※この作品はR-18です。

七国漫遊紀行   作:うさみの

2 / 20
一年目 三月中旬 風花祭期間中


師弟の絆 (モナ)

 星が眠り、にわかに明るくなった早朝のモンド城。

 街が起きだす前の静寂を壁越しに感じながら、台所で薪の燃える音に耳を傾ける。

 弱火で熱したフライパンに生地を流し、ゆっくりとふくらんでいくさまを見守る。

 

「パイモン、お皿出しといて」

「わかった!」

 

 頃合いをみてフライパンをしゃくるように振ると、きつね色に焼けたパンケーキが宙を舞い、反転してフライパンの上に着地した。

 

「うへへ、いい色だぁ…」

「トッピングはどうする?」

「ラズベリージャムと生クリーム!」

「了解」

 

 そのまま両面を焼きあげクリームとジャムを乗せてパイモンに渡すと、満面の笑顔でテーブルへとすっ飛んでいく。

 専用のカトラリーでパンケーキを切り分け頬張る小さな相棒の姿に、自然と頬が緩んだ。

 

「相変わらずよく食うなぁ」

「へへ…『午後のパンケーキ』を朝に食べる贅沢、たまらないなぁ…」

「贅沢なの? それ」

 

 パイモンの頭よりも一回り以上大きなパンケーキが、みるみるうちに胃袋にしまわれていく。

 本当、あの小さな体のどこにそんなに入るんだろう。

 

「おかわりはいる?」

「次はリンゴジャム!」

 

 まだ胃袋には余裕があるらしい。

 フライパンに油を塗って、再び生地を焼き始めた頃になってようやく、部屋の主が起きだしてきた。

 

「……んぅ……朝……」

「おはよう、モナ」

 

 寝ぼけまなこをこすりながら、モナがむくりとベッドで身を起こす。

 毛布がぱさりと落ちて、裸の胸があらわになった。

 

「やっと起きたな、ねぼすけ占星術師」

「ふわぁ……っふ。 うるさいですパイモン。 苦情はなかなか寝かせてくれなかった台所(そこ)の人に言ってください」

 

 解かれた長い黒髪を揺らして、あくびまじりにぐぐーっと伸びをするモナ。重力に逆らってつんと上を向く美乳が眩しい。

 胸元に点々と残るキスマークと乱れに乱れたベッドシーツが、昨夜の情交の激しさを思い出させる。

 昨日もあの体を好き放題乱れさせたんだなぁ、と暗い愉悦が心をくすぐった。

 

「毎回毎回、どれだけしても満足しないんですから、もう…」

「…昨日は何回したんだ?」

「夜だけで4回、でしたか」

 

 もぞもぞとベッドの端に脱ぎ捨てられていた部屋着のチュニックワンピースを着るモナ。

 彼女の言う『運命の日』から一ヶ月とすこし。

 あの晩のパイモンには事前に根回し済みだったらしく、俺とモナの関係はあけすけなものとなっていた。

 

「…5回」

「そうでしたっけ?」

「いやダウンしたモナの体拭いてたら、無防備な寝姿にムラっときて」

「…ちょっと絶倫すぎないか?」

 

 パイモンの呆れ声が胸に刺さる。

 だって濡れタオルで残滓を拭っていたら、寝息をたててされるがままになっているモナの姿にちんちんイライラしちゃったんだからしょうがない。

 占星術の天才と名高い美少女を、意識がないままに自慰の道具として扱うかのような身勝手な射精の背徳は、正直すごく興奮した。

 

「どうなんだろう。 テイワットでの一般的な夜の事情知らないしなぁ」

「それだけやって翌朝平然とパンケーキ焼いてるのはたぶん普通じゃないぞ…」

「そうです。 あれでなんで早起きできるのかわかりません。 弟子はもうちょっと師匠に優しくするべきでは?」

「だからいっぱい気持ちよくしてるでしょ師匠」

「体力的に労われってことです!」

 

 二人からの糾弾がきびしい。

 フライパンを振ってぽーんとパンケーキをひっくり返す。

 

「それで、モナはトッピング何にする?」

「露骨に話題逸らしましたね。 …何があるんです?」

「生クリームと、ジャムはリンゴ、ラズベリー、ググプラム、夕暮れの実」

「うーん、生クリームにラズベリーと夕暮れの実で」

「はーい」

 

 竈にフライパンを置いて、皿とジャムの用意をする。

 ちらとパイモンを見れば、既にパンケーキの半分が胃の中に消えていた。

 こっちもこっちで健啖ぶりが普通じゃない。人のこと言えないじゃないかパイモンも。

 

「それにしても、朝からよく食べますねぇパイモン」

「おかわりも食べるらしいよ」

「まだ食べるんですか!? 今日は大食い大会に出るとか言ってませんでしたっけ?」

「むぐ! そ、そうだった…」

 

 愛と自由の祝祭、風花(ウィンドブルーム)祭。

 モンド城は今、セレモニーで賑わう期間なのだった。

 風花祭が始まって五日目になる今日は、『鹿狩り』で商店街主催の大食い大会が開催されるとのこと。これを見逃すパイモンではなかった。

 

「どうする? おかわり」

「うぅ……小さめで…」

「それでも食べるんですね」

「だってリンゴジャムも捨てがたいんだ!」

 

 葛藤するパイモンの唸り声とモナの呆れ声に笑いをこらえながら、焼きあがったパンケーキを皿に移す。

 クリームの山を中央に、二種類のジャムをハーフ&ハーフで盛り付けてテーブルを振り向くと、そわそわしたモナと目があった。

 

「ほら、モナのぶん」

「ありがとうございます」

「なぁなぁ、夕暮れの実のやつ一口くれよぉ」

「あとでリンゴジャムのと交換ならいいでしょう」

「へへっ、さんきゅー!」

 

 家族のような団欒に、胸が温かくなる。

 妹を失った心の穴が、二人の声に癒されていくのを感じながら、俺は再びフライパンに生地を注いだ。

 こうして三人分の賑やかさに包まれながら、モナとの一時的な同棲生活の朝は過ぎていくのだった。

 

 

       ◇ ◇ ◇

 

 

 愛と自由を謳う風花(ウィンドブルーム)祭には、「愛を得るためには、何事も自分でやる必要がある」という独特な風習がある。

 飲んだくれが多いモンドにあって自主性を貴(たっと)ぶ祭りとは、風神もたまにはいいことしてるな、くらいに最初は思っていたのだが、実際に風花祭を迎えてみると一つの問題に直面した。

 

 仕事が、ない。

 モンドの人々が何事も自分で行おうとするせいで、冒険者協会にすら依頼がないのだ。

 突然の事態にあわや失業の危機かと震えるパイモンだったが、俺達は仕事を求めるなら璃月にでも行けばいいし、別に問題はなかった。

 

 問題は、モナのほうだった。

 執筆業が収入の多くを占めるとはいえ、彼女はそれだけで研究費と生活費を稼いでいるわけではない。

 冒険者としての報酬もまた、彼女にとって重要な資金源だった。

 風花祭のセレモニーは二週間続く。

 その間それが絶たれればどうなるか…答えは明白だった。

 

 そんなわけで、ちょっと目を離すとすぐ干乾びる残念師匠の生活を救うべく、急遽食費全部俺持ちの同棲生活が始まったのが五日前のこと。

 もっとも、同棲していなくともモンド滞在中は頻繁に様子を見ては餌付けしていたのだが。

 

「…私、こんなに幸せでいいんでしょうか?」

「どうしたの急に」

 

 飢える前に間に合ったおかげで、本人は暢気なものだ。

 台所で、朝食に使った食器を洗い終わったモナがしみじみと呟く。

 パイモンは「大会に向けて腹ごなししてくる!」とどこかへ行ってしまった。

 

「最近飢えていません。 何もしていないのに、美味しい食事が出てきます…」

「幸せの水準が低すぎる」

 

 そもそもそう頻繁に飢えないでくれませんかね。旅先で心配させないで欲しい。

 

「このところ原稿の進みもいいですし」

「それは普段から栄養が足りてなかっただけでは?」

「…やっぱりそう思います?」

 

 そりゃ腹減ってたら仕事もはかどらないでしょうよ。

 

「研究費と食費の比率をもう少し見直した方が効率上がると思う、っていつも言ってるでしょ」

「最近ようやく理解してきたところです…」

 

 モナにはせめて寝食をしっかり取れる程度の文明的な生活を送ってほしいものである。

 

「それに、その…」

「それに?」

 

 俯き加減なモナの手が、きゅっと服の裾を摘まむ。

 

「最近、たくさん会えますし」

 

 照れでほんのりと色づいた頬がいじらしい。

 普段の高慢ともとれる態度と、最近俺にだけ見せるようになった妙に素直で可愛らしい態度のギャップが心を揺さぶる。

 上目遣いではにかむモナの背中を抱き寄せて軽く口付ける。

 

「ここ一ヶ月ずっと、二日に一度は会ってたでしょ」

「…? ……ああ、そういえば話してませんでしたか」

 

 俺の言葉に不思議そうな表情をしたモナは、ややあって得心したように表情を変える。

 服の裾を摘まんだまま俺をぐいぐいと引っ張っていくと、ベッドの横に腰かけて横をぽんぽんと叩いた。

 

「少し、昔話をしましょうか」

「昔話?」

「ええ、昔話です」

 

 促す彼女の横に腰を下ろす。

 ベッドに置いた俺の手に、モナの手が重ねられた。

 

「今や師匠(オババ)をも超えたと言っても過言ではない私にも、未熟な時代がありました。 …なんですかその目は」

「そんな年寄りみたいな…」

「いきなり失礼すぎませんか。 …まあいいです」

 

 手の甲を軽くつねられる。

 

「もう何年前になりますか。 私がまだ占星術師として半人前だった頃、好奇心から一度だけ、私欲で占星術における禁忌に触れたことがあります」

「占星術の禁忌って…自分を占うってやつ?」

「そうです。 やむを得ない場合でもできれば避けたほうがいい、占星術の禁忌。 乱用すれば運命の矛盾を招くばかりか、星空に見放されて占星術自体を失うことになりかねない、と師匠(オババ)にこっぴどく叱られました」

 

 よくできました、とでも言うようにモナの手が手の甲を撫ぜる。

 

「師匠(オババ)曰く、当時の未熟さゆえにたいした占い結果が出なかったのが幸いしたとのことです。 禁忌の代償は丸一日のお説教だけで済みました」

 

 肩にしなだれかかって、体重を預けてくるモナ。

 禁忌を犯したという割に、彼女はどこか懐かしそうに微笑みながら言葉を続けた。

 

「わかったことはたった二つ。 …名前と、そしてその人が、この世界の人間ではないこと」

 

 モナが甘えるように肩に頬を擦り寄せてくる。

 

「未熟な私が占えた『初恋の相手』の運命は、それだけ。 …私だって、恋に恋したこともあったんですよ」

 

 ちらりとモナを窺うと、微笑んだ彼女に「えい」とベッドに押し倒された。

 モナとベッドの両側から、ここ一月で嗅ぎ慣れた甘い香りに挟まれる。

 

「ずっと、ずっとあなたを待っていたんです。 どんな人だろうって、何年も前から」

「…だから『最近』って?」

「ふふ、最初に会った時に言ったじゃないですか。 待ちくたびれました、って」

 

 俺の上に重なりあったまま、モナはくすりと笑った。

 璃月港の近くでの、モナとの最初の出会いを思い出す。

 

「あれってそんな前から待ってたってことだったの?」

「ずっと、いつ会えるんだろうって、楽しみにしてたんですよ。 かつての未熟な私では、出会いの時期や場所までは占えませんでしたから。 んっ…♡」

 

 馬乗りになったモナに唇を奪われる。生クリームとベリーの甘い香り。

 

「優しくて、頼りになって、占星術に理解もある。会ってみれば初恋にも納得のいく理想の相手でした。 …私だってわかってます。 占星術を使えばお金(モラ)に困ることなんてない。 研究にだってもっとお金を回せるって」

 

 モナは占星術でモラを稼ぐことをしない。

 彼女の卓越した占星術ならば、その気になれば璃月の大商会に匹敵するほどの富を得ることだってできるだろう。

 だが、その黄金にも勝る技術で誰かを導き、助けた後の彼女は、決して謝礼を受け取ろうとはしない。

 

 付近の人々を昏睡させる謎の隕石がモンドと璃月を騒がせた『帰らぬ熄星(そくせい)事件』。

 モナの占星術なくして早期解決は不可能だったと断言できるほどの活躍をしてみせたあの事件の後ですら、モナは断固として報酬を受け取ろうとはしなかった。

 

「バカみたいだなって、思うでしょう。 実際何度もそう言われてきました」

 

 「私の『水占の術』は、決して小銭を稼ぐための技術ではないのです」「私があなたに運命を示したのは、断じてモラなどのためではありません」と、謝礼を差し出そうとする依頼人に、彼女は決まってそう言って断る。

 それでも引き下がらない依頼人に対して、怒っていた時すらあった。

 

 自分のためでなく。特定の誰かのためでなく。ただ全ての運命に惑う人々のために。

 

 たとえそれで自身の生活が困窮しようとも在り方を曲げない、偉大で誇り高い少女。

 そんな彼女に好意を寄せられるのは、いっそ誇らしくすらあった。

 

「でも、あなたはそんな私でも否定しない。 お腹をすかせていれば何も言わずに食事を作ってくれますよね」

 

 モナの手が、優しく頬を包む。

 

「「またか」みたいな呆れ顔で料理を作るあなたの横顔を見るたび、思うんです。 あなたを好きになることができて、よかったなぁって」

「モナ…」

「初恋だけじゃない。 私の『運命の相手』があなたでよかった、って」

 

 鼻の先が触れ合う至近距離で、モナの澄んだ瞳が俺の目をじっと見つめる。

 今日はまだ括られていない彼女の長い髪がカーテンのように視界をさえぎって、互いの顔しか目に映らない。

 

「誇っていいですよ。 私にこんなにも愛される『弟子』は、未来にだって他にいないんですから」

「そこは『恋人』って言ってくれないかなぁ…」

「私はあなたの『恋人』よりも『師匠』でいたいんです。 不満ですか?」

 

 頑として『師匠』を譲らないモナ。

 なにか特別な理由でもあるんだろうか。というか、兼任できないの?その二つ。

 

「なにかこだわりでもあるの?」

「こだわり…まぁ、そんな感じです。 知りたいですか?」

「そりゃ知りたいよ」

 

 モナはもったいぶるように微笑む。

 

「じゃあ、今夜一緒に星拾いの崖で星を見ましょう。 占いによれば今日は天気もいいですし」

「…デートのお誘い?」

「デートのお誘いです。 そこでなら、教えてあげてもいいですよ」

「じゃあ楽しみにしとく」

「ふふ、私も楽しみです。 …ちゅ♡」

 

 甘えるようなキス。唇をぺろっと軽く舐められ、甘噛みされる。

 唇を食まれるのは、「シてほしい」時の合図だ。この一ヶ月で彼女のこともだいぶわかってきた。

 

 あの日以来、俺もモナも昼夜問わずに盛りあいがちだ。

 普段からボディラインを見せびらかすような服装のモナにセクハラじみたボディタッチをしてみたり、執筆中の気分転換に膝枕をねだられたり。そうしてムラっときたら、どちらからともなく互いを求め始める。

 同棲をはじめてからというもの、それはさらに顕著になった。

 いくら愛の祭り期間中とはいえ朝からこれじゃマズい気がしなくもないが、俺もモナも互いを止められるだけの理性を持ち合わせていなかった。

 

「…っふ…原稿は大丈夫なの?」

「んむっ♡ …ちゅ♡ さっき筆の進みもいいって言ったじゃないですか」

「?」

「昨日のうちに終わってますよ。 だから今日は、ね♡」

 

 原稿に追われ生活に追われで毎日忙しそうにしていたモナの姿はもうここにはない。

 おそらくは、これが彼女本来のポテンシャルなのだろう。生活面の充実は、モナの才気を一層輝かせる結果をもたらしていた。

 …本気でパトロンめいた資金援助を考える必要があるかもしれない。旅先で心配しないで済むためにも、将来の子供のためにも。

 

「む、師匠の口付けを無視して考え事ですか?」

 

 咎めるように、かぷっと首筋に軽く歯をたてられる。

 

「…いや、一ヶ月前と今とで仕事量変わりすぎじゃないかって思って」

「今はモチベーションが違いますから。 あなたのせいですよ? ちぅ…」

 

 噛み跡を舌で舐めあげ、唇で吸いついてくる。

 

「ぢゅ……っ」

「跡ついた?」

「うっすらと…うーん、なかなか付かないですねキスマーク」

「モナはすぐに付くのにね」

「付けすぎなんですよあなたは。 ん、ちゅうぅ……っは。 あ、いい感じ…♡」

 

 キスマークの付きやすさには、どうやら俺とモナでかなりの個人差があるらしい。

 事あるごとに「いつもの仕返し」と称して俺の肌に跡を残そうとして苦戦しているモナが微笑ましい。

 

「あなたもたまにはキスマークを晒して外を歩く恥ずかしさを知るべきです」

「いや俺は別に…というか、これ一緒にいたらモナが付けたってバレバレだよね。 そっちは恥ずかしくないの?」

「う゛…い、いいんです! …っあ♡」

 

 実った果実に触れるように、下からモナの胸を撫でる。キスマークの上を甘い吐息が撫でた。

 部屋着のチュニックの生地は普段の服のそれよりも薄くて、それゆえに素肌同士の触れ合いでないことがじれったく思える。

 

「…っ♡ んっ…♡ ……っあっ♡」

 

 太腿のあたりまで手を伸ばして、肌を撫でながら服を裾からゆっくりとまくり上げ脱がせていく。

 指先で焦らすように肌を撫で上げているだけでモナは敏感に体をくねらせ、まくり上げる手が胸に達する頃には既に乳首がぴんと硬くなっていた。

 指先で乳首を摘まむようにしごくとびくんっ♡とモナの背が丸まり、まくり上げた服の塊が首元に落ちた。

 もぞもぞと服の塊から首を抜き腕を抜き、ぽいっとベッド脇に放るモナ。

 首を振るとばさっと長い黒髪が広がった。普段のツインテールよりも、いささか大人びた印象を受けるのはなぜだろうか。

 

「ほら、あなたも脱いでください」

「ちょちょ、わかったって」

 

 言うが早いか俺の服を掴んでぐいぐいと剥ぎ取りにかかってくる。

 一度立って服を脱ぎ全裸になると、いきり立った逸物が持ち上がってぺちりと腹を叩いた。

 

「はいここ座って」

 

 促されるままにベッドの横に座る。

 

「う…♡ 」

 

 モナが俺の腿をまたぐように対面座位の体勢になって、そのまま膣口が亀頭を咥えこむ。

 

「ふ…ぐぅ♡ っあ♡ …ふぅ♡ 」

 

 ろくに前戯もしていないせいでまだ硬い秘所は、それでも十分すぎるほどの潤みを帯びていて、めりめりっと俺のペニスを飲み込んでいく。

 硬い膣壁を亀頭が半ば無理やりかき分けていく強い刺激に、腰が跳ねそうになる。

 こつん♡と鈴口が奥を叩くと、人心地ついたようにモナが溜息をこぼした。

 

「強引だなぁ」

「仕方ないじゃないですか。 うまく付けられたキスマーク見てたらなんかこう、すぐに欲しくなっちゃったんです」

「痛くないの?」

「んっ♡ 十分濡らしたので大丈夫です。 たまには『神の目』も役に立ちますね」

 

 こいつ『神の目』で水元素操って強引に滑りよくしたな…!

 

「…使い方それでいいの?」

「アクセサリー以外の使い道ができてよかったです」

「『神の目』を欲しがる人達全てを敵に回す発言…!」

 

 あまりにしょうもない、神をも恐れぬ使い道に戦慄する俺を尻目に、腕を首にまわしてゆっくりと腰を揺すりはじめるモナ。

 

「ふっ♡ ふっ♡ っう゛♡ うっ♡」

 

 亀頭を奥に押し当てるように、ぐりぐりと腰が円を描く。

 瞬く間に硬かった膣肉がほぐれ、湧き出した愛液がくちっ♡ぬちっ♡と水音を響かせる。

 

「んっ♡ んっ♡ ふっ♡ ちゅ♡ んむ♡」

 

 首にまわされた腕が俺を引き寄せ、唇が体ごと密着する。

 モナの薄い腹が密着し、形のいい胸が俺の肩あたりで潰れ、動きに合わせて乳首が擦れる。

 上から覆いかぶさるように口付けられ、絡む舌を伝って唾液が流れ込む。

 こくりと喉を鳴らすと、モナの口から喜色を含んだ吐息がこぼれた。

 

「ん~♡ っは♡ はーっ♡ すき♡ すきです♡ はんっ♡ ちゅむ♡ れる♡」

 

 夢中で舌を絡め合い、息継ぎに愛を囁き、また唇が塞がる。

 子宮口への刺激できゅっ♡きゅう♡と不規則に締まる膣肉に、ペニスがぐちゅぐちゅと咀嚼される。

 上も下もモナで包まれて、まるで捕食されているみたいだ。

 

「ぷぁ♡ はぁっ♡ …んふ♡ そろそろ出そうですね♡」

 

 どろどろの淫肉に舐られるペニスが硬さを増し、快感に腰が震える。

 射精の予兆を捉えたモナが、嬉しそうに腰の動きを激しくする。

 

「いいですよ♡ あなた専用の師匠おまんこに、今日もたくさんっ♡」

 

 先ほどまでのグラインドに、上下運動が加わる。

 たんっ♡たんっ♡と肉の跳ねる感触が腰に響く。

 

「っく…出すよ…っ」

「っ♡ あ…♡♡」

 

 射精感をギリギリでこらえて、両腕でモナの背中と腰をがしっと掴む。

 耳元であがったか細い悲鳴にも似た喘ぎは、今までの愛し合う恋人の甘い声とはまた違った熱を宿していた。

 それは一瞬先の未来に自らを襲う絶頂への、被虐快楽への期待が宿った雌の声。

 

 ぱちゅんっ♡

 

「あ゛う゛ぅっ♡♡」

 

 両腕でホールドしたモナの体全体をペニスに押し付けるように抱きすくめる。

 モナの最奥をごりゅっ♡と強く亀頭が抉り、腰が快楽から逃げようとしてびくびくびくっ♡と跳ねた。

 だが、腰をがっちりと掴んだ俺の両腕が逃げることを許さない。

 そのまま子宮を押し上げるようにに亀頭をぐっと押し付け、抱きしめるようにぎゅうっ♡と締まって許しを請う膣壁の刺激を受けて。

 

 どっぷうっ♡♡♡ どぷうっ♡♡ どくっ♡ どくっ♡ どくっ♡

 

「う゛っっ♡♡♡ ぐうぅぅっ♡♡♡♡ ~~~~~~~~~っ♡♡♡♡」

 

 暴れるようにうねる腰を力まかせに押さえつけ、モナの最奥に白濁した猛りを解き放った。

 俺の腕に固定されて快楽の逃げ場を失ったモナの爪が背中に食い込む。

 痛いくらいに押し付けたはずなのに、モナのイキ声は快楽に満ち満ちている。

 彼女はこの一ヶ月で、『ちょっと痛いくらいに求められるのが好み』というマゾっ気を開花させつつあるのだった。

 

「~~っ♡♡♡ っは♡♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はーっ♡」

 

 がくがくと下半身を痙攣させ、快楽に蕩け焦点の定まらない目で荒い息を吐くその顔に、普段の凛々しさはもはや欠片もない。

 そのにいるのはただの、最愛の雄に好き放題され快楽に溺れる一匹の雌だった。

 

「はーっ♡ はー…♡ っ、もう! 今日は先にイかせられると思ったのに!」

「ほぼ同時だったじゃん」

「たまには余裕をもってイかせたいんです!」

 

 ぷりぷりと怒ったふうに胸板をぺちぺちと叩くモナ。

 叩く腕ごと抱きすくめると、すぐに大人しくなるのが可愛らしい。

 

「でもさ、モナ、好きだよね?」

「…っ♡」

「今みたいに弟子ちんぽに強引にイかされるの」

「っあぅ…♡ …ふっ♡ …ふぅっ♡」

 

 尻たぶをぎゅっと握り耳元で囁くと、それだけでぞくぞくっ♡と背を震わせ、艶混じりの吐息を漏らすモナ。

 「師匠なのに弟子にいいようにされる」シチュエーションは、彼女の琴線に触れるらしい。

 …まさか、このシチュ楽しむために『師匠』にこだわってるんじゃないだろうな?

 

「まだ余裕ありそうだし、もう続きしても大丈夫だよね」

「えっ、あ、やっ♡ まだイったばっかりっ♡」

 

 繋がったまま体勢を変え、腕の中のモナをベッドに横たえる。

 

「今日もたくさん受け止めてね、師匠」

「やぁ♡ ちょっと休ませ、ん゛っ♡ おぐっ♡ おくちでシてあげますからぁ♡」

「ダメ。 誘ったのはモナなんだから責任とってね」

「あ゛ぅ♡ やあぁ♡ んむ♡ ちゅぅ…♡ ん゛〜〜〜っ♡♡」

 

 復活した弟子ちんぽで、再びモナの奥を小突く。

 嫌がる素振りを見せながらも、キスをされると抵抗できなくなる可愛い師匠を組み伏せ、彼女がぐったりするまで何度も何度も精を放って。

 そうしてひとまずの満足を得る頃には、既に昼の鐘が鳴ったあとだった。

 

 

 なお、いつの間にか帰ってきていたパイモンは、モナの仕事机で『星座相談』の原稿を読んで平然と暇をつぶしていた。

 結構図太いねキミ…。

 

 

       ◇ ◇ ◇

 

 

 イキ疲れてぐったりしたモナの回復を待ち、二人で風呂に入り身繕いをして。

 普段の格好に着替えたモナと、大食い大会に出るパイモンを応援しに行く。

 

 日も傾いてきたモンド城噴水広場『鹿狩り』前。

 俺とモナ含め大勢の人で賑わうここは今、大食い大会の表彰式ににわかに盛り上がりをみせていた。

 出場選手七人中、パイモンは四位。

 当然他六人はちゃんと人間サイズだったので、小さなパイモンの体積比的大食いはそれはそれは見る者を驚かせたようで、優勝こそ逃したものの『鹿狩り特別賞』なる賞を受賞していた。

 

「うっぷ…もう食べられないぞぉ…」

「お疲れ様、パイモン」

「大健闘でしたね! よく頑張りました」

 

 お腹が膨れてまん丸になったパイモンを抱き上げると普段よりもずしりと重い。

 動くのが苦しいのか、はたまた重くなりすぎて浮けないのか。

 ともかく、『満腹すぎて動けない』状態は、どうやら浮遊して移動するパイモンにも適用されるらしかった。

 

「大丈夫? いつもみたいに消え(寝ら)れる?」

「た、たぶん無理だぞ…」

「帰ってベッドで寝ますか?」

「…オイラあそこで寝るのちょっとなぁ…」

「ちゃんとシーツ替えましたよ失礼ですね!」

「とりあえず一度モナの家に帰ろうか」

 

 珍しく食いでのありそうなサイズになった非常食(パイモン)を抱えてモナの家へと足を向けた、その時だった。

 

「あのっ! あなたが、アストローギスト・モナ・メギストス先生ですか?」 

 

 人混みの中から声がかけられる。

 振り向くと、散り散りになっていく観衆の波から一人の青年が駆け寄ってきた。

 長い白髪を後ろでまとめた、線の細い旅装の青年。身なりはそこそこ良く、顔だちもなかなか整っている。そして腰には、『神の目』。

 

「いかにも、私がアストローギスト・モナ・メギストスですが…どちら様ですか?」

「ぼ、僕は、マルカといいます! えっと、僕、モナ先生の『星座入門』のファンで…」

「…わざわざスメールからモンドまで来たんですか。 長旅ご苦労様です」

「っ! はい! この時期はモンドでお祭りもあると聞いたもので!」

 

 自分のファンと聞いて、モナの顔に喜びの色が浮かんだ。

 教えられる前に出身地を当ててみせたモナに、マルカと名乗った青年が感嘆の声を漏らす。

 彼女なりのファンサービスのつもりなんだろうか。

 

「とはいえ風花(ウィンドブルーム)祭ってほぼ地元民のための祭りだよね。 楽しめてる?」

「出し物いっぱいあって楽しいです! …あの、こちらの方は?」

 

 俺も声をかけてみると、きょとんとした目で答えるマルカ青年。

 

「私の弟子と大食い大会の特別賞受賞者です」

「なんだその紹介…」

「ああ、さっきの大会の! 見てましたよ! 小さな体に見合わない、ニンジンと特大お肉のハニーソテーの食べっぷり! 凄かったです!」

「あうぅ…揺らさないでくれぇ…」

 

 小さな手を握手でぶんぶん振られて苦しそうなパイモン。

 俺だけ反応がなくてちょっと疎外感。いや当然なんだけど。 

 

「うぅ…はやく横になりたいぞぉ」

「何はともあれ、パイモンを休ませるのが先ですね。 はい、鍵」

 

 パイモンを抱える手に家の鍵を握らされる。

 

「あ、ついでに、机の一番下の引き出しに入ってる封筒を取ってきてください」

 

 そう言うと、モナはマルカ青年となにやら話し込み始めた。

 話題は『星座入門』についてのようだが、内容はあの回がよかっただとかここの考察は素晴らしかっただとかでさっぱりわからない。

 

 さっきまですぐ傍に、それこそ肌の触れ合う距離にいたモナが、急に遠い存在に感じられる。

 モナが読者に認められ褒められるのは喜ばしいことのはずなのに、目の前で他の男におだてられて嬉しそうにしているのがなんだか気に入らない。

 我ながら器の小さいことだとは思うけれど、それでも沸き上がる気持ちを止める手立ては俺にはなくて、内心を隠すように踵を返す。

 せめて早く戻ってこよう。

 腕の中のパイモンを揺らさないように、けれどできるだけ早足で歩を進める。

 

「僕を、モナ先生の弟子にしてください!」

 

 落ちゆく夕日と遠ざかっていく喧騒にまぎれて、そんな声がかすかに聞こえた。

 

 

       ◇ ◇ ◇

 

 

 モンドは酒飲みが多いだけあって、トラブルを肴にする野次馬根性も逞しいのだろうか。

 パイモンをベッドに転がし、引き出しから封蝋を施された封筒を回収して戻ると、モナと別れた場所には人垣ができていた。

 祭りの期間中は流石に人が多い。かき分けて中央まで進むのは無理がありそうだ。

 

「よっ…ほっ…」

 

 壁を登って道より一段上の高台に上がり、助走をつけて柵の上で踏み切ってジャンプ。

 跳躍の最高到達点で風の翼を展開し、そのまま滑空して人垣を飛び越える。

 

「そこをなんとか!」

「しつこいですよ。 他をあたってください」

 

 着地した人だかりの中心では、どうやら弟子入り志願が根気強く続いているようだった。

 腕組みをしたモナが、拝み倒してくるマルカ青年に苦い顔をしている。

 

「大変そうだね」

「師匠の一大事を他人事みたいに…封筒ください」

 

 差し出された手に取ってきた封筒を渡すと、モナはそれをそのまま青年に差し出した。

 

「これは…?」

「中に私からの紹介状と地図が入ってます。 弟子入りしたいならオババのほうに行ってください」

「そんな! 僕はモナ先生に!」

「私はあと十年は他に弟子を取る気はありません。 お引き取りください」

 

 門前払いを食らった青年が恨めしそうな目で俺を睨む。

 

「なんで、なんでこんな人がよくて僕はダメなんですか」

「こんな人とは失礼な」

 

 これでも一応モンドの栄誉騎士だぞ。スメール人は知らないだろうけど。

 

「だってあなた、占星術の才能なんてまるでないじゃないですか!」

「……」

「ええまあ、彼に占星術の才能はないですね」

「…ないの?」

「ないです」

 

 そんなの一目でわかるもんなの…?

 あまりにも正論すぎて何も言い返せない俺に、モナからの追撃が飛んでくる。

 余計な装飾をしない占星術師の言葉がストレートに心を抉る。

 

「じゃあなんで…」

「それでも」

 

 モナがまっすぐに青年を見つめる。

 

「それでも、私はこの人がいいんです。 あなたではありません、マルカさん」

 

 きっぱりと言い切ったモナに、野次馬がざわめく。

 

「あなたの運命は、私と交わるところにありません。 紹介状で、訪ねてくださった義理は果たしました。 諦めてください」

「っ! なんでその人ひとりだけなんですか!」

「ええぃ、いい加減にしてください!」

 

 モナが俺の腕を掴む。

 そのまま俺に向き直り、肩に手をかけると──

 

「んむっ」

 

 勢いよく唇を奪われた。

 観衆から冷やかすような歓声と指笛の音が降りかかる。

 

「…ぷはっ。 こういうこと(・・・・・・)なので! 邪魔しないでください!」

 

 言うが早いか、モナの手がさっと振られ、俺とモナの周囲に水の壁がせり上がってくる。

 群衆と、そして呆然とした表情で立ちつくす青年との間を隔てるように水の壁はドーム状に俺達を包み、そして数舜ののちにぱしゃっと散った。

 

「ここは…」

 

 さっきまで鹿狩りの近くにいたはずなのに、水のドームから出た場所はモンド城前の橋の上。

 水しぶきに驚いたハト達が一斉に飛び立つ。

 

「ふぅ、なかなかしつこい相手でしたね。 濡れませんでしたか?」

 

 虚実流動。

 水面に映る虚像の世界に入り込むことで、水流とともに自身を移動させる技。

 傍目には瞬間移動のようにすら見える、モナの得意技だ。

 そういえば『帰らぬ熄星(そくせい)事件』の時も、これでファデュイの執行官から逃がしてくれたっけ。

 

「まったく、占星術師を志そうというのに運命を受け入れられないとは…。 ほら、行きますよ」

 

 俺の手を引いて、モナは歩きだす。

 

「…あれでよかったの?」

「何がですか」

 

 少し遅れて歩を進めながら、モナに問うのは当然、弟子について。

 モナが──この高名になりつつある占星術師が現在弟子と呼ぶ俺は、別に占星術を学んでいるわけじゃない。おまけにどうやら才能もないらしい。

 そんなのを弟子扱いして、ちゃんと学ぶ姿勢のある者を追い返して。

 普段のモナが占星術に対して真摯なだけに、疑問に思う。わざわざスメールから来たというマルカ青年に罪悪感すら覚える。

 

 モナが俺を選んでくれたのは嬉しい。けれど、それでよかったのだろうか。

 女としてのモナを譲る気はないが、師匠としてのモナまで俺が独占していいのだろうか。

 言外にも、それは伝わっているだろう。

 

「モナ、占星術の実力と地位を証明したいって言ってたでしょ? 格好の機会だったんじゃ…」

「それは弟子を取らずともできることです」

 

 モナは意に介す必要を感じないとばかりに涼しい表情を崩さない。

 

「モナと占星術について話せるってことは、才能はあったんでしょ? それにせっかくのファンだし、『神の目』だって…」

「占星術に『神の目』は関係ありませんよ。 才能は…そこそこでしたね。 私や師匠(オババ)ほどじゃありません。 まぁ精々二等星止まりでしょう」

「でも、モナの占星術の知識と技術は継承されるべきものだと思うし」

「それは将来、娘にでも任せますよ」

「…弟子入り希望相手に、最後の断り方、もはや占星術関係なかったじゃん」

「ああ、あれは我ながらよく閃きました! 褒めてくれてもいいんですよ」

「褒め…?」

 

 涼しい表情から一転、ふふんと得意げに胸を張るモナには悪いが、褒めるポイントがちょっとよくわからない。

 

「よくわからないって顔してますね。 いいですか? あの場で、彼は『遠路はるばる弟子入りしに来たのに門前払いされるかわいそうな旅行者』でした」

 

 指を立ててドヤ顔で解説をはじめるモナ。

 

「あのままでは、私達を囲む野次馬が彼の味方をはじめる可能性がありました。 『門前払いはかわいそうだ、せめて様子くらい見てやるべきだ』みたいな感じで」

「それは…そうかも?」

「ですが、私の弟子はあなただけで十分。 なんとかして断りたい。 そこで私は閃いたんです。 今は風花(ウインドブルーム)祭。 愛の祭典の期間中なら、彼の『弟子入り志願』を『横恋慕』にすり替えることができるんじゃないかと」

「…つまり?」

「群衆の前でキスしてみせたことで、彼は『遠路はるばる弟子入りしに来たのに門前払いされる可哀そうな旅行者』から『人の恋路に割り入ろうとして振られた男』になったわけです」

「なるほ…ど?」

「これなら、野次馬も私のほうを味方してくれるはずです。 なにせ今は愛の祭典期間中で、あなたはモンドの英雄。 首筋にキスマーク(しるし)まで付いていればなおさらです」

 

 はっと気がついて首に触れる。

 

「残された彼は群衆からの慰めを受け、やがて諦めることでしょう」

「…そこまで考えてキスマークを?」

「いえ、それは偶然です。 ファンがわざわざモンドまで押しかけて来るなんて思ってもみませんでした。 いやぁ、まさかスメールにまで私の名前が知れ渡っているとは…スチームバード新聞もなかなかやりますね」

「じゃあ、紹介状を用意してたのは?」

「『こんなこともあろうかと』ってやつです。 元々、弟子入りは全部オババに丸投げしようと思ってたので。 だからあなたが気に病む必要はないんですよ。 ほら、着きました」

 

 横を歩くモナの優しい声に、心のつかえが解されていく。

 気付けば目の前には、モンド城から風立ちの地に入る手前のワープポイントの前に着いていた。

 

「星拾いの崖だっけ?」

「ええ。 モンドではあそこが一番、星が綺麗に見えます」

 

 手を繋いだまま二人でワープポイントに触れ、星拾いの崖まで飛ぶ。

 浮遊感とともに視界が歪んで数秒後、目の前の景色がなだらかな上り坂が続く台地のものへと変わった。

 

「それにしても」

 

 俺の顔を覗きこむようにして、モナがにやぁっと笑う。

 

「あなたも結構、かわいいところあるんですねぇ」

「…?」

「ファンと話してるの見て妬いてたの、丸わかりでしたよ♡」

 

 かあっと頬が熱くなる。

 真っ赤になっているであろう俺の顔を見て、モナは嬉しそうにクスクス笑う。

 

「今朝もあんなにシたのに、私をファンに取られちゃうかも、って心配になっちゃったんですか?」

「……なった」

「っ♡♡ ずるいですよ、そういうの。 かわいすぎます…♡ っちゅ…♡」

 

 素直に認めると、喜色満面のモナに抱きつかれ唇を奪われる。

 だだっ広い草原のど真ん中だというのに、貪るような勢いで舌を絡めてくる。

 

「んむ…♡ れちゅ…♡ …っは♡ それなら…はい♡」

 

 抱きしめる腕を解いて、肩掛け(ケープ)を捲って胸元をつき出すモナ。

 

「今日だけ特別です。見えるところに付けていいですよ、キスマーク」

「いいの?」

「…私もしるし(・・・)、欲しくなっちゃいました♡」

 

 今度は俺から抱きついて、促されるまま胸元に吸い付く。何度も、何度も。

 夕日に照らされた白磁の柔肌に、赤い跡が痛々しいほどに映える。

 

「ん…♡ も、もうダメ、おしまいですっ♡」

 

 三つほど付けたところで、モナの手がぐいぐいと俺を引きはがそうとしてくる。

 

「…ダメ?」

「今これ以上されると、その、欲しく、なっちゃいます」

「…ダメ?」

「ぅ♡ だ、ダメです! これから一緒に星を見るんですから!」

 

 このまま強引に続けて流れで押し倒しても許してくれそうな気はするが、どうにか理性で堪える。

 せっかくモナから誘ってくれたデートを台無しにするのは気が引けた。

 おとなしく抱きしめる腕を解くと、よしよしと頭を撫でられた。

 

「今日はちゃんと止まれてえらいです」

「なんか獣(けだもの)扱いされてる気がする…」

「えっちする時だいたいけだものじゃないですか。 ほら、行きますよ」

「モナだって襲われるの好きなくせに」

「…まぁ、嫌いじゃないです」

 

 モナに手を引かれながら、星拾いの崖への上り坂を進む。

 黄昏時の静けさの中にさく、さく、と草を踏む音が二人ぶん響くのが心地よい。

 頂上付近まで登る頃にはもうすっかり日は落ちて、星が見え始めていた。

 

「このあたりでいいですかね」

 

 足を止めて振り返ったモナが魔女帽子を取って脇に置き、その場に仰向けに横たわる。

 それにならって俺も横に寝そべると、モナが肩をぴったりとくっつけて顔を寄せてくる。

 

「今日は雲が少なくて星見日和ですね。 宵の明星も綺麗に見えます。 ほら、あそこの明るい星」

 

 彼女が指差す先を見ると、太陽が姿を隠しわずかに橙に染まる西の地平線の上に、ひときわ明るい星が見えた。

 

「あれが宵の明星?」

「そうです。 他の星と見える時と見えない時の周期が違う特殊な星です。 昔はこれと、対になる明けの明星は違う星だと考えられていたそうですが、今は同じ星とされています」

 

 顔を寄せ視界を共有して、モナが次々と星を指差していく。

 動かす指の軌跡に沿って『神の目』で操られた水が夜空に線を描いて、煌めく水のラインが星を繋げて星座にする。

 星の名前やその意味、星座の逸話なんかを、素人の俺にもわかるように丁寧に教えてくれるモナの声はどこまでも優しくて。

 モナが見る景色のひとかけらを共有できた喜びの反面、彼女が見る世界を完全には共有できないことに一抹の寂しさを覚える。

 

「…ねぇ、モナ」

「…星空にくらべて、人の運命は儚いものです」

 

 囁いたモナが描いた星座をぱっと指先で散らす。

 

「この前引退したという岩王帝君、七神の中で最も古い神と呼ばれる岩神モラクスでさえ、たった六千年。 星空は何万年、何十万年だって変わらないのに、地上を満たす運命のなんと儚いことでしょうか」

 

 散らした水滴が霧のように細かくなり、大きな流れとなって渦を巻いていく。

 夜空の明かりを受けて煌めく光の粒が、モナの指の先で円盤状に銀河をかたどっていく。

 

「同様に、人の関係性もまた、運命の前には儚いものです。 大切な友人も、恋人も、夫婦だって、運命によって分かたれてしまうことは少なくありません」

 

 大昔に友を失い、いまだその名と姿を借り続ける風神の姿が脳裏に浮かんだ。

 

「そういった『運命』を、私はたくさん見てきました。 離別が心を傷つけ、別の運命がその傷を埋め、かつての運命は人生の上書きの中に埋もれてやがて忘れられていく…。 だから私は、そういった儚い関係性を信じません」

 

 モナの指先の銀河が、さらに細かい光の粒子となって、消えていく。

 

「けれどふたつだけ、信じているものがあります。 ひとつは、血の絆。 誰もが持つ『運命』の起源。 あなたにとっての、妹さん。 そしてもうひとつが──」

 

 下ろした手が俺の手を取る。

 夜の静寂(しじま)に、モナが息を吸う音がやけにはっきり聞こえた。

 

「──知識の血脈。 叡智の絆。 すなわち、師弟です」

 

 星空へと目を向けるモナの横顔は、今まで出会ったどんな『神』より神秘的に見えて、思わず息をのむ。

 

「弟子が師匠を超えようと、独り立ちして二度と会うことがなかろうと、破門だなんだと強引に関係を切ったようにすら見えても、師弟の絆は切れません。 私にとっての師匠(オババ)がそうであるように」

 

 星の向こうへ溶けいるような静かな声は、俺だけでなく、モナ自身に言い聞かせるようでもあって。

 

「友人とか恋人とか、そんな不安定なものじゃない。 『師弟関係』は私にとって、この先どんな『運命』が待ち受けていようともそれを分け持ち、あなたを導き続けるという誓いなんです。 たとえあなたが全てを失っても、たとえあなたが他の人を愛しても、たとえ…」

 

 一瞬、モナが声を詰まらせる。

 

「たとえ──あなたが、長い長い旅路の果てに、この世界を去るのだとしても」

 

 声色から寂しさが伝わってきて、ふと、同じなんだな、と気付く。

 さっき感じた、モナの目に映る星見の世界を見ることができない寂しさと同じ。

 モナも俺の、『世界渡り』の景色を共有できなくて、寂しいんだ。

 それでも、可能な限り寄り添いたい、世界を越えても絆で結ばれていたい。

 その彼女なりの想いの形が『師弟』なんだと、心が理解する。

 

「いつか、どこか、他の世界(星のむこう)に渡った弟子(あなた)が、私を思い出して胸を張れるような、そんな存在でいたいから。 だから私は、あなたの『師匠』を名乗るんです。 今はまだ、恋人を私なりに言い換えただけの言葉だとしても」

 

 モナの星を見る目が地上へと降りてきて俺の目を見つめた。

 

「それが、私があなたと『師弟』であることを望む理由です」

「…うん。 俺も『モナの弟子』でいたい」

「そう言ってもらえるなら、師匠冥利に尽きます。 ──きっと、後悔させませんから」

 

 体を起こしたモナが、俺に覆いかぶさるようにキスをする。

 星々に見守られて、それは誓いの口付けだった。

 

 

 

 

 

「…まぁ、それはそれとして」

 

 体を起こしたモナが、そのまま俺に馬乗りになる。

 ぱちん、と肩掛け(ケープ)の金具が外れる音。

 

「シましょっか、ここで♡」

「!?」

 

 ぱさりと肩掛け(ケープ)が滑り落ちる。

 人はいないとはいえ、ここは草原ど真ん中。

 

「実は、結構憧れてたんです。 満点の星空の下で、って」

「…もしかして最初からこれが目的でデートに?」

「半分くらいは、そうですね…♡」

 

 のしかかるように手首を握られ、草原に釘付けにされる。

 ちょうど最初の時(運命の日)とは逆の格好。

 

「…まぁ、運命には逆らえないんだもんね」

「わかってきたじゃないですか。 ふふ♡」

 

 握られていないほうの手で、あの時とは逆に俺がモナの頬を撫でる。

 撫でる手のひらに、モナが優しくキスをして。

 

「加減はしてくださいね? 帰れなくなったら困ります」

「努力はするけど…我慢できる自信はない」

「…私も自信ないです。 あなたが妬いてるのを見てからずっと、欲しかったんですから♡ んっ…♡」

 

 二人して笑い合って、キスをして、互いの体に触れあって。

 抱きしめあって、ひとつになって。

 宵の明星が消え、月が西へと傾くまで、俺達『師弟』は互いを求めあった

 

 汗を月光に光らせて、星を背に髪を振り乱すモナは、まるで星を従える夜天の女神のようだった。

 

 

       ◇ ◇ ◇

 

 

 夜明け前の静かなモンド城を二人で歩く。

 

「あっ、そうだ、鍵…」

 

 モナの家を前にして、ふと思い出した。

 借りたままだった鍵をポケットから出して、モナに差し出す。

 …が、モナはそれを受け取ろうとはしなかった。

 

「返す必要はありません。 あなたにあげます」

「えっ」

「合鍵です。 持っていてください」

「いいの?」

「…持ち手を、見てください」

 

 言われて鍵の持ち手を見る。

 うっすらと青みがかった金属の鍵の持ち手は、花の装飾が施されていた。

 モンドや璃月では見たことのない花。

 

「私からあなたへの『風の花』です。 受け取ってください」

「『風の花』…」

 

 風花(ウインドブルーム)祭では、大切な人に『風の花』を贈る風習があるのだという。

 『風の花』が具体的にどの花を指すのか、定義は明確にされておらず、モンド民の中でも意見が割れているのだとか。

 俺もモナもモンドの出身ではないし、モナはこういった祭典そのものに対する興味は薄いと思っていたから、『風の花』をモナから貰うなんて思ってもみなかった。

 

「見たことない花…モナの故郷の花かなにか?」

「ふふ、これはおばばと遊学していた頃に見つけた花です。 『風の花』は何の花でもいいと聞いたので、それにしました」

「なんて名前の花なの?」

「それは秘密です」

 

 モナがくすりと悪戯っぽく笑う。

 

「旅の中でいつか、この花に出会うこともあるでしょうからね。 探してみてください。 旅の宿題です」

「宿題かぁ…ありがとう。 大切にする」

「はい。 お返し、期待してます」

 

 手の中の鍵でドアを開ける。

 

 この日、旅の目的が一つ増えた。




Tips

モナが鍵の持ち手に選んだのはロマリタイムフラワー。フォンテーヌ特産。
虚実流動で触れると水元素に反応して、モナが駆けた軌跡に沿って花が咲くのをおばばが褒めてくれたから、今でもモナの好きな花。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。