東方淫魔伝 作:スイセン
「完全に、道に迷った……!」
なんだこの屋敷、広すぎるだろ。しかも内装が似たり寄ったりなせいで、自分の位置すら把握できないし、「あれ? この場所通ったけ?」って事態が多発している。
加えて、ついてないことに妖精メイドにも会えないし、ホフゴブリンも見かけてない。これでは道を聞くことすら出来ない。
最後に会ったのは先程のレミリアだけだ。
レミリアに道でも聞けばよかったか……。しかし、素直に教えてくれたなんて思えない。なんならその場で首を掻っ切られてもおかしくはなかった。あのお嬢様怖い。
そして、更に迷うこと数十分。迷いに迷いまくった結果、地下に行く予定だったのに、なぜか庭を一望できるバルコニーのような場所に出てきてしまった。
紅魔館に庭なんてあったんだな。畑とかもあるみたいで中々の広さだ。
しかし、弱ったな。地下室に一生たどり着ける気がしない。
そうだ! 床を全部ぶち壊せば地下に絶対繋がる!
……アホか。その後に俺が咲夜かレミリアあたりにぶち壊される未来しか見えない。
どうしたものかとほとほと困り果ててたら、パシャっとシャッターを切る音が頭上から聞こえた。
見上げると、スカートを風にたなびかせて、一人の少女がカメラを手に俺を撮っていた。
幻想郷ではカメラマンも宙に浮くのか。
少女はスカート姿なのにも関わらず、宙に浮いて止まっているので下から見上げると中身が丸見えになっている。
そんな少女が高度を落としてエントランスに降り立った。
「どーも! 清く正しい射命丸文です」
「清く正しい……純白のパンツと清廉潔白でも掛けてるのか?」
「あやや……? ちょっと意外な反応でしたね」
真面目にふざけたことを告げたのに、特段恥ずかしがる様子もなく再びパシャリと写真を撮られた。
こいつは人間……? ではないだろうな。普通の人間がわざわざこんな吸血鬼の屋敷に来てるとは思えない。それに背中に黒い羽があるのが一瞬見えた。
「いやぁ、面白い情報がないかと紅魔館に潜入取材をしようと思ってましたが、まさかこんなにすぐ面白いネタにありつけるなんてラッキーです」
機嫌良さそうに頷く文は手帖を手に持つと俺を観察するように見た。
「あなた、人間ですよね? お名前とどうしてここにいるのか伺っても?」
こいつは記者か何かなのか?
警戒心を露わにして俺が見ていることに気づいたのか、文はわざとらしい笑顔を見せる。
「そんなに警戒しないでください。取って食べたりしませんから。ただ、ちょーっとお話を伺えたらと」
「……特段面白い話は出来ないと思うぞ」
「それは私が聞いてから判断します。あ、お近づきの印にこれ、どうぞ」
渡されたのは新聞のようなもの。もちろん新聞名は見たことも聞いたこともない。
「……あやあやまるしんぶん?」
「ぶんぶんまるしんぶんですよ」
文々。新聞か。中身を見ると幻想郷のニュースなどについて扱っている用だ。
これを読めば幻想郷について何かわかるかもしれない。ただ、文字の形式が少しばかり古い。読めなくはないが、読むのに苦労しそうだ。
とりあえず受け取った新聞を丁寧に折りたたんでから、文に向き直る。
「えっと、お前は新聞記者か何かなのか?」
「そうですね。私は真実を暴くものです」
おおー、すごいゴシップ記事感がある。外の世界とかだと陰謀論とか書いてそう。
「んで、俺に取材と。……なんで?」
別に俺が面白いネタになるなんてことはないと思うのだが。
「紅魔館に見慣れない男性が歩いていて、しかも、スーツを着用していて、しかも、食用の人間でもなさそう。それだけで面白そうなスクープの匂いがしませんか?」
たしかにこの屋敷でそんな奴が居るなら何かしらの理由はあると思うかもしれない。
「んで、何を聞きたいんだ?」
「おお! 取材に協力していただけるんですね! ではまずはお名前を」
「いろはにほへと」
「いろはにほへとさん……? それがお名前ですか」
「散りぬるを」
「偽名を希望っと……」
勝手に偽名を希望にされた。
「それじゃあ、どうして紅魔館に?」
「道に迷って泊めてもらってる」
「……意外と普通ですね。しかし、なぜスーツを?」
「普段着だが?」
「そ、そうですか……」
文の動かしていたペンの動きが止まった。
「あの、取材に協力する気あります?」
ジトっとした視線を向けられたので無言で首を横に振ってやった。
「どうしてですか!?」
「いや、俺、マスメディアとかジャーナリスト系は嫌いだし」
外の世界でも自分の部屋にテレビはあったが見ることなんて滅多になかった。それにこいつはなんか面倒くさそうな気配がしてる。こういう奴には関わらない方がいいってじっちゃんも言ってた気がする。じっちゃんのこと覚えてないけど。
適当にあしらおうとしていたら、なぜか文は首を傾げた。何か変なことを言ったのだろうか。
「あなた、もしかして外の人間ですか?」
唐突に呟かれた言葉に一瞬心臓が跳ねる。
「……なんでだ?」
「質問を質問で返さないでください」
嘘を探るようにじっと見つめながら、文は口を開いた。
「私の新聞、人里でも配っているんですよね。なのに、その存在を知らない。けれど、文字は読めるみたいでした。あと、マスメディアやジャーナリストなんて言葉、里の人間は使いませんよ」
なるほど。それは迂闊だった。
頭を掻いて誤魔化し笑いを浮かべると文の視線が鋭くなる。
「外の人間がどうして紅魔館に住みついているんですか?」
「住みついてはいねぇよ。ちょっと泊まっているだけだ」
「その服は?」
「普段着が汚れた。なにせ悪い育ちなもんでな。高級フレンチなんて食べたらこぼし放題だった」
そういえば、俺がここに来てから食べたのはフランの地下室での料理だけか。よくお腹が空かないものだ。
……思い出したら気持ち悪くなってきた。
「大丈夫ですか? 顔色悪そうですけど?」
「無理。吐きそう。トイレに行く。それじゃあ」
踵を返してバルコニーを出て一気に廊下を駆け出す。
「え、あ、ちょっと、待ってください!」
背後で文が叫ぶ声が聞こえた。
よし。適当なこと行って上手いこと逃げ出せた。
マスメディアやジャーナリスト嫌いもそうだが、妖怪が近くにいるなんて状況は心が落ち着かない。気を抜いてたら一瞬で食い殺されてもおかしくはないのだ。
とりあえずこのまま適当に走ってもっと遠くに逃げ
「酷いですね。そうやって逃げ出すなんて」
「っ!?」
なぜか目の前に文が居た。
先回りされた? だとしても流石に早すぎる。
「幻想郷最速の天狗から走って逃げようなんて無謀ですよ」
「……なるほどな」
どうやら文は天狗だったようだ。幻想郷最速か。それは逃げるという手においては勝ち目が無さそうだ。
……妖怪相手に身体能力とかで勝負を挑むのは不可能に近いな。今度からはもっと違う手を使おう。
降参の意を込めて手をあげると文は呆れたようにため息を吐いた。
「よくこれまで生きてこれましたね。あなたのその行動は幻想郷だと死に直結してもおかしくはないですよ?」
「まぁ、色々と運が悪かったんだろうな」
「妖怪が?」
「俺がだよ」
何度死ぬ思いをしたことか。悪運が強いとも言える。
「そこら辺を詳しく聞かせてもらっても?」
「悪いな。記憶喪失なんだ」
「むぅ……、そうやって嘘を」
「嘘じゃねぇよ」
怪しげな目を向けてくる文だが、俺を嘘を言ってないと感じたのか驚いたように目を瞬いた。
「驚きました。本当にどうして生きてこれたんですか?」
「言ったろ。運が悪かったって」
一応、誤魔化せたのか?
記憶喪失なのは嘘じゃないしな。まぁ、幻想郷に来てからのことは大体覚えているが。しかし、いくつか虫喰いのように途切れてしまっている部分もある。
文の聞きたかったそこら辺とやらは多分覚えている部分ではあるだろうが答える義理はない。
「少しあなたに興味が湧いてきました。……そうですね。密着取材をさせていただきます」
「……断る権利ってある?」
「どうぞ。私のことはお気になさらずいつも通りの行動を」
断る権利はなさそうだ。困った。面倒くさい。
どうしたものかと思ったところでふと思いついた。
「ここの地下室に行く道って知ってるか?」
「はい? 何か用でもあるんですか? あそこには怖い悪魔がいますよ?」
「その怖い悪魔が怒らないように行かないといけないんだよ」
「ふむ……」
よくわかってなさそうな顔で頷いた文は人差し指をピンと立てて提案した。
「簡単です。床をぶち抜きましょう」
「よし。ぶち抜いた原因はお前に持たせるからな」
「うわわわっ、冗談です! 待ってください! ……って」
右手に小悪魔から貰った魔力を溜めて床にぶち当てようとしたところで、文が不思議そうに首を傾げる。
「あなた外の人間なのに魔力を使えるんですね」
「……あ」
「なんですか、そのしまったみたいな反応」
この天狗にネタを与えるつもりはなかったのについついやってしまった。
小悪魔から魔力を貰ったばかりだから、ちょっと使いたくてはしゃいじゃったのかもしれない。今度は気をつけよう。
「いや、まあ、なんか能力的にな」
「能力ですか? どんな能力なんでしょうか?」
「えっと……、パチュリー曰く、卑猥な程度の能力、だったかな……」
言ってて恥ずかしくなってきた。今度、パチュリーのところに行って違う能力名考えてもらおう。この能力名、人に言うのが嫌すぎる。相手は妖怪だけど。
「卑猥な程度……?」
「なんか卑猥なことをしたら相手から魔力を奪える能力らしい」
「なるほど。面白い能力ですね。本当ならですが」
疑いの視線を向けてくる文。
一回逃げ出したせいか信用がない。
「その能力はどの程度から発動するのでしょう?」
「さあな。調べたことねぇよ」
「自分の能力のこともわからないんですか? ……ああ。記憶喪失って設定でしたね」
「設定って言うな」
やめろ。俺が痛い子みたいだろ。別に記憶喪失に憧れなんてねぇよ。
「……そうだな。手を繋ぐ程度では発動しないな」
小悪魔と大図書館で手を繋いで作業していたことはあったがあの程度では発動していなかった。
「そうですか。……うーん。これは検証が必要ですかね」
そう言って一歩前に踏み出した文は俺の右手をとると、自らの胸に押し当てた。
「は? 何やって……!?」
「いえ、だから検証ですよ。あなたの言ってることが本当なのかどうか。ほら、折角触らせてあげてるんですから、ちゃんと堪能してください。少しぐらいなら揉んでもいいですよ?」
むにゅとした柔らかい触感が右手に伝わる。服の上からでもわかるその感触のせいで少し動揺してしまった。
無理矢理押し付けられているのでなんとかして引き離そうとするが、妖怪の力のせいかびくともしない。それどころかちょっと無理に動かそうとしたせいで、文の胸を少し揉んでしまう。
「んっ、どうですか? 魔力は吸収出来てそうですか?」
「……わかんねぇな。ただ、吸収出来ていたとしても少量だな」
なるべく冷静を装って答えると文が残念そうな表情で手を離した。
「やはりこの程度ではダメでしたか……」
文が手を離したことによってやっと胸から解放された。別にもっと触っていたかったなんて思ってない。
「……軽々しく胸を触らせるなよ」
「真実を確認するために必要なことでした。別に減るものでもありませんし」
気にしたことでもなさそうに文は言う。
妖怪って全員こんなんなのかと思ったが、小悪魔はパンツ見られただけで恥ずかしがってたし、アリスは自慰回数を言わされただけで顔を赤くしていた。
つまり、文が特段気にしてないということだろうか。ただ、文の場合、貞操観念が薄いということではなく、どちらかというと俺を男として見るのではなく、ただの人間として見ているから気にしてないって感じがある。
「どうしました?」
「……いや、なんでもない。それよりも早く地下室に向かわないとな」
不審そうな顔でこちらを見てきた文に俺は首を振って答えると、適当に廊下を歩き出した。
それに後ろから文がついてくる。
「地下室の場所はわかったんですか?」
「ああ。思ったんだが、やっぱり床をぶち抜くのが早いかなと」
「弁償代は持ちませんよ」
「冗談だ」
「……仕方ありませんね。私が案内しますよ。密着取材してる側がついて来てもらうってのもおかしな話ですが」
そう言って文は歩き出した。
そういえば密着取材ってことはフランのところまでついてくるってことなのか……。凄い不安だ。主に俺の安否が。
東方淫魔録その8
小悪魔から魔力を吸い取った現在の主人公の戦闘力。夏場のレティになんとか勝てるぐらい