※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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[第41話]その出会いは蝶のように

「私に任せてください!」

 

 大きく胸を張った目の前の少女。

 緑色の長い髪に、カエルとヘビといった変わったアクセサリーをつけた彼女は、白に青色で縁取った上着に、青色のスカートを身に纏っていた。

 記憶を探っても彼女に見覚えなんてなかった。

 

ハルキさんの呪いは私が必ず解いてみせます」

 

 彼女に、朧げな思考の中で手を伸ばす。

 その手先が彼女の髪に触れ、彼女は少しくすぐったそうにはにかむ。

 

「まずは準備が必要ですね。神奈子様や諏訪子様にも相談しないと……」

 

 聞き覚えのない名前を呼びながら、彼女は顎に人差し指をつけて悩む。

 その顔は真剣そのものなのだが、顔立ちのせいか幼さを感じさせ、どこか頼りない。

 

「どうしたんですか? 不安そうな顔をして。もしかして、疑ってます?」

 

 俺の視線に気づいたようにジトッとした目を向けた彼女は、頬を膨らませると、胸に手を添え、自信ありげに言う。

 

「私は風祝の()()()()()。外の世界では絶え果てた現人神の末裔です。奇跡を起こす神の力を貴方にも見せてあげます」

 

 東風谷早苗……。やはり聞いたことがない名前だった。

 彼女はニコッと華が咲いたような笑みを浮かべて俺の手を取る。

 それから何をするのか決めていなかったのか、困ったように目を泳がせると、顔を赤くして瞳を閉じた。そして、唇を小さく突き出す。

 俺は彼女に顔を近づけていく……そこで夢は泡のように溶けて消えていった。

 

******

 

 

 目を開けると、夢の少女の姿なんてなく、天井が俺を迎えてくれた。

 

 また、変な夢か……。

 

 フラン曰く、これはあるかもしれない未来という話だったな。

 しかし、あんな美少女とこれから出会い、そしてキスをするような関係になるなんてどうにも実感が湧かなかった。

 

「……呪い、ね」

 

 夢の中の少女、早苗が口にした言葉を呟く。

 たしかに呪われている。じゃなきゃこんなところで寝ているわけがない。

 とりあえず起きあがろうと、身体を起こそうとしたところで、拘束されていることに気づいた。

 ベッドの上に縛り付けられている。加えて、見覚えのある人形達が俺を取り囲んでいた。

 服は着替えさせられていて、身体の節々が痛い。

 それに左腕の感覚がない。首を回すと、左腕があるべき場所には、服以外は何もなかった。

 

「あっ、目が覚めたんですね」

 

 赤い髪の毛が目の前で舞った。

 

「……小悪魔か」

「はい。貴方の小悪魔です」

「その男子が喜びそうな台詞をわざとらしく言うなよ」

 

 小さく笑う彼女は俺の瞳を覗き込む。

 じっと数十秒覗き込んだところで、ほっとしたように息を吐いた。

 

「どうやら意識は正常みたいですね。パチュリー様達を呼んでこないと……」

 

 そう言って小悪魔は背を向ける。

 

「……なぁ、ちょっといいか?」

「なんですか? あ、トイレに行きたいとかですか? 少し待ってください。今、拘束を」

「何があった?」

 

 俺の質問に小悪魔はおし黙る。

 それから、わざとらしく明るい笑みを作って答えた。

 

「覚えてないんですか? ご主人様は魔導書にボコボコにされて殺されかけたんですよ。本当によわっちぃ人間なんですから」

 

 馬鹿にしたような言葉。

 

「……そうか。魔導書に……」

「ええ。そうです。それじゃあ、パチュリー様を呼んで」

「記憶がないわけじゃないんだ」

「……ッ」

 

 俺の告白が想定外だったのか、小悪魔は言葉を詰まらせた。

 

「朧げで歪んでいるけど、覚えている。……俺、魔理沙のことを犯そうとしていただろ?」

「……夢、じゃないんですか? 死にかけたせいで。ほら、いつもの種の保存の本能ってやつです」

「ああ。そうかもな。だから、小悪魔、命令する」

 

 小悪魔がピクリと肩を震わせた。

 

「お前の幻覚なら何があったか俺に見せられるだろ。それで何があったのか見せてくれ」

 

 俺の命令に小悪魔はふるふると首を横に振った。

 

「その命令は従えませんよ」

「なんでだ?」

「どうしてもです」

 

 それが既に答えであることなど間違いはなかった。

 重い沈黙が降りる。

 俺の力では、本気で小悪魔が嫌がれば、使い魔とはいえ、命令することなど出来ないだろう。

 だから、結局、頼むしかなかった。

 

「……小悪魔、頼む」

 

 真面目な口調で伝えると、小悪魔は困ったように視線を彷徨わせる。

 

「…………わかりましたよ」

 

 諦めたように小悪魔がゆっくり近づいた。

 そして、俺の瞳を覗き込んだ。キスをするような距離。

 彼女の瞳がゆっくりと赤く怪しく光る。

 

 瞬間、拘束されたベッドの上じゃなく、大図書館の様子を上から見下ろしていた。

 そこで起きていた出来事。

 肉塊のように変貌した俺が起こしたことを目に焼き付ける。

 胸の動悸が激しくなる。呼吸困難になりそうだった。

 

「あっ……、はぁ、はぁ……」

 

 そして、またベッドの上へと戻ってきた。

 小悪魔が申し訳なさそうにこちらを見ている。

 

「……見ない方が良かったでしょ?」

 

 ああ。たしかに、これは見ない方が良かった。

 もう笑えてきてしまいそうだった。

 ……なんだ、冗談でもなんでもなく俺は化け物だったのか。

 小悪魔はそれ以上は何も言わず、今度は本当に部屋を出て行った。

 少しすればパチュリー達がくる。アリスに魔理沙もいることだろう。

 一人取り残された室内。

 

「……文、いるんだろ?」

 

 俺の呼びかけに、ガタッと天井から音が聞こえた。

 

「……気づいてましたか」

 

 天井の一部が外され、文が部屋に降り立つ。……忍者かよ。

 

「そりゃあな。密着取材をするって話だったからな。姿は見えなくても、どこかにいるとは思っていた。取材はどうだ?」

「大失敗ですよ。こんなの記事に出来ません。それどころか、上司に報告することになりそうです……」

 

 残念そうにため息を吐いた文は、メモ帳を取り出して、ページの一部を破り取る。

 

「俺ってこの後、どうなると思う?」

「そうですね……。良くて明日フランさんに破壊される、悪ければ魔女達の人体実験の相手、いえ、それ以上ですね。まぁ、もし生き延びたとしても、辛い人生を歩むことになるでしょうね」

 

 何一つ遠慮がない文の言葉。それが逆に今は楽だった。

 

「……アリスって今日なんで来てたんだ?」

 

 ふと疑問に思ったことを口にしてみる。

 

「それは簡単ですよ。アリスさん本を借りるのを忘れたからです」

「……なんだ、そういうことかよ」

 

 前回、本を借りに来た時には、ちょうど俺が倒れていたのもあって看病してくれたもんな。俺が起きた後は身体を重ねたせいで眠くなって帰ったらしいし、本を借りそびれたのか。

 

「アリスさん、貴方にも怒ってましたよー。人形を無くしただろって」

「人形……?」

 

 揶揄うようにいう言葉に首を捻ると、呆れたように文は俺の顔を横を指差した。

 首を回すと、そこには一体の小さい黒い日本人形。

 

「……そういえば貰ったな。小悪魔と対決した時に落としたのか」

 

 落としてから随分と経ってる筈なのだが、その人形は真新しい。

 どうやら新しいのをくれたようだ。

 不意に部屋の外の廊下からガヤガヤした声が聞こえてきた。どうやら魔女達がやってきたようだ。

 それを確認してか、この部屋から出ようと文が羽を広げた。

 

「……それで、私を呼んだ理由はなんですか?」

「伝言を頼もうと思ってな」

「伝言、ですか……? どなたにですか?」

 

 首を捻る文。もう時間はほとんど残されてない。

 

「俺の負けだと()()()()に伝えておいてくれ。あと、アリス達に悪いって」

「それぐらい自分で伝えれば……あっ!」

 

 文が気づいたのか手を伸ばす。

 それよりも早く俺の体は布団に出来たスキマに落ちていった。

 驚いた様子の文の顔が映る。それを眺めながら、スキマを閉じた。

 ベッドに括り付けられるように拘束されていたのだから、自分の体の真下にスキマを作れば簡単に抜け出せる。

 受け身も取らず、地面に落下した。

 草花が受け止めてくれたからそこまで痛くはなかった。

 

「……相変わらず不気味な森だな」

 

 俺がスキマに落ちた際についてきたアリスからの人形を拾い、ポケットに押し込む。

 

「左腕がないからバランスが取りにくいな……」

 

 魔力が足りてないのか回復する気配ない。幸いにも出血はしてないので、そうそう死にはしない筈だ。

 

 さて、どうするかな……。

 

 ここで振り出しに戻ってしまった。無一文の役職なしだ。

 ただ、あそこにいるよりはマシだろう。明日までに文に勝つことなど不可能だったから、どうせフランに破壊されていた上に、あのままでは間違いなくアリスに迷惑をかけていた。

 多分、逃げたことでも迷惑をかけてるとは思うが、最悪の事態だけは避けられるので良しとしよう。

 

 想定される最悪の事態。それはアリスに手をかけてしまうことだ。

 

 化け物になった時の自分は一切制御が出来ていない。あのまま進行すれば間違いなく俺はその未来に辿り着いていた。

 そうすれば、夢で見たレミリアやフランと戦った時のようなことが実現してしまう。

 

 とりあえず、このままここに居ても意味がない。ゆっくりと歩き出す。

 今は自分が生きたいのか死にたいのかすらはっきりとしていない。

 化け物となってしまった自分は死ぬべきだと思うのに、その方法すら思いつかない。俺が死にかければ、またあの化け物のようになるのだろうか。

 だとすれば、首吊りのような安易な手には頼れそうにない。

 

 それに、なりより死ぬのが怖い。

 心のどこかで破滅を望んでいるというのに、それ以上に死への恐怖が支配してくる。

 自分の感情が全くわからない。何をしたいのかも。

 まるで自分以外の人格が混ざってしまっているかのようだった。

 

「お困りみたいね」

 

 声をかけられた。

 聞き覚えのある声。振り向くと、スキマから上半身だけを出した怪しいやつ。

 

「紫……」

 

 扇子で口元を隠しながら微笑む彼女が手を差し出してくる。

 間違いなく悪魔の誘い。その手を取れば、悪いことになることは間違いなかった。

 けれど、これ以上悪いことになるとも思えなかった。

 

「……今度はペットが噛みついてこないようにしといてくれ」

 

 迷うことなく差し出されたその手を取った。

 彼女の目が細められ、扇子が閉じられる。

 視界が暗転した。

 地面に投げ出される。

 目を開けたら、そこにはあまりにも大きな枯れ木が立っていた。

 

「ここどこだ……。てか、寒いな」

 

 雪が降ってはいないがやけに寒い。

 不意に視界の中で遮るものがあった。

 なんか火みたいなのは漂っている。

 ……あれは、人魂か? 

 

 幻想郷なら人魂ぐらいなら驚くべきことでもないかもしれない。しかし、その数は異常だ。

 よく見れば、そこかしこに人魂が飛んでいる。

 

「察するに……、ここは天国か何かか?」

「惜しいわね。ここは冥界。死者が転生するか成仏するまでの間に過ごす場所よ」

 

 穏やかなゆったりとした声。

 その声の主からは今まで会ってきた誰とも違うオーラを感じた。

 

「もう少し早く来れば綺麗な紅葉が見れたのだけど……、残念ね」

 

 形の良い眉をハの字に曲げる彼女の顔はあまりにも美しかった。

 着物を身に纏うその姿は和風美人で、気品のあるお嬢様のようだ。

 

「……それはもう少し早くに死ねば良かったのにって意味か?」

「さぁ、どうかしら? 貴方は死ねるのかしら」

 

 クスクスと袖で口元を隠して笑う彼女の周りには人魂が付き従うように浮いていた。

 

「死ねるかどうか俺も知りたいよ」

「なら、試してみる?」

 

 そう言った彼女から溢れる濃厚な死の香り。

 当たり前ではあるが、やっぱりただの人間じゃないか。

 ちょっと身体を強張らせた俺に彼女は死のオーラを消して、優しく微笑む。

 

「冥界へようこそ。迷い人さん。歓迎するわ」

 

 手を差し出される。細い白い手。

 

「私は西行寺幽々子。貴方は?」

「俺は……」

 

 口籠もってしまう。少し迷った挙句、諦めたように口にした。

 

「望月ライカ、ただの化け物だ」

 

 幽々子はそれに、何を考えているのかよく分からない優しい笑みを浮かべるだけだった。




急展開。紅魔館編からの白玉楼編へ。
ちなみに、主人公についてですが、元にした怪異などがちゃんとあります。
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