失恋がキッカケで妹のことが気になってしまった件 作:チャンドラ=グプタ
美咲さんと交わった次の日、その日は土曜日の為、学校が休みであった。
八時過ぎに起床し、リビングに入るとテーブルの上には母親が用意してくれたものと思われる朝ごはんが置かれていた。
お皿にはご丁寧にもラップが掛けられていた。
「いただきます」
俺は早速、朝ごはんを食べることにした。焼け魚とご飯をかき込み空腹を満たしていく。
「やばいやばい、急がないと!」
慌てた様子で玲奈がやってきた。ソファーに置いてあるスポーツ鞄を肩に掛けた。
玲奈のやつ、今日は部活か。そういえば昨日、母さんが大会だからとか言ってカツ丼を出してたな。
「お兄ちゃん、行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい」
玲奈は家から出て行った。さて、父さんも母さんもいないし、今日はしばらく一人か。
何をしようかな。ゲームをするか、漫画でも読むか、勉強するか、それとも玲奈の下着でも拝借するか……
――なぁ、翔也。今日、妹は何かあるのか?
フールがポケットに入れている石を通じて話しかけてきた。
「うん。今日、大会があるんだとさ。大会だってのに遅刻しそうになるなんて、すごいメンタルだよな」
――翔也、お前は応戦しに行かないか?
「え、応援たって……俺が行ったところで迷惑になるだけだろ」
――そんなことは無い。何となくだが私には分かるんだ。妹はお前を頼りにしているところがある。
「そ、そうかな……」
――ああ、だから行ってやれ。きっと喜ぶぞ。
「そうか。分かったよ」
部屋に戻り、出かける準備を整えた後、大会場所である盛岡市立体育館へとバスで向かうことにした。
体育館の駐車場にはたくさんの車が止められており、外でアップをこなしている高校生の姿が見えた。
今更だが、玲奈が所属している部活はバスケット部であり、玲奈は俺とは違う高校に通っている。
体育館の中に入るとブザーの音、観客の声、バスケットシューズのスキール音が聞こえてきた。
「思ったよりもたくさんいるな……」
二階に上がり、端側の観客席に座った。丁度、玲奈の高校が試合を行われるようであった。
センターサークルにぞろぞろと十名の選手が近づき、その中には勿論、玲奈の姿もあった。
「あれ、もしかして鎌田君?」
この声は……振り向くとかつての思い女(ひと)である莉子さんの姿がそこにあった。
「り、莉子先輩……」
「どうしたの? こんなところで」
「実は今日、妹が大会で……その、応援しにきたんです」
「そうなんだ! 偉いね」
莉子さんが隣に座った。ちらっと横目で莉子さんのことを見た。
綺麗な桃色の髪、長い睫毛、小さな顔、やっぱり莉子さんは可愛らしいと今でも思った。
しかし、この数日間の出来事のせいか告白する前に抱いていたときめき感はもう感じなくなっていた。
「あの、莉子先輩はどうしてここに?」
「あー、実は知り合いが試合に出ててね。見て、あの白いユニフォームの4番の子だよ!」
莉子さんは短い黒髪の子を指差した。
白いユニフォームということはどうやら玲奈と同じチームのようである。
「そうなんですか。妹と同じチームなんですね。俺の妹は7番です」
「あー、あの子かぁ! 遠目だけどすごい可愛い子だね! あんな可愛い妹がいるなんて知らなかったよ。けど、わざわざ応援に行くなんてすっごく仲が良いんだね!」
「そんなことないですよ。いつも喧嘩ばっかりしてます」
自分で言っていて、不思議に思った。
俺と玲奈は喧嘩ばかりしていた。なのにどうしてあの時、俺は玲奈に欲情してしまったのだろう。
莉子さんに振られたせい……ってのも確かにあるのだろうが。
――なんだ翔也。そんなことも知らないのか。
「な、なんだよ……お前なら知ってるってのか?」
「ちょっと、どうしたの鎌田君?」
あ、やべ。そうか。フールの声は俺にしか聞こえないのか。おかしい奴だと思われてしまう。
「すみません。何でもありません。あ、そろそろ始まるみたいですね!」
「うん、そうだね。応援しようか!」
「はい!」
何とか誤魔化すことに成功する。そうして、試合が始まった。
ジャンプボールでは玲奈の高校が制し、玲奈に早速ボールが渡った。
「よし、頑張れ。玲奈!」
その場で玲奈のことを応援した。ユニフォームを着ている玲奈の姿も見たが、なかなか良いな。
ユニフォーム越しから胸の大きさが分かる。ふむ、やっぱりでかい。
玲奈はディフェンスをあっさりと抜き、ディフェンスがカバーに来たと同時にフリーになった4番の子にパスを渡した。
ボールを受け取った4番の子は鮮やかにバックシュートを決めた。
「うわぁ、妹さん上手だね!」
「いやぁ、それほどでも無いですよ……」
玲奈が褒められて何だか自分のことのように嬉しい。
玲奈の高校がディフェンス側になったが、玲奈は相手からボールを奪い取ると、そのままゴール目指して走った。
「はっや! 鎌田君の妹さん、足早速すぎでしょ!」
莉子さんは玲奈の足の速さに驚いていた。
確かに速い。相手の選手は誰も追いつくことができず、そのままシュートを決めてしまった。
その後の試合展開はと言うと、実に一方的であった。
玲奈を中心に着実に点数を稼いでいき、ディフェンスに関してはそのほとんどがシュートに入る前にボールを奪い去っていった。
最終的なスコアは76対21という50点差以上つけて、勝利した。
ちゃんとは数えていないが玲奈は30点以上は決めていた。
「ねぇ、鎌田君。私、知り合いの子に会いに行こうと思うんだけど、鎌田君も行くでしょ?」
「え、いや俺はいいですよ……」
「えー、何でー? 私、妹さんに挨拶したいなー。ね、お願い!」
「分かりました。行きますよ」
少し気まずいが仕方ないか。勝手に応援に来たから玲奈の奴、怒るかもしれないな。
一階に降りると、入り口付近で玲奈と4番の子が話している姿が見えた。
「おーい、梓ちゃーん!」
莉子さんが4番の子に手を振った。
一方、玲奈は俺の方に視線を向けると、不機嫌そうに眉を顰めた。
うわぁ、やっぱり怒ってるよな……
「莉子さん! お久しぶりです!」
「鎌田君、紹介するね! この子が村上梓(むらかみあずさ)ちゃん。中学の時、一緒にバスケしてたんだ!」
「そうだったんですね」
莉子さんが中学時代にバスケ部だったというのは前に聞いたことがあった。
なお、俺と莉子さんが通っている高校にもバスケ部は存在するが、のんびりしたかった為、オカルト部に入部したらしい。
「お兄ちゃん。もう、勝手に来ないでよ……」
「悪かったよ。紹介しておくな。この人は及川莉子さん。同じ部活の先輩なんだ」
「いつもダメな兄がお世話になっております。鎌田玲奈です」
玲奈は軽く頭を下げて挨拶をした。ん、なんだこの違和感は。
口調こそ丁寧だが何となく怒っているように感じる。
そう、俺ではなく莉子さんにだ。
「いえいえ、こちらこそ! さっきの試合見てたよ。すっごくバスケ上手なんだね!」
「いやぁ……兄が来たせいかいつもよりも遥かに調子悪かったですよ」
そうなのか。というか、俺が観客席に居たの、知っていたのか。
出来るだけ目立たない席を選んだつもりだったのだが。
「え、玲奈。調子悪いって……今日、どう考えても調子よかったじゃん」
「そ、そんなわけないじゃ無いですか梓先輩! いつもなら40点、いや50点は取れたんです!」
何故か玲奈が慌てだした。しかし、すごいな。いつもなら4、50点も取れるのか。
「そんなに否定しなくても……お兄さんが来て嬉しかったんでしょ?」
「本当に違いますから! 兄が来て超絶迷惑でしたから! すみません……私、この後ちょっと用事があるので帰りますね。莉子さん、兄のことをこれからもよろしくお願いします!」
「うん、任せておいて!」
莉子さんは控えめな胸をドンと叩いた。
何かで揉めない巨乳より揉める貧乳という言葉を聞いたことがあるが、俺の場合は巨乳を揉めて貧乳の方を揉めないな。
「それじゃ、失礼します!」
玲奈は体育館から出て行った。何なんだあいつ。あんなに慌てて。
「ねぇ、梓ちゃん。この後、喫茶店に入らない?」
「行きます! 是非お願いします!」
「よかった。ねぇ、鎌田君も来るでしょう?」
「え、俺もですか? それはさすがに悪いですよ……」
同じ中学出身同士、積もり話もある為、悪いと思った。
それに女子会特有のガールズトークとかも俺がいればできないだろう。
「えー……梓ちゃんはどう? 鎌田君が一緒でも大丈夫?」
「勿論です! いや、寧ろお願いしたいくらいです!」
「そうですか、それじゃお言葉に甘えて……」
「やったぁ! それじゃ早速行こうか」
こうして三人で喫茶店に向かうことになった。
今回の話が折り返し地点となります。
最終話までお付き合いいただければ幸いです。