バーバラの歌声には魔力が宿っている、とはリサさんの言だ。
より詳しくは「バーバラの『人々を癒やしたい』という強い願いが、歌声に癒やしの効果を与えているのよ」だそうだ。実際に彼女のライブで歌を聴くと、ちょっとした切り傷なんかは跡形もなく消えているのだから、すごいものだと思う。
傷を癒やす歌声。強い願いを込めることで、聴いたものの肉体に作用し変化をもたらす
では、いつもは癒やしを願うそこに──別の願いが込められたら、一体どうなるだろうか。
「想い人に振り向いて欲しい」
「自分に欲情してほしい」
「自分のことを愛してほしい」
恋する乙女の切なる願いが、こもりにこもった愛の
あまりにも甘美で強烈なその威力を前にして、俺は成すすべなくやられてしまったのだと。そう思い至ったのは、全てのコトが終わって理性を取り戻したあとだった。
バーバラに誘惑されてすぐに、考える間もなく理性が消し飛んだのって……もしかしてこれが原因か?
今更になって思い出した「なにかがおかしい」違和感の正体に、どうしたものかと頭を抱える。
事ここに至ってどう取り繕おうとも、俺がバーバラを抱いた事実は変わらない。モナとエウルアという二人の恋人がありながら、みんなに愛されるモンドのアイドルを傷物にして、それで今更どんな言い訳が立つと言うのだろうか。
それに何より。
「ぐす……っ。 わたっ、私は……バーバラは、なんという過ちを……っ!」
どこか夢見心地だった事の全てが終わり、理性を取り戻して……差し込む茜色の木漏れ日の中、地面にへたり込んで泣きながら懺悔を始めてしまった彼女に、こんなこと、誰が告げられるだろうか。
「バーバラはっ、こ、恋人のある大切な友人を、卑しくもか、体で誘惑し……不貞を誘い、仲を、ひっ、引き裂、っ……ぅあぁ……!」
「バーバラ」
ちょっと待ってくれ。勝手に仲を引き裂かないでほしい。
「バルバトス様ぁ……っ。 バーバラは、許されない、づっ、罪をっおがし……」
「バーバラ! ちょっと落ち着いて」
胸の前で手を組んで、ぽろぽろと涙をこぼしてうずくまるバーバラを抱きしめる。ぎゅっと胸の中に掻き抱いて、しばらくよしよしと背中を撫でると、ややあって、少し落ち着いた様子で体重を預けてくる。
バーバラの歌声は傷を癒せる。他人だけでなく、自分の傷も。
つまりは「願いのこもった声は自身にも影響を及ぼしうる」というわけで……告白の言葉にこもった想いの、恋心の強烈な自己暗示による暴走が、今日のやけに積極的だった誘惑の正体だったのではなかろうか。情状酌量の余地はあると思う。
「大丈夫、大丈夫だから」
「ぐすっ……でも……!」
「今日こうする前に、モナに会ったんでしょ?」
「……ぅん……」
バーバラが胸の中でこくりと頷く。
「おととい、ぐす……相談、しに行ったの。 あなたの恋人のことが好きで……とっても好きで仕方がないから……だから気持ちだけ、伝えることを、どうか許してくださいって」
「その時になにか言ってなかった? 予言か、助言か」
「ぐす……ううん、なにも。 私はただ、許しがほしかっただけだったから……だから、断ったの」
「……そっか」
告白のときに口にしていた「優しい占星術師さん」は、やっぱりモナのことだったらしい。
『なんでもお見通し』の『なんでも』の範囲が広すぎる彼女に、バーバラは先に会っていて、そして俺はというと、
……なら、きっと
「バーバラ」
抱きしめた頭を優しく撫でて、囁くように名前を呼ぶ。
おそるおそる顔をあげたバーバラの、泣き腫らした目をじっと見つめる。
今日起こるだろうことの全てを知ったモナが、それでもなお何も言わなかったのなら。それはきっと、目の前の『運命』にちゃんと向き合いなさいという、俺への叱咤なのだろう。
『大切なのは、運命と向き合い背負う覚悟と、自身の決断に対する誇りです』だったか。エウルアの想いを受けとめた、その翌朝のモナの言葉を思い出す。
バーバラの告白と向き合い、未来に誇れる決断をすること。ただそれだけを考える。モナから俺へ、師弟の間で無言のメッセージが伝わる。……むしろ、ここで変に日和る方が、
「俺のこと、好きって言ってくれて、ありがとう。 嬉しかった」
「ぁ……」
バーバラは、ちゃんと言葉で俺に思いを伝えてくれた。
だから、まずはその告白に、ちゃんと応えなくちゃいけない。
「……知ってると思うけど、俺にはもう恋人がいるんだ。モナと、エウルア。大事な、二人の恋人が」
「……っ」
「だから──」
「そう……だよね。 う、ん……」
「ごめんね」と続けようとした俺の言葉を途中で遮って、バーバラがつぶやく。早合点した彼女の目からまた、大粒の涙がこぼれて落ちる。まだ話の途中なんだけど……。
「 ふ、ぅ……ぐす……本当は、わかってたん……ふむっ!?」
声を震わせながら、なんとか失恋を受け止めようとしているバーバラの唇をキスで塞ぐ。
状況に混乱した手が腕の中でぱたぱたと、小鳥の羽根のようにもがく。
「ぷぁ……♡ へ……♡ え、あれ? キ、ス 、なんで……?」
「なんでって」
「だ、って、だか、ら……これっきりに、しようとか、そういう、話じゃ……」
「ちゃんと最後まで聞いて?」
「へ、ぅ……うん……」
困惑に視線をくらくらさせながら、バーバラがぱちぱちと瞬きする。長いまつげに触れて瞬きで散る涙が、夕焼けを受けてキラキラと輝いた。
「ごめんね。 俺にはもう、大事な恋人が二人もいるし、モナとも、エウルアとも別れる気はないんだ。 いつの日か、俺の旅が終わったあとも、その先もずっと一緒にいたいと思ってる。 ……だから、バーバラに、俺を独り占めはさせてあげられないし、バーバラだけを見て、バーバラだけを愛するとか、そういう『普通の恋人』らしい幸せはきっと、あげられないよ」
それでも本当にいいんだね?と、最後の念押しをする。戻れなくなる最終確認。戻らないことを覚悟する、最初の一歩。
涙で貼りついた金糸の髪をそっとどけて、青空の瞳と目を合わせる。バーバラがかすかに頷いたのを見て、もう一度唇に触れる。潤みきった瞳の奥に灯った期待の光を受けて、ああ、そういえば、と思い至る。
そういえば、バーバラはちょっと強引にされたいんだっけ。押し倒されちゃうのを期待してた、とか言ってたし。
「ん、っ……♡」
「そのうえで、なんだけどさ」
「ぁ……」
茜の差し込む落ち葉の上、バーバラを仰向けに、望みの通りに押し倒す。
「──俺、今日のこと、一時の過ちで済ますつもりはないから」
いくら思いもしなかった誘惑があったとしても、それで「本当は手を出すつもりはなかった」だとか「これは何かの間違いだったんだ」だとか。そんな言い訳はバーバラの、恋心への一番の侮辱だ。
今日バーバラを抱いたことを、彼女にとっての初めての男になれたことを、後悔したくない。
あったかもしれない「もしもの未来」のバーバラに、大事な初めてを、取っとけばよかったな、なんて思わせたくない。
「バーバラが言ったんだからね? もう俺のものだって」
汗でしっとりと湿った胸元の素肌に手を触れる。
とく、とく、とく、とく、と、駆け足のように高鳴る鼓動を手のひらに感じて。今日の思い出を後悔に埋もれさせないために、これで合っていることを祈りながら、精一杯悪ぶってみせる。
「ほら、ちゃんと思い出して、っ」
いまだ混乱醒めやらないままのバーバラの唇を奪い、服の上から不躾に胸をまさぐる。バーバラが誰のものなのか、自分で言ったことを思い出させる。
「ん゛♡ ひゅ、む……っ♡ っあ♡ い、いっ、言った、けどぉ……♡」
「けどじゃないの。 それに……」
悲しみに暮れていた泣き声が、悦び甘える鳴き声に変わったのを確認して。押し倒されて広がったスカートをたくし上げて、秘処へと手を伸ばす。先ほど何時間かかけて耕し、たっぷりと注ぎこんだ精液が溢れ出してドロドロにぬかるんだままのそこを、指先で捏ね、搔きまわし、我が物顔で蹂躙する。
「もう、元の関係に戻るには知りすぎちゃったし」
「っ♡ あ♡ あ♡ あぁっ♡」
「バーバラとするキスの味も、おっぱいやお尻の柔らかさも……」
ズボンからペニスを取り出し、濡れた花弁にあてがう。
「ふーッ、ふーッ、
「うぁ♡ は、くぅぅっ♡♡」
ずぷぅぅっ♡と肉棒を沈み込ませて。誘われたわけでもなく、合意すらも確認しないままに、バーバラの「女」を犯し貫く。
「もう、ぜんぶ、ぜんぶ、知ってるのにっ! 友達にっ、戻れるわけ、ないだろ……っ!」
ぱじゅっ♡ぐじゅっ♡と激しい水音をたてながら、荒々しく腰を振る。強い口調でバーバラを責めながら、その裏で彼女の罪を、責任を、自分のものにしていく。
俺がバーバラに抱いているのは、恋心と呼べるほどのものじゃないけれど。
それでも、優しくて、歌が上手で、ちょっと心配になるくらい努力家で、笑った顔が魅力的なバーバラのことは、ちゃんと好きだから。
だからこれは、バーバラに誘惑されたからじゃない。俺が、バーバラのことが好きだから、抱きたいから抱いているんだぞ、と。バーバラの体に、心に、思い出の中に、俺のカタチを刻みつけていく。
バーバラは悪くないよ。責任は、俺が負うから。
「う、んっ♡ うん……っ♡ わたしっ、あなたのっ、だからぁっ♡♡」
俺の想いを知ってか知らずか、感極まったバーバラの甘い声が俺を求める。
腕を背中に、脚を腰にまわして抱き合って。唇を合わせ、熱く舌を絡め合いながら腰の動きを速めていく。ぱちゅ♡ぱぢゅっ♡と肉同士がぶつかり合う音が響き、結合部から飛沫が散った。
「んっ♡ ふぅっ♡ んむっ♡♡ ん゛ぅ~~~っ♡♡♡」
一際強く突き込んだ瞬間。背を抱く腕が、腰に絡めた脚が、熱く絡む膣壁が収縮し、バーバラの体が縮こまるようにぎゅぅっと俺を抱きしめる。
どぷぅっ♡♡♡♡びゅるるるっ♡♡♡びゅるっ♡♡びゅぐっ♡♡
強く強く抱きしめあって。互いの体の境界が分からなくなるまで深く繋がって。絶頂した膣内にどっぷりと精液を流しこむ。バーバラの一番奥を、俺の欲望でマーキングする。
「ん♡♡ こく…ん♡ ちゅむ♡ ぁ……♡」
最後の一滴を注ぎ終わるまで舌を絡め合って、二人の唇が離れる。俺の、力まかせの告白が終わる。
「バーバラ」
最後に一度、唇に。触れるだけの優しいキスをして。
「好きだよ」
罪深い俺の懺悔を受けて、可憐な少女が晴れやかに笑った。