※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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[第59話]魔女と薬にはご用心(R)

 何が起きたのか理解できない。

 辛くて、苦しくて、顔をグシャグシャにして、涙で視界がぼやけている。

 

「うぐ……、ひぐっ……」

 

 肉棒を優しく包み込むような暖かい感覚に、嗚咽と共に声を漏らす。

 情けない。恥ずかしい。

 大切なものを失うのが怖くて、涙が止まらずに溢れてしまう。

 

 頬にアリスの手が触れて、そっと涙が拭われた。

 ぼやけた視界の中で見えるアリスの顔は少しだけ困っているように見えた。

 

「そんなに泣かないで」

「ん、んなこと、んぐっ……い、言われたって……」

 

 嗚咽混じりの声でなんとか返答する。

 泣かないでなんて言われても、必死に止めようとしても、自分の意思とは関係なく涙が流れてしまう。

 子供化してるせいで、自分の感情を制御しきれない。

 

「もう、仕方ないわね」

 

 アリスの手が俺の背中に回されて引き寄せられた。

 ぎゅっと胸に顔を埋めるようにして抱きしめられる。

 アリスの花のような香りに包まれて、鼓動の音が聞こえた。

 

「ほら、私はここにいるから」

 

 軽く柔らかな声が聞こえる。

 

「アリス……」

 

 彼女の名前を呼んで、幼い子供のように彼女に抱きついてしまった。

 

「全く……、本当の子供みたいね……」

 

 少し呆れたようで、それでも優しい顔をしているであろうアリスの顔が想像できた。

 そのまま数十秒近く、アリスの胸の中に顔を埋めていたら、やっとことで落ち着いた。

 

 落ち着いたのはいいんだが……、恥ずかしくて顔を上げれない。

 どんな顔してアリスと顔合わせればいいんですかこれ。

 

 非常に気まずく思いながら、おずおずと顔を上げる。

 

「落ち着いた?」

 

 間近にいるアリスがニコリと微笑む。

 

「……っ」

 

 顔の温度が急上昇した気がする。

 心臓の鼓動が早い。

 

「えっと、その……」

 

 なんとか言葉を探そうとするが、何も思いつかず、視線を右往左往と漂わせてしまう。

 

「落ち着いたみたいね」

「……はい」

 

 今だけ本当に子供化したい。中身は成人しているというのに、駄々っ子のような大泣きみられるのは恥ずかしすぎる。

 けど、それだけ辛く悲しかった。今だって、気を抜いたらまたすぐに泣き出してしまいそうだ。

 

 それだけ俺はアリスが好きで、アリスが別の誰かに取られるのが嫌だったのだろう。ただ、今更、気づくには遅すぎた。

 

 きゅぅっと肉棒が締め付けられる感覚がした。

 

「それにしても、泣きながらでも下半身は元気なのは貴方らしいわね……」

 

 そういえば、アリスに挿入されていたのだった。

 なんで彼女がこうやって身体を重ねようとしてくれているのかはわからない。

 けれど、それが同情や憐れみだとするなら、耐えられない。

 

「……こんなこと辞めてくれ」

 

 小さく、心臓を刺されるような痛みを感じながら拒絶する。

 

「どうして?」

「どうしてって、だって、アリスは……、違う奴を選んだんだろ」

 

 違う男と交わり、子を孕んだ。

 俺じゃない、名前すら知らない誰かをアリスは選んだのだから、こんなことをするべきじゃない。

 口にするにはあまりに苦くて、やっぱり泣いちゃいそうで、けど、そんな情けないところを見せたくなくてやせ我慢で涙を堪える。

 

「……それでも、私を好きって言ったのは貴方よ?」

 

 ああ。そうだ。

 例え、他の誰かを選んだとしても、俺はアリスが好きで……。

 

「でも、だから、嫌なんだよ……!」

 

 絞り出すように言葉を口にする。

 アリスが好きだからこそ、こんな風に身体を重ねたくなんてなかった。アリスにそうあって欲しくないという幻想を押し付けるだけだとしても。

 

「はぁ……、全く……」

 

 落胆したのだろうか。アリスは小さくため息を吐いた。

 

「言ったでしょ。もしもの話だって」

 

 確かにもしもとは言っていた。

 しかし、その胸から垂れる母乳が、アリスの話が実際に起きたことであるという証明になってしまっている。

 そんな俺の思考を読んだように、アリスはジトッとした目を向けてきた。

 

「……貴方はもう少し、魔女に対して警戒した方がいいわよ。あと、視野も広げなさい」

「どういう……」

「これ、見えないの?」

 

 アリスが指差した床には、空になった瓶のようなものが転がっていた。

 

「それがどうかし……ああっ!?」

 

 そこでやっとアリスが言いたいことに思い至って、アホみたいに大声を上げる。

 

「えっ、でも、いつ!?」

「貴方に催眠にかけたタイミングよ。記憶が曖昧で覚えてない?」

 

 言われてみれば、質問された後にアリスが何かを飲んでたような気がしなくもない。

 

「つまり、本当にもしもの話だったのか……?」

「だから、ずっとそう言ってるでしょ。もしもって」

「じゃ、じゃあ……!」

「ちょ、なんでまた泣きそうになってるのよ!?」

 

 そんなこと言われたって、恥ずかしいとか嬉しいとか、色んな感情が混ざり合って、自分でもよくわからずに涙が溢れてきてしまう。

 なんて自分勝手なんだろうか。

 勝手に置いて逃げて、だというのに他の人に取られるのは嫌で、そして、今こうやってまたアリスを困らせてる。

 

「……本当に私のこと好きなのね。妖怪に恋するなんて碌なことにならないわよ。なんて、今の貴方に言っても無駄ね。だって、おちんちんをこんなに硬くさせてるもの」

「……そんなこと言われたって」

 

 こんな気持ちいい状態で萎えさせろという方が無理だ。

 

「ほら、泣いてなんかいないで、続き、しましょう?」

「っ……」

 

 アリスからの誘いに小さく頷く。

 それを確認してからアリスはゆっくりと腰を動かしはじめた。

 下腹部を淫猥に捩らせ、肉棒を擦り上げてくる。

 

「ん、久しぶりだから……、いつもより、気持ちいいかも」

「俺も凄く気持ちいい、……けど」

「けど?」

「もっとゆっくりしてくれないと……、ぅっ……!」

 

 パイズリやら手コキやらで焦らされていた上にさっきまでも膣内で締め付けられていたのだ。

 刺激が休まる暇なんてほとんどなく、いつ射精してもおかしくない。

 

「もう出ちゃいそうなのね。別にいいわよ。中に出して」

 

 魅力的な誘い。けれど、俺はそれを首に横に振った。

 

「アリスにもちゃんと気持ちよくなって欲しいから」

「……ふーん。そう」

 

 素っ気なく返事をするアリスだが、その口端が嬉しそうに緩んでいる。

 

「なら、おっぱいを吸って。あの薬の影響で母乳出ていて、敏感なの」

「あ、ああ。わかった」

 

 おずおずと母乳が垂れるアリスの左胸の突起に口を近づけ、吸い付いた。

 

「んっ……!」

 

 身体を震わせたアリス。

 子供というか赤ちゃんになった気分だ。

 垂れる母乳を舐めとるようにして舌を乳輪の周りを這わせてから、今度は乳首を舌で転がす。

 

「んあっ! んんっ、ひあっ……! これ、すごっ、凄いかも……!」

 

 甘い吐息を漏らすアリスに合わせて、溢れてくる母乳を飲みながら胸へと愛撫を続ける。

 すると、身体を震わせるアリスの腕が俺の後頭部に伸びて、胸に押し付けるように強く抱きしめられた。

 

 やべっ、息が……! 

 

 思いっきり抱き寄せられたせいで、呼吸する余裕すらない。必死に口を動かして隙間を作り、息を吸うと、それ同時に母乳も流れ込んでくる。

 

「はぁっ、んん! 母乳、飲まれちゃってる……! あっ、んはぁ、だ、だめ、これ、だめ……!」

 

 ダメとは言いながら抱きしめるのをやめるどころか、更に強くするアリス。

 

「待って、これ、すぐ、い、イッちゃうから……! ひぅっ!」

 

 待って言われても、吸うのをやめたら息ができない。

 だから、これは仕方ないことなんだと言い聞かせて、アリスの胸を吸う。

 ついでとばかりに、余った左手で、アリスの左胸を揉みしだいた。

 

「ひゃあっ!? ちょ、だ、だめって……! いや、いく……イクゥゥゥゥゥ〜〜〜……ッ!」

 

 身体を仰け反らせるアリス。

 それに合わせて膣内が動き、一気に肉棒を締め付ける。

 

 ぐっ……、凄い、締め付けだ……ッ! 

 

 限界が近かったのもあり、耐えきれずにアリスの中で射精してしまう。

 

「んああっ……! な、中に……!」

 

 どぴゅっ、ごぷっ、どぴゅるっ、ごぷっ、ごぷっ! 

 我慢していたこともあってか大量の白濁液がアリスの膣内を埋め尽くす。

 

「あっ、うあっ、ひあっ……、んんっ、んはあ……!」

 

 ガクガクと震えるアリスの胸から射精に合わせるように、何度も母乳が噴き出した。

 飲みきれない母乳が口から溢れて垂れていく。

 肉棒から精液が吐き出し終わっても、断続的にアリスはイッているようで、母乳が止まることはない。

 

「あっ、はぁ、はぁ……、んっ、はぁ……」

 

 少ししてようやく落ち着いたアリスが荒い息を吐く。

 床は愛液やら、噴き出した母乳やらで水溜りが出来ていた。

 

「お腹の中、熱い……」

「いっぱい出したからな」

「人ごとみたいに言って……」

 

 少し咎めるような口調をしたかと思えば、アリスは口元を緩めた。

 

「ま、それだけ貴方が私から離れたくなかったって思っておくわ」

「……ノーコメントで」

 

 そういうこと言うのやめろよ。本気で恥ずかしくてもう一回顔を埋めたくなる。

 

「ところで……、まだまだ元気そうね」

 

 アリスが下腹部に視線を向けた。

 一度射精したにも関わらず、肉棒はまだガチガチだ。

 

「……また、なんか薬飲ませでもした?」

「そんなことするわけないでしょ。まだ落ち着かないなら……、もう一回する?」

 

 尋ねておきながらアリスは既に腰を捩り、ゆっくりと動き始めている。

 光悦に染まっていくその表情を見ながら、これは逃げれないなと確信した。

 

 

 * * *

 

 

「……随分と遅かったんですね」

「まあね。色々としてたから」

 

 大図書館に戻ると、いの一番に小悪魔が駆け寄ってきた。

 

「色々ねぇ……。だから、アリスさんのエッチな声、ここまで聞こえてきたんですね」

「え、嘘ッ!?」

「嘘ですよ。……やっぱりエッチなことしてたんですか」

 

 呆れたようにアリスというか、俺を見る小悪魔。

 

「こっちを見ないでくれ……」

 

 その目というか、催眠が怖いんだけど。ペラペラ喋っちゃいそう。

 

「まぁ、今のライカちゃん、可愛いものねぇ。襲いたくなるのもわかるわぁ〜」

「おい、誰がライカちゃんだ」

 

 流石にちゃん付けは恥ずかしすぎる。

 服もあのコスプレみたいなメイド服から普通のやつに変えたし、可愛い要素なんて大してないだろ。冗談でもやめてほしい。

 ポリポリと美味しそうにクッキーを頬張る幽々子に抗議の視線を向けようと……ん? 幽々子? 

 目の錯覚だろうか。それとも幻覚か。今目の前にいるはずがないものを見てる気がする。

 

「どうかしたのぉ? そんな、幽霊を見たような目をして」

「幽々子さんは幽霊じゃないですか……」

「失礼ねぇ。私は亡霊よ〜」

 

 頬を膨らませて怒ってるふりをする幽々子。

 理解が追いつかず、呆然とする俺に疲れたようにため息を吐いたパチュリーがぼそりと呟く。

 

「貴方がきてから大図書館が騒がしい日が多いのだけど」

 

 それは俺の責任じゃないとは言い切れないので、聞かなかったふりをしよう。

 

「それで、なんで幽々子がここに?」

「なんでって、お鍋の材料を買いに行ったはずの妖夢と貴方がいつまで経っても帰ってこないんですもの。そしたら、ここのメイドがお肉を持ってきてくれて。とっても美味しいお肉だったのよ〜」

 

 そういえば白玉楼から出掛けてから数日は経っているのか。

 目覚めてから1日しか経ってないせいか、そんな感じがしなかった。

 

「そういえば、あんたに聞きたいことがあったの」

 

 ほわほわとした幽々子に、少し怒ったような表情のアリスが俺を隠すように前に出た。

 

「なにかしら〜? あ、このお菓子ならもうほとんど食べちゃったわ」

「お菓子なんてどうでもいいわよ。私は安全だからって理由でこの子を白玉楼に預けたのに、出掛けさせるなんてどういうつもり?」

 

 咎めるように幽々子に尋ねるアリス。

 はっきり言って怖い。あの表情向けられたら、泣きかねない。

 けれど、幽々子はニコニコとした笑顔で返す。

 

「どういうつもりって外に出たがっていたみたいだから出してあげただけよ。出掛けると言ったのもその子からだもの」

 

 本当に? とアリスの視線がこちらに向く。

 確かに、俺というか蓮が妖夢に同行したいというふうに申し出た記憶がある。

 やめて。その視線こっちに向けないで。漏らしちゃう! 

 

「そ、そうだ! 妖夢の容体ってどうなんだ?」

 

 この話題はよくない。変えた方がいいと話題転換を行うと、幽々子の顔が沈んだ。

 

「妖夢ちゃんは……」

「えっ、もしかして、何かあったのかッ!?」

「半死半生の状態で寝ているわ」

「半死、半生……」

 

 そんな半分死んでるような危ない状態なのか! 

 容体が悪化したとなれば、間違いなくあのドッペルゲンガーを名乗るあの男が原因だ。なんとかして、妖夢の容体の回復を……。

 

「ぷっ、ふふふ……」

「え?」

 

 焦っている俺を見て幽々子が吹き出す。

 

「はぁ、貴方って本当に……。妖夢は元々半人半霊でしょ。つまり、半分生きて半分死んでるのよ」

 

 呆れたようにアリスの説明が入る。

 あー。なるほど。理解した。ふんふん。

 

「……っ。ばーか! ばーか!」

 

 必死に考えた罵詈雑言を抑えて、耐えきれなかった子供のような悪口が飛び出す。

 

「……うるさい」

「うおっ!?」

 

 恥ずかしさで顔を赤くして喚いていると、パチュリーが何かを投げつけてきた。

 見れば、液体が入った小瓶。

 

「ちょ、これ爆発するやつとかじゃないよな」

「そんなわけないじゃない。貴方がお望みしてたものよ」

 

 望んでたもの……? 

 一瞬ピンと来なかったが、それが俺の精神を子供に戻すものだと気づいた。

 

「これ飲んだら……」

「ええ。貴方は子供化するわ」

「え? 子供化? 今も既にしてると思うけど……」

 

 事情を知らないアリスが困惑したような視線を向ける。

 瓶の中には黄緑色に発色する液体。毒薬にしか見えない。

 

「……本当にこれ大丈夫なの?」

「問題、……ないわ」

「なんだ今の間はっ!?」

「うるさいわね。初めて作ったのよ」

 

 一気に不安になった。

 

「死んだら白玉楼で過ごしましょうねぇ〜」

 

 演技でもないこと言ってくる幽々子を尻目に、ものは試しにと一息に飲んでみる。

 

「あ、今飲むんですね」

「……え? そういう流れじゃないの?」

「妖夢さんが起きてからの方が良かったかと……」

 

 それは確かにそうだったら。つい勢いと流れで。

 しかし、これで俺の精神は子供に……なってなくない? 

 待てどくらせど、子供化した感じはしない。

 てか、あれ逆になんか目線が高く……。

 

「ねぇ、これ元に戻ってない?」

「え〜、せっかく可愛かったのに〜」

「おかしいわね……?」

 

 周りの反応に恐る恐る自らの身体を見ると、いつもの20歳ぐらいの体格になっていた。

 てか、服小さいせいでパツパツなんだけど。ちょっとやばい奴みたいになってる。

 

「なんで!?」

「昔に戻る薬で、子供化する前の昔に戻ったのかしらぁ〜」

「そういう薬じゃないはずなんだけど……」

「子供化する薬じゃない……? なら、どういう薬なんだ?」

 

 俺が頼んだのは子供化する薬だ。そうじゃないというなら飲んだのは一体どんな効果の薬だと言うのか。

 

「過去の貴方を今の貴方に憑依させる薬よ」

 

 過去の俺を……、今の俺に……うーん。わからん。

 

「それはつまり、降霊的な?」

「違うわよ。貴方、死んでないじゃない。過去を変えたり、過去に戻るなんてことは咲夜にすら出来ないことだけど、過去の再現をすることは誰にでも可能なのよ。それを応用した薬」

「……なるほど」

「これは何も分かってない顔ですねぇ」

 

 なら、お前は分かってるのかよ。分かってそうですね。魔女の使い魔だし。他の面子も理解してそうなので、馬鹿は俺だけのようだ。

 

「と、ともかく、替えの服をくれ」

 

 この格好結構恥ずかしいんだ。

 

「はい。どうぞ」

 

 隣の咲夜から、紅魔館に居た時に着ていたスーツのような服を差し出される。

 

「ありが……咲夜ッ!?」

「はい?」

 

 びっくりした。なんで急に隣にいるんだよ。

 

「全く、面白い見せ物があるからとティータイムをしに来たのに、不快なものを見せないで貰えるかしら」

 

 咲夜の後ろから、眉を顰めたレミリアが現れる。

 

「面白い見せ物って……」

「もう元に戻ってしまったのね」

「やっぱり俺のことかよ!」

 

 見せ物扱いしないで貰いたい。

 ちょっと残念そうな咲夜と、面白い見せ物が見れなくて少し不機嫌そうなレミリア。

 いや、俺の今のパツパツの服装もそこそこ面白い見せ物だと思うぞ。自分で言うのもなんだけど。

 

「まぁ、いいわ。珍しい客人がいることだし」

「ふふ、お菓子のおかわりいただけるかしら〜」

 

 レミリアの視線を受け、空になった皿を持ち上げる幽々子。

 

「咲夜」

「はい。ただいま。ほら、服を」

「あ、ああ」

 

 咲夜が持つ服を手渡される。その際に咲夜の指先と一瞬だけ触れた。

 瞬間、ピリッと指先を通して静電気が流れたような感覚が走る。

 

「っぅ……!」

 

 それは、血液のように身体中を駆け巡り、眼球の裏側がズキンと痛む。

 目の前にいる咲夜がクスクスと笑い、口を開いた。

 

『……そうね。仕事頑張ってくれる優秀な従業員にはご褒美を考えなくもないわ』

 

 何を言って……。

 あまりにも脈絡のない言葉。理解が出来ない。

 

「……どうかしたの?」

「え?」

 

 咲夜に声をかけられて、俺が咲夜から服を受け取ったまま立ち尽くすしていたことに気がついた。

 不思議そうな顔で俺を見つめる面々。

 

「な、なあ、咲夜、今、変なこと言わなかったか?」

「変なこと?」

 

 首を捻る咲夜には覚えが全くないらしい。

 他の面子の反応を見る限り、咲夜が変なことを言ってなんかいなそうだ。

 だとすれば、今のはあまりにもリアルな幻覚と幻聴だ。まるで体験したことでもあるかのような景色と声色だった。

 

「ところで、そろそろ手を離してくれない?」

「あ、悪い」

 

 受け取った姿勢で固まっていたが、いつの間にか咲夜の手を掴んでいたらしい。

 困ったような咲夜のために手を離そうとして……離そうとして……。

 

「……離れない」

「何を言ってるの?」

「いや、だから、手が離れないんだけど……」

 

 正確には数cm離れたら、吸い込まれるようにまた咲夜の手と触れ合ってしまっている。

 

「そんな馬鹿なことがあるわけ」

「なら、咲夜も手を引いてみてくれよ。力入れて掴んでるわけじゃないんだから」

 

 疑わしげな視線を向けてきた咲夜。しかし、すぐに驚いたように目を丸くする。

 

「凄い。磁石みたいね」

「離れないだろ?」

「なに、咲夜とそいつの手がくっついたの?」

 

 面白いものを見つけたようにレミリアが興味津々に近づいてきた。

 

「はい。そうみたいです」

「ふーん。手を斬ってみる?」

「……おい。待て」

「まぁ、いいじゃない。すぐに再生するでしょ」

 

 言った時には既に斬れていた。

 両腕の手首から先がボトリと地面に転がる。紅い槍を使った痛覚すら置き去りにした早技。

 

「ちょっと、なにやってるのよ!?」

 

 驚いたようにアリスが止めに入るが遅い。だって、もう綺麗に切断された後なんだから。

 レミリアの目論見通り、それで咲夜とは離れられて……と思ったら、今度は身体ごと吸い寄せられるようにして咲夜と密着する。

 

「もう、血で服が汚れちゃうでしょ」

「俺はそれどころじゃねぇよっ!」

 

 完全に斬られ損だ。てか、いってええええッ! 死ぬッ! これ死んじゃうッ! 出血死するッ!

 

「手じゃなくて、身体の一部がくっつくようにでもなってるのかしら」

「えー、そんなエロマンガみたいな展開があるんですかー?」

「お菓子のおかわりまだー?」

「とりあえず、心配するか、止血してくれッ!」

 

 俺の絶叫が大図書館に響き渡った。




元に戻ったのに、災いイベントが降りかかり続ける主人公。
というわけで、十六夜咲夜と24時間接触してないといけない生活スタート!
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