※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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[第50話]崩れる日々(R)

 仄暗い白玉楼の一室にて、二人の影が重なりあっていた。

 

「んっ、あっ……、お、お姉ちゃんっ!」

 

 蓮が耐えられ無さそうに声を漏らす。

 

「はぁっ、はぁっ……、我慢しなくていいからね。いつでも出して……白いのいっぱい、出してっ……!」

 

 蓮は妖夢に肉棒を握られ、優しく手コキされていた。

 手コキの快感に下半身を震わせつつ、妖夢の胸に顔を埋め、甘えるように乳首に吸い付く蓮。

 その姿に妖夢はゾクゾクとした感覚が背筋を駆け抜けて、徐々に手コキの速度を上げていく。

 

「あっ、んんっ……、んあっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 荒い息を吐きながら妖夢は興奮気味に肉竿を擦っていた。

 

「あっ、ああっ! もうっ!」

 

 その刺激に、ついには蓮は妖夢の手の中に射精してしまう。

 自らの手が白い液体で汚されるのを気にした様子もなく、妖夢は最後まで出し切るように肉竿を根本から絞り出すように擦り上げた。

 

「んっ……♡ いっぱい出ましたね。偉い偉い」

 

 手についた液体を見て小さく胸を高鳴らせつつ、妖夢はもう片方の手で蓮の頭を優しく撫でる。

 

「お、お姉ちゃん……、その、まだ……」

 

 顔を赤らめる蓮が小さく呟くと、妖夢は優しい笑みを浮かべて頷いた。

 その視線が蓮の下腹部に向く。

 

「それじゃあ、次は、お姉ちゃんのここで……、いっぱい、お世話してあげるから」

 

 蓮を寝かせて、その上に跨った妖夢は、股間に肉棒を当てがい、一気に根本まで咥え込んだ。

 

「うあっ……、これ気持ちよすぎて……!」

「ふぁあっ、あっ、あふっ……、おちんちん、ピクピクして……♡」

 

 トロトロに熱くなった妖夢の蜜壺のぬめりとうねりに、蓮は耐えきれずにすぐさま連続での射精をしてしまう。

 しかし、それでも妖夢の抽送は止まらない。

 

「ああっ、はぁ、うぅんっ! んっ、んあっ、ああっ!」

 

 快楽に没頭するように艶かしく腰を振る妖夢の瞳は完全に蕩けきっていて、秘部からは白く泡立った液体が卑猥な水音を奏でていた。

 

(気持ちいいのが……溢れてきて、止まらない……!)

 

 自分でも歯止めが効かないほどに、その快楽の虜になってしまっている妖夢。

 ほんのりと紅潮した白い肌が少し汗ばみ、口元からは涎を垂らし始めていた。

 上も下もぐちょぐちょにしながら、搾り取ろうと腰を振り続ける。

 

「お姉ちゃん、また、出ちゃう……!」

「う、うん! いいよ……、また、たっぷり膣内射精(なかだし)して! そしたら、私も、あっ、あっ、あんんっ! んああああぁっ!」

 

 蓮の射精と同時に達した妖夢は、激しく全身を震わせると光悦の表情を浮かべた。

 子宮いっぱいに注がれた精液が結合部から溢れ出してくる。

 

「あっ、はぁはぁ……、膣内(なか)にまた、たくさん出せたね……」

 

 ぎゅっと蓮に抱きつきながら、絶頂の余韻に浸る妖夢。

 

「またいつでも言ってね。お姉ちゃんがお世話してあげるから」

「う、うん……」

 

 頷いた蓮に妖夢は優しく頭を撫でてあげるのだった。

 

 × × × × ×

 

 妖夢の朝は早い。

 生真面目な彼女は朝早くから起きて、鍛錬を行うことが多い。

 朝早いため、主人は起きておらず、一人で素振りを行っていることが多いのだが、今日はその隣に小さな人影がいた。

 

「少し姿勢が曲がってるわ。それに、持ち手も力みすぎ」

「は、はい!」

 

 妖夢の注意に一緒に子供用の模擬刀を振るっていた蓮が大きく返事をする。

 ライカが自らの時間を喰らってしまい、子供化して十日ほど。未だ、ライカ、もとい蓮が元に戻る気配は見られなかった。

 その間に重大ななにかが起きたわけでもなく、平和としか言いようがない日常が続いている。

 

 子供化した当初は警戒心を露わにしていた蓮だが、妖夢に救われたと勘違いして以降、完全に妖夢に懐いてしまった。

 今では、朝早くから道場で妖夢の剣術指南を受ける時すらあるほどで、真面目に素振りを行う蓮の様子を見ながら、妖夢は頬を緩める。

 

(幽々子様もこれくらい真面目にしてくれたらなぁ……)

 

 幽々子の剣術指南役の妖夢ではあるが、幽々子に剣術指南をしたことなど数えるほどもない。

 だからこそ、熱心に取り組んでくれる蓮が非常に可愛らしく感じてしまい、少々甘く接してしまっていると自分でも自覚していた。

 

「そろそろ幽々子様が起きる時間ね。そろそろ終わりにしよっか」

「う、うん。疲れたー……」

 

 バタっと倒れ込むように蓮が寝転がる。

 その服は汗で濡れていて、どれだけ真面目に取り組んでいたのかを物語っていた。

 グデッと倒れている蓮の姿が、怠けている時の主人と少し重なって妖夢は小さく苦笑する。

 

「おはよう、妖夢、蓮」

 

 入口からかけられた声に振り向くと、幽々子がしとやかな笑みを浮かべて立っていた。

 

「おはようございます。幽々子様」

「幽々子お姉ちゃん、おはよう」

「珍しいですね。朝から道場の方に顔を出すなんて。もしかして、幽々子様も朝の鍛錬を……!」

 

 主人がついにやる気になったのかと妖夢は目を輝かせるが、幽々子は首を横に振った。

 

「いいえ〜。起きたら、二人とも居なくて、ご飯も無いんですもの。お腹空いたから探しにきたのよ〜」

「そ、そうですか……。でも、朝食でしたら、他の幽霊に頼めば良いのでは?」

「一人で食べる朝食なんてつまらないでしょう?」

「は、はあ?」

 

 幽々子が勝手にご飯を食べているところを何度も目撃していた気がするが、突っ込まないことにした。

 

「その様子を見るに、鍛錬は終わったのでしょう? 早くご飯にしましょう」

「はい。ただいま」

「あ、でも、先に汗だけは流してきた方がいいわね。妖夢が風邪を引いたら困るもの」

「ゆ、幽々子様……!」

 

 珍しく自分の体調を案じてくれた主人の言葉に、感動する妖夢。

 

「だって、妖夢が風邪を引いたら誰が私と蓮のお世話をするの?」

「……ソウデスカ」

 

 しかし、続いた言葉に落胆することになるのだった。

 

「……湯浴みしてきますね。蓮さん、行きましょう」

 

 ちょっとだけ不貞腐れた様子で道場から出て行く妖夢。

 そんな様子を見ながら、幽々子は楽しそうに微笑む。

 

「ふふ、相変わらず反応が可愛いわねぇ」

「……お姉ちゃんってもしかして、性格悪い?」

 

 妖夢を追おうと立ち上がった蓮が、少しジトッとした目を向けると、幽々子はクスクスと笑った。

 

「貴方も長く生きるとわかるわよ。まぁ、私は死んでますけど」

「死んでる?」

 

 幽々子が亡霊ということを未だに知らない蓮は首を捻る。

 

「ここは冥界だもの。本当に生きている人なんてここには居ないのよ」

「……そうなの? でも、妖夢お姉ちゃんは生きてるよ?」

「妖夢は半分生きて半分死んでますからね。いつも近くに半霊が浮いているでしょう?」

「うん。抱き心地良いよね」

「そうなのよね〜。しかも、お饅頭みたいに丸くて美味しそうで、前に試しに齧ってみたら、それから触らせてくれなくなっちゃったの」

 

 心底残念そうにいう幽々子。

 

「……半分生きて、半分死んでるなんて、どうやってるの?」

「妖夢の場合はそういう血が流れてるのよ。あとは、そうねぇ、例えば、自分が生きていると思っている死人は半分生きて半分死んでるとの変わらないと思わない?」

 

 なにかの含みを持たせるような幽々子の言葉。

 蓮は少し考えるようにしてから、首を振った。

 

「うーん、よくわかんないや」

 

 その言葉に、幽々子はクスリと微笑んだ。

 

「ふふっ、そういえば妖夢のこと追わなくていいの?」

「そうだった!」

 

 思い出したように駆け出した蓮は、幽々子に言われた言葉の意味を少しだけ考えていた。

 

「本当に生きてる人はいない……?」

 

 それは果たして部外者の自分を除いた話なのか。それとも……。

 少し心の中が恐怖で埋もれそうで、早足気味に浴場に向かう。

 妖夢の姿は未だに見えない。

 たどり着いた浴場の更衣室の扉を恐る恐る開ける。

 

「遅かったわね。どうかしたの?」

 

 そこにはいつもの妖夢がいて、蓮はほっと一息をついた。

 

「う、うん。ちょっと幽々子お姉ちゃんと話してた」

「幽々子様と? 何か変なこと吹き込まれてない?」

「アハハハ……」

 

 幽々子と話していて怖くなったなんて恥ずかしくて言えずに、蓮は曖昧に笑う。

 

「なにを話してたの?」

「えっと、お腹空いたら早くって言われた」

 

 嘘を吐いた瞬間、蓮の胸がチクリと痛んだ。

 

「もう、幽々子様ったら……」

 

 しどろもどろになりつつ吐いた蓮の嘘は、妖夢は疑うことなく受け入れて、呆れたようにため息を吐いた。

 

「それじゃあ、急いでお風呂に入ろっか。服脱げる?」

「う、うん。大丈夫」

 

 服を脱ぎ始めた蓮を見て、妖夢も服を脱ぎ始める。

 いつものお風呂と勝手が違いすぎて、上手くお風呂に入れないという蓮のために、妖夢は一緒にお風呂に入ってあげていた。

 子供化したとはいえ、元々はライカなのだから最初の頃は抵抗があったのだが、何度も回数を重ねるうちにあまり気にならなくなっていた。

 

(……そういえば、元に戻った時に今の記憶ってどうなるんだろう?)

 

 もし元に戻った時にこの記憶が残っていればと想像した妖夢は、顔を赤くして慌ててバスタオルで身体を隠す。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「う、ううん。なんでもない」

 

 不審な行動を怪訝に思った蓮に尋ねられて、妖夢は誤魔化しの笑みを浮かべつつ首を振った。

 

(つい隠しちゃったけど、何度も一緒に入ってるから今更よね……)

 

 頭ではそのことを理解しているのだが、記憶が残る可能性があるということに気づいた以上、蓮の視線が気になって仕方がない。

 結局、妖夢は汗だけを素早く流すと急いで浴場から出るのだった。

 

 

 

 

 妖夢に遅れて、蓮もお風呂で汗を流し終えてから、朝食を取り始めると、幽々子は不意に言葉を漏らした。

 

「最近、めっきり寒くなってきたわねぇ」

 

 急な言葉に目をぱちくりと瞬かせてから妖夢は頷いた。

 

「そうですね。もう冬ですもんね。蓮さんは大丈夫? 寝る時とか寒くない?」

「うん。大丈夫。寒くないよ。お姉ちゃんもいるし」

 

 妖夢のすぐ隣で朝食を食べていた蓮は明るく答える。

 先程の浴場の件で少しだけ蓮との距離の取り方に困っている妖夢はなるべく平穏を装って尋ねたつもりだったが、それを幽々子は見咎めた。

 

「……妖夢、なにかあった?」

「え、ええっ!? い、いえ、なにも……!」

 

 あまりにも怪しい妖夢の様子に幽々子は目を細める。

 その視線に妖夢は誤魔化すために急いで口を開いた。

 

「そ、それよりも、寒くなってきてどうしたんですか?」

「……ああ、そうだった。寒くなると鍋が食べたくなるって言いたかったの」

「は、はあ。たしかに、鍋が美味しい季節ですね」

 

 話が逸れたことに妖夢は内心ほっとしつつ、幽々子の言葉に同意する。

 すると、幽々子はにっこりと微笑んでお願いをするように手を合わせた。

 

「ねぇ、妖夢? 鍋を作らない?」

「今晩にですか?」

「ええ。すき焼きなんかいいわねぇ」

 

 幽々子の提案に妖夢は困ったような表情をした。

 

「実は今、ちょうど牛肉が切れていて」

「ええ。知っているわ」

 

 なんで料理をしない筈の幽々子が台所事情を知っているのかと妖夢は疑問に思う。

 

「でも、無いのであれば買ってこればいいじゃない」

 

 当然のことのように言う幽々子に、妖夢は少し眉を顰めた。

 

「この天気でですか?」

 

 視線を外に向けると、一面真っ白な世界が広がっていて、さらにそれを広げようと雪が舞っていた。

 

「これくらいの天気、春を集めた時に比べたら大したことないでしょう?」

「そうは言っても寒いものは寒いんです。それに、顕界だったらもっと降っているかもしれませんし……」

「……つまり、妖夢は出掛けたくないわけね」

 

 じっと主人に見つめられ、その圧に妖夢が少したじろぐ。

 

「そういうわけじゃありませんが……、今日の晩の食材はありますし、無理して行かなくても」

 

 渋る妖夢に幽々子は視線をご飯を食べている蓮に移した。

 

「ねぇ、蓮。お鍋、食べたくない?」

「お鍋?」

 

 唐突に振られ、困惑している蓮に幽々子は優しい笑みを浮かべる。

 

「ええ。お鍋。それもお肉が沢山入ってるとびっきり美味しいお鍋よ」

「……食べたい!」

 

 少し逡巡した後、蓮が目を輝かせて答えた。

 その言葉に頷きながら、幽々子はほくそ笑む。

 

「ほら、蓮も言ってることですし」

「ず、ずるいですよ、幽々子様……」

 

 幽々子だけならばまだしも、蓮にまで食べたいと言われ、妖夢ががっくりと肩を落とす。

 

「ふふ、やったわー!」

 

 上機嫌な様子ではしゃぐ幽々子に、仕方ないなぁと小さくため息を吐いた妖夢。

 

「わかりました。それじゃあ、この後、人里の方に買い物に行ってきます」

「お願いね〜」

 

 朝食を食べ終えた食器を重ねながら、妖夢がそんなことを言うと、その裾を蓮の小さい手が掴んだ。

 

「ん? どうかしたの?」

「うん。えっとね……」

 

 少し言いづらそうにした蓮が、意を決したように妖夢を見て口を開いた。

 

「それ、僕も行っちゃダメ?」

「えっ……?」

 

 蓮の言葉に妖夢は困惑するように固まった。

 

 

 

 

「本当に連れてきて良かったのかなぁ……」

 

 雪が降り積もる幻想郷の空を飛びながら、妖夢は不安そうに呟いて、蓮へと視線を移す。

 空を飛べない蓮のために半霊を実体化させ、その上に蓮を乗せていた。

 

「幽々子様は問題ないなんて言ってたけど……」

 

 幽々子のその場のノリで言ったような、適当な態度を思い出して、この後、藍あたりに怒られるのではないかと危惧していた。

 とはいえ、既に冥界を抜け、人里まではもう少しだ。今更、戻ったところで変わらないだろう。

 

「寒くない?」

「うん。大丈夫」

 

 防寒具を着た蓮は、落ちないようにとしっかり半霊に掴まっていた。

 身につけた防寒具は、幽々子がどこからともなく取り出した妖夢のお古だったりする。

 

「けど、凄いね。空を飛べるの。僕も練習したら出来るのかなぁ」

「う、う〜ん。どうだろう……?」

 

 果たして外の人間が空を飛べるようになるのだろうか。

 ライカが空を飛んだところを妖夢は見たことがないので、首を捻る。

 

「蓮さんが空を飛べるようになるかはわからないけど、きっと強くはなれるわ」

「どうして?」

「だって……」

 

 妖夢の脳裏に浮かぶのは、ライカが時間を斬った瞬間。しかし、それを蓮に伝えたところで意味は無いと理解しているから、妖夢は誤魔化すように優しい笑みを浮かべた。

 

「だって、私が稽古をつけてますから」

 

 言って蓮を撫でてあげると、くすぐったそうに目を細める蓮。

 

「じゃあ、もっと稽古頑張る」

「うん。一緒に頑張ろうね」

 

 可愛らしい蓮の仕草に、自然と頬を緩ませる妖夢。

 和やかな空気が流れた二人の空間に、突如、割って入るように爆発音が響いた。

 

「うわっ!?」

 

 驚いた蓮がバランスを崩しそうになるのを、慌てて妖夢が支える。

 

「いったい何が……?」

 

 幻想郷で広まっている弾幕勝負でも妖精達が始めたのだろうかと思ったが、それにしてはあまりにも音が大きすぎた。

 並みの妖精が出せるような爆発音ではない。

 警戒しつつ、あたりの様子を伺うと、宙に男が立っていた。

 雪景色に溶け込むかのような真っ白い浴衣のような格好に、髪、肌をした男。

 その男の近くから落下する影が見える。

 

(あれは……藍さん!?)

 

 ボロボロといった様子の藍は、気を失っているのか、地面に向かって落下していく。

 その姿に妖夢は自らの目を疑った。

 

 八雲藍は八雲紫の式神であり、強大な妖怪だ。並みの妖怪では太刀打ち出来ない。

 そんな妖怪を下したと思われる男は、怪我一つしたとは思えない様子で凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「あァ? なんだ、その姿。随分と可愛らしくなってんなァ?」

 

 男の視線が蓮へと注がれてることに気がついた妖夢は、最大限の警戒をしつつ楼観剣を抜刀した。

 

「蓮さん、少し待ってて」

「あ、お姉ちゃんっ!」

 

 巻き込まないようにと蓮を残しつつ、男へと近づく。

 後ろで蓮が何かを言ってる気がするが、そんなことを聞く余裕はなかった。

 

「何者ですか」

 

 睨みつけながら尋ねると、そこでやっと妖夢に気が付いたかのように男は視線を移して、小さく笑う。

 

「何者だァ? おいおい、人にものを尋ねるときは自分から名乗れって幽々子に習わなかったのかよ」

 

 小馬鹿にした態度。そして、男はどうやら自分のことを知っているらしい。

 けれど、妖夢には男の見覚えがなかった。

 こんな特徴的な男だ。一度見たら忘れるはずがない。

 

「白玉楼の剣術指南役、魂魄妖夢です。それで、貴方は」

 

 律儀に名乗った妖夢に対して、男はクククッと可笑しそうに肩を揺らすと、小さく呟いた。

 

「ドッペルゲンガー」

「ドッペルゲンガー……?」

 

 名前でも種族名でも無いものを口にした男に妖夢は首を傾げる。

 けれど、理解する必要はないと判断をする。こちらに危害を加えるつもりならば、斬るだけなのだから。

 

「それでどうすんの。名乗りあって、名刺でも交換すんのか?」

 

 宙を歩くように、男が一歩前に踏み出した。

 

「うっ……、それ以上近づかないでください!」

 

 妖夢の勘が危険を訴えていた。

 わからないが、この男は危ない。

 妖夢の静止も気にした様子もなく、男がまた一歩、一歩と歩を進めた。

 

「それ以上近づけば斬ります!」

 

 キツく握りしめた楼観剣を男に向ける。それでやっと、男は歩みを止めた。

 

「斬るねぇ……。いいぜ。やってみろよ」

「……は?」

 

 男が何を言ってるのか理解出来なかった。そんな妖夢を見てか、男は無防備なことを表すように両腕を広げた。

 

(罠……?)

 

「ほら、早くしろよ。それとも、その剣はこんな無防備な奴すらも斬れないなまくらかァ?」

 

 警戒する妖夢を挑発する男。

 反撃を狙ってるのか、それとも避けるつもりか。何を考えているかわからない。

 ならば、その企みごと斬るまでと、妖夢が短く息を吐く。

 

「……行きます」

 

 構えを取った妖夢。静寂の中で空気がヒリつく。

 永遠にも思えるほどの一瞬の間で、妖夢が飛び出した。

 目にも止まらぬ速度で男との間合いを詰め、その胸元に楼観剣を振り下ろす。

 男は動かなかった。軽薄な笑みを浮かべたその視線は間違いなく妖夢の動きを追っていた。

 だというのに、一切の防御も、躱す素振りすら見せずに、その斬撃を身に受ける。

 

「えっ……」

 

 困惑したように妖夢が声を漏らした。

 男が何かしたようには思えなかった。間違いなく直撃した筈だ。けれど、手応えが全くない。

 斬りつけた筈なのに、男は傷ひとつ負ってないどころか、服すら斬れた形跡はなかった。

 理解が追いつかない状況で動揺した妖夢に、男は口元を吊り上げた。

 

「なんだァ? その程度の斬撃かよ。じゃあ、次はこっちの番だよなァッ!」

 

 勢いよく剣を振り下ろした妖夢の眼前に男の手が伸びる。

 

(ま、不味い……!)

 

 何かわからないが、最大の危険信号を発する自分の直感を頼りに、妖夢は無理矢理に姿勢を捻る。

 剣を振り下ろし、勢いのついた身体を無理矢理に動かしたせいで、激痛が走った。

 

「ぐぅっ……!」

 

 顔を痛みで歪めつつも、ギリギリに男の手を避ける。男の手は妖夢の頭の真横を通り過ぎて、左肩を掠る程度に済んだ。

 姿勢を立て直した妖夢は、剣を構え直す。

 

(このまま反撃を……っ!?)

 

 男は手を伸ばしきっており、絶好の好機。だというの、妖夢は慌てて飛び退いた。

 

「そんなに逃げるなよ。傷ついちゃうだろ?」

 

 ケラケラと軽い口調で笑う男。

 そんな男を睨みつけながら、妖夢が左手の様子を確認する。

 

(左肩に力が入らない……!)

 

 まるで何かを抜き取られたかのように、左肩に力が入らずに、左手でまともに剣を握れない。

 歯軋りをさせて、妖夢は右手一本で剣を構え直した。

 

「どうしたんだァ? そんな右手一本で剣を握ってよォ?」

 

 間違いなくあの男の能力によるものだというのに、白々しい態度を取る男。

 

(ど、どうしよう……、勝てないかも……)

 

 ただでさえ、相手の能力は不明だというのに、片腕が使えなくなってしまった。

 焦る妖夢は時間を稼ごうと、口を開いた。

 

「目的はなんですか!」

「目的だァ? そんなん知ってどうすんの? 世界征服とかでも言えばいいわけ?」

「ふざけないでください!」

 

 あまりにもふざけた態度を取る男に、妖夢が声を張り上げる。

 そんな妖夢に男はつまらなそうな表情で距離を詰め始めた。

 

「目的、目的ねぇ……」

 

 少しずつ縮まる男との距離。逃げなければ不味いとわかっているのに、身体が動かなかった。

 男が妖夢の目の前まで来ると、その耳元でそっと囁いた。

 

「あの、クソガキをぶっ殺しにきたんだよ」

「ッ!」

 

 躊躇わず、剣を横薙ぎした。

 男の胴体に直撃したはずなのに、またも手応えがない。

 

「あーあ、どうしちゃったの。そんなに殺気だって。まさか、あのガキにご執心ってか?」

「蓮さんに手は出させない!」

 

 少しだけ距離を取った妖夢は剣を構えた。

 

「手を出させないねぇ……、クハッ、ハハッ、アハハハッ!」

 

 何がおかしいのか男が顔を抑えながら、何度も笑う。

 あまりにも不気味な光景に妖夢は顔が引き攣りそうになりながらも、強く楼観剣を握った。

 ケタケタと笑う男は落ち着くように深く息を吐くと、その暗い瞳を妖夢に向ける。

 

「あー、あんまり面白いこと言うなよ。虐めたくなっちまうだろ」

 

 ゾクリと妖夢の背筋に悪寒が走った。

 気づいたら腕が勝手に動き、何もない宙に剣を振るう。

 

 何も見えなかった。何かあるとは思えなかった。

 けれど、楼観剣は間違いなく何かを斬り裂いた。

 

 腕に何かを斬った手応えが伝わってくる。

 

「あ? 見えてんのか? いや、剣士の勘ってやつかァ?」

 

 それに少し驚いたように男は首を捻る。

 

(何が襲ってきてるの!?)

 

 見えない、わからない。

 妖夢は自らの勘だけを頼りに剣を振り続ける。

 何かを斬り裂く感覚はあるが、なにを斬ったのか理解は出来ない。

 雪の景色に紛れてるわけでもない。それなのに、攻撃は見えない。

 

「ぐっ、うぅっ!」

 

 見えないものを相手に剣を振い続ける辛さに、妖夢は顔を歪める。

 

「いいねぇ、いいねぇ。クハッ、ハハッ、もっと楽しそうに踊れよ」

 

 劇でも見ているかのように、愉快そうに笑う男。

 幸いなことに男が直接襲ってくることはない。

 剣一本で何度も降り掛かる何かを斬り落とす妖夢。

 

(攻撃が見えないせいで、反撃に移るタイミングが掴めない……!)

 

 徐々に押され始め、焦る妖夢が額から冷や汗を垂らす。

 目を凝らしても攻撃は見えない。しかし、時折、舞う雪が何かによって消えてることから、何かがそこにあるのは間違いなかった。

 

(見えないのがこんなに辛いなんて……)

 

 歯噛みしかけた妖夢だが、あることに気づく。

 

(攻撃が見えない……? そっか、見えないんだから、見る必要なんかないんだ)

 

 妖夢は攻撃を見ようとすることを諦め、目を閉じた。

 

「あァ? なんだ、諦めたのか?」

 

 その奇行を見た男はつまらなそうに言うが、妖夢は諦めるつもりなんてなかった。

 

「そこだッ!」

 

 感じとった感覚を頼りに、妖夢が剣を横薙ぎにする。

 剣先が何かを斬り裂く感覚があった。そのまま、剣先を反転させるように斬りあげる。再びなにかを斬り裂いた。

 止まることなく妖夢は剣を動かし続ける。

 その動きは先程の勘だけに頼ったものよりも鋭利で、無駄な動きが少なくなっていた。

 

「ハ……、ハハ、ハハハッ! 視界という感覚を遮断することで、他の感覚を研ぎ澄ませるなんてなあァ。最ッ高に面白ぇことするじゃねぇか!」

 

 肌に当たる雪の冷たさ、風の吹く音、冷え切った空気の匂い、研ぎ澄ました感覚の中で妖夢は飛んでくる見えない攻撃を察知して斬り落としていく。

 

(まだ、もっと、もっと……!)

 

 斬れば斬るほどに理解できる。

 攻撃のタイミング。威力。どこを狙われるか。

 そんな相手の攻撃の癖が自然と伝わってきた。

 小さく白い息を吐いて、更に動きを加速させる。

 そして、身体を捻って勢いよく攻撃を斬り落とした瞬間、妖夢は飛び出した。

 真っ直ぐに男に向かって高速で飛び込む。

 

「ハッ、その閉じた目で躱せるのかァ?」

 

 男は馬鹿正直に突っ込む妖夢に手のひらを向ける。

 

「白符『ペタホーリー』」

 

 詠唱と同時に辺りの雪が一瞬で溶けるほどの高熱が男の手のひらに集まった。

 圧縮された熱に景色が揺らぐ。

 目を閉じた妖夢にはその景色の変化は分からずとも、放たれる熱気になにか来ることは理解出来た。

 それでも目を開けない。

 目を開けて、男の攻撃を視認すれば足がすくんでしまうかもしれないから。

 そんな自滅みたいな真似だけは出来なかった。

 

「吹き飛べよ」

 

 凝縮された熱が男の手のひらから離れて肥大化する。

 躱すことなんて目を閉じた妖夢には不可能な大きさに膨れ上がった熱の塊。

 そこに妖夢を真っ直ぐに飛び込んだ。

 自分が不味い状況にあることなんてわかっていた。怖気づきそうになる心を鼓舞するように妖夢はひとつだけの確かな自分の真実を口にする。

 

「斬ればわかる」

 

 強く握り締めた楼観剣の剣先を迫りくる、熱気へと向けた。

 

「この妖怪が鍛えし楼観剣に……」

 

 自らの全てを刃に乗せるようにして振りかぶる。

 

「斬れぬものなど、あんまりないッ!」

 

 妖夢の気合いの叫び共に振り下ろされた楼観剣が熱の塊を斬り裂いた。

 それだけに止まらず、一気に男との間合いを詰める。

 一切の無駄を省いた動き。

 目を閉じているとは思えない動作で妖夢は相手の懐に滑り込むと、その急所に向けて楼観剣を走らせた。

 

「……んで、そこからどうすんだァ?」

 

 しかし、その動きが途中で強制的に止められる。

 

(止められた……!?)

 

 驚き、目を見開いた妖夢の前には想定していなかった光景が広がっていた。

 止められたと思っていた楼観剣は、相手の急所を確かに捉え、深々と相手の胸元までを斬り裂いていた。

 左の肩口から右の胸にかけて斬り裂かれた傷跡からは大量の血が滲み出している。

 そんな状態で、男は右手で楼観剣の刀の部分を握り止めていた。

 

「なっ……」

 

 妖夢は絶句し、言葉を失う。

 間違いなく致命傷。だというのに、男の剣を握る手はあまりにも固く、引くことすら出来ない。

 強く握りしめているせいで手が斬れているのか、手からも血が溢れており、それが刀身を伝って垂れてきていた。

 

「どうしたァ? そんな顔を青白くして。幽霊でも見たみたいによぉ?」

 

 顔を近づけられ、妖夢の瞳を覗き込まれる。

 男の瞳はドス黒い血のように真っ赤に染まっていて、その奥に潜む吸い込まれそうな暗闇は、見ているだけでおかしくなりそうだった。

 妖夢の楼観剣を握る手が震える。

 怖かった。

 今まで相手にしてきた人たちとは違う。

 例え妖怪だったとしてもこのレベルの傷を負えば何かしらの反応はある。

 だというのに、この男は一切それがない。

 まるで斬れていないと錯覚してしまいそうになる。

 

(ほ、本当にこの人は斬れるの……?)

 

 斬れている筈なのに、斬れていない。理解できない状況に混乱し、浮かんだ疑惑は恐怖を生んでしまう。

 男が楼観剣から手を離した瞬間、妖夢は逃げるように飛び退いた。

 

「あ、はぁ……はぁ……」

 

 荒い息を吐きながら、妖夢はもう一本の剣、白楼剣を引き抜いた。

 動かなかったはずの左腕の感覚が戻っているが、そんなことを気にかける余裕など妖夢には存在しなかった。

 

「お、本気ってやつかァ? いいぜ、かかってこいよ、半人前! お前とあのガキの幻想を喰い潰してやる!」

 

 余裕そうな男に、必死な形相で妖夢は構えを取る。

 攻撃を仕掛けて、致命傷になり得る傷を負ったのは相手であるのに、追い詰められているのは間違いなく自分だった。

 妖夢の瞳が一際紅く光ると、彼女は一気に飛び出す。

 

「待宵反射衛星斬!」

 

 月の狂気を借りて相手を斬り崩す、妖夢のラストワード。

 妖夢の放った大量の斬撃が月の狂気の力を借りて、時間差で大量に分岐し、逃げ場の無くなった獲物を妖夢が斬りつける。

 弾幕勝負であれば、多少の逃げ場は存在するが、今はそれすらも存在しない。相手の確実に斬るための技。

 必殺だった。確実に倒せるはずだった。倒さないといけなかった。

 

「あ、あれ……?」

 

 けれど、妖夢が気づいた時には、ぼやけた視界の中で落下していた。

 首を必死に動かして、空を見ると、男は歪な笑みを浮かべながら、蓮の首元を掴んでいるのが見えた。

 

「れ、蓮さん……」

 

 苦しそうな顔をする蓮を助けようと、朦朧する意識の中で、妖夢が手を伸ばすが、それは届かずに空を切った。 

 

 

 

 暗闇に落ちきった意識が身体を揺すられる刺激に浮上を始める。

 

「ねえ、ちょっと! 大丈夫!?」

 

 肩を揺すられて、妖夢が薄く目を開けると、幻想郷では珍しいメイド服が見えた。

 

「そんなにボロボロになって、何があったの?」

 

 十六夜咲夜。紅魔館のメイド長。偶然、人里に買い物に来ていた帰りに、雪の中を倒れる妖夢を見かけたのだった。

 

「咲夜、さん……」

 

 覚醒しきらない意識の中で咲夜の名前を呼んでから、蓮の存在を思い出した妖夢は跳ね起きる。

 

「蓮さんは……つぅ……!」

 

 受け身も取らずに落ちたが、雪がクッションになってくれたせいで大事にはならなかったようだ。けれど、多少の打撲はしているのか、身体に痛みが走り、妖夢が顔を歪める。

 

「無理しない方がいいわ。いま、応急処置を」

「すみません。急いでるから……」

 

 応急処置をしようとする咲夜の手を振り払って妖夢は立ち上がると、彼女の半霊が先導するように飛び始めた。

 冷たい雪を踏みしめながら、歩を進める妖夢の後ろから足音がする。

 

「どうかしたの? そんなに慌てて」

「蓮さんを、助けないと……!」

「蓮? それって」

 

 状況を理解していない咲夜は困惑したような顔になるが、次の瞬間、息を飲んだ。

 

「あれって……」

 

 視界に映るのは、真っ白い雪の上に点々と続く血溜まり。

 

「獣の血、じゃないわよね……」

 

 咲夜の驚き声を聞きつつ、妖夢は必死に脚を動かす。

 身体中痛いし、視界は霞むが、脚を止めるわけには行かなかった。

 先程からずっと嫌な予感が消えてなくならない。

 男はどこに消えたのか。なぜ蓮が乗っていた半霊がここにいるのか。そして、この血溜まりはなんなのか。

 最悪の展開を振り払うように頭を振って、半霊を追って歩き続けると、一際大きな血溜まりがあった。

 まるで絨毯の模様のように、白い雪を真っ赤に染め上げている。

 

「あ……ああ……」

 

 その中央に転がるものを見て、妖夢は呻くように声を漏らした。

 

「れ、蓮、さん……」

 

 助けようとした。今後こそ守ろうとした。

 けど、それは叶わずに、最悪は現実となった。

 

 血の池の上で、蓮は眠るようにして横たわっていた。

 

 声にならない悲痛な叫びをあげて、妖夢はその場に崩れ落ちるように膝をつく。

 隣の咲夜が何かを叫んでいるような気がするが、頭の中で反響して何も聞こえない。

 

 反芻されるここ数日間の蓮との日々と、それを守りきれなかった不甲斐さなに耐え切れず、妖夢は電源が切れるようにその場に倒れた。

 

 

 + × + ×

 

 

 月から地上に堕ちた兎、鈴仙・優曇華院・イナバは急患の知らせを受けて、里の外れにある家にやってきていた。

 偶々薬を売りに来ていたところに急患なんて、その患者はついているのか、それともついてないのかと思いつつ扉を開けた。

 

「お邪魔しますねー……」

 

 部屋は薄暗く、鈴仙の声に返事もない。

 勝手に入るのは忍びないが、先程まで玄関で何度か呼びかけをしても返事がなく、中で倒れているのかもしれないので仕方がない。

 波長から室内に人がいるのは感じ取れているのだが、なぜか少し波長がブレていて正確な位置まで特定はできない。

 

(この感覚どこかで……)

 

 首を捻りかけた鈴仙が違和感に気づいたのは、外に逃げるには部屋の中に入り込みすぎた後だった。

 薄暗い暗闇の中から両腕が鈴仙を捕まえようと伸ばされる。

 

「何者ッ!?」

 

 人間とは思えない波長を感じた鈴仙が応戦しようと、素早く人差し指を伸ばして霊弾を放った。

 鈍い音が相手に直撃したことを教えてくれる。

 

「いってぇなァ。頭があの巫女みたくお花畑になったらどうすんだ」

 

 不機嫌そうな声が暗闇から発せられると、伸ばされた両手が鈴仙の被り笠を奪い取った。

 人里に来るために、行者に扮していた鈴仙が隠していた、その特徴的なウサギの耳が露わになる。

 しかし、相手が誰かわかった鈴仙は慌てることなく、ジトッとした視線をその人物に浴びせた。

 

「よぉ、久しぶりだな、ウサミミ」

 

 そんな視線を気にした様子もなく、暗闇から真っ白い男が現れる。

 鈴仙は無言で男に右手の人差し指を向けた。いつでも霊弾を撃てる体勢だ。

 

「随分なご挨拶だなァ?」

「なんでここにいるの。ここは人里よ」

「あァ? なにつまらねぇこと言ってんだよ。まさか、人間以外は人里に入っちゃいけませんなんて言わねぇよなァ?」

 

 文句を言ってやりたいところではあったが、里の人間から見れば自分も妖怪兎であり、この男の他にも様々な妖怪が里に出入りをしているのが現状だ。

 だから鈴仙は、頭を切り替えて気になっていることを尋ねることにした。

 

「急患って聞いたんだけど、私にそれを伝えてくれた人には幻覚でも見せてたの?」

「ククッ、どうだろうな?」

「……用事が無いなら帰るわよ」

 

 出来れば関わりたくない相手に鈴仙が踵を返そうとすると、その肩を掴まれた。

 

「急患ならここにいるだろ?」

「はぁ? なにを言って……って」

 

 そこでようやく鈴仙は男の状態に気がついた。

 左肩から右胸元にかけて大きな斬り傷があって、そこから染み出したドス黒い血によって、真っ白い着物が赤く染まりかけている。

 なんでさっきまで気づかなかったのか自分に問いただしたいほどの大怪我だった。

 

「な、なにこの怪我……」

 

 なんで生きているのかわからないような怪我に狼狽えた鈴仙に男はつまらなそうに答える。

 

「痴話喧嘩」

「痴話喧嘩って……」

 

 そんなものでできる怪我ではないのは明白だった。

 

「どこでこんな、きゃッ!?」

 

 問いただそうとする鈴仙だったが、その前に男に押し倒される。

 

「地底まで戻ってもいいんだが……、ちょっと用事が出来た。魔力補給させてもらう」

「勝手に話を、んぐっ!」

 

 喚く口を塞ぐように男が鈴仙に口付けをした。

 直前まで開いていた口の中に無理矢理に舌を差し込まれて、そのまま絡み合わせられる。

 

「んーっ! んー! んっ、んっ、んんっ!」

 

 男は抵抗しようと暴れる鈴仙を抑えつけつつ、その行者服に手をかけた。

 

「んっ、んん……ん、んはぁ……」

 

 無理矢理に口づけをされ、その上服を肌蹴させられ鈴仙の抵抗が徐々に弱まっていくのを確認した男が口を離す。

 

「抵抗した割には随分と早いじゃねぇか」

 

 身体から力が抜けて、だらしなく口を半開きにした鈴仙を見て、小馬鹿にしたように男は笑った。

 

「だ、誰のせいよ、人の波長を勝手に、ん……!」

 

 力なく反論しようとする鈴仙だが、再び唇を押しつけられて黙らされる。

 

「ンちゅ……ちゅうっ、んんっ、ちゅるる……」

 

 今度は鈴仙の方からも舌を出して、男の舌と絡み合わせ始めた。

 甘い熱を帯びた唾液や舌が滑る感覚に、男は身体を震わせると、鈴仙の胸へと手を伸ばした。

 ハリのある柔らかい乳房を揉みしだきながら、鈴仙の濃厚な口付けを繰り返す。

 

「あっ、んぁっ、薬売りの途中なのに……、師匠に怒られちゃう……」

「そんなに目を蕩けさせておいて、今更そんな心配かよ。なら止めるか?」

 

 男の問いかけに、鈴仙は小さく吐息を漏らすと、腕を伸ばして男の首に絡ませた。

 

「誰のせいでこんな風になってると思ってるの……、責任取りなさいよ……」

 

 切なそうに眉を八の字にした鈴仙は、男を引き寄せるとまた口付けを再開する。

 その手が男の下腹部へと伸びた。

 

「んちゅ、ちゅ……どうせ、するんでしょ?」

 

 大きくなった男の肉棒を触れているだけで、あそこが熱くなる感覚がする。

 まるでおねだりでもするかのように問いかけた鈴仙の表情はどうしようもないくらいに堕ちきっていた。

 最初の方はあんなにも嫌だったはずなのに、身体が求めてしまう。

 

(全部、こいつのせいだから……)

 

 そんな言い訳を頭の中で考えながら、鈴仙は快楽に身を委ねる選択を選んだ。




白玉楼はイチャイチャ多めで行くとか書いた数話前の自分をぶん殴ってやりたい。
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