バーバラ参戦回のエピローグ兼、各々のスタンスをあらかじめ置いておく回。
このところ、塵歌壺内の洞天には着々と施設が増えつつある。
パイモンの希望で作られた小規模な果樹園。
バーバラの希望で用意された、練習用の屋外ライブステージ。
モナの希望で新たに建設され、フィッシュル皇女殿下によって名前を授かった研究棟『星光宮殿』。
そのほかにも倉庫やら鍛冶場やら家庭菜園やら、続々と新施設が増えていく中、つい先日完成したのがこの、洞天屋敷の地下に作られたワインセラーとそれに付随するバースペースだった。
エウルアをオーナーに(勝手に)据えた、地下酒場『罪の味』。
バーカウンター、椅子とテーブル、各種酒器に果ては看板まで。身内向けの酒場としていつでも開店できる程度には設備の揃ったこの場所にて、今宵はなんとも珍しい客人がくだを巻いていた。
「はぁ……まさか、栄誉騎士があれほどの
モンドが誇る西風騎士団の代理団長。当代における最高位たる
謹厳実直で知られるジン・グンヒルドその人が今、円卓に就いてグラスを片手に深酒しているのだった。
「お、お姉ちゃん!」
「ジ〜ン〜、飲みすぎよ〜?」
「うぅ……これが飲まずにいられるものか……!」
モナ、バーバラ、リサ。円卓を囲む一同の視線を受けながら、隣りに座った妹の心配をよそに、真っ赤な顔でジンがグラスを呷る。
……まぁ、それもそのはず。
「エウルアだけならまだしも、まさかバーバラにまで手を出すなんて……」
他ならない、大切な妹・バーバラの恋模様こそが、現在ジンを深酒に走らせている原因なのだから。
◇ ◇ ◇
モンドを苛んでいた龍災に対処するにあたり、自身が栄誉騎士に任じた旅人。その動向に、ジンは常に気を配っていた。
恋人ができたらしい、と最初に報告を受けた時は、素直に祝福した。
なんなら、その恋人がどうやらモンド在住のようであったから、栄誉騎士のモンドへの滞在頻度の増加を見込めるとして歓迎したくらいだ。
続いて、エウルアをも恋人にしたとの話を受けた時も、思うところこそあったが「英雄色を好むと言うし……」と苦笑程度で流すに至った。
ローレンス家の人間という立場上、ことモンドにおいてエウルアが望める恋愛の機会が限りなく乏しいのは理解していたし、このまま良縁に恵まれなければおそらく、血筋を絶やさないためにと彼女の実家から望まぬ婚姻を強いられる可能性が極めて高いこともわかっていたからだ。
が、しかし。
実の妹まで手籠めにされたとなると、さすがに話が変わってくるのだった。
「心配かけちゃうかもだから、お姉ちゃんにはまだ内緒」で進展していた旅人とバーバラの恋人関係は、姉の鋭い観察眼によって見事に看破され、訳知り気なグンヒルド家当主にして二人の母・フレデリカ(既に交際の挨拶を済ませていたらしい)を問い詰めたことで一ヶ月と経たないうちにあっさりと露呈。
リサとバーバラの二人を連れて洞天へと事情聴取に突貫するも、生憎とバーバラに手を出した当の本人は璃月に用事があって留守。結果、審問会はお流れとなり、そのかわりに急遽開かれたのがこの飲み会なのであった。
「どうして……どうして彼なんだ、バーバラ……」
「お姉ちゃん……」
バーバラに背をさすられながら、うわ言のようにジンが零す。
法律上は制限がないとはいえ、モンドにおいても一般的なのは一夫一妻の関係だ。
愛し合う二人が支えあい、それぞれ互いだけを見つめあって人生を歩んでいく。そんな関係こそが一般的とされる幸せな交際の形であり、またジン自身が憧れる夫婦像でもあった。
──だからこそ、理解できなかった。
どうして妹が……モンドの誰しもに愛され、いくらでも相手を選ぶことができるであろうバーバラが、わざわざ恋人のいる相手を選んだのか。
なぜ、『相手にとってのただ一人の特別』ではなく『沢山いる恋人のうちの一人』になることを選んだのか。選べたのか。
「ジン。 恋愛なんて、他人があれこれ言ったところでコントロールできるものじゃないわ。 好きになっちゃうのは、それはもう仕方のないものよ」
「リサ……」
「あなたの好きな本にもあったでしょう? 恋患いはままならない。 人も場所も選ばない、って」
「そう、だが……はぁ……」
リサの言葉にすら納得を見せないジン。
「……弱音みたいになっちゃうから、ホントは言いたくなかったんだけど……あのね、お姉ちゃん」
深くため息をつくその姿に堪りかねてか、バーバラがしずしずと口を開いた。
「……私ね、アイドルになってよかったって思ってるよ。 みんなを癒やして、元気に、笑顔にできる。 アリスさんに『アイドル』って生き方を教えてもらって……きっとこれは、私の天職なんだって思うから」
「バーバラ……」
「だから、アイドルになったことに後悔はないよ。……ないんだけどね?」
バーバラがふと、心苦しそうに声を落とす。
「……みんなね、私のこと『バーバラ様』って呼ぶんだぁ」
「……」
「私は別に、そんなに偉いわけでも、凄いわけでもないのに。 ディルック様みたいなお金持ちでも、お姉ちゃんみたいに大きな責任を背負う立場でも……ましてやバルバトス様みたいな神様でもないのに。 なのにみんな、私の名前に『様』をつけるの」
寂しそうに細々と、バーバラの心の内が吐露される。
「『様』って、自分から離れた人につけるものでしょ? 能力とか、経済力とか……自分じゃかなわない人につける言葉。 遠い、遠い言葉……」
「バーバラ……」
「……たしか、アルバートだったかな。 初めて『バーバラ様』って呼ばれたとき、思ったんだ。 アイドルになったことに後悔はないけど……でもきっと、私が歌うキラキラしたラブソングみたいな恋は、もうできないんだろうなぁって。 私のこと、『バーバラ様』って呼ぶ人と、対等な恋愛なんてできないもん」
そこまで話したバーバラが、えへへと笑って暗くなった空気を払拭する。
「だからね、私は私に『様』って付けない人が好き。 お姉ちゃんとか、リサさんみたいに、私を『ただのバーバラ』のままでいさせてくれる人。 特に旅人もパイモンも、『様』なんてほとんど誰にも使わないでしょ? ディルック様にも、お姉ちゃんにも、私にも……璃月の偉い人にだって、付けてるの聞いたことないもん!」
そういうの見てたら、好きになっちゃった!と、そう言ってバーバラは照れくさそうに笑った。
「そしたらなんだか、気が付いたら自分でも不思議なくらい好きになっちゃって。 ……だから『栄誉騎士に恋人ができた』って噂を聞いたときは、『失恋した~』ってそれはもうとってもショックだったけど……でも、結局ずっと好きな気持ちは無くならなくって」
「……」
「だからいいの。 今は、これが失恋じゃないだけで。 たしかに独り占めはできないし、たまに『いいなぁ~~!』ってなったり、胸がぎゅ〜ってなることもあるけど……それでも、諦められない気持ちを抱えたまま、遠くから眺めてるしかできないよりは、ずっといいから」
「……はぁ……」
恋は盲目を体現するかのようなバーバラの言葉に、ジンが今日何度目かの溜息をつく。
コツ、コツ、と階段から聞こえてきた足音にバーバラがぱっと反応して、表情を明るくした。
「あ、それにねそれにね! 今はこういう、いっぱいいるのも悪くない気がしてるんだ! ねっ♪」
「──何の話よ」
色味の違う二種のローストチキン、キノコたっぷりのガレット、焼きナスのマリネにカプレーゼ……。
種々のおつまみを満載した大皿を両手に階段から姿を現したのは、この地下酒場の主人・エウルアだった。
「ほら、追加よ。 あーあー、随分と酔っぱらっちゃってもう……こんな有様じゃ獅牙騎士も形無しね」
「エウルア……」
「あぁ、ここの区画はピリ辛よ。 まだ熱いから気を付けなさい」
「やった♪」
「あら、随分と仲良くなったのねぇ」
好みの味付けに、バーバラが満面の笑みを浮かべる。バーバラとエウルア。『罪人』と『アイドル』の奇妙な仲の良さに、リサが目を丸くして微笑む。
「……さっきから何の話なのよ……」
「えへへ、実はね?」
当惑するエウルアをよそに、にっこり笑顔のバーバラが秘密を打ち明けた。
「今ね、エウルアさんに、ダンスを教えてもらってるんだ!」
「あ、こら、ちょっと!!」
「あらあら」
「人に言わないようにって言ったじゃない!」と、頬を赤くして語気を荒げるエウルア。
「歌は大聖堂で合唱とかやってたけど、ダンスはずっと独学だったから嬉しくって! こういう状況でもなかったら、きっと仲良くなれる機会もなかったと思うから。 だからこれはこれでアリだなぁ、って」
「ふんっ! バーバラには今一度、私の恨みを買うことの恐ろしさを認識させる必要があるみたいね!」
「えへへ♪」
「せっかく作ったけど、このピリ辛ローストチキン、食べれると思わないことね!」
「ああぁ、謝るから食べないでぇ! ゴメンなさ~~い!」
「……本当に、随分仲良くなったんだな」
.
◇ ◇ ◇
「そもそも、グンヒルドって元は祭司の家系でしょう? なんでバーバラが『舞』を継承してないのよ」
「……両親が離婚するにあたって、バーバラは『祭礼の舞』を学び始める前に教会に入ったからな。 もっとも、私もさほど舞えはしないが」
「……悪かったわよ」
「だから、エウルアが教えてやってくれ」
「ふん。 今のままじゃ見てられないもの。 基礎くらいは仕込んでやるわよ」
「……ふふ、いい先生みたいねぇ」
「でしょ? えへへ……♪」
「聞こえてるわよ! まったく……この恨み、覚えておくわ!」
◇ ◇ ◇
「──それで、エウルアはどうなんだ」
「……なによ、戻って早々酔っ払いの相手?」
毒気を抜かれたジンが、次はエウルアへと水を向ける。
「エウルアに、
「ん? 思わないわけないじゃない」
カプレーゼをフォークに刺しながら、何を当たり前のことを、とエウルアが返す。
「なに、愚痴でも引き出したいの?」
「そういうわけではないが……」
「まぁ、『罪人の
「そ、そんな言い方……!」
「あら、手を出したのはバーバラからって話よ? 『恨み』の矛先がどっちを向くかなんて、わかりきった話じゃない」
「うぅ……」
エウルアの言葉を受けて、もぐもぐとピリ辛チキンを咀嚼しながらバーバラが居心地悪そうに小さくなる。
「いや、しかしだな……それなら断って、自分のほうだけを見て欲しいと思うのが恋人というものではないのか!?」
「はぁ……あのねぇ、それを言ったら自縄自縛じゃないの!」
「んふふ、そうですよねぇ」
「ちょっと! モナはなに笑ってるのよ! 散々人のこと炊きつけておいて!」
「その割には告白するまで五日もかかってましたけど。 毎晩あんなに作戦会議だってしたのに……本当に炊きつけられてましたぁ?」
「ぅ、うるさいわね! まったく……この恨み、覚えておくんだから!」
ニヤニヤとモナに揶揄われて、今度はエウルアが居心地悪そうに捨て台詞を吐く。
「と、とにかく! 私だってモナの男に手を出した『罪人』の側なんだから、思うところはあっても言いたいことは別にないわよ!」
「そう……なのか……」
ふん、と鼻を鳴らして、エウルアがグラスを傾ける。
「ま、あの旅人のことだもの。 どうせ私達以外にも、そこらじゅうで『恨み』を買って回ってるに違いないわ。 モンドだけでもう三人いるのよ? この先あと何人増えることやら……お互い難儀な男に惚れたものねって、同情くらいはしてあげる」
「あ、あと何人って……エウルアは本当にそれで構わないのか……?」
「別に、今後また恋人が何十人増えようが知ったことじゃないわ。 私の心は変わらない」
ふん、と息をついて、エウルアは不敵に笑った。
「『絶対に逃がさない』……知っているでしょう? 『ローレンス』は執念深いのよ。 この先千年だって
◇ ◇ ◇
「だいたいねぇ! あんなの知っちゃったら、いまさら他の男で妥協なんてできないわよ! 人の気も知らないで、まったく……いくら恨んでも恨み足りないわ!」
「……エウルアもエウルアで、随分と入れ込んでいるのはわかった」
「ふふ、ああ見えて可愛い子ちゃんも罪な男なのねぇ」
「……『罪』繋がりでお揃い、ちょっと嬉しそうですね」
「ぅ、うるさいわね!」
◇ ◇ ◇
バーバラとエウルア。二人のそれぞれの胸の内を聞いて。
「……モナ殿は……」
「おや、ようやく私の番ですか?」
酔いも回りきり、ようやくある程度
過日のエウルアの一件の『捜査協力者』という立場として、二人には面識がある。
が、ジンはどうにもこの不思議な占星術師のことを、いまだに計りかねていた。
圧倒的な占星術の腕前。
天体学、星象学だけでなく、地質学、気象学、元素学から果ては錬金術に至るまで。かつてスメール教令院に留学したリサの目をして、「あれで本当に明論派なのかしら?」とまで言わしめる、深い教養とその網羅性。
まごうことなき不世出の天才。あのアリスさんの友人の弟子であるとのことだし、ここまでならまだわかる。
が、日常における彼女の生活は……正直に言って、とてもその才知にふさわしいと言えるものではなかったのだ。
収入源は占星術師としての仕事ではなく、フォンテーヌの新聞社のコラムニストと冒険者稼業。城下で彼女が不定期に出店する占い屋台は、一切の報酬を受け取らないとのことで、それでいて、本人はたまに経済的に困窮しているらしいというのだから、まったく訳が分からない。
日銭を稼ぐ『仕事』というわけでも、余裕ある者の『道楽』というわけでもない。一度「栄誉騎士やアルベドのように、モンドの『主席占星術師』の席を用意しようか」と話を振ったら、「ありがたいお話ですが、私の占星術は特定の国家に帰属させるべきものでもありませんので」と断られてしまった。
挙句、此度のエウルアとバーバラの件だ。
アストローギスト・モナ・メギストス。捉えどころのない、不思議で底知れない占星術師。栄誉騎士を射止めた『最初の恋人』。ジンは彼女が何を考えているのか、未だに掴みかねていた。
「モナ殿には、その……嫉妬心とかはないのか?」
「何を聞くかと思えば……当然ありますよ? 私だってやきもちくらい妬きます」
「ならなぜ……独占しようとしなかったんだ?」
「しなかった、というより、できなかったが正しいです」
「……?」
「そういう『運命』でしたから」
モナの言葉の真意を捉えかね、ジンが眉根を寄せる。
「『運命』とは変えることのできないもの。 抗いようのない命の流れそのものです。 私たち占星術師は、『運命』に異を唱えることなどありません。 それがたとえ、『自らの死』のような、受け入れがたいものであったとしても」
「……貴女ほど覚悟が決まっているのも珍しいと思うけれど。 スメール教令院でもそうはいないんじゃないかしら」
「それは心構えがなっていないだけでは? それに『天文学者』と『占星術師』は違いますし」
「テイワットいちの学術院も、『B』の弟子の前じゃ形無しねぇ」
「まぁ、おばばはそういうところ、やたらと厳しかったですからねぇ……」
リサの言葉に、モナは師を懐かしむようにグラスを傾ける。
「まぁとはいえ、なにもそれだけが理由ってわけでもありません。というか、『運命』を受け入れる後付けの理由なんて、探そうと思えばいくらでも出てくるんです」
「……というと?」
「そうですねぇ、一番わかりやすいところで言うなら、まずはやっぱり争いの抑止あたりでしょうか」
「争い……」
モナの剣呑な言葉を、酔った頭でどうにか噛み砕こうとするジン。「でしょうね」とでも言いたげな顔になるリサ。そっと目を逸らすエウルアとバーバラ。
「さっきエウルアも言ってましたが、旅の先々でトラブルに巻き込まれては片っ端からなぎ倒していくあの人のことですから。 どうせ私達以外にもモテてます」
「身も蓋もないわねぇ」
「事実モンドだけでもうこの有様なんですからどうしようもありません。 知ってます? テイワットにはあと六つも国があるんですよ?」
「このままいくと、可愛い子ちゃんの奥さんは単純計算で二十人を超えるわねぇ」
「……いや、それでも普通は、既に恋人がいる中に割って入ろうなんて思わないんじゃないか?」
「普通ならそうでしょうが……例えば『神の目』、すなわち『神の視線を集める程に、何かを強く願うことができる』その証を持つ人間が、はたして自分よりも先に恋人がいるくらいで恋路を諦められるほど、物分かりがいいものでしょうか?」
「……それは……」
「私は嫌ですよ? 一人の男を巡って、血で血を洗う略奪愛憎劇だなんて。 そんなことで気を揉むくらいなら、最初からいくらか譲歩して、その分の時間でいちゃいちゃしてたいです。 やきもち妬いたらそれはそれ、その時は私も甘えればいいんですし」
気まずそうに沈黙する、
「ふふ、それに私が独占欲のままに
「……なんというか、寛容ねぇ」
「ふふん、私が寛大な
「……あらためて勝ち誇られると腹立つわね」
「なのでまぁ、
ふん!と鼻を鳴らすエウルアにくすりと笑って、「理由ならまだまだありますよ」とモナが続ける。
「もちろん打算だってあります。 ……彼はこの世界の人間じゃありませんから。 旅の目的を終えたあと、それでもなお
「……彼はそんな、旅が終わったからと恋人を……妻を捨てるような人間には思えないが」
「もちろん、私も思ってませんが……彼の『運命』は見通せませんから。 有事の際に頼れる味方も多いほうがいいですし、念のための保険です。 ……探しているという妹さんとも、どうやら今後ひと悶着ありそうですから」
「……?」
「この前『再会したらアビスだった』ってぐずってました」
「な、っ!? アビス!? その話詳しく……」
「詳しくもなにも、事のあらましを聞いたところで『詳細不明』としか言えませんよ?」
「っ……モナ殿が言うなら、そうなのだろうが……」
「まぁ、神像?の件だかでそのうち騎士団にも報告書をあげるって言ってましたし、それを待っててください」
「そう、か……」
突然飛び出てきた物騒な単語に騒然としかけた席を見渡して、モナは「口を滑らせすぎましたか」と苦い顔。
「そ、それにほら、将来子供ができたときに、子育てを分業できる身内は多いほうがいいと言うじゃないですか」
「急に現実的な話ねぇ」
「今までだって現実的ですよ!? えっと、それから──」
暗い空気を払拭しようと、わざとらしく饒舌になったモナの姿に場が緩む。
あたふたと『理由』を口にするモナを見やって、『
「色々と挙げてはいるけど……私が同じ質問したときの答えは、まだ出さないの?」
「うぐ……っ!」
エウルアの一言で、モナが言葉を詰まらせる。
「……モナ殿?」
「あ、あれは……こんな、何人もいる前では……」
「そう? さっきまでの取ってつけたような理由より、モナらしくて私は好きだけど」
「あらあら、なにかしら。わたくしも気になるわ~?」
「うぅ~~………っ」
復讐と好奇の視線を受けて、モナがもじもじと下を向く。
じっと続きを促す沈黙に耐えかねて、やがて観念したモナはグラスの蜂蜜酒で唇を湿らせると、細々と口を開いた。
「べつに、特別なことじゃありませんよ。 ……好きな人が、大切に思うものなら……私だって、大事にしてあげたいじゃないですか」
「──愛する人が、心から、本気で願うんです。 なら、全部叶えてあげたいじゃないですか」
夜空があまねく星々を抱くような、限りない愛を口にして。『運命』を告げる少女は、「それだけのことです」と気恥ずかしそうに唇をとがらせ、ぷいとそっぽを向いた。
◇ ◇ ◇
「わぁ……」
「愛ねぇ……」
「ほ、本人には言わないでくださいね! うぅぅ、顔あっつい……。 この恨み、覚えておきますからね!」
「あら、恨まれる側は新鮮ね。 ふふっ、悪くないわ」
「……ね、今の、次の新曲の参考にさせてもらってもいい?」
「ダメですからね!?」
◇ ◇ ◇
「それで、納得できましたか?」
火照った顔をどうにか冷ましたモナが、今夜の女子会の意義をジンに問う。
通常、一人の人間に複数の異性が好意を寄せるといった形の交際関係は、歪になりがちだという。
同じ異性に愛情を向けるにあたって、どうしても生まれてしまう嫉妬心や独占欲。通常の、一対一の恋愛では時に関係を深めるスパイスともなるそれらが、一対多数の交際では関係性に軋轢を生み、トラブルの火種として常に燻り続けることになる。
あのやんちゃな
……だが。
ほんのひと月前まではバーバラと大した面識もなかったはずなのに、今では好みの味付けまで覚えて、更にはダンスの先生にすらなっているというエウルア。
底なしの愛情を口にして、実際にエウルアとバーバラの、告白の手助けをすらしたというモナ。
こうして二人と話して、酒杯を酌み交わしてみて思う。
二人とも、バーバラを邪険にする様子はないし、バーバラの笑顔にも曇りはない。一人の男を巡っての、隔意やこじれといった感情も、これといって感じない。
そして、今は不在の栄誉騎士当人はといえば……あの通りの性格だ。悪いほうに転ぶようには、中々思い難い気もする。
「……まぁ、三人とも納得ずくだというのは、わかった」
不思議と円満に収まっている現状を目の当たりにして。
心配が完全に解消されたと言えば嘘になるが……それでも、ジンも「もう少し経過を見てから判断してもいいだろう」くらいの気にはなったのだった。
「……心配、し過ぎだったのかもしれないな」
過保護だったか、と自嘲するように呟いたジンが、グラスの中身を飲み干してバーバラを見やる。
「じゃあ改めて。 ──恋人、おめでとう。 バーバラ」
「!! ありがとう、お姉ちゃんっ!」
敬愛する姉からの祝福の言葉を受け取って、妹が感激もあらわにハグをする。
こうして五人が囲んだ円卓の上は、査問会から祝賀会へと姿を変えたのだった。
◇ ◇ ◇
「ふふ、じゃあここからはお祝いの席ね。 こんなこともあろうかと、お姉さん、とっておきのを用意してあるのよ? ほら」
「……それは」
「古い蒲公英酒……もしかして」
「ええ、『噂の』二十二年モノよ♪ うふふ、バーバラの初めての恋人だもの。 味も気になってたし、お祝いに買っちゃったの」
「ぇ、あ、グラス……!」
「ふふ、バーバラもモンド人だもの。 そろそろお酒の味を知っておいてもいい頃よ」
「……ああ、そうだな。 最初は皆こうやって、大人がいる中で飲んで慣れていくものだ」
「グラス、貸しなさい。 冷やしてあげる。 そのほうが美味しいのよ、蒲公英酒は」
円卓に、グラスを合わせる音が響く。各々の愛を酔いに溶かして、五人の夜は更けていった。
Tips 弊ワットお酒の強さランキング
モナ(そもそも酔ってるように見えない。ザル)≒バーバラ(酔いはするけど上限がやたら高くて潰れない。楽しそうにゆらゆら揺れてる。蟒蛇)>>ジン(モンド人の純血を受け継ぐだけあってなかなか強い)>リサ(モンド人平均くらい。テイワット基準だとちょい強め)>エウルア(お酒は好きだけどそこまで強くはない。テイワット基準だと中の下くらい)>旅人(お酒のことまだ全然わかってないしまだまだ弱い。レベリングの必要あり)>>パイモン(ちょっと飲むだけですぐ眠くなる。かわいい)>マル(下戸)