東方淫魔伝 作:スイセン
「はい。あーん」
「……あーん」
むすっとしたままを保ちたいと思いつつ、目の前に出された美味しそうなシフォンケーキについつい口を開けてしまう。
アリスによって作られたそのケーキは程よい甘さで、俺好みで美味しい。
その味わいに、ついつい口元が緩んでしまう。
「いやー、可愛いですねー!」
きゃー! と、今どき女子のようなはしゃぎ方でぴょんぴょんと飛び跳ねる小悪魔。
うるさいと文句を言いたいが、口の中に食べ物が入ってる時に喋るのは行儀が悪いので咎めるように視線だけ送っておく。
「本当に子供みたいね……」
少し呆れたようにパチュリーが言葉を漏らした。
俺も正直、自分の単純さに頭が痛くなりそうだった。
アリス、咲夜、小悪魔に遊ばれ、可愛らしくメイクアップなんかもされた結果、完全に不機嫌になって拗ねた俺を見た咲夜とアリスがご機嫌取りのためにお菓子と紅茶を用意した。
子供じゃないんだからとは思いつつ、それで少し機嫌を直してしまってる自分が恨めしい。
あと、咲夜の膝の上に座らせてもらっているのだが、すごい心地いい。咲夜に頭撫でられながら、アリスにあーんされてるこの状況は一言で表すなら天国以外にない。
「口元緩んでるわよ」
「……ケーキが美味しいからな」
「それは良かったわ」
パチュリーの指摘に誤魔化すように口にした言葉にアリスが微笑む。
本当に幸せとしか言いようがない状況だ。ただ、願うならそろそろこのメイド服を着替えたい。動きにくい。
「本当に見事なものね。なにかコツとかはあるの?」
「大したことはないわ。そういう咲夜だってこんなに凝ったクッキーを作ってるじゃない」
皿に盛られたクッキーの一枚をアリスが手に取る。
綺麗な花柄や月の模様が描かれたそれは、アイシングクッキーとかやつだろう。どうやってこんな柄を作るのかなんて俺には皆目検討もつかない。
「この挟んでいるクリーム、バラの香りがするわね。冬なのにどうやって……なんて、貴女に聞くまでもないわね」
「ええ。美鈴が育てている花壇からいくつかいただきましたわ。アリスのこのシフォンケーキも紅茶に合うように砂糖の量が調整されているわね」
「どっかの白黒の魔法使いさんが食べにくるものだからね。味がわかっているんだか、わかってないんだか」
肩をすくめるようにしてため息を吐くアリスに、クスクスと笑う咲夜。
この2人からものすごく優雅な女性のオーラを感じる……。この2人、女子力の塊というやつなのか。
2人とも肌とか髪の手入れは行き届いてるし、ふわりと香る香水の良い匂いもするし、うちの粗暴なお嬢様にも見習って欲しい。いや、うちのお嬢様も粗暴ではあるけど、肌綺麗だし、良い匂いするか……。
ところで、抱きつかれるようにして咲夜の膝の上に座ってるせいか、後頭部のあたりに柔らかい感触が時折当たっているんですけど。
本人は気づいている様子がないせいで、変に緊張してしまう。あんまり頭を動かせない。
あ、また当たった。
「……ケーキ食べてなくても緩んでるじゃない」
見咎めるパチュリーの言葉は無視しておく。答えたら負けだ。
「はぁ……、ところで、本題とやらに入りたいんだけど」
いい加減出ていって欲しいというニュアンスが含まれているであろう言葉をパチュリーが投げかける。
すっかり忘れてた。いや、だって、本題に入ろうとしてもずっと遊ばれてたんだもん。
「そうだ。なんで、アリスが紅魔館に来たのかを聞こうかと思ってたんだ」
「え? 貴方に会うためだけど?」
当たり前のように即答された。
う、うーん……、この返答、場合によってはヤンデレ化しそうな気質を感じるんだけど大丈夫かしら。
「行方不明になったって知ってたら安否の心配ぐらいはするでしょ?」
俺の思考を読んだように、アリスが少しだけ口を尖らせて付け加えた。
「まぁ、それはそうだな」
俺もアリスが行方不明になったら死ぬ気で探し出す気がする。
「……あとはそうね。勝手に逃げ出した誰かさんには直接言ってやりたい文句が山ほどあったっていうのもあるけど」
ジトっと湿気混じりの目を向けられた。
それを言われると弱い。確かに逃げたけれど、それはアリスを傷つけたくなくて──。
ただ、そんな言い訳は口からは出てこない。わざわざ白玉楼まで探しに来てくれるぐらいには心配をかけていたのだ。結局のところ、どこまでいっても俺の行動は軽率だったとしか言えないのだろう。
「悪かった……なんていっても許して貰えないかもしれないけど。反省してる」
「……謝罪が欲しかったわけじゃないけど、そうね。許すかどうかは考えておくわ」
甘いわね……と、小さく囁かれたパチュリーの言葉にアリスは答えない。
本当に甘すぎる処置だ。引っ叩かれて、絶縁されてもおかしくなんてないというのに。
少しの静寂。
「ふーん。アリスって、彼のどこがそんなに良かったの?」
そんなちょっと重くなりかけた空気に、狙ったのか何も考えてないのかそんな質問が咲夜から飛び出した。
「は、はぁ!? きゅ、急になに!?」
「あ、それは気になりますねー。私もアリスさんに聞いてみたかったんですよ。ご主人様のどこが良かったのか」
「なっ!?」
え、なにこの流れ。
想定外すぎる展開に動揺していると、小悪魔が悪い笑顔を浮かべていた。
「だって、ご主人様って誰とでも身体重ねるようなクズ人間じゃないですかー。完全にヤリチンですよねー」
「お前なんでそんな言葉知ってんだよ! てか、誰がヤリチンだ!」
そんなわけが……いや、側から見たら完全にヤリチンですね。クズ人間と言われても文句が出てこない。
「だから、アリスさんとご主人様の馴れ初めを聞きたいなぁって」
「馴れ初めって、そんなの話すわけないでしょ!」
俺も話したくない。だって、アリスとの馴れ初めってほぼ互いにレイプしあっただけだし。思い出すと酷いな。俺らの馴れ初め。
しかも、その時の俺、今よりももっと重度の記憶障害負ってたし。あの時は幻想郷に来るまでの記憶をなに一つ思い出せなかった。そのせいで性格も今よりもまともだった気がする。
記憶喪失の時の方が性格まともってどうなんだ……。
「やっぱり、アリスさんは話してくれませんか。でも、こっちは……」
「え……?」
赤い目を光らせた小悪魔が俺の目を覗き込む。
あ、やばい。これは催眠で無理矢理話させられるやつだ。
咲夜の膝の上で抱かれているせいで動けないのもあって、まともに小悪魔の目を覗き込んでしまった。
頭の中がふわふわして、意識が……。
その後、数分間の記憶がなく、気づいたらアリスの顔が真っ赤に染まっていて、小悪魔、咲夜、パチュリーからなぜか冷たい目を向けられていた。
「えっと……なにがあったのかを聞いてもいい……?」
「最低ね」
「ちょっと待て! 俺なにを話した!?」
「やっぱり身体目的なんですねー。悪魔の主としては素晴らしいですけど……」
「無理矢理聞き出しとして引くなよ! てか、違うから!」
好感度とかいうやつがめちゃくちゃ低下してる気がする。
「でも、ご主人様ってば、色んな女の子に手を出してるじゃないですか。つい先日だって妖夢さんにも」
「……へぇ。そうなの。人が心配している間に」
あれ、なんかアリスの声が冷たい気がする。
「そういえば、私も幻覚の中で裸見られたことあるのよね」
「いや、それは小悪魔のせいで……」
「えー、あの時咲夜さんが良いって言ったのはご主人様の人選ですよー」
この使い魔……!
人のことをご主人様と言っておきながら破滅させる道一直線だ。なに考えてやがるんだ! そして、咲夜もこんな時にそんなこと思い出さないでくれ!
「……昨日のフランとのを見て溜まってる鬱憤ね」
ボソリとパチュリーがなにか呟いた気がするが聞こえなかった。
「随分と楽しんでいたみたいね」
「いや、アリス、それは違うんだ!」
盛大な誤解……はないけど、語弊がある! アリスの瞳の奥の光が灯ってないのがとてつもなく恐ろしい。
「ねぇ、パチュリー、空いてる部屋ってある?」
「……地下の部屋なら勝手に使っていいわよ。手錠もあるし」
「そ。ありがと」
短く礼を言うと、咲夜の膝に座っていた俺の腕を取る。
「アリス、ちょ、いたっ! 痛い痛いっ!」
俺の抗議を無視したアリスに無理矢理引っ張られるように連れてかれる。
「あの後どうなると思います? ご主人様殺されたりしないですよね?」
「なんでそんなに嬉しそうに聞くのよ……」
「あの部屋は掃除しやすいから助かります」
「咲夜も咲夜ね……」
# # #
1日ぶりの地下の部屋。
問答無用で服を脱がされ、手首に手錠を取り付けられた。
「アリスさん、なんで俺は裸に……」
「あの可愛い服を汚すのは忍びないでしょ?」
「……話し合おう。誤解があると思うんだ」
なんとか説得を試みようとする俺にアリスは冷たい目を向けた。
「そうね。話しましょうか。貴方が誰とどんな関係を持っているのか」
「……いや、そんなことは」
「貴方って催眠耐性低いのね。小悪魔の使った催眠、あれぐらいなら私でも出来るのよね」
淡々と言うアリス。実質の死刑宣告で間違いない。
体格が子供なせいで逃げ出す力を出すことも出来ない。
こうなったら目を瞑ってなんとか……。
「無駄よ。催眠にもかけ方は色々あるもの」
耳元でゆっくりと囁かれた。
「貴方は私の質問に正直に答えなさい」
ふわりと甘い香りが脳内を侵食していく。そこからアリスに何かを囁かれ続けた気がするが、頭の中がぼんやりとしてうまく思い出せない。
ただ、きっと何もかも喋ってしまったのだろう。
意識が正常に戻った時には、アリスが満足げに笑みを浮かべているのだから。笑みを浮かべているけど、目が全然笑ってない。
「よくわかったわ」
違うと言いたいけど、怖すぎて言葉すら出てこない。それに自分がなんて話したかもわからないから否定すらできない。
「さて、どうしましょうかしら」
「どうって……」
痛いのは勘弁して欲しい。
そんな風に思ったらアリスが密着するように俺の体に寄りかかる。
「えっ、ちょ……!」
柔らかい膨らみを押し当てて、手で肉棒を弄り始めた。
「折角貴方の関係も聞いたことだし……、私の方も聞かせてあげるわね」
「私の方って……、え?」
アリスの言葉の意味を理解できない俺に、アリスは耳元でゆっくりと囁き始める。
「もしも……、貴方が逃げ出したせいで、私が我慢できなくなって、見知らぬ誰かと身体を重ねてたら、貴方はどうする?」
「なっ……!」
アリスが……。
信じられない言葉に目を見開いた俺にアリスはクスリと微笑む。
「もしもよ? でも、当然だと思わない? だって、貴方が私にあんなに気持ちいいことを教えちゃったんだから」
話しながら、アリスの手がゆっくりと上下に肉棒を扱き始める。
「1人で慰めても物足りなくて、だけど、貴方はいなくて……、なら、それ以外に方法はないでしょう?」
「……もしもの話、なんだよな?」
その蠱惑的な声色に、まるでそれが本当にあったかのように聞こえてしまう。
もし、もしもというのが建前で……。
そんなわけない。
これは仮定の話だ。
俺の動揺を見透かしたように目を細めたアリスは言葉を紡ぐ。
「我慢できなくなった私は人里に行くの。そこで、1人で歩いている若い男性を探して、声をかける。最初は警戒されるでしょうね。私は魔女だから。……けど、胸元のボタンを開けて見せてあげたら、簡単に人影のない路地裏まで来てくれたの。男は結局、単純だから」
「……やめろ。頼むからやめてくれ」
もしもだとしても、そんな話は聞きたくない。
あまりにも具体的に言うものだからその光景がありありと目に浮かぶようで、それが堪らなく嫌だった。
「それでも、最初は抵抗があったみたいなんだけど……、その男の人の手を取って、胸に押し当ててあげたら、ゆっくり揉み始めたの」
嫌だ。想像なんてしたくない。
「気遣うような優しい手つきだったんだけど、私がもっとして……ってお願いしたら、タガが外れたように強く揉み出して……。服のボタンを無理矢理に外して、ブラジャーもズラして……」
アリスの声に熱が籠る。それは、その時のことを思い出して、興奮しているようで。
やめろ。そんなことを考えるな。これはもしもだ。現実にあったことじゃ……。
「今貴方に押し当ててるおっぱいをいっぱい揉まれるの。直接ね。貴方にしか見せたことがなかった筈の私の大切な部分を、会ったばかりの人に」
「悪かった。だから……」
耐えられない。
アリスが……そんなの……。
情けなく懇願する俺にアリスは少しだけ気分を良くしたのか、さらに身体を密着させる。
アリスの心臓の鼓動を感じた。少し早い。
「それだけじゃあもちろん私も彼も満足できなくて、彼の首に手を回したの。それからぎゅーっと今みたいに抱きついて、唇を寄せてね……」
耳を閉じたい。逃げ出したい。
しかし、どれも手錠で繋がれた俺には許されない。
アリスの唇が重ねられる。
「んっ……、ちゅ、ちゅうっ……」
柔らかい唇の感触。いつもなら心地よいもののはずなのに、今はそれが辛い。
「そしたら、今度は彼からしてくれるの。今みたいな甘いキスじゃなくて、雄の本能に従った野生的なキス。口内を犯されて、唾液を飲まされて、舌を何度も何度も絡められて……、それが堪らなく気持ちよくて……」
「くっ……、はぁはぁ……」
聞いてられない。頭が痛くなってきた。
吐き気がする。
もしもの話だと言われても、アリスの口から語られるそれはあまりにも……。
「ふふっ、おちんちん、いつもより元気ないわよ?」
「あ、当たり前だろ……。こんな、こんな話聞いて……」
「辞めてほしい? でも、ダメよ。このまま貴方のおちんちんを手で擦りながら最後まで話してあげる」
ふっと優しく息を耳元に吹きかけられ、ゾクゾクとしたものが背筋に走る。
「何度もキスをしてたら2人とも理性が溶けてしまうの。もう、なにもどうでもよくなって……、本当はそこまでさせるつもりなんてなかったんだけど……」
これは本当にもしもなのか。そんな疑念が強くなっていく。
けれど、これがもしもじゃないなら……。本当の出来事だとしたら、精神が耐えきれる気がしない。
だから、これはもしものことだと自分に言い聞かせて、それを信じるしかない。それで心を保つしかない。
荒い息を吐きながら、なんとか落ち着こうとしている俺に、アリスは楽しむように少しだけ口角を上げた。
「私って、貴方とした時は避妊薬飲んでたのよね」
ああ。覚えてる。
最初の時が危険日だったからと、永遠亭とやらでアリスが避妊薬を貰ってきていて……。
言葉を止めたアリスは、服のボタンを外した。
水色の下着が露出される。それを上にズラすと、桜色の綺麗な突起が、
「えっ──」
目を疑う。
俺の反応が面白いのか、アリスは笑みを深めた。
アリスの胸の突起、そこから溢れた薄く白い液体が胸の湾曲を伝っていた。
アリスは基本的に嘘をつかない。