※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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[第39話]白黒の魔法使い

 フランに連れられてやってきた図書館では、魔法を放つ音に加えて、盛大な爆発音が響いていた。

 その中心地で飛び回っている影が3つ。

 1人はこの大図書館の主人であるパチュリー。魔導書を開いて、魔法を詠唱している。

 そして、その近くで、パチュリーの援護をする小悪魔の姿。彼女も魔法陣を展開していた。

 そんな2人を相手する箒に乗った少女。

 

「あれが、魔理沙か……」

 

 遠目から見る魔理沙の見た目は、パチュリーよりも魔法使いらしかった。

 輝くような金髪に、黒っぽい服装、エプロン、そして、魔法使いがよく着るような三角形の黒い帽子を着用していた。

 そんな格好に不釣り合いな緑色の風呂敷を背負いながら、パチュリーと小悪魔の弾幕を掻い潜っている。

 

「今日こそは許さないわ!」

 

 激怒している様子のパチュリーが容赦なく魔法を放つが、それを魔理沙は箒に乗りながら縦横無尽に飛んで避けていた。

 

「そんなに怒るなよ! 借りるだけだって、死ぬまでな!」

 

 それは怒られても仕方がない。

 どうやら魔理沙とやらは、この大図書館から本を盗み出そうとしているらしい。なんと命知らずな……。

 3人は弾幕勝負に熱中しているのか、大図書館に来た俺たちに気づく気配もない。

 

「で、フランさんや。ここに俺を連れてきて何をさせるつもりで?」

「あそこに盗人がいるわ」

「ああ。そうだな。どちらかと言うと強盗な気もするが」

「なら、するべきことはわかっているでしょ?」

「警察に通報だな。ここって警察とかいるのか」

「捕まえてきなさい」

 

 無言。じっとフランに見つめられる。

 冗談……じゃないみたいだな。

 

「俺の手に余る気配しかしないぞ」

 

 あの動きを見るに、咲夜と同格の立ち回りだ。うん。捕まえられる気がしない。そもそもあそこに突っ込んだらパチュリーの魔法で吹き飛ばされるのが関の山だ。

 

「不甲斐なく負けたら、破壊されるのが少しだけ早くなるだけよ」

「……そういえば期日があったな」

「ええ。明日の夜」

 

 気絶を繰り返している上に、この屋敷の暗い構造上、日付感覚が分かりにくいが、俺の命のタイムリミットはそこまで迫ってきていたらしい。

 

「ギリギリで覚醒するなんていう少年漫画みたいな展開はないものかね」

 

 ぼやきつつ、背中に羽を生成しようとして失敗した。

 羽が作れない。それどころか、上手く魔力の操作も出来ない。

 

「……あれ? 魔力切れか……?」

 

 レミリア相手に魔力を使って、今も傷の再生に魔力を使っているのだから、魔力が切れかけていてもおかしくない。

 それを意識したら一気に身体が怠くなった。

 

「なぁ、フラン、浮くことすら出来ないんだが……」

 

 だから今回は諦めて貰って……と言おうと思ったら、フランがため息を吐いて浮き上がる。

 

「仕方のない従者ね」

「いや、だから俺は従者を認めた覚えは……んぐっ」

 

 反論を口しようとしたらそれを無理矢理唇で塞がれた。

 両手を俺の頬に添えて顔を固定させ、口の中へと舌を入れ込まれる。

 

「んちゅ、れろ、れろ、ちゅ、ちゅぅ……、んっ……」

 

 フランは舌を絡めて、唾液を流し込んできた。

 

「れろ、るろ……、ちゅぱっ、ちゅぅ、ちゅっ、んっ、るろ、れろれろ……、あー……、ちゅぷ、れろ……」

 

 息も続かなくなるような濃厚なキス。目の前に広がるフランの瞳が赤く光った気がした。

 酸欠に陥りそうになる寸前でフランが唇を離してくれる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 酸素を求めるように荒い呼吸を繰り返す。心臓の鼓動が早くなり、血が勢いよく全身を巡る。

 止まっていた筈の胸の血も溢れ出してきてしまった。

 手足が痺れ、視界が充血する。

 

「……もっとキスはロマンチックなのが良いんだが」

「刺激的だったでしょ?」

 

 ペロッと唇を舐め、妖艶に笑うフラン。こいつ、成長したら悪女になりそうだな……。

 熱した鉄のようになった身体の魔力を背中に集中させる。先程は出来なかった羽がいとも簡単に作れた。

 

「随分と綺麗な色ね。深い血の色」

 

 そういえばフランがこの羽を見るのは初めてか。

 羽を動かして、小さく浮かび上がる。フランの魔力のおかげか、前に羽を作った時よりも格段に操作しやすい。これなら、飛びながら魔弾を撃つぐらいなら出来るだろう。

 

「仕方ないから行ってくるよ、お嬢様」

「……その呼び方はあいつと被るから嫌」

「我儘だな。折角呼んでやったのに」

 

 苦虫を噛み潰したような顔になるフランに、苦笑を浮かべた俺は一気に3人に近づく。

 

「んっ? 誰だ?」

 

 近づいてくる俺に気づいたのか魔理沙の動きが止まり、首を傾げる。

 

「ライカ……!?」

 

 それに釣られるようにこちらを見たパチュリーが、驚いたように目を見開く。

 

「よう。うちのお嬢様の命令に引っ張り出された」

「お嬢様って……フラン……?」

 

 パチュリーが視線をフランへと向けると、椅子に座ったフランがひらひらと笑顔で手を振った。

 

「面倒ごとに巻き込まれそうね……」

「俺が既に巻き込まれてる」

「ご主人様ッ!? 胸に凄い血が……!」

 

 小悪魔も慌てたように近づいてくる。

 そういえば血が溢れ出してきたんだった。

 

「大したことないから大丈夫だ」

「大したことないって、服が真っ赤に染まりかけてるのに……」

 

 珍しく本気で心配そうな顔の小悪魔。

 

「なぁ、そいつって新しい使い魔か?」

 

 そこに割り込まれる声。

 

「初めましてだな。望月ライカ。職業、悪魔の犬。こんな羽、生やしてるけど人間だ」

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使い、妖怪退治の専門家だぜ」

 

 普通の魔法使い? じゃあ、俺の横のパチュリーはなんなのだろうか。動かない魔法使い? 

 そして、妖怪退治の専門家か。金払えばあそこに座ってるちっこい吸血鬼も退治してくれるのだろうか。

 

「ところで、ライカ。その胸の血は本当に大丈夫なのか? 人間だったら死んでそうなんだが……」

「ん? 問題ねぇよ。擦り傷だ」

 

 俺の回答に魔理沙が苦笑いを浮かべた。

 擦り傷とは言ってみたものの、客観的に見たらどう考えても大怪我だ。

 ただ、最近はもっと酷い怪我が多すぎる。

 いかんな。感覚が麻痺してきてるのかもしれない。だって、フランの部屋から出る際に火傷程度で終わればラッキーと思ってしまうからな。

 

「こうやって、紅魔館にいる人間は化け物に近づいていくのか。なるほど。だから、あのメイド長は恐ろし……」

 

 一人で納得しようとしていたら、目の前を銀のナイフが通り抜けた。

 鼻先すれすれ。2cmでもズレていたら鼻が切り取られていた。

 

「貴方には言われたくないわね」

 

 いつの間にかいた咲夜。

 そうそう。そういうところが恐ろしいメイド長なんだよ。刃物を簡単に投げてくるな。

 

「はい、魔理沙、紅茶よ。パチュリー様もいかがですか?」

「そうね。私も貰おうかしら……って、なんで泥棒に紅茶なんてあげようとしているのよ。そいつには水でいいわ」

 

 そんなことを言いつつ、パチュリーが咲夜から紅茶を受け取った。

 

「あ、じゃあ、私、お茶請けを持ってきますね」

 

 飛んでいく小悪魔。無駄に行動が早い。

 

「ライカも飲む?」

「毒とか入ってないなら」

「大丈夫よ。今日はちゃんと人間用」

 

 人間用じゃない時には一体何が入ってるんだ……。

 咲夜がカップを受け取り、啜る。うん。葉っぱの味。これ言ったら多分怒られる。

 別に嫌いなわけじゃないが、味がわかるほど繊細な味覚してない。

 

「そういえば、咲夜、レミリアは?」

 

 レミリアは博麗神社に行くとかいう話ではなかったのだろうか? もしそうなら、咲夜もついて行くだろうし、ここにいるのはおかしい。

 

「お嬢様なら、雨が止まないことに諦めてお眠りになられましたわ」

「レミィなら随分とご機嫌だったわよ。久々に心臓近くから溢れる血を見れたって」

「……それは良かったな。おかげで死人が出そうだったけど」

 

 げんなりしつつ答えるとパチュリーがクスリと笑う。

 

「ついでに貴方の名前もその時に知れたしね。望月ライカさん」

「ん? ああ、パチュリーには言ってなかったか?」

 

 そういえば、さっき自己紹介する前にパチュリーが俺の名前を呼んでた気がする。

 

「……私にも言ってませんでしたよ。全くもう」

 

 呆れたような声が背中から聞こえて振り返ると小悪魔が戻ってきた。

 

「お茶請け持ってきました。この前作ったクッキーです」

 

 小悪魔はトレーの上にお皿を乗せ、そこにはカラフルな一口サイズのクッキーが並べられていた。

 

「小悪魔ってお菓子作るなんて女子力高いこと出来たんだな……」

 

 それでは一ついただこうと手を伸ばしたら、さっと避けられた。

 にっこりと微笑まれる。

 

「女子力無さそうな私のクッキーを食べさせることなんて出来ないので、ご主人様は食べないでくださいね。あ、皆さんはどうぞ」

「げっ……」

 

 やばい。無駄に口が滑ったせいで小悪魔を怒らせた。

 パチュリーに助けの視線を向けると、小悪魔の持ってきたクッキーを摘みながら冷たい視線を投げかけられる。

 

「今のはあんたが悪いわ」

 

 それに同意するように咲夜と魔理沙も頷いた。

 そうですか……。

 仕方なく、紅茶だけを飲む。やっぱり葉っぱの味だ。

 美味しそうにクッキーを摘む魔女2人が恨めしい。呪う気持ちでじっとクッキーを見つめておく。

 

「……なんか、視線を感じて食べにくいな」

 

 そういう割には手が止まってない気がするのは気のせいですか。

 

「はぁ……、小悪魔、ライカの視線がうざったいからクッキーあげなさい」

「えー……、仕方ないですねぇ……」

 

 ため息を吐いたパチュリーに命令されて、小悪魔が持っていたトレーを浮かせ、クッキーを一枚摘む。

 

「どういう原理で浮いてるんだ……?」

「物を浮かせるなんて、魔法における初歩の初歩です。ほら、仕方ないから一枚だけあげます」

 

 渋々といった様子でクッキーを口元まで運んでくれる。

 

「はい。あーん」

 

 小悪魔の声に合わせて口を開き、クッキーを食べようとしたら、さっと避けられ、持っていたクッキーは小悪魔の口の中に消えていった。

 

「……おい」

「あ、すいません。美味しそうだったので、つい」

 

 絶対わざとだこいつ。顔が笑っているし。

 魔理沙とパチュリーも小さく笑っていた。

 

「次はちゃんとあげますから。ほら、あーん」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、小悪魔がクッキーを再び持つ。

 一応、口を開けて食べようとするが、やはりギリギリで避けられて、クッキーは小悪魔の口の中へと消えていった。

 

「ふふっ、ちゃんと、食べてくださいよー」

 

 こいつ……。

 馬鹿にしたような顔の小悪魔がもう一度クッキーを持つ。

 そっと手に持っていたティーカップを、クッキー皿が乗っているトレーの上に置いた。

 

「はい。あーん」

「……あーん」

 

 口を開く。しかし、やはり食べさせる気はないようで小悪魔はクッキーを自らの口に運ぼうとした。

 それなら……。

 

「んぐっ!?」

 

 小悪魔がクッキーを頬張った直後、口づけをした。無理矢理に舌を入れ込んで、砕かれたクッキーの破片を奪おうとする。

 

「んんっ、ちょっと……、んあっ……!」

 

 唾液で少し湿ったクッキーの破片を絡め取り、小悪魔の舌ごとクッキーの味を楽しむ。

 

「んちゅ……、れろ、……んはぁっ、あっ……、はぁ……」

「シナモンが効いていて美味しいな。紅茶に合いそうだ」

 

 唇を離すと、顔を真っ赤にした小悪魔が恨みがましそうな視線を向けてくる。

 

「この……、最低です……ッ!」

「ああ、悪い。キスの感想忘れてた。唇が柔らかくて気持ちの良いキスだった」

「キスの感想言われなくて怒ってるわけじゃありません!」

 

 羞恥やら怒りやらで体を震わせて悶える小悪魔。

 

「あんた達、何やってんのよ……」

 

 呆れたようなパチュリーの声が割り込まれた。

 

「いや、クッキー食いたかったから」

「だからって、普通、こんな方法で食べますかっ!?」

 

 吠える小悪魔を無視して、トレーに置いてあった紅茶を再び持ち、今度はちゃんと皿からクッキーを摘んで食べる。

 うん。サクッとしているし、味ももちろん美味しい。店で出ていてもおかしくないレベルだ。

 

「なぁ、咲夜、ライカっていつもこんなんなのか……?」

「どうかしら……? 大体いつも変だけど……」

 

 ちょっと顔を赤らめた魔理沙に尋ねられて、咲夜が困ったように答える。

 こんなんとか、大体いつも変とか失礼な奴らだな。俺からしたらお前らの方がよっぽど変だ。

 

「ライカならいつもこんな感じよ」

「うぉっ!?」

「私もクッキー貰うわね」

 

 いつの間にか近づいていたフランがクッキーに手を伸ばす。

 

「妹様、紅茶は?」

「そのままでいいわ。今日は近くにちょうどいい血があるし」

「承知しました」

 

 咲夜はフランに紅茶が入ったティーカップを渡した。

 

「……ちょうどいい血って誰のことだ?」

「もちろんライカのことだぜ」

「ライカのことね」

 

 ほぼノータイムで魔理沙と咲夜から返答が返ってきた。

 

「……さっき、俺の血を舐めただろ」

「どっちが良い? 自分で差し出すのと、私が吸い取るの?」

「渡さないという選択肢を作ってくれることを願う」

「ふーん。はい」

 

 俺の言葉を完全に無視して、紅茶の入ったカップを差し出される。血を入れろということらしい。これ無視したら本当に吸い取りにくるな。

 仕方なく手首をカップの上へと持っていく。

 

「咲夜、ナイフ使って切ってくれ。痛くしないでね。泣いちゃうから」

「……かしこまりました」

 

 一瞬嫌そうな顔しなかったか? 気のせい? 

 ナイフを使って手首を切り、そこから血を垂らす。

 

「胸の傷から垂らせばいいじゃない」

 

 フランが首を捻って不思議そうな顔をした。

 

「こんな女性陣の前で服を裸させるのは恥ずかしいんだよ」

「心にもないこと口にするんですね……」

 

 ジトッとした視線を小悪魔から向けられる。

 

「繊細だからな。下着とか見られたら泣いちゃいかねない」

「……ッ! 過去のことをいつまでも掘り返す人はモテませんよ」

 

 顔を赤くした小悪魔だが、なんとか平静を装って返答してきた。

 拳が震えてるので、これ以上何か言ったら手が飛んでくるのは目に見えている。

 

「そうだな。過去のことだな。ところで、人に過去のトラウマ見せようとして逆にやられた悪魔が居た気がするんだが」

 

 まぁ、拳や魔法が飛んでこようと知ったことじゃないけど。

 石像のようにビシッと固まった小悪魔は、機械のようにカクついた動作でパチュリーへと体を向ける。

 

「……パチュリー様、ちょっと失礼しますね」

「はぁ……、勝手にしなさい」

 

 疲れたようにパチュリーが言うと、小悪魔は詠唱を始めた。

 小悪魔の周りに魔法陣が浮かび上がる。

 

「フラン、血はこんなもんでいいか?」

「ええ。十分。ところで……、貴方って思ってたより馬鹿なのね」

「馬鹿と天才は紙一重なんだよ」

「それじゃあ貴方は紙一重だったのね。残念だったわ」

 

 フランは血の混ざった紅茶を美味しそうに飲む。

 それと同時に小悪魔の放った魔法が思いっきり当たって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 ライカが吹き飛ばされ、床に激突するのを魔理沙はのんびりと見ていた。

 人間であれば大怪我間違いなしだが、あの胸の傷を擦り傷というような人間だ。あれぐらいなら大した怪我にならないと読んでいた。

 その読み通り、ライカはすぐに浮かび上がる。その手には魔力が溜められ始める。

 

「随分と喧嘩っ早いんだな」

 

 そんな感想を漏らした魔理沙に、フランが小さく笑った。

 

「外の人間にしてはね」

「なっ!? あいつ、本当にただの外来人なのか?」

 

 驚いたように目を見開く魔理沙。

 たしかに外来人にも空に浮いたり、超能力を使ったりする者はいるが、あそこまで妖怪に近い存在を見たことがなかった。

 

「強いのか?」

「てんでダメね。遊び相手にもならないわ。今だって、生き残るのに必死だもの」

 

 魔理沙の視線がライカの動きを追う。

 確かに飛び方はぎこちなく、魔力の使い方にも慣れているとは言い方かった。

 

「……けれど、ライカにしては小悪魔の弾幕を避けられていますね」

 

 同じくライカを見ていた咲夜が少し意外そうな様子で口にする。

 

「それは簡単よ。小悪魔は一応、ライカの使い魔としての契約を交わしているからね。主相手に本気なんて出せないでしょう?」

「そうですか?」

 

 パチュリーの回答に咲夜はきょとんと首を傾げた。

 

「それで、ライカはどうしてここに住んでいるんだ? しかも、食べられずに。弱いならとっくに死んでいてもおかしくないだろ」

「それも簡単ね。弱いけど、化け物だからよ。だから、私の従者にしたの」

「化け物、ね……」

 

 小悪魔の弾幕を危なっかしく避けるその姿から、化け物なんて風には見えない。良くて、下級妖怪程度だ。

 あの男の何がフランの関心を引いたのか。少し興味が湧いてきた。

 残っていた紅茶を一気に飲み干した魔理沙は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ご馳走様とトレーにカップを置いて、相棒であるミニ八卦炉を手にライカと小悪魔へと飛んでいく。

 

「止めなくていいの? なんて……フランが止めるわけないわね」

 

 これから起きるであろうことを予期したパチュリーがフランに尋ねた。

 

「ええ。元々、魔理沙とやり合って欲しかったのに、ほのぼのとお茶会なんてするんですもの」

「だとすれば、彼は主の意志を汲み取った上で、逃げ出したということなりますね」

 

 ライカは気づいていた筈だ。フランが近づいてきた時点で、早く戦えという意思表示をされてることに。その上で小悪魔を煽り、安全な戦闘に持ち込むことで、この場から逃げ出したのだ。

 

(従者としての心構えの教育をするべきかしら……)

 

 ライカの態度には改めるべき部分が多くある。ありすぎる。

 少し頭痛がする思いで咲夜が悩むと、フランが小さく笑って目を細めた。

 

「そろそろ始まりそうね」

 

 フランの視界の中では魔理沙がライカと小悪魔の間に割り込んでいた。

 魔理沙もろとも吹き飛ばそうとする小悪魔。そんな小悪魔の弾幕を八卦炉からの一撃で魔理沙は全て吹き飛ばした。

 

「さて、ライカ、今度は私が相手するぜ!」

「……魔理沙と相手をしないために小悪魔とやっていた筈なんだけどなぁ」

 

 ライカの視線がチラリと小悪魔に向く。

 吹き飛ばされた小悪魔はふらふらとした様子で起き上がった。魔理沙の一撃のせいで、服はボロボロで髪もボサボサになっていた。

 

「うぅ……、酷いです……」

 

 ちょっと落ち込んだような小悪魔。

 

(あれは後でフォロー入れないと機嫌悪くなるな……)

 

 終わった後の段取りを立てつつ、魔理沙に視線を戻す。

 

「相手すると言われても俺はスペルカードを使えないんだが、どうする?」

「えっ? そうなのか?」

 

 ライカの言葉に驚いたように目を丸くする魔理沙だが、すぐに合点がいったように頷く。

 

「ライカは外の人間だったな……。そうすると」

「ああ。ごっこじゃなくて、普通に殺されかけてた」

「苦労してるんだな」

「わかってくれるのか。なら、今すぐにその俺に向けたその小悪魔をぶっ飛ばした武器を下ろしてくれ」

「それは出来ない相談だぜ。それとこれはミニ八卦炉。料理にも使える優れものだ」

 

 魔理沙は話しながら、ミニ八卦炉に魔力を込め始める。

 

「……ここの住民はバーサーカーしかいないのか」

「マスタースパァ──ーク!!」

 

 小悪魔を弾幕ごと飲み込んだ極太の光。

 ライカはその技、名前に既視感があった。

 

(この前、襲ってきたやつの仲間か?)

 

 極太の光はギリギリでライカを避け、図書館の壁に激突し、大きな音を立てる。パチュリーの保護魔法が無ければ穴が開いていたに違いない。

 

「……避けないんだな」

「当てる気なかったろ」

 

 どれだけここに来てから殺気を浴びせられたと思ってるんだ。殺気がない攻撃ぐらいわかる。

 

「うーん……。スペルカードルールができないとなると、どうするかなぁ……」

 

 困ったように魔理沙は頭を掻くと、少し悩んでからポンと手を打った。

 

「よし! 偶にはごっごじゃない弾幕で勝負をするか!」

「戦わないという平和的道は存在しない?」

「大丈夫だぜ! 当たっても少し痛いくらいに手加減するから」

「……ここの住民はバーサーカーと、話聞かないやつしかおらんのか」

 

 再びミニ八卦炉を構える魔理沙。今度は完全にライカに当てるつもりで照準を向けていた。

 諦めたライカも意識を集中させ始める。

 

「それじゃあ行くぜ……! マスタースパァ──クッ!」

 

 再び極太の光線が空を切った。

 

「本当に手加減してるのかよ……」

 

 当たったら少し痛いで済みそうにない。

 ライカが冷や汗を掻きながらギリギリで光線を避け、両手に魔力を溜める。

 

「とりあえず、2発」

 

 魔理沙に向けて放たれた魔弾。

 

「甘いぜ」

 

 それを余裕で避けた魔理沙が、一気に近づいてきた。

 あんな極太の光線を使うものだから、遠距離で戦うと思っていたライカがぎょっとした顔になる。

 

「はぁッ!」

「がっ……!」

 

 そのまま魔理沙に突撃されて、吹き飛ばされた。

 体勢を立て直すことも出来ずに本棚に激突し、落下する。落ちたライカの上に、バサバサと大量に本が落ちてきた。

 

「あ、不味いわね」

 

 ライカと魔理沙の戦いを見ていたパチュリーが少し心配そうに声を上げた。

 

「どうかされましたか?」

「あそこ、危険な魔導書があるのよね。未熟な術者に襲いかかってくるタイプの」

「ふふっ、相変わらずライカは運が悪いわね」

 

 パチュリーの不安は的中し、ライカの上に落ちた魔導書が動き出す。

 

「な、なんだ……?」

 

 状況を把握出来てないライカだが、この場にいるのは不味いということは理解できたらしい。すぐさま飛び立とうとする。

 しかし、それを防ぐかのように動き出した魔導書の何冊かがライカの行手を塞いだ。

 

「くっ……、全部吹き飛ばせば……!」

 

 眺めていたフランがため息を吐く。

 

「ライカってば、相変わらず判断が遅いわね」

 

 ライカが手に魔力を溜めた。しかし、それを撃つよりも早く、本が攻撃を始めた。

 何冊もの本から魔弾が飛ぶ。

 

「がぁ……、ぐっ……!」

 

 近くにある本が取り囲むようにして魔弾を撃ってくる。咄嗟に手でガードするが、それでも防ぎきれずに、脇腹や背中に魔弾が直撃した。

 手加減などもちろんされておらず、1発1発が成人男性に思いっきり殴られたかのような痛み。

 

「ぐあっ、ああっ!」

 

 止まることのない攻撃に防いでいた腕も限界を迎えた。

 

(腕が上がらな……!)

 

 守るものがなくなった頭に魔弾が当たった。

 脳が揺さぶられる。

 脳震盪を起こしたようで、一瞬気絶しかけ、床に倒れた。しかし、それも次々とくる魔弾によって無理矢理覚醒させられる。

 

「あ、ああッ……! ぐあッ……!」

 

 顔面にも容赦なく魔弾が降り注いだ。

 骨が軋む音が聞こえた。口の中で鉄の味がする。動き出そうにも麻痺したように身体が言うことを聞かない。

 

(不味い、不味い、不味い……!)

 

 このままだと死ぬという恐怖をライカを襲い始める。

 

(どうにかして……、どうやって……!?)

 

 この程度の状況から抜け出せないようでは明日の期日に破壊されるのが目に見えていた。

 

(クソ……、なんでこんな目に……! 俺が何をして……)

 

 意識すら朦朧としてきて、頭も働かなくなる。

 アリスに捕まり、ルーミアに食われかけ、フランに殺されそうになる。

 幻想郷に来てからの悪夢が走馬灯のように蘇った。

 

『悪魔の犬はこの程度か?』

 

 不意にあの白い男を思い出した。

 ぎゅっと握った拳から血が出る。あの男の言葉が何度も脳内で反響する。頭が割れそうだった。

 ほぼ無意識にライカはよくわからない言葉を叫んだ。

 

「ライカッ!」

 

 慌てたような魔理沙の声が遠くで聞こえる。次いで、大量の星が降り注ぎ、吹き飛ばされる本。

 

「大丈夫かッ!?」

 

 箒に乗った魔理沙がライカに近づく。

 しかし、ライカは動かない。

 まさか、あの程度の魔導書も突破出来ないとは思わなかった魔理沙は、てっきり罠かと思い、助けるのが遅れてしまった。

 そのことを悔いつつ、ライカの容体を確認しようと箒から降りた。

 ライカがなにか人の名前のようなものを叫んでいたことを気にかけつつ、その肩に手をかける。

 その腕がライカによって掴まれた。

 

「くぅ……!」

 

 驚くほど強い力で握られる。魔理沙は激痛に顔を顰め、振り解こうとするが離れない。

 ライカがゆっくりと顔を上げる。

 

「なっ……!? な、なにが、どうなってるんだ……」

 

 それを見て、混乱した魔理沙が呆然と声を漏らした。

 ライカの顔がない。正確にいえば、ライカの顔があった場所は血塗れで、まるでぐちゃぐちゃにした肉塊のようだった。目や、鼻、口すら認識できない。そこに顔があったとは思えないほどだ。

 

「ア゛ア゛ア゛……」

 

 血の底から響くような、呻めき声を上げるライカ。

 魔理沙の腕を掴む手すらも徐々に形が崩れていき、顔と同じように醜悪な肉塊、それも触手のように変わっていく。

 

「……やっと、始まったわね」

 

 そんなライカの様子を見てフランは笑みを深めた。




主人公の容姿をとてもわかりやすく伝えると、沙耶の唄みたいな感じです。人型よりの。
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