東方淫魔伝 作:スイセン
アリス・マーガトロイドは薄暗い自室で一人、人形作成に勤しんでいた。
慣れた手つきで布を縫い、人形を作成していく。
その手際はかなりのもので、アリスの人形作りの力量が伺える。
そして、人形を作りながら、周りでは魔法によって操られた人形達が家事をこなしていた。
それもアリスが操っているのだが、知らぬ人から見たら人形達が意識を持って動いているようにしか見えない。
静かな室内で人形を作る彼女。その手がピタリと止まった。
「……上海。彼の居場所は掴めた?」
アリスの問いに、上海は首を横に振る。それを見て彼女はため息を吐いた。
これも彼女が操作しているので、この行動に意味なんてない筈なのだが、こうやって人形とやり取りをしていると、心が落ち着くらしい。
アリスの脳内によぎるのは紅魔館の部屋からいなくなった彼の消息だった。
彼が起きたと聞いて部屋に行ったら、そこには既に誰もおらず、部屋には黒い羽と、「悪い」と書かれた紙以外何も落ちていなかった。
その羽を見て、魔理沙が犯人がわかったなんて言って飛び出していったが、戻ってこなかったあたり、何も手がかりを得ることは出来なかったのだろう。
「……何が悪い、よ。次にあったら絶対に許さないんだから」
心配やら怒りやらでアリスが持つ針に力が篭る。
彼が消えてからしばらく捜索したが、結局どこに行ったのかは分からず仕舞いだった。
彼にあげた人形にアリスの魔力を込めていたため、紅魔館から魔法の森に移動したことまではわかっているが、そこから足取りがピタリと途絶えてしまった。まるで、神隠しにでも会ったかの……。
「神隠し……?」
頭にひっかかる言葉。
それで、怪しい人物が思い浮かび、ばっと立ち上がる。
「八雲紫……!」
「正解」
唐突に空いたスキマ。そこから現れた妖怪の賢者の姿にアリスは顔を顰める。
「どういうつもりなのかしら? 変なちょっかいをかけてきて。彼はどこ?」
「そろそろ冬眠の時期なのよねぇ。こんな状況でおちおち寝てもいられないわぁ」
アリスは紫がまともに答えてくれるとは思わなかった。だから、人形達を配備させる。
「じゃあ彼の場所を吐いてから寝てもらうわ。永遠に」
臨戦体勢のアリスに紫は薄く微笑む。
「……何がおかしいの?」
「彼も可哀想なものだと思ったのよ」
「可哀想?」
「ほら、理解できない」
「理解させるつもりなんてないでしょ」
「ふふ、またまた正解。貴方は駒。ただの歩兵。余計なことを考えずに進んでればいいのよ」
挑発されている。そうわかってはいるが、その挑発に乗らない理由もなかった。
波立つ心を落ち着かせるように息を吐くと、玄関に向けて歩き出す。
「……相手してくれるんでしょう? ボーンさん」
紫とのすれ違い様に言い返してやると、彼女はクスクスと笑った。
月の光に照らされた夜の魔法の森。家の外まで移動した二人が向かい合い、睨み合う。
「スペルカードは5枚でいいわね?」
「何枚でも構いませんわ。今の貴女は私には勝てないのだから」
「……その鼻を明かしてやるわ」
人形を操るアリス。それに対して紫は圧倒的な妖力で対抗する。
弾幕勝負はそこまで長く続かなかった。
「つ、強い……」
何度目かの被弾をしたアリスがボロボロになりながら紫を見る。
紫は余裕の笑みを讃えて宙に浮いていた。
「ほら、今の貴女じゃ私には勝てない」
「……くぅっ」
悔しそうに唸るアリスだが、その力量の差ははっきりとしていた。
「まぁ、そうね。私相手にそこそこ頑張った方じゃないかしら」
「……全く、嬉しくないんだけど」
「じゃあ訂正するわ。大したことないのね。歩兵としても役立たなさそう」
冷たい目で見下ろしていた紫は、地上に降り立つと、閉じた扇子をアリスに向けた。
「彼のことは諦めなさい」
「それは、どういう……!?」
「言ったでしょ。歩兵としても力不足と。……あ、この美味しそうなお酒は貰っていくわね」
いつの間に取ったのか、秘蔵のワインを手に持った紫は、アリスの質問に答えることなくスキマに消えていく。
残されたアリスは疲れでその場に座り込む。
「歩兵としても力不足、ね……」
紫に言われた言葉の悔しさのあまり、雑草をぎゅっと握りしめた。
「……そんなこと言われて、諦めるわけないじゃない。絶対に見つけて文句を言ってやるわ」
そして、瞳には強い決意を漲らせていた。
******
小悪魔は目の前の光景に辟易していた。
自らに似た肉塊が焼かれ、水責めされ、毒を盛られと散々な目に遭っている。
「やっぱり毒程度じゃこの肉塊は壊死しないみたいね」
主人であるパチュリーは興味深そうに拘束した肉塊で実験を繰り返していた。
「次は切り刻んでみましょうか。どこまで再生するのかしら」
「……うぅ、ものすごく複雑な気分です」
どんよりとしながらも、小悪魔は次の実験の準備を開始する。
彼がいなくなっても、紅魔館に特に変化はない。強いて言えば咲夜が人手不足を嘆いていたくらいだ。
「ご主人様、死んでないですよね……」
「それはないわ」
少し不安げに漏らした言葉にパチュリーが答えた。
「どうしてですか? あ……! この肉塊が残ってる限りはとかそういう」
「違うわ。この肉塊自体は既にライカとは分離されている。本人が死んでも魔力が続く限りずっとこのまま残り続けるでしょうね」
「うぇ……、これずっと残るとか悪夢ですね」
これが溢れかえった世界を想像して身震いをする小悪魔。
「魔力供給も他人から奪うことを前提にしているあたり、まるでアンデッドね」
今までの実験から得た結果を口にしながら、パチュリーはそういえばと思い出したように小悪魔に尋ねる。
「ちょっと聞きたいんだけど、ライカがおかしかった時のこと知らない?」
「おかしかったときですか? 大抵おかしかったと思いますけど……」
「そうじゃなくて、そうね……、そう。まるで別人格が乗り移ったみたいな状況」
「別人格……」
小悪魔が思い描くのは図書館での一件。
彼に犯された時のこと。
「あったような、なかったような……、別人格と言えるかどうか……」
あの時の彼は異常ではあったが、この前の変貌ほどではなかった。
それに、彼はその時の記憶も保持していて本人が違和感を感じてないようだった。
そんな内容を伝えると、考え込むようにパチュリーは目を閉じる。
「意識が混在している……? でも、どうして……、自分でも気づいてないとなると……」
ぶつぶつと呟きながら、考え込む主人におずおずと小悪魔が尋ねた。
「あの、パチュリー様……、それで、ご主人様が死んでないっていうのは?」
「……ああ。そうだったわね」
ゆっくりとした口調でパチュリーはその理由を語る。
「これは推測の域を出ないけど……、彼はきっと不死身よ。それも後天的な」
「え、でも、ならなんで腕が無くなったりするんですか?」
不死身なら腕の再生なんてすぐに始まる筈だ。
彼は再生するには魔力を使わないといけず、生命力は凄まじいが不死身とは思えなかった。
「そこが不思議なのよね……。不死身のようだけど、不死身ではない」
「つまり、どっちなんですか?」
「……きっと、相性が悪かったんじゃないかしら?」
よくわからない主人の言葉に小悪魔は困ったように首を傾げるのだった。
******
「んっ……、くっ、はぁ……」
霧雨魔法店、魔法の森に建てられた西洋風の一軒家。
その家の住人、霧雨魔理沙は抑えきれない身体の疼きに困り果てていた。
服を肌蹴させて、露出させた胸の先端を左手で自ら摘み、右手はドロワーズの内部へと潜り込ませていた。
「んんっ、ふぅ……、あっ、はぁ……」
ペットであるツチノコも家主の珍しい行為を不思議そうに眺めている。
「んあっ、ああっ……、んんんっ……!」
ピクンと身体を震わせて、瞼を瞑る魔理沙の身体に快感が駆け巡った。
「はぁ、はぁ……」
ドロワーズから引き抜いた手には透明な液体がつき、てらてらと湿っている。
それを朧げな瞳で眺めて、ふらふらと立ち上がった。
「くっそ……、やっぱり、解毒薬を作らないと……」
あの触手の粘液を飲んでからずっと身体が疼いて仕方なかった。
アリスやパチュリーの前では痩せ我慢を貫いていたが、紅魔館を出て、文を探す途中で限界に達してしまい、家に帰宅してからずっと一人で自慰にふけっている。
時間が経てば解決するかもなんて思っていたが、逆に時間が経てば経つほど欲求が強まる。
気持ち悪いとすら思ったのに、あの太い触手が欲しい……。
「……はっ! これは、不味い……!」
自分の考えが不味い方向に進んでしまっていることに気づいて、魔理沙は慌てて頭を振る。
間違いなくあの粘液の効果だ。なんとかして、解毒しようと、机に移動して、採血を行う。
その最中もずっと下腹部の熱さに耐えていた。
(もし、解毒が出来なければ……、いや、出来たとしても……)
「やっぱり、またライカを探さないといけないか……」
あいつの正体がなんなのか、そして、こんな目に合わせてる責任を取らせなければ……。
そんなことを考えながら、魔理沙は自然と下腹部に向かいそうになる手を必死の理性で抑えるのだった。
**********
紅魔館の地下室。悪魔の妹の住処。
カチリカチリと時計の長針が時を刻む。
「あいつはどこだ?」
無遠慮で、少しの苛立ちが込められた男の声が響く。
フランがその存在を認識して、ニヤリと頬を吊り上げた。
「会うのはいつ以来かしら? お久しぶりね」
視界に映るのは、まるでそこだけ脱色したかのような白い男。
「質問に答えろ、吸血鬼。あいつはどこに消えた?」
「咲夜にお茶でも持ってきてもらおうかしら? 貴方は血はいる?」
フランの態度に男は怒りを募らせるが、大きく息を吐いて、心を落ち着けた。
「血もお茶もいらねぇよ。……約束を違えたのか?」
「約束? 貴方が一方的に頼んできていただけでしょう? 私は私の目的のために動いていただけ」
チッと舌打ちをした男は踵を返す。
ここには用がないと判断したようだった。
「残念だったわね。貴方が思い描く、運命から外れてしまって。私たちを利用なんてしようとするからよ」
「……ああ、後悔してるよ」
地下室にスキマが開かれ、男はスキマの中へと飛び込んだ。
そのスキマが閉じられる寸前で、フランは声をかけた。
「いつでも歓迎するわ、
「……その名前で呼ぶなよ。吐き気がする」
心底嫌そうに答えた声を残して、閉じられたスキマ。
一人残されたフランは楽しそうに声を上げて笑うのだった。
次回から白玉楼なので、みょんな庭師とか、楽器を演奏する騒霊とか登場します。あと、あの危険なバックダンサーズも……。