※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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前回のあらすじ
美鈴によって湖に吹き飛ばされた主人公は、わかさぎ姫によって救出される。しかし、なぜか恩人であるわかさぎ姫に対して主人公はレイプ紛いのことをしてしまう。
その理由はわかさぎ姫が人魚であるからだと言うが……?
そして、わかさぎ姫からの魔力の補給を終えた主人公は紅魔館前に戻ってくる。


[第30話]悪魔の犬

 紅魔館の門の前まで戻ってきた時、違和感に気づいた。

 なんだこの穴……。

 俺と美鈴が戦った時に出来たものではない穴が無数に出来ている。しかも、そこに虫の死骸のようなものが大量に転がっていた。

 多くの日本人なら生理的な嫌悪感を抱いてしまうような光景。

 そんな虫の死骸の中に一人の少女がポツリと立っていた。あまりにも似つかわしくない光景。それなのに、どうしようもなく絵になっているのは彼女の放つオーラによるものなのだろうか。

 

「……あら、戻ってきたのね」

 

 日傘を差しながらこちらを振り返る彼女は怪しげな微笑をしたためていた。

 

「……紫」

 

 八雲紫、レミリアにも劣らない圧倒的な強者の風格。俺なんか一瞬で殺せてしまうであろう力を持つ妖怪だ。

 

「……これはお前がやったのか?」

 

 尋ねると、紫は口元を扇子で隠しながら答える。

 

「ええ。そうよ。私がやったわ」

 

 嘘だ。直感的だが間違いない。

 なによりも、紫の能力はこんな虫の死骸が大量に出るような能力ではないはずだ。

 

「一応理由を聞いてもいいか?」

「運動不足解消」

「美鈴はどこに行った?」

「境界を使って適当な場所に移動させたわ。あなたがやったみたいに」

 

 心臓が跳ねた。たしかに先程、ここまで戻ってくるまでの間に境界を弄ったが、なぜ知っている? いや、本人の能力だ。境界の変化には敏感なのかもしれない。

 

「この虫は?」

「質問ばっかりねぇ……」

 

 眠たそうに小さく欠伸をした彼女は虫の死骸を避けながらこちらへと歩み寄ってきた。

 それに合わせて俺も数歩後ずさってしまう。

 

「あらそんなに警戒しなくてもいいじゃない」

 

 わざとらしく悲しそうな表情を作る彼女だが、そんなことは微塵も思っていないだろう。

 さっきの回答もそうだが、真面目に答えたとは一切思えないし、こちらを馬鹿にするようなふざけた態度が目についてしまう。

 

「……何の用なんだ」

「忠告よ」

「……っ!」

 

 そっと俺の首元に彼女の両手が触れられる感覚があった。境界を通じて、手だけを移動させたらしい。

 

「あまりはしゃぎすぎないことね」

「……それはどういう」

「気づいているでしょ? 自分の変調に」

 

 少しずつ彼女の手が狭まってきて、首を絞めつけられる。息が出来ない。

 早く逃げなければ死ぬ。そう分かっている筈なのに、彼女から目を離せない。

 ……死ぬのか。

 

「抵抗しなかったわね」

 

 死を覚悟した瞬間、彼女はぱっと手を離した。

 

「……抵抗出来なかったんだよ」

 

 文句を言うと、彼女は小さく微笑を浮かべる。

 

「今の貴方なら首を絞められた程度では死なないわよ」

「……なにを根拠に」

「ほら、首を絞めまれたのに荒い息一つついてない」

 

 反論できなかった。確かに苦しさは感じて死を覚悟したというのに、手を離された瞬間、それが消え去っていた。

 

「妖怪喰いねぇ……、碌な運命は辿らなそうね」

 

 呆れたように紫が小さく呟いて哀れみの視線を向ける。

 

「喰った記憶はねぇよ」

「そうだったわね。貴方が食べたのは────だもの」

 

 ……なんて言った? まるで文字化けをしたかのように、紫の言葉の一部が認識出来なかった。

 それなのに、まるで嫌な事実でも突かれたように鼓動が高鳴ってしまっている。

 こいつはなんなんだ。目的もわからないが俺の目の前に現れては、意味深な言葉を残そうとしていく。

 やけにイラつく。勝てない相手だと分かっているのに、まるで身体がいうことを効かないように手に魔力を溜め始めた。

 

「……そこまでだ。紫様に危害を加えようとするなら容赦はしない」

 

 唐突に背後から違う女性の声が聞こえ、背中に手が当てられた。

 

「……誰だ?」

「答える義理はない」

 

 冷たい声。嫌でもわかる殺意。

 少しでも変な行動をすれば簡単に俺を吹き飛ばしてくるだろう。

 

「藍。命令はしてないわよ」

「しかし、紫様、こいつは今確実に殺意を」

 

 藍と呼ばれた俺の後ろにいる奴に、紫は嗜めるような視線を向けた。

 

「……はぁ、全く」

 

 困ったようにため息を吐くと、後ろ後ろと紫がジェスチャーを送る。

 ちっ、気づかれた! 

 

「……っ!? っ!」

 

 紫のジェスチャーの意味を理解したのか、俺の背中に手を当てていた奴が慌てて飛び退いた。

 直後、俺の背後に大量の弾幕が降り注ぐ。

 

「いつの間に……!?」

 

 地面が焦げ、抉れていく様に焦ったような声が聞こえてきた。

 振り返るとそこには9つの尻尾を持つ女だった。

 

「……ああ。九尾の狐か。有名な妖怪だな」

 

 俺から距離を取って睨みつけてくる藍を見ながら、背後の紫にも意識を向けておく。ただ、紫が攻撃の意思を見せた場合は俺に勝ち目一つなく殺されるだろう。

 

「命令違反に、攻撃にも気づかないなんて、後でお仕置きね」

 

 後ろの紫がそんなことをぼやくと、境界を通って藍の隣に移動した。

 

「紫様、先程の攻撃はどうやって」

「最初からよ」

「最初から?」

「そこからは自分で確かめなさいな」

 

 そう言って一歩引く紫。

 首を傾げる藍だが、少し考えて頷くと、大量の弾幕を展開した。どうやら戦闘許可を貰えたと解釈したらしい。

 

「おいおい、ペットの躾はしっかりしろよ。噛み付いてきそうだぞ」

「私は八雲藍。紫様の式です」

 

 ペットと言われたことに対してむっとした顔をした藍は丁寧に自己紹介をして、じっとこちらを見据えた。

 

「……俺は望月ライカ。記憶喪失のただの人間だ。あと、吸血鬼の従者」

 

 ふぅと小さく息を吐いて、俺も手に魔力を溜める。わかさぎ姫から奪った分の魔力はある。後はなるようにするだけだ。

 

「ふふ、楽しい余興になりそうね」

 

 紫の言葉が終わると同時に視界が眩く光った。

 

 

 

 

 外から音がする。

 ただこの屋敷は窓がほとんどないものだからどうなっているかの確認ができない。

 咲夜の手伝いを始めて早2時間ほど。少ない窓自体の掃除は比較的に早く終わったものの、それからの拭き掃除が地獄を極めていた。廊下が長すぎるし、広いせいで永遠に終わらない。

 咲夜も違う仕事をしているからか姿は見えないし、一緒に行動している妖精メイド達が3人ほどはいるものの、避けられているのか近づくと逃げられるため話すことすらできない。

 そういえば、密着取材をすると言っていた文はどうしたのだろうか。実はこっそりと見ていたりなんか……と思って振り向いても文の影一つ見えなかった。

 そもそも、文の速度で移動された場合はいたとしても認識は出来ない。

 

「退屈だ。何か面白いことでも起きないものなのだろうか」

「ああ。そうだな……って!?」

 

 後ろからの声に振り返ると、先程まで誰もいなかった空間にひとりの男が立っていた。

 なんだこいつ……。

 柄すらない真っ白い着物に、真っ白い肌。それに真っ白い髪と、まるでそこだけ色を抜き取ったかのような見た目だ。

 目が隠れるほどの長い髪でその顔を伺うことは出来ない。

 初めて会った奴の筈だ。それなのに、その姿を見ると嫌な胸騒ぎが収まらない。

 

「あなたは……」

 

 俺と一緒にいた妖精メイドが困惑したように尋ねると、男は小さく笑った。

 瞬間、眩い光が視力を奪い、それが収まったあと、妖精メイドの上半身が消え去っていた。

 

「……は?」

 

 理解できなかった。数メートル隣にいた奴の上半身が無くなり、残った下半身だけがゆっくりと倒れ始め、それも次の瞬間には消滅した。

 

「きゃあああああっ!!」

 

 違う妖精メイドの悲鳴が響く。

 それに合わせるように男が動き出した。真っ直ぐに叫んだ妖精メイドに近づくと、その首に手をかけへし折る。

 反応することすら叶わなかったその妖精メイドの顔には困惑と恐怖の表情がこびりついていた。

 倒れ始める妖精に再び魔弾を放つと、床が焼け焦げ、妖精メイドは跡形もなく消え去った。

 

「ひぃっ……!」

 

 最後に残った妖精メイドが慌てて弾幕を展開して男に向けて放った。それに対して男は手のひらを突き出した。

 

「白魔符『マスタースパーク』」

 

 呟きと共に極太の光線が弾幕を打ち消し、妖精メイドを呑み込んだ。

 実際に当たったわけですらないのに、その衝撃が伝わってきそうな一撃。

 紅魔館の壁に大穴が空き、妖精メイドの立っていた場所の床は無くなりっていた。

 躊躇いもなく妖精メイドを3人も殺しやがった……。

 理解できない光景の中で、男がこちらに振り向く。恐怖で動くことすらできない。

 

「背中の傷はもういいか? 望月ライカ」

 

 俺の名を……! いや、それよりも背中の傷……?

 

「お前は……」

「少しだけ遊んでもらうぞ」

 

 言って男が溜め始めた魔力には見覚えがあった。いや、正しくは喰らった覚えがあった。

 こいつは、あの小悪魔の部屋で攻撃してきた奴か!?

 眩い光が廊下を包み、灼熱に覆われる。

 やばいっ! また来る! 

 

「はぁ、また仕事が増えたわ」

 

 ため息混じりのそんな声と共に、白い光が切り裂かれた。

 収まった光の中でひとりの少女が俺の前に立つ。

 

「……十六夜咲夜」

「あら? どこかでお会いしたかしら?」

 

 咲夜がナイフを手に白い男の前に立ち塞がった。

 それに対して男は小さく笑みを浮かべると、大量の弾幕を展開する。大きさ自体はたいしたことはないが、数はあまりにも多い。

 しかし、次の瞬間には全て切り裂かれた。

 咲夜がやったのか……!?

 

「……相変わらずのナイフ捌きだな」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それじゃあ次は無礼な客人に退場してもらいましょうか」

 

 パチンと指を鳴らすと、一瞬で男の周りに大量のナイフが展開される。

 

「客人は丁重にもてなせよ」

 

 時が止まったように宙に浮いていたナイフが動き出した。それに対して男は動き出さない。

 諦めた……? いや、違う! 

 

「上だっ!」

「……っ!?」

 

 俺の言葉に反応するように咲夜が上を見るのと同時に大量の弾幕が廊下に降り注ぐ。

 

「……どこから弾幕が?」

 

 驚いたように咲夜が弾幕を避けて飛び引いて姿勢を立て直した。

 降り注いだ弾幕でついでにナイフも撃ち落としたのか男の周りに大量のナイフが散らばっている。

 

「……あれは」

 

 なぜだ。どいうことだ。

 理解できない。けど、間違いない。

 あの技は間違いなく、俺が文との対決に向けて考えた技だ。

 

「あなた、原理がわかるの?」

「そんなに難しい話じゃない。境界にさえ注意すればいい」

「境界に?」

「ああ。けど、それよりも」

 

 どうしてこいつが俺の考えた技を使ってたのかの方が重要だ。俺はまだこの技を誰にも見せたことがない。加えて、この技は境界を操らないと使えない。

 

「お前は誰なんだ!」

「随分と余裕が出てきたな。なら、もっと面白いものを見せてやるよ」

 

 叫ぶ俺を無視して、ふわりと浮いた男の身体から魔力が溢れ出す。

 

「気をつけて。何かしてくるわ」

「……俺は分身体だ。いざとなれば盾にでも使え」

「盾として機能してくれればいいんだけど」

 

 軽口を叩く咲夜だが、その表情は真剣そのものだ。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

「なっ……!?」

 

 驚いたように咲夜が声をあげる。俺たちを囲うように弾幕が展開されていった。

 

「どうして……!」

「この弾幕を知ってるのか」

「……フラン様の弾幕よ」

「フランの?」

 

 なんでフランの弾幕まで。いや、それよりも、次はどうくる……? 

 

「大玉がくるわ! 避けて!」

 

 咲夜の言葉と同時に俺たちを囲んでいた弾幕の包囲網を崩すように大玉が飛んできた。

 

「くっ……、小さい弾幕が邪魔だな」

「動きを見ればそこまで難しくはないわ。それに、この弾幕は廊下でするには狭い」

 

 たしかに包囲する弾幕が大玉に崩された後に襲ってはくるが、廊下という狭い環境の中のせいか、包囲する弾幕の量自体は少ない。

 大玉の動きを見極めながら咲夜が少しずつ男に近づいていく。

 既にその距離は咲夜の間合いだ。けど、なんだ、この胸騒ぎは。

 何かを忘れているような……。

 

「次で終わりにするわ」

 

 次の大玉を避けた咲夜は、一気に近づいた。そして、ナイフを振りかぶり投擲する。

 そのナイフが境界に呑まれた。

 

「しまった!」

 

俺が気づくのと同時に男が薄く笑った。

 

「きゃっ!」

 

 咲夜が膝をつく。その太腿には深々とナイフが刺さり血が流れていた。

 こいつが境界を使うことはわかっていたんだ。なら、咲夜のナイフを境界に呑ませて、咲夜の足元から出すなんて簡単なことだ。

 気づけたはずなのに、咲夜に忠告出来なかった。

 痛みに耐えるように歯を食いしばる咲夜に男がゆっくり近づく。

 不味い……! 咲夜の機動力が奪われてしまった。このままだとやられる。

 

「はぁッ!」

 

 魔弾を男に向けて撃つ。しかし、男は視線を向けることすらせずに魔弾を片手で受け止めた。

 ちっ、威力が足りてない……! 咲夜とのやり取りで魔力を使いすぎた。

 今から走っても間に合わない。どうする、どうすればいい……! 

 男は咲夜に手のひらを向けて至近距離で魔力を溜め始めた。

 

「悪魔の犬はこの程度か?」

 

 静かに尋ねる男を咲夜はじっと見据えて答えた。

 

「悪魔の犬が私一人だとは思わないことよ」

 

 瞬間、咲夜と男の足元の床が崩れた。

 

「……ッ!」

 

 元々男の攻撃で床は脆くなっていた。しかし、それがたまたまこんなタイミングで崩れるわけはない。

 

「……ギリ魔力が足りたか」

 

 右手を握りしめて落ちていく二人を見る。

 きゅっとしてドーカン。なかなかと便利な能力だ。

 

「チッ……」

 

 舌打ちをした男が溜めていた魔力を咲夜に放つ。しかし、咲夜は身体を捻ってそれを避ける。

 

「ぐっ、咲夜ァァ!」

「お終いです」

 

 叫ぶ男に咲夜は、太腿に刺さっていたナイフを引き抜いて躊躇いなく胸元に突き刺した。

 

「次があるなら、足元注意にすることね」

 

 そのまま二人とも床に激突した。

 ただ、咲夜は激突寸前に男をクッション代わりにして受け身を取っていた。それに対して、男は胸にはナイフを深々と突き刺され、床に叩きつけられた。

 ……死んだか? 

 そう思ったが、ゆっくりと男は立ち上がる。

 

「はぁ、はぁ……、想定外だ……」

 

 流石にダメージがデカいのか、荒い息を吐き、その足元はおぼつかない。

 

「随分と頑丈ね」

「そうでもない。内臓は破裂してるし、骨も折れてる。今回は流石に帰らせてもらう」

「逃がすとでも?」

 

 背中を向けた男を咲夜が睨みつける。

 

「……その脚で追ってこれるのか?」

 

 指摘されて悔しそうな表情を見せる咲夜は俺に視線を向けた。

 ……いや、流石に手負とはいえ俺じゃ無理だ。魔力も完全に切れてしまった。

 首を振ると、残念そうに咲夜は息を吐いた。

 男は境界の中に消えていった。残されたのは階下に座り込む咲夜と、立ち尽くす俺だけだ。

 そんな中で考えていた。

 今回の襲撃、あいつの狙いは俺か……?




東方淫魔録その13
主人公の使うきゅっとしてドカーンは本家よりも制約が多い。とりあえず、ありとあらゆるものは壊せない。
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