきたとき、彼女の
フィンはロキの言葉を補足するように、アイズが戻ってきたときのことを一通り説明する。
「つまり、アイズは何故か一週間も帰ってこなかったが、いざ帰還してみれば手ぶらだった、ということか?」
人差し指でこめかみをグリグリと抑えながら、リヴェリアは今わかっているだけでも内容をまとめる。
「ま、そういうことになるね」
「念のために訊くが……、命に別状はないんだな?」
リヴェリアにしては珍しく心配そうな目で不安を訴えかけてくるが、それを見抜いてかフィンは努めて落ち着き払った声音で断言した。
「疲れはたまっているようだったけど、パッと見たところ外傷はまったく見受けられなかった」
ただ、と。
(僕の親指の疼きは、まだ止まっていないんだけどね……)
フィンは口にするわけでもなく、懸念を心の内に秘めたまま、アイズの体を案ずるように窓の外を眺めた。
*
日が落ちて、代わりに魔石灯の灯りが門の前を照らす。そこには門番の二人組が立っていた。
それ以外の【ファミリア】の団員はみな、各々の部屋で
「がっ……げぁっ……ぐぅうっ……⁉」
夜も静まった【ロキ・ファミリア】の
とある少女が寝泊る寝室では、もだえ苦しむ一つの影が蠢いていた。
新しい服に着替えたアイズは、頭まで毛布で包み込み、苦悶に満ちた呻き声を必死に押し殺そうとしている。
アイズは、悲鳴を上げたいのをこらえ、ベッドのシーツを噛んでまで激痛に耐えていた。
「ぐっ……はっ、はぁ、はぁ……!」
しばらくすると一時的に痛みが治まったのか、アイズは荒い息を立てて額の汗をぬぐう。
全身が震えが止まらず、腕や脚が痙攣するその少女の症状は、まるで重篤患者の発作のそれだった。断続的な痛みは、まだあの牢屋での悪夢が終わっていないことを物語っている。
「(こんなことに、なってしまう、なんて……)」
溢れ出る大量の汗が毛布を湿らせる中、アイズは悲嘆めいた呟きを漏らす。
「(あのディックスという人、これもあの人の……意図したことなの……?)」
今もなおアイズを苦しめ続ける『原因』が
ベッドに身体を沈めて窓から差し込む月明かりに照らされている彼女は、次の発作はいつ起こるのか、と見えない恐怖に慄く。
あの男は「追い込まれた人間の本性が見たい」と言っていた。
しかしアイズが枷を破り、牢を出たとき、そこにはグシャグシャになった惨殺死体が幾つも転がっており、乾ききった血だまりの中にはあの男が身に着けていた
あの得体のしれない【ファミリア】に何があったのか。アイズには知る由もない。
しかし何者かが……それも、圧倒的な力を持つ存在が、あの【ファミリア】を壊滅させたのは考えるまでもない。
だからアイズがこれ以上、襲撃拉致監禁に怯える必要はなくなった。
なくなったのだが。
【ファミリア】が壊滅してしまったことで、一つの問題が浮上した。
アイズのお腹、子宮内部に植え付けられた『寄生型
この
最悪なことに、時折食事に飢えてはアイズのお腹を内側から食い破らんばかりの勢いで暴れだすのだ。
実際、ただの一般人ならば腹に穴をあけられて、そこから
ところがアイズはLv.6であり、毎日のように
だから寄生型
アイズにしてみればたまったものではない。
実はあまりの苦しさに耐えかねて、【ロキ・ファミリア】の
【ディアンケト・ファミリア】の団長は、【戦場の聖女】という二つ名を持つアミッド・テアサナーレ。あらゆる怪我や病気を治す、白銀の長髪が特徴の少女だ。
彼女なら何らかの対策を講じてくれるのではないか。そして何より友人にして同性ということもあり、込み入った話をできる相手と見込んで相談に向かったのだ。
もちろん今回の事態は、傷や
しかし、Lv.2にして『神秘』という神の十八番でもある『奇跡』、レアアビリティを手にした彼女のことだ。呪詛や呪道具の効果を打ち消す
そんな希望を胸に【ディアンケト・ファミリア】の
なんと【ディアンケト・ファミリア】が開店した『おふろの神様ケヒトの湯』という天然温泉が現れて以降、なぜか彼女の姿が見えなくなってしまったそうなのだ。
つまり、唯一の相談相手が行方不明という事態に陥った。
そんなわけで、アイズは子宮の痛みを我慢して自身の
そんな我慢も限界に達しつつある。
第一級冒険者として、
リヴェリアに相談するという手もあったが、そんなことをすればそうなった経緯の説明を求められるだろう。だがなぜか、彼女にはそれを言いたくなかった。というか、【ロキ・ファミリア】のメンバーだけには知られたくなかったのだ。
……いや、正確には一つだけ希望がある。
問題の根底を覆すほどの解決策とはいえないが、アミッドが見つかるまでの時間稼ぎにはなる方法。
(でも……この手を使うのは……)
躊躇われる。
残された理性がアイズの心にブレーキをかける。
その一線を越えてはいけない、と。
しかし、
「……ぐっ、がぁっ、あがぁっ‼ がはっ……また……これ……ひぎぃいっ⁉」
残されたわずかな理性も、次の発作で弾け飛んだ。
本能が告げている。
今すぐにでも、苦痛から逃れよと。
さもなくば痛みのあまり、ショック死してしまいかねない、と。
気がつけば、アイズは白銀のアーマーを身に着けていた。
いつもの装備に着替えると、窓を開け放ち、
3メートルはある塀を軽く飛び越えると、着地と同時にお腹から激痛が走る。
だが立ち止まっている時間はない。
一刻でも早くこの苦痛から逃れるべく、アイズは走り出す。
目指す先は決まっている。
いつも
あそこに行けば、いるかもしれない。
あそこに行けば、会えるかもしれない。
「……ベル・クラネル」
少女の淡い希望を乗せた呟きは彼女の駆ける足音同様、繁華街の雑踏へ吸い込まれるようにかき消されていった。
今作の続編を執筆するとしたら、どのキャラクターがいいでしょうか?(ただし、ジャンルはR18の凌辱モノ系統になるとおもいます)
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引き続きアイズ・ヴァレンシュタイン
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リヴェリア・リヨス・アールヴ
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リュー・リオン