東方淫魔伝 作:スイセン
目が覚めたら、以下略。
いつも通りの日差し差し込むアリスの部屋で目覚めたと思ったらいつもと様子が違った。
やけに暑い。
理由はなんだと首を回すと、俺の左腕に引っ付いた状態で裸のルーミアが寝ていた。そして、その逆側ではアリスが俺の右腕に抱きついて目を閉じている。
え、なにこの天国。起きた瞬間からすごい幸せなんですけど。
いつの間にか元の姿に戻っていたアリスによって、柔らかい胸が押し付けられているし、ルーミアは寝ぼけて俺の腕を舐めている。
ちょっとくすぐったい。そして、この状態だと動けない。
すぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てている二人を起こすのは忍びないので、仕方がなくそのままの姿勢で二人が起きるのを待つことにした。
……この状況、天国かと思ったけど地獄では?
両腕を二人にホールドされているから動けず、しかもルーミアがもにゅもにゅと甘噛みしてくる気持ちよさに加えて、アリスの柔らかい胸が押し付けられる感触。
俺は起き上がれないが、息子が思いっきり起き上がっていた。……最低の下ネタだな。
あんなにやった後だと言うのに元気いっぱいなの凄いな。自分でもドン引きだわ。
もう一度寝ようにもこの刺激を意識してしまったら、寝れる気がしない。アリスのことを抱きしめようにもルーミアが邪魔をし、ルーミアを抱きしめようにもアリスが邪魔をする。
やっぱりこれある種の地獄では?
そう思っていたら、コンコンと玄関の方からドアがノックされる音が聞こえてきた。
その音でアリスはゆっくり目を覚ます。
そして、朧げな目で俺を見て、ゆでだこのように一瞬で顔を赤くした。
「う……、あ……、お、起きてたのね」
寝ている姿を見られて恥ずかしいのか、ややつっかえ気味にそれだけ言うと、アリスは抱きついていた俺の腕を離して起き上がる。
その際にもう片方の腕に抱きついているルーミアを見て、人形を操作して、無理矢理ルーミアを引っ剥がした。
引っ剥がされた拍子に寝ぼけた様子でルーミアが目を開ける。
「むにゃ、もうあさー? まだ寝るー」
流れるようにそう言うとルーミアは闇を放出していった。
おお、便利だなそれ。
ルーミアの姿は見えなくなったが、多分中で寝ているのだろう。
呆れたようにため息をアリスがついたところで再びドアが2回ノックされた。
「アリスー? 留守かー?」
「魔理沙っ!?」
その声にぎょっとしたような反応をしたアリスは慌てたように服を人形達に持ってこさせて着替え、部屋を出て行く。
ついでにしっかりとドアの鍵まで閉めて、門番のように人形を2体ほどドアの前に置いていった。
魔理沙と呼ばれた客人とどんな話をしているのかとドアの前に近づくと、人形達によってベッドまで無理矢理戻される。
どうやら魔理沙と俺を合わせたくないようだ。
部屋から出ることもできず、部屋には人形と真っ黒い闇に包まれて寝ているルーミアのみ。
暇だ……。
とりあえず服でも着るかと着替えをしていたら、唐突に目の前の空間が歪んだ。
いや、その表現は正しくないのかもしれない。何もない空間が唐突にぱっくりと開き、そこからナイトキャップのような帽子をつけた女性が顔を覗かせた。
「ふふっ、昨日はお楽しみだったわね」
怪しげな笑みを浮かべるその女性の登場に驚き、唖然としているとその女性は床に降り立つ。
「え、誰? ええ……?」
常識外すぎる展開にそれだけ呟いた俺にその女性は悲しそうな表情をした。
「あら、忘れるなんて酷いわ。あなたを最初に迎え入れたのは私だというのに」
「最初って……」
あの魔法の森に倒れている前のことだろうか。
記憶を辿ろうにもそれ以前の記憶は思い出せない。
「ああ、思い出さなくていいわ。思い出せないでしょうけど」
俺の考えを見透かしたように彼女が言う。
何故だかわからないが、こいつは信用ならないと俺の直感が告げてくる。なんとも胡散臭いし、なにより友好的ではないことは明らかだ。ルーミアの時の捕食対象を見る目とも違う、こちらを敵視している視線。
それに気づかれているとわかっていながら、いや、それを悟らせようとわざとらしい敵視をこちらにぶつけてくる。
「……何か知ってるのか?」
警戒しながら尋ねると、彼女は蠱惑的な笑みを浮かべた。
「私は八雲紫。境界に潜む妖怪よ。今日は挨拶にきただけですわ。……それに、もう時間切れね」
再び、空間が歪んだと思うと彼女の姿はどこにも無くなっていた。
そして、慌てたように勢いよく扉が開かれた。
「大丈夫!?」
人形達を完全臨戦体制にしたアリスが中の様子を警戒して伺う。
そして、俺とルーミア以外は誰もいないことを確認すると人形達が構えてる武器を下ろした。
「侵入者を検知する魔法が発動したから急いできたんだけど……」
誰もいなかったことに訝しみ、俺に視線を向ける。
答えなさいと目で語っていたし、嘘をついたら自白剤を飲まされることは明白なので正直に答える。
「八雲紫って奴が突然」
「なっ!?」
俺が名前を出した瞬間、アリスは武器を下させていた人形達を再び臨戦態勢にして、俺に詰め寄った。
「紫に何を言われたの!?」
「え、いや、なにも……」
「なにも? 本当に?」
「ああ。挨拶にってことと、あと、最初に迎え入れたって」
俺の言葉に考え込むようにアリスは俯く。
「確かに外来人が幻想郷に来るのはあの妖怪の仕業だけど……。あなたはその最初を覚えてないの?」
「何も覚えてない」
思い出そうとしても、魔法の森でアリスに出会ったところまでしか俺は思い出せない。
それ以前のことなど何一つ覚えていなかった。
アリスはため息を吐くと人形達を解散させた。
「わかったわ。とりあえず、出かける準備をしましょう。あなたの怪我も問題ないみたいだし」
「どこに行くんだ?」
「どこって、もちろん紅魔館よ」
ルーミアに襲われた記憶を思い出して、顔を顰めてしまう。
俺が嫌そうな顔をしたからだろう。一体の人形が俺の頭をなでなでしてくる。
「もう。そんな顔しないで。あなたにとっても重要なことだろうから。それに、今度こそはちゃんと守るわ」
そう言ってアリスは一体の人形を俺に手渡した。
人形とは言っても、そのサイズは手のひらサイズで物凄く小さい。真っ黒い髪をした、まるで日本人形のような人形だ。
「これは?」
「あなたのための作った人形よ。魔力を溜め込むようにしてるから、私が離れても一定期間なら守ってくれる」
他の人形達と違って、一切動かないせい上に、ポケットに入りそうなほどの小ささのせいで本当に守ってくれるか疑わしく感じるが、アリスの言うことなのだから多分そうなのだろう。
しかし、単体でマジマジと見ると結構不気味だ。夜中とかに動いてたらちびりそう。
「まぁ、わかった。アリスを信じるよ」
「…………そう。よかったわ」
なんか変に間が空いた回答をしたアリスは、準備のためか部屋を出て行く。
アリスのいなくなった部屋でもう一度人形を見てみると、その瞳は全てを飲み込むルーミアの闇のようで、やっぱり不気味だった。
再びやってきました霧の湖!
あれから準備をしたので、既に日が沈み始め、辺りは暗くなり始めている。先程もらったアリスの人形はポケットにしまっておいた。
そして、今いるのは俺とアリスだけ。
俺たちが出かけると気づいたルーミアも先程まではいたのだが、どっかの氷の妖精とやらについていっていなくなってしまった。相変わらず勝手気ままである。
湖の方を見ると、霧で対岸が見えないが随分な大きさであることがわかる。たまに水飛沫が上がっているから魚もいるようだ。
「ここってどんな魚が釣れるんだ?」
「人魚ね」
「へぇー、人魚……。不老不死になれたりするのかな」
釣れる魚が想定外すぎて変な感想しか出てこなかったが、それにアリスは律儀に答えてくれる。
「それは知らないけど、不老不死なんて碌なものじゃないわよ」
「そういうものか」
まるで見てきたかのように言うアリス。
妖精とかもいる幻想郷だ。不死者とかがいてもおかしくはない。
そして、会話が途切れる。先程からこれの繰り返しだ。
何か俺が話題を振ればアリスは答えてくれるが、自ら進んで喋ろうとしてくれることは少ない。
お陰でちょっと気まずい。本人は気にしてはいなさそうではあるが。
「エッチの時はよく喋るのにな……」
小さくぼそっと呟いた俺の言葉にアリスは脚を止めた。
どうしたのかと思う間もなく、人形達が俺に引っ付き始め、引っ張り、殴り、蹴りと暴行を加えてくる。
痣とかが出来る威力ではないが結構痛い。
「あ、アリス?」
「あら? なにかしら?」
恐る恐ると名前を呼ぶと、ものすごく良い笑顔で振り向かれた。
「いや、その痛いんですが」
「気のせいじゃないかしら? 霧もかかっていることだし」
「いや、意味わかんな、いたっ! 髪引っ張らないで!」
「ふふ、あなたはいつも煩いのね」
目が笑っていないから怖い。人形達に俺のことボコボコにさせて、満足したのかアリスは再び歩き出す。
ふぅ、怖かった。
美少女は怒ると怖い。記憶のノートに書き込んでおこう。
アリスの後を追うようにして少し歩くと前にも見た紅い館が見えてきた。
そして、門の前には美鈴とどこかで見覚えのあるメイド姿の少女が立っていた。
美鈴が俺たちに気づいてこちらを向くと、それに釣られてメイド姿の少女もこちらを見る。その拍子に二人に凄く驚いた表情をされた。
「え、咲夜さん、彼って全治に数ヶ月はかかりそうな怪我を負ったんじゃないんですか?」
「その筈なんだけど……」
この少女やっぱりどこかで……。
あのメイドの少女を見てると何か寒気がするし、腕とか痛くなるし、ちょっと逃げ出したくなる気持ちになるのはなんなんだ。
メイドの少女なんて知り合いにはいなかった筈なんだけどなぁ。
「どうかしたの?」
悩む俺を覗き込むようにアリスが見る。
「いや、あのメイドに見覚えが」
「見覚えって、魔法の森の出来事を思い出したんじゃなかったの?」
「ん? 魔法の森の出来事って」
「え、だから……」
と、言葉を続けようとしたアリスが何かの可能性に気づいたように固まった。
「あなた、ルーミアとの出会いって覚えてる?」
「それは、もちろん。俺のことを捕食しようとして……して……なんだっけ?」
ルーミアに何かをした気がしなくもないが、何も思い出せない。
「アリスさん、どうかしたんですか?」
慌てた始めたアリスに気づいた二人がこちらに近づくが、そちらに意識を向けることすらなくアリスはアリスが俺の肩を掴んでじっと俺のことを見つめる。
「質問をするわ。私とあなたって何回エッチしたかしら?」
「はぁ!?」
「まぁ……!」
「あ、アリスさんっ!?」
唐突すぎる変な質問に俺は驚きの声をあげて、メイドの少女と美鈴は顔を赤くした。
「いいから、答えて」
ふざけている様子なんて一切なく真面目に尋ねるアリスに、俺は記憶を呼び起こし、渋々と答える。
「3回だろ」
「それはいつ?」
「いつって、自白剤を飲まされた時と、媚薬を飲んだ時と、ついさっきじゃないのか?」
「ついさっきって……」
「アリスって結構お盛んなのね……」
二人からちょっとしらっとした視線が向けられてる気がするが気にしないことにした。
俺の答えを聞いたアリスは確信がいったように頷くと、美鈴の方に振り返る。
「今日はパチュリーはいるわよね?」
「ええ。いつもいますから」
「お邪魔していいかしら。少し急いでいるの」
「は、はぁ……」
慌てた様子のアリスに押されるように美鈴は門への道を譲るが、その道にメイドの少女が行手を阻むように立ち塞がった。
「何かしら? 急いでいるんだけど……」
「パチュリー様のところに行かれるのもいいですが、先にお嬢様の方に行かれた方が良いかと」
その言葉にすごく嫌そうな顔をするアリス。
「必要?」
「必要ではないですが、行かなかった場合、お嬢様がパチュリー様のところに邪魔しに行くかも……」
「……仕方ないわね」
はぁとため息をついたアリスはこちらに向き直る。
「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、ああ……」
なんかよくわからないが行動予定が決定したようだ。
メイドの少女に先導されるように館の中に入ると内部は外から見たよりもやけに大きく見え、そこらでメイド服を着た妖精などが飛び回っていた。
「こちらです」
後ろをついていきながらこそっとアリスに尋ねる。
「お嬢様ってどんな人なんだ?」
「吸血鬼よ」
「吸血鬼……」
そういえば、ここは吸血鬼の館って話をどこかで聞いた気がしなくもない。
どんな姿かは想像出来ないが、多分優雅な感じなんだろう。
と、思っていた時期が俺にもありました。そのお嬢様とやらがいる部屋に通されて、そこに居たのはちんまい少女だった。
ナイトキャップのような帽子を被り、ドレスのような洋服を着ているものの、その年齢はルーミアとほぼ違いがないように感じる。
なんならこの吸血鬼の方が幼くさえ見えてしまう。そんな姿なのにも関わらず、優雅な様子で椅子に座っているものだからなんともチグハグだ。
「あなたが咲夜の言っていた人間ね。私は死なずの女王、永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットよ」
「は、はぁ……」
ひとまず、ぎこちなく礼をしておくと、レミリアは優雅に笑いこちらを見つめる。
「本来、私にとって人間なんて取るに足りない存在なんだけど……、あなた、面白い能力を使うそうね。それ、見せてくれないかしら?」
「ダメよ」
俺が答えるよりも先にアリスが即答した。
その言葉にちょっとむっとした表情になるレミリア。
「どうしてあなたが答えるのかしら? 私はそこの人間に聞いたんだけど」
「彼は自分自身の能力の使い方すらわかってないの。どんな副作用があるかもわからないのに簡単に使わせるなんてことは出来ないわ」
じっとレミリアを見据えて答えたアリスにレミリアは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「そう。どうでもいいわね」
「ええ。あなたにとってはね」
「大事なのは彼の意見でしょ?」
「大事にする気はなんてないでしょ?」
……一言も割り込めない上に怖い。二人とも優雅に微笑んでいるのに、バチバチと火花が散ってそうだ。
「え、えっと、メイドさん」
助けを求めるようにメイドの少女を呼ぶと、彼女は静かに答える。
「咲夜ですわ」
「え?」
「十六夜咲夜です」
「あ、じゃあ、咲夜」
「はい」
「止めなくていいの?」
「止めて聞くなら止めますが?」
つまり、止めても聞かないこと知ってるから止める気はないらしい。
一触即発の雰囲気にオロオロとしてると、レミリアは飽きたかのように頬杖をついた。
「わかったわ。別にそこまで興味があるわけでもないし」
そう言いながら、その瞳は俺を完全に捉えている。
あれは絶対に諦めてない。ルーミアに似た捕食者としての、いや、圧倒的な上位者として俺を見る視線だ。
そんなレミリアを気にもかけず、アリスは振り返ってこちらを向く。
「それじゃあ、図書館に行きましょうか」
そちらの吸血鬼さんはいいんでしょうかとチラッと様子を伺うと、どうぞと言わんばかりににこっと微笑まれた。
「それでは、ご案内します」
咲夜に案内されて向かった図書館は、あの館のどこにこんな大きな図書館が入るのだろうかという広さだった。
俺の背丈より圧倒的に高い本棚にびっしりと本が入れられ、それが図書館内に所狭しと存在している。
しかも、どらもが見たこともない本で、文字すら読めないものがいくつもある。
その本棚に囲まれた図書館の奥で、パチュリー・ノーレッジと呼ばれる紫の髪を持つ少女は本を読んでいた。
その隣の机では、なぜかレミリアが咲夜に紅茶を頼み、ティータイムをしていた。
「どうしてついてきたの?」
「あら? 私はここの館の主よ? どこにいようが私の勝手」
「…………邪魔だけはしないでね」
アリスはレミリアを一瞥すると、パチュリーへと向き直る。
すると、パチュリーはボソボソと小さく喋り出した。
「……それで何のようかしら」
「彼の能力について調べに来たのよ」
アリスの言葉にパチュリーは俺に観察するような視線を向ける。
「……人間ね。けど、混ざってる」
「混ざってる?」
「半人でも、半獣でも、半妖でもない。けど、たしかに混ざってるわ」
パチュリーの言葉にアリスが目を細めるが、その混ざっているというのが何を指しているのかわからなかったらしい。
俺も自分に変なものが混ざってるとか言われても、マジマジと自分の体を見てしまったが、至って普通のいつもの俺の体だ。
「それで、彼はどんな能力なの?」
「わからないのよね。色んな能力が混ざってるみたいなんだけど……」
「状況とどんな能力だったか教えてもらえるかしら」
パチュリーがそう言うとアリスは顔を赤くして言葉に詰まる。
「ひ、必要……?」
「当たり前でしょ。状況の分析は基本よ」
「そう、よね……」
何かあったのかと思うと、アリスはチラリとこちらを見て、パチュリーに耳打ちするように口元を近づけた。
アリスがボソボソと何かを喋ると、パチュリーの顔が少し赤くなる。
「そ、そう。わかったわ……」
「ねぇ、パチェ、何を聞いたのかしら?」
「レミィにはまだ早い話よ」
レミィとはレミリアのことだろう。レミリアにはまだ早い話?
俺の能力の使用状況伝えただけじゃないの? ……って、あ、そうか。俺が能力使用した時ってアリスの媚薬飲んだ時だけだから。
アリスとパチュリーの顔が赤くなった理由に納得してると、パチュリーが咳払いをする。
「とりあえず、その能力……。そうね、状況からして『卑猥な程度の能力』とでもしておきましょう。その能力を見てみないことには始まらないわ。その薬ってある?」
「あるけど……」
心配そうにこちらを見られたので、問題ないと首を振ると、アリスが小瓶を手渡した。
しかし、卑猥な程度の能力か。なんか嫌だなぁ……。ダサいし、何よりもヤバい奴って感じがしてならない。
「これを飲めばいいんだな」
「ええ」
「……レミィは部屋出た方がいいんじゃないかしら」
「何が起きるのか知らないけど、このスカーレットデビルに心配事なんて無用よ」
ふふんと薄い胸を張るレミリアに対して、困ったようにパチュリーが額を抑える。
知らないわよと小声で言って、注意するように俺の様子を観察し始めた。
さて、俺はこれを飲めばいいんだな。
これは多分いつもの媚薬だろう。つまり飲めば勃起してしまうわけで……、え、こんなに大勢に見られながら飲むの?
流石に恥ずかしいが、パチュリーが早く飲めと視線で促してきているし、問題ないと首を振った手前一気に飲み干す。
相変わらずの甘さに加えて、いつもの体の芯から熱が上ってきて、それが一点に集まる感覚に襲われた。
「効果が出てきたみたいね……」
「あ、ああ……」
「うわっ……」
「あっ……」
アリスから聞かされていた分、冷静そうなパチュリーに対して、レミリアと咲夜は俺の股間の変化に気づいたのか顔を赤くする。
「……それで、こっからどうすればいいんだ」
恥ずかしいので早く終わらせて欲しいのだが。
俺が尋ねると、考えてなかったのかパチュリーは困ったようにアリスを見た。
「ここからいつもは限界まで射精させてるんだけど……」
「試してみたいところではあるんだけど……、流石に……」
俺としてもこんな見守られている中でするのはごめんだ。恥ずかしくて死ねる。
ただ、媚薬の効果で股間が熱くて辛い。
早く処遇を決めて欲しいと思っていたら、甲高い声が割り込まれた。
「パチュリー様ぁ! なんですか、この酷い臭いは!」
声のした方を見ると、赤い髪の毛に、羽を生やした少女がこちらに飛んできていた。
「って、うわっ! ここの臭いもっとひどい!」
鼻を摘みながら、その少女はパチュリーの隣に降り立つ。
「匂い? 私にはわからないけど」
「えー!? なんかすっごくムカムカするような胸焼けする匂いしません? ほら、そこの男性からって、え? なんであの人勃起してるですか?」
ドン引きしたようにこちらを見られて傷つく。
「ち、違う! これは薬の効果のせいで」
慌てて弁明すると、更に一歩引かれる。
「あまり近づかないでください。匂いすごいので……」
「臭いって言われてるみたいで傷つく……」
「いや、臭いですから」
なにこいつ、慈悲がない。
落ち込んでいると、アリスが近づいてくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
ちょっと恥ずかしい。
「そこまで酷い匂いするかしら? 私はわからないけど……」
「酷いですよー。パチュリー様が許してくれたらすぐさま殺しちゃいたいくらい」
「残念だけどそれは許可できないわ。彼の能力についてまだ何もわかってないし」
「そうよ。能力はまだー?」
悩むようにパチュリーは顎に手を添えて考える。
「アリス、他に彼が能力を使用した状況はないの?」
「そうね……。そういえば、ルーミアに連れて行かれた時も能力を発動してたわね」
「……そんなことあったか?」
首を傾げる俺に対して、パチュリーは頷いた。
「命の危機によるものかしら……。とりあえず、それで行きましょう」
「え、ちょっと待って!」
慌てたアリスの静止も間に合わず、パチュリーは赤い髪の少女に命令を出す。
「小悪魔、やっぱり彼を殺すことを許可するわ」
「いいんですかー? 遠慮なくやっちゃいますよ?」
にこっと嬉しそうに小悪魔と呼ばれた赤い髪の少女が笑った瞬間、俺は床に叩きのめされていた。
背骨にヒビが入ったんじゃないかというほど強力な刺激が背中を襲う。
「あっ、ぐぁ……」
息が出来ない。
呼吸を求めて口を動かすが、酸素を吸い込んでいかない。
「本当に酷い匂いですね……」
俺を叩きつけて、馬乗りになった目の前の少女の手のひらから俺の顔に向けて赤い魔力が溜め始められる。
次の瞬間、視界の全てが赤く染まり、俺の頭は吹き飛んだ。
淫魔録その2
主人公は記憶を失っている。