※この作品はR-18です。

東方淫魔伝   作:スイセン

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[第63話]意味も想いも雪は覆い隠す

 人里にある和菓子屋。

 その中にいる客の全員が、この目の前の店員の少女の言葉に驚きこちらに注目してくる。

 

「え、えっと、もう一回言ってもらっても……?」

 

 聞き間違いかと、引き攣った笑みで聞き直す。

 

「あ、はい。あの、お二人は付き合って」

「ごめん。やっぱ大丈夫だ」

 

 残念ながら聞き間違いでは無かったようだ。

 そもそも、なんでそんな勘違いをされたのだろうか。

 いや、理由なんてはっきりしていたな。店に入ってから今までずっと手を握りっぱなしだからだ。

 人里でも見られてはいたのは認識していた。けどそれは、咲夜の顔立ちと、俺たちの服装のせいだと思っていたが、どうやらそれだけではなかったらしい。

 

 けど、わざわざそんなこと聞いてくるとは夢にも思わなかった。どんな精神構造してんだこの子。

 

 店員なんてゲームのモブキャラ程度の認識しか普段は持たないわけで、顔なんてちゃんと見てなかったが、あまりにも衝撃の事態に少女の顔をまじまじと見てしまう。

 綺麗な黒髪を短く切り揃えていて、大きくぱっちりと開いた瞳。あどけなさを残しながらも十分整った顔立ち。シミひとつない健康的で綺麗な肌と、他の客に接客している時の明るく元気な笑顔。

 外の世界ならメインヒロイン張れるレベルの可愛さだ。

 

 そんな少女がお盆を胸に抱えて回答を待つ。

 否定と誤解を解くための言葉を口にしようとすると、その前に隣のもう1人の美少女が口を割り込ませた。

 

「ふふ、どっちだと思います?」

「……は? いや、おい」

 

 楽しそうに笑いながら、咲夜が意味ありげに問い返す。

 咲夜の問いかけに、店員の少女は少し困ったように視線を彷徨わせてから、笑顔を浮かべた。

 

「とてもお似合いだと思います!」

 

 人懐っこい笑顔を向けてくる少女。

 

「ですって。良かったわね。ダーリン」

「っ……!」

 

 耳元で囁かれて、飛び跳ねそうになった。

 だ、ダーリンって……。

 クスクスと笑う咲夜。揶揄われたと気づいて、恨みがましく睨みつけておく。

 

「え、えっと……」

 

 そんな俺と咲夜を見て、少女は困惑したように首を傾げた。

 そんな2人の視線を気にした様子もなく、咲夜はみたらし団子に食べる。

 

「このお団子のタレ、とっても美味しいわ!」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 空気を読まないというか、マイペースな咲夜の発言だが、美味しいと言われて、少女は嬉しそうな表情をした。

 

「お父さんの手作りのタレなんです」

「ただのタレじゃないわよね?」

「はい。特別な隠し味が入っているんですよ」

「へぇ……、隠し味。これは……」

「あ、だめです! お姉さん、隠し味当てちゃいそう!」

「ふふ、それはごめんなさい。黙っておくわね」

 

 俺を間に挟んで会話する少女と咲夜。

 隣にいるのになぜか凄い疎外感を覚える。会話に割り込めないせいで、さっきの訂正すら出来ない。

 

 それにしても、可愛らしい少女だと思う。顔立ちだけじゃなく、態度とかも愛嬌があるというのだろうか。まさに看板娘といった感じ。

 お父さんと言っていたし、家族ぐるみで営業をしているのかもしれない。

 

 そんなどうでもいい考察をしつつ、誤解を解くのを諦めて、俺もあんみつを食べようとする。

 ……俺、咲夜と右手繋いでいるから食いにくいな。

 

 左手でスプーンを持つのが、こんなに難しいとは。

 おぼつかない手つきで、食べようとしてたら、少女の視線がこちらに向いた。

 

「あの右手、どうかされたんですか?」

 

 ずっと咲夜と手を繋ぎっぱなしなことに不信感を持ったようだ。

 けど、魔法薬の影響で手が離せないなんて言ったら、人里の人間じゃないことを自白しているようなものだし……まあ、服装から既に人里の者じゃないことぐらい分かっているとは思うが。

 なんて言い訳をしたものかと思ったら、またまた咲夜が口を割り込ませる。

 

「ごめんなさい。この人、私と手を離したくないって」

「……おい!」

 

 めちゃくちゃ重い奴じゃねぇか。外の世界とかで見かけたらツバ吐きたくなるぞ。

 小声で咲夜の言い訳に文句をつけていたら、店員の少女は顔を赤くしていた。

 

「そ、そうなんですね」

 

 ここで引かないで、顔を赤くしているあたりこの子のピュア加減がわかる。周りの客はドン引きした表情を俺に向けているけど。

 

「はい。食べさせてあげるわね」

 

 咲夜は俺からスプーンを奪ってあんみつを掬ってくれる。

 

「あーん」

 

 完全にバカップルとして見られていることだろう。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。針のむしろに座らされてる気分。この視線気にしないとか、心臓鋼鉄かよ。

 目の前に差し出されたあんみつを前に逡巡して口を開く。

 

「……あむ」

 

 うん。美味しいんだろうけど、恥ずかしすぎて味がわからん。

 

「凄い仲良いんですね……」

 

 俺と同じくらい顔を赤くしてそうな少女がそんなことを口にする。

 ねぇ、君、いつまでいんの。そろそろ違う客のところに……、誰も呼んでないか。そこまで大きな店舗でもない。俺らと数名の客だけで、どこのテーブルにもすでに料理は運ばれているため、彼女は暇なのだろう。

 けど、俺としては見られながら食うの恥ずかしいんだけど。

 

 俺の羞恥顔が見れてか、満足そうな表情の咲夜。

 

「……咲夜は食べないのかよ」

 

 いい加減この辱めも辛い。一旦、小休憩にして欲しい。

 

「食べてるわよ?」

 

 は? いや、俺と片手繋いでいて、もう片方の手にはスプーン握っているんだから、食べることなんて……と思って咲夜の皿を見たら、みたらし団子はあと少ししかなかった。

 

「い、いつの間に……!」

 

 愕然としてしまう。

 まさか、お団子食べるのに能力を使う奴がいるなんて……! なんて能力の無駄遣い……! 

 てか、人里で能力を軽々しく使うなよ。それとも、この人里にいる人間は全員能力持ちなのか?

 幻想郷ならあり得るが確かめようがない。能力ある? なんて聞けるわけない。

 

「もしかして、食べたかった?」

「いや、そういうわけじゃないんだが……。でも、そうだな、また来ることあったら食うかな。幽々子とかアリスも好きそうだし」

 

幽々子は間違いなく甘いもの好きだし、アリスも自分でお菓子を作るぐらいだし、こういうものは好きだと思う。

俺1人で来てもいいけど、その為には給料が無いと厳しい。

 

「……そうね。あの2人なら好きじゃないかしら。ところで、貴方のあんみつ、味見してもいい?」

「え? まぁ、いいけど」

「ありがとう」

 

 咲夜がスプーンを使ってあんみつを掬う。

 結構思いっきり餡子取ったな。まぁ、別にいいけど。

 そして、そのまま食べるのかと思いきや、俺の前にスプーンを差し出す。

 

「はい。あーん」

 

 味見するんじゃ無かったのか? 

 疑問に思いつつ、前に出されたスプーンを口に含む。

 餡がいっぱいだったから、とても甘くて、おいし「んっ……」い……。

 

「んんっ!?」

 

 一瞬理解が出来なかった。

 咲夜に食べさせてもらったと思った直後、咲夜の顔が目の前にあって、唇に柔らかくて温かい感触が当たる。

 

「んっ、ちゅ、れろ……、るれろっ……」

 

 驚いて少しあいた唇の隙間から咲夜の舌が捩じ込まれ、口内の餡子を絡み取った。

 それだけに飽き足らず、咲夜の舌と俺の舌が深く絡み合わされる。

 

「えっ、ええっ!?」

 

 隣で見ていた店員の少女が驚いたように大きな声をあげて、周りの客がこちらに向くなか、咲夜のキスは深く、味わうように終わらなかった。

 

 

 

 

「ま、またのお越しをお待ちしてます……!」

 

 顔を真っ赤にした少女がそんな言葉を口にする。

 

「とっても美味しかったです。また、今度はお嬢さまのデザートを買いに寄らせていただきますね」

 

 それとは対になるように、咲夜はいつも通りの様子で微笑む。

 あれから、咲夜は「あんみつも美味しいわね」と何事もなかったように感想を述べると、残っていたみたらし団子を平らげた。

 

 俺の方は理解が出来ない展開のせいで脳がオーバーヒートを起こしたようで、咲夜の行動の意図を問い詰めることも、あんみつを楽しむことも出来ずに、咲夜に運ばれるままあんみつを食べるだけだった。

 

 店の外に出て、冬の寒さに当たることで脳がやっと落ち着いきた。

 

「悪かったな。その、色々と」

 

 他の客にも迷惑をかけたんじゃないかと思って、口にした言葉に少女は慌てて首を横に振る。

 

「いえいえ、全然! 私も大きく反応しちゃったせいで注目を集めちゃって……」

 

 あれは俺でもびっくりしたから、少女が悪いなんて流石に言えない。

 俺が申し訳なさそうな顔をしているのを見てか、少女は少し困ったようにしてから笑った。

 

「なら、お兄さんもまた来てください! それでいっぱい注文してください。常連さんが出来たら私もお父さんとお母さんに褒められるから!」

 

 太陽のような温かな笑みを浮かべる彼女。

 

「ああ。わかった。ありがとう」

 

 もう2度と来れないと思っていたが、彼女からそう言って貰えるのなら、お詫びも兼ねて、また食べに来よう。今日は緊張で味がよくわからなかったし。

 

「あ、そういえば、まだ名乗ってませんでしたね! 私、葵千晶(あおいちあき)って言います。今度とも、よろしくお願いします!」

 

 純粋で優しいを体現したような少女。

 外の世界ではあまりにも珍しいそのあり方は眩しすぎる。

 

「……良い名前だな」

 

 こうやって自分の名前をそんなに嬉しそうに告げられる彼女を羨むように、そんな言葉を溢してしまった。

 

「俺は望月ライカ。こっちこそよろしく」

「らいか……」

「珍しい名前だろ?」

 

 だって、付けたのはここの人里とは全く違う妖怪の主なのだから。別に嫌いな名前でもない。でも好きでもない。いつまで経ってもこの名前が自らのものだという実感はない。

 

「いえ、とっても綺麗な名前だと思いますよ」

「綺麗、ね……」

 

 社交辞令なんかじゃなく、心の底から言ってそうなその言葉に苦笑してしまう。

 

「私は十六夜咲夜です。よろしくね」

「はい。咲夜さんですね。よろしくお願いします!」

 

 こんな自己紹介を交わして俺たちは店から離れていく。

 俺たちが店から離れても、千晶は暫く店の前で見送ってくれていた。

 

 そして、千晶には絶対にこちらの声が聞こえなくなったあと、咲夜に対してゆっくりと口を開く。

 

「なあ、なんであんなことした?」

 

 聞かないといけないと思ったこと。それを問いかける。

 

「なんのこと?」

「そんなのわかってるだろ」

「……貴方にはわからないの?」

 

 返ってきた言葉は全然意味がわからなくて、でもふさげているような雰囲気なんて一切感じさせなくて。

 

「……なんの話だよ」

 

 ぶっきらぼうにそんなことしか言うことが出来ない。

 だって、本当に何もわからないんだから。咲夜がどうしてあんなことをしたのかも。そして、この問いの意味も。

 

「……それより、思ったより遅くなったわね。早く買い物しないとお嬢様に怒られるわ」

「ッ……!」

 

 話を無理矢理に変えられて、はぐらかされたとわかっていても、問い直すことなんて出来なかった。

 

「……ああ、そうだな」

 

 必死に取り繕って、平静を装って返事をする。

 

「荷物持ちはしてくれるのよね?」

 

 隣の彼女はいつも通りで、何も変哲もなくて、

 

「あんまり重くするなよ」

 

 こうやって意識してしまったことが間違いなんじゃないかって思ってしまうけど、だけど、

 

「折角、人手があるんだから、買い込もうかしら」

「……本当に手加減しろよ?」

 

 なぁ、咲夜……。

 

 俺が、なんの話かわからないって言った時、なんで、お前……、

 

 そんなに悲しそうな表情(かお)をしたんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に酷い嘘つきね」




Hシーンないので進みが早い。
前回から登場したオリキャラの葵千晶ちゃんです。人里の和菓子屋の娘。それ以外の設定は特になし。可愛いモブキャラAに名前をつけた感じ。出番も必要最小限に。
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