「それじゃ絢辻さん、あとはよろしく頼むわね」
麻耶はそう言って空き教室を出て行った。
ただちょっと訝し気というか、ナニかが引っかかっているような顔をしている。
朝のSHRからクラスに違和感はあるみたいだったが、まさか2年A組に限ってという想いが、麻耶の目を真実から逸らし遠ざけさせていた。
イジメ。
という結論には至らない。
ましてその標的となっているのが優等生のクラス委員であり、ムードメーカーの女子生徒であるとは考えが及ばないようだった。
首を傾げはしても反応はそれだけで、教室という檻に獲物となった少女を置き去りに居なくなっってしまう。
パンッパンッ。
弥生の手が大きく打ち鳴らされた。
「今日はしっかり昨日の分を取り戻せるよう気合入れて作業してよ」
頼まれ任されたのは実行委員でもある詞なのに、麻耶が消えると当然のように仕切るのを、クラスメイトは当然のように受け入れている。
文句どころか不満を持った様子すら誰もなかった。
「昨日はみ~んな、ナ・ゼ・ナ・ン・ダ・カ、うわの空だったみたいでほとんど進んでないんだからさ」
「頑張ろ」
悠子と美雪が当たり前に続くのにも、少なくとも表面上反論してくる者はいない。
2年A組で三人に逆らうクラスメイトは存在しなかった。
創設祭催し物準備の参加は今日もほぼ全員で、欠席したのは薫と佐川と西谷、……そして薫の親友である田中恵子の三人だけである。
あからさまではないもののけれど明らかに、視線は牢獄に残された獲物の身体に集中していた。
ああでもないこうでもないと三人に指図されて、教室をあっちこっちパシリにされているのを目で追っている。
だからすぐにわかった。
「ン……、ふぅッ、ぅ……んンッ……」
駆けずり回る動きの端々は妙にぎこちなく、呼吸はやけに乱れており苦しそうにしている。
時折り内股になっては太腿を擦り合わせ、悔しげに下唇を噛み締めていた。
本人は目立たないように、さり気なく行っているつもりみたいだが、これだけ注目されていれば誤魔化せるものではない。
むしろより滑稽さを強調してしまっているだけで、熱心に観察するクラスメイトのさらなる嘲笑を誘っていた。
もっともいつもの詞であったならそのような、侮蔑に満ちた視線に気づかないわけもなかったが、
「……くぅンッ、ン、ぁ……ハッ、ハッ、ハッ――」
ショーツの中で小刻みに震える淫具に弄ばれている今、関心を払っていられる余裕などとてもない。
以前からソレの存在は知っていた。
正確には小五から。
もちろんそのソースとなったのはエロ漫画。
ピンク色をした楕円形の物体。
その界隈でローターは定番中の定番アイテムである。
知らないわけがない。
「ふぅううッ!?」
しかしこれほどまでこの小さな玩具の振動が、抗い難い鮮烈な刺激をもたらすのは、自分の身体で経験してみなくてはわからないだろう。
朝から仕込まれずっとイタズラされていた。
弱から強。
強から弱。
必須のリモコン機能で緩急をつけてランダムに、授業中だろうが休み時間だろうが放課後だろうが快楽は襲ってきた。
五六時間目が体育の授業という巡り合わせは地獄でしかない。
みんながジャージを着ているのに、寒い冬の季節に自分だけブルマで受けさせられた。
詞にはお願いだからどうか誰も気づかないで欲しいと、欠片すらも信じていない神様に祈ることしかできない。
あるいは罵倒することしかできない。
股間がわずかではあるがポコッと膨らんでいるのも、その周辺に濃い染みができていたのにも、神様という存在が存在するのならどうか……。
見逃してほしい。
「う、ぅぅぅ、んンッ」
などという少女の儚い想いは踏みにじられて、情け容赦のないクラスメイトの視線にさらされ続けた。
……そして悪夢は終わらない。
小間使いのようにマメマメしく働かされている詞の現在の格好は、セイレンな優等生にはあるまじきハレンチなモノになっていた。
比較的寛容というか自由な輝日東であっても間違いなく校則違反である。
制服のスカートはウエスト部分で内側に折り込まれており、その丈は膝上何センチというレベルでなく極端に短くなっていた。
階段どころかただ歩いているだけでも注意が必要な、下着がどうにかギリギリ見えそうで見えない超ミニになっている。
ブレザーと胸もとを飾るリボンは取り上げられて、普段ならキッチリ留められているブラウスのボタンは、上から三つも外されてささやかな谷間が覗いていた。
なのでなかにはブラジャーを着けてないのに、気づいた目聡い者もいるかもしれない。
少なくともヘルプしてあげてと三人から命令された男子のグループは、
「もっとちゃんとソッチ持って」
「なんかズレてねぇか?」
「こうやって手伝ってくれんのはいんだけどさぁ絢辻さん、しっかりやってくんないと返って邪魔だから」
確実に気づいているみたいだった。
小学生の学芸会レベルどころか、古き良き倒産寸前の中小企業の忘年会レベル。
そのくらい粗く雑なつくりのオープンアーチ。
わざわざ女子にサポートをお願いしてまで、こうしてわざわざ四人でやるような仕事ではない。
お互いの熱を感じる至近距離。
詞を真ん中にして左右から田中雅之と西田健治が身体を寄せ合いつつ、後ろから安村佑史がさして必要のなさそうな指示係になって囲んでいる。
クラスメイトの少女の甘酸っぱい体臭をニヤけた顔をしながら、鼻の穴を大きく膨らませて肺いっぱいに吸い込んで堪能していた。
左から右から胸元に、遠慮のない視線が這いまわる。
さっきまでは咎めるみたいに鋭く睨みつければ、田中も西田もバツが悪そうに視線を逸らしていた。
……さっきまでは。
今はもうむしろ悦びを倍増させるご褒美でしかないようだ。
「まぁだ右、右? いや、左ぃ、左ぃ、なの、かなぁ? ああ、うん。左。よしっ。いいや。とりあえず左にしてみようぜ」
ただ鼻の下をだらしなく伸ばしたふたりも、背後に陣取っている安村と比べれば、あくまで比べればだがまだしもマシなのかもしれない。
テキトーなことばかり言っている意味のない指示の声は、詞よりも背が高いのにかなり低い位置から聴こえてくる。
膝を曲げてしゃがみ込んでいれば当然だった。
太腿の裏側に息が触れる。
安村の視線はおざなりな作業をする三人の手元などまるで見てない。
いつもよりも短い制服のスカートの翳り、その奥の奥にぴったりロックオンされていた。
肉づきは控え目だがぷりっとした小ぶりのヒップが、テキトーな指示通り右に左に揺らめく身体に合わせてモゾモゾ蠢いている。
白いショーツを喰い込ませたお尻に、友人のふたりに負けず劣らずのアホ面で安村は釘付けになっていた。
死ねっ!!
暴言を吐き捨てるとともに、後ろ足でその顔面を蹴り飛ばしてやりたい。
左右にある弛緩しまくりなアホ丸出しのスケベ面にも、加減抜きで肘なり膝なりを思いっ切りぶち込んでやりたかった。
が。
それはできない。
そのようなリアクションを取ることを詞は許されてなかった。
肩越しにチラっと三人を窺う。
三人。
もちろんそれは調子に乗っている安村たちではなく、詞のこれからの学校生活において、あるいは人生において生殺与奪の権利を握った三人だ。
底意地の悪い笑みを三人が三人とも浮かべながら、こちらをジッと愉しそうに観察している。
いくつかのグループを三人の指示、でなく命令で散々回らされたが、どうやらお気に入りはイチバン馬鹿っぽいココらしかった。
ほとんどのクラスメイトはまだ建前を捨て去ったわけではないらしく、盗み見て視姦はしてもダイレクトなセクハラをしてくることはない。
とはいえどのようなグループにも、例外というか欲望に素直なヤツもいる。
望まぬ扇情的な格好をしいられている詞に対し、隠しもしないストレートで邪な視線が好感触だったようだ。
パーソナルなエリアに踏み込んで来ようとした三人を、毅然とした態度というより殺気すら籠った眼光で迎え撃った詞の、
「絢辻さん」
「スマイルスマイル」
「顔が怖いよ」
傍にいつの間にか最悪の三人が立っていた。
弥生がこれ見よがしに、手にしたスイッチを入れる。
ブーン――ッ!!
蕩けそうな媚粘膜から身体の芯へと響く、静かではあるが抗い難い暴虐なモーターの振動。
刹那。
時間にすればコンマ何秒間。
とろ火で煮込むみたいだったローから、いきなり燃やし尽くすようなトップギア。
これまでにないキャパオーバーのあまりに鮮烈過ぎる刺激が、股間を中心にして津波のように身体を駆け巡って一気に拡散した。
「ぐぅンッ!?」
声も表情も苦悶と断言するには悩ましい。
オンナには逆らうのが困難な振動の発生源を咄嗟に押さえ、腰を捩じらせる姿は儚く切なくナニより色っぽかった。
おそらく優しさなどではないだろう。
……いいや、絶対だ。
どうせこういうときのために、コレを取って置いたに決まっている。
ここまで強と弱をてっきり行き来しているとばかり思っていた。
けれどソレは違う。
違った。
これ以上の上がないはずのモノに、さらに上があるという予想外の衝撃。
想像できる程度の最悪は最悪ではなく、真の最悪というのは常に想像の外からやってくる。
「ハッ、あ、ああッ、ハッ、ハッ、ハッ……ハァアア……」
馴れはしないが慣れつつあった淫らな刺激は、ここぞのタイミングで披露するためのフェイクだった。
粘膜にめり込んだローターは小刻みだが苛烈な振動を起こしながら、ブブブッと微かな音を立てて痺れるような快感を生み出している。
蹲りそうになるのを正面にいる悠子に抱きとめられ、詞はその腕の中でぶるぶる卑猥な淫具にシンクロするみたいに震えた。
抱えられた頭をヨシヨシと撫でられる。
屈辱だった。
しばらくそうされていると、
「そろそろ平気かな?」
やはり背中を撫でていた美雪が、耳朶に息を吹き込むようにして、縋ってしまいそうになほど優しく語りかけてくる。
あからさまにまやかしな嘘塗れの優しさであるが、それでも詞は身体も心もすべてをゆだねたくなっていた。
弥生がせっかちでなければ危なかったかもしれない。
気だるげに悠子の肩に伏せていた顔を上げると、弱にまで落としていたスイッチを、またまさに強に入れようとしているところだった。
顔を青くさせて恐怖に表情を引きつらせる。
「待って」
もしも美雪が止めてくれなければ、
ごめんなさい。
恥知らずな謝罪の言葉を無意識に口にしていたかもしれない。
「なによ?」
自分なりにタイミングを計っていたらしい弥生は、いいところでオアズケさせられて不満そうに唇を尖らせる。
しかし美雪はややポンコツ気味の友人のコントロールはお手のものだ。
悠子とアイコンタクトする。
「そんなことしなくても弥生ちゃんのスゴさは、絢辻さんだってちゃ~んとわかってくれてるよ」
わかり易すぎて馬鹿にしてるのかというフォローだが、
「あんましイジメちゃ可哀そうじゃん」
間髪入れず悠子が続いたことで、
「ま、まあ、わかってるんだったら、べつにわたしだって絢辻さんの自主性に任せるけどさ」
できの悪いコントの台本でもあるみたいに、弥生はあっさりコロッと丸め込まれた。
この世界が彼女のために用意された物語であれば、まず間違いなくチョロインと呼ばれているであろう。
もっともそれは、
「じゃ、ヨロシクね」
古臭い昭和の官能小説のシナリオ通りのような、呆れるシチュエーションにさらされている詞にしても大差ない。
自分から飛び込んだ分だけ、弥生よりタチの悪いヒロインといえた。
なんで……なんでわたしがこんな目に……。
遭っているのか説明のできる因果応報の境遇を呪いつつ、手伝う前から汗だくになっている詞は命じられるままヘルプに就く。
「も~うチョッチだけ上かなぁ。いやいやいや待てよ待てよ待てよ。や~っぱしこれは下なのかなぁ?」
相変わらず意味のない独り言のような安村の指示を耳障りに感じながら、左右から胸元に浴びせられる粘つく視線も強く感じずにはいられない。
身体が羞恥で震える。
弥生も。
悠子も。
美雪も。
ヘルプのアイコンタクトを送ってみたところで、
「よそ見しない」
「集中集中」
「しっかり両手で押さえてないと危ないよ」
無駄なのはわかっていた。
それでもそうしてしまったのは、幼い頃から育んだ妄想があるとはいえ、最大のチャームポイントは恥じらいなヴァージンのJKゆえである。
処女粘膜に半分埋まったローターが脅すみたいに、否、事実として脅かしまたブブブッと小刻みに震えた。
「ん?」
訝しそうな声がする。
背後からとはいえ息がかかるほど下半身に顔を近づけていれば、微かとはいえ響く淫音が聴こえてもなんらおかしいことはない。
安村の疑問が確信に変わる前にローターは停まったが、おそらくその疑問が確信に変わるときはそんなに後ではないだろう。
白いブラウスが素肌にべっとり張りついて気持ち悪かった。
ささやかではあるがいつかのように、美しい乳房のシルエットが浮かんでいる。
どころかふくらみの頂点にある、小さなピンク色の蕾まで透けていた。
詞の朱唇から儚く切なげなため息が漏れる。
何度も何度も苦労しながら唾液を呑み込んでいた。
瞳が潤む。
負けてなんてやるもんかっ!!
反骨心を総動員して気合を入れるがその表情は、泣くのを我慢しているようにしか映らなかった。
もちろん左右の田中と西田の眼にも、可愛い痩せ我慢をしているとしか映らない。
その貌が牡が牡であるための嗜虐欲をよりいっそうそそり、硬く尖り勃った牝の乳首を捉える視線にギラギラした熱を篭めさせる。
あるかなしかの理性が蝋燭の炎のようにふと消えれば、本能のままケダモノと化して喰らいつきむしゃぶりつきそうだ。
そして内股になってモジモジしている詞の様子を、背後から至近距離の特等席でで視姦している安村も、切欠さえあれば己の内部に巣くう獣性を解き放つのに躊躇はなさそうである。
瑞々しく艶めかしい太腿を、朝露のように流れ滴る愛液を、魅入られたように微動だにせずに見詰めていた。
「……はっはぁん」
何気ない疑問が妄想と結びつき、あるひとつの答えを導き出す。
安村は真実に辿り着いた者だけに許される傲慢で卑猥な笑みを浮かべた。
また周囲にはそこまでの確信めいたモノはないにしても、淫靡な雰囲気を共有するのは極めて簡単であり難しくない。
詞に対する軽蔑と嘲笑、昏い愉悦の密度は増していた。
ひとりを除いて。
「絢辻さん」
今にもスカートに顔から突っ込みそうな安村との間に強引に割り込み、自分の着てたブレザーを尊敬を失ったクラスメイトの少女の肩にかける。
そのまま手を掴んで教室から連れ出した。
まるで物語のお姫様を救う主人公のような行動。
吊り橋効果というものかもしれない。
事情を知らないからこそできる後先考えない行動であったが、純一の背中を見つめる詞の視線には淡いモノが仄かに復活していた。
ふたりで屋上までやってくる。
しばし無言の時が流れた。
お互いの緊張が冬の季節の肌寒い木枯らしに乗って伝わり合う。
そしてその空気に耐えられなくなったからではない。
振り絞ったありったけの勇気が、男としての矜持が口火を切らせた。
キョドってる。
目も落ち着きなくキョロキョロ泳いでいた。
カッコはけっしてよくないかもしれない。
……でもカッコいい。
「ぼくが役に立てる自信なんてないけど、もしなにか悩みがあるのなら聞くし、その、詳しいことは絢辻さんが言いたくなるまで聞かないけど――」
それだけで女のコ慣れしてないのがわかる不器用なセリフ。
頼り甲斐のある態度と言葉ではなかったかもしれないが、純一への温かい感情が募っていくのを詞は確かに感じていた。