人物:符离集烧鸡(弟)×德州扒鸡(兄)
設定:空桑に行かない(行く前)の世界線
内容:符徳、符徳(誘い受け/(悦)のみ)
OoC等:寛容な心で読んでね
※公式設定で血の繋がりはないとされています
※時系列やストーリーが短編小説「魔薬」の直後からになります。話を読まないとわからないかも。(https://syosetu.org/novel/260377/)
※エロだけ見たい人は(下)・(悦)まで飛ばしてね。
あくる朝、符離は出勤のためにシャワーを浴びていた。
昨夜の出来事が響いているのか、徳州はまだ起きてこない。
符離は一晩中德州の様子を見て隣に居たため、実質徹夜のようなもので重い眠気を感じていた。それに恥ずかしいことに散々泣いてしまったので、妙に体力を消耗していた。
符離は風呂場から体を拭いて出ると、台所で適当なものをつまみ、制服に袖を通す。今日も仕事だ。
時計を確認すると出勤まで20分ほど余裕があったので、符離は徳州の部屋へと足を運んだ。ドアをノックするも返事がなかったので符離は構わず部屋に踏み入る。
そこには符離がシャワーを浴びる前と同じ光景が広がっており、熱のある徳州が額に汗を滲ませながら苦悶の表情で眠っていた。
符離は兄の傍にやってきて屈みこむと、何度もしたように兄の額の汗をタオルで丁寧に拭った。起こそうか迷ったものの、この体調ではどうせ仕事も無理だろう。
そう判断した符離はタオルを置いて立ち上がった。すると手の甲に触れる感触があった。再び兄に視線を戻すと、先ほどの接触で目を覚ましたのか、徳州が薄目を開けて符離を見つめていた。
符離は再びベッド脇に屈み、椅子を引き寄せて座った。
「起きた?」
符離は兄の手を握ってキルトの中へ仕舞った。
「今日は休めよ」
考えていることを察して符離は先手を打つ。案の定彼は弱々しい声で反論した。
「駄目だ。休みを申請していない…」
「病欠で言っといてやるよ」
「行かないと迷惑がかかる…」
明らかに体調が悪いくせに彼は頑固だった。キルトをめくり、起き上がろうとする。
「心配しなくていいから」
肩を掴み、符離は兄を力で再びベッドに押し込んだ。
「それともまた手錠でベッドに繋いでおこうか?」
「…今度は外すよ」
弟の冗談に徳州は皮肉を返す。符離は呆れたように肩をすくめた。
符離が見ている前で徳州は身を起こし、ベッドサイドに足を下ろして立ち上がろうとした。符離は仕方なく椅子を片づけて部屋を出ようとする――
その後ろで、水音がした。
(え?)
何気なく振り返った符離の視界に入ってきたのは、兄が床の上に膝をついて吐き戻している姿だった。
「お…おい!」
慌てて駆け寄るが、嘔吐は止まらない。
符離は内容物を直視しないようにして、兄の背中をさすった。
一方、滅多にない嘔吐に、徳州自身も驚いていた。
たしかに熱があるようだったし、腰が痛いのもあって体調は悪いのだろう。胃もしびれているように感じてはいたが、立ち上がろうと体に力をいれた瞬間、口内に唾液が一瞬にして溢れ、止める間もなく吐いてしまった。胃液臭さの中から染み付いたような精液の匂いが混じり、しかめた顔から我知らず涙が滲み出た。
符離は黙って苦しそうな徳州の背中をさすり続けた。
いつも堂々として立派な態度に見える兄は、物事は神経質なまでに完璧にこなし、もちろん生活面においても自己管理を徹底していたので、滅多に病気の姿を見ることはなかったのだ。符離は罪悪感を感じずにはいられなかった。
「今日はもう休めよ。そんな日もあるって…」
符離は彼なりに兄を慰めた。
ようやく吐き気の収まった徳州は、気落ちした声で呟くように言った。
「不甲斐ない…」
符離は半ば抱えるようにして兄の肩を担ぐと、洗面所に連れ込んだ。
徳州は水道水で口を濯ぎながら、また小出しにいくらか吐き続けた。
符離はその間に兄のベッドルームに行き、散らかった吐瀉物――幸いベッドサイドのマットレスの内に収まっていた――を巻き上げ片付けてごみ袋にぶちこみ、飛沫を雑巾でスピーディに拭った。
再び洗面所に戻ってくると、呆然と洗面台に向き合ったままの徳州に風呂に入るように勧め、湯船の栓を捻った。
「ベッドは俺んとこ使っていいから、心配すんな!」そして仕事道具のバッグや帽子を掴むと「行ってくる!」と叫んで玄関を飛び出した。
家に残された徳州はしばらく洗面台の前で水を飲んでは吐くことを繰り返していた。時間が経ちすぎているが、とにかく胃から精液を追い出さないといけないようだ――。
昔在籍していた軍隊の通過儀礼で、そのような知識を見聞きしたことがあったが、まさか自分の身に起こるとは思ってもみなかった。
昨夜のことは最後まで覚えていないが、もし腸内にも残っているようならそれも洗浄しないとますます体調を崩してしまう…。
彼は今でも隙さえあれば背筋が反り返るほどの痛みを訴える肛門に手を触れたくなかった。それくらいなら腹痛で寝ていた方がましではないか。
徳州はぼんやりした頭で浴室へと足を踏み入れた。
幸い符離が浴槽にお湯を貯めてくれていたので、徳州は何も考えずにその湯へ手を入れた。熱い。水を足す。
熱が薄まっていくその間にも眩暈が加速し、彼は座り込んで浴槽のへりにもたれかかった。いけない、寝てしまう。
徳州は諦めてまだ少し熱い湯船に沈むように浸かった。束の間息ができなくなるが、全身がべたついた汗から解放されて気持ちよかった…。
ふと気づくと、彼は水で息をしようとしていた。
とっさに活性化した脳が体を浴槽から引き揚げ、飲み込んでしまった湯を胃や肺から絞り出した。何度目の嘔吐かもう数えられない。
徳州は余計重くなった体を湯船から引き揚げると、ずぶ濡れの体にバスタオルを巻き、弟の部屋へと濡れた足で歩いた。
そしてベッドのキルトをめくるや否やそこに転がり込み、バスタオルに顔を埋めて再び寝入ってしまった。つらい記憶も、不条理な現実も、哀しい気持ちも、彼はもう何もかも受け取りたくなかった。
***
符離は上司に理由を話し、手早く仕事を済ませて早退すると、足早に最寄の診療所の老医を連れて急いた気持ちで帰宅した。とにかく德州の体調を戻してやらなければならない。
半ばこじ開けるように玄関を開けブーツを脱ぎ捨て、兄が寝ているはずの符離の寝室に直行する。
その途中、びしょ濡れになった床を靴下で踏んでしまい、符離は不快感に驚きの声を上げた。
(…変だな?)
あの几帳面な徳州が水のたれた床を放置するなど信じがたい。しかし水跡は浴室を出て符離の寝室にまっすぐ伸びていた。符離は半開きになった自室のドアから室内を覗く。
カーテンに閉ざされた薄暗い部屋のベッドの上に、徳州が俯せで横たわっているのが見えた。――何も着ないままで。
「うわあっ!? なにやってんだ!」
符離は慌てて後ろ手でドアを閉めて老医から恥ずかしい光景を隠すと、ベッドに駆け寄った。
德州は塗れたバスタオルに顔面をつっ込み、まるで死体のように昏々と眠っていた。
「いつもだらしがないって人に言うくせに自分もこのザマじゃねーか!おいっしっかりしろ!」
符離は徳州の肩を掴み仰向けにした。触れた肌はひやりと冷たく、おそらくかなりの時間この体勢のまま眠っていたのだろう。
抱き起された德州は、赤くなった顔で荒い息をついており、試しに額を触ってみるととても熱かった。回した腕からじっとりと濡れたままの髪の感触が伝わってくる。
「馬鹿野郎…。」
符離は体調の悪い徳州を置き去りにしたことを後悔した。これほどとは思わなかったのだ。
彼は急いで徳州の体格でも着れそうな服を衣装箪笥から探し出すと、手早く着せ、キルトを被せた。
慌てて部屋から出て室内を見回すと、老医はダイニングの椅子に腰を下ろし、脚を休めているところだった。
「爺さん、待たせたけど診てくれねーか…」
符離は気まずそうに老医に頼んだ。
老医はやれやれと立ち上がると、符離の部屋に足を運んだ。
診察をしながら、符離に朝から今までの徳州の様子を確認していく。
「特に身体的な異常はみられんが…熱さましと漢方薬を処方しておくよ」
「ありがと。あと、それと、…」
符離は歯に物が挟まったようにもごもごと言い淀むと、老医を部屋の外へ連れ出した。
そして、しどろもどろに昨晩の行為で出血したことを伝えた。
「馬鹿者!!」
途端、年齢に見合わない大声で怒鳴られてしまった。雷が落ちたような声に、符離は反射的に首をすくめた。
「お前さんにはあとでたっぷり言うことがあるから、そこで待っとれ。まずは処置をするから」
老医は再び德州が寝かされている符離の部屋へと入っていった。
符離は胃が冷えるような思いで立ち尽くし、老医を待つのであった…。
***
德州は朦朧とした意識で夢を見ていた。
誰もいない駅のホームに腰を下ろして線路を見ていると、見慣れた小さな姿がひょこひょこと枕木を跨いでやってくるのが見えた。蜂蜜色の髪に真っ赤な瞳。符離だ。
「阿符ー!」
徳州はホームの淵から線路に着地すると、小走りに子供のもとへ駆け寄り出迎えた。
表情を緩めて小さな体を抱きとめようと身を屈めたとき、突然第三者に力強く突き飛ばされ、徳州は尻もちをついた。
驚いて徳州が顔を上げると、そこには鉄道警官の制服を身に着け、ライフルを構えた少年の符離が立っていた。
「…誰だよテメーは。人の名前を気安く呼びやがって」
いぶかし気な顔には冗談の気配の欠片もなく、徳州には彼が本気でそれを言っているのがわかった。また忘れてしまったのだ。何もかも。
「…ごめん。気にしないで」
徳州はズボンの土ぼこりを払いながら立ち上がり、警帽を真っすぐにかぶり直してその表情を隠した…。
徳州にしてみれば、符離が幼いころから『阿符』と呼び弟のように愛し面倒を見て可愛がっていたのだが、食魂である彼は魂力が尽きるとその都度消滅してしまい、次に巡り会う時にはもう彼は徳州のことをほとんど忘れてしまっていた。
符離が生まれ変わりを重ね、体が大きくなり、知恵をつけるにしたがって、徳州が自分の名前を知っていることについて訝しむようになった。
それを察した徳州はあえて初対面の他人のふりをするようになった。その心中に積み重なる孤独と寂しさは言うまでもない。いつからか彼は、自分が傷つかないように心の中に初めから壁をこしらえておくようになった…。
そんなことを思い出しながら、それでも目の前の符離と話をしたくて、徳州は言葉を探してそこに留まった。なんとか自分のことを符離に知ってほしい。思い出せなくても、また新たに繋がりたい。
「…貴方はどこからやってきたのですか?」
当たり障りのない質問を投げかける。しかし符離は反抗的な態度で質問を一蹴した。
「そんなことを知ってどーすんだよ。だいたいテメーはいつも説教ばっかしやがって、うぜーんだよ」
「符…?」
自分のことを知っている…?
徳州は混乱した思考を抱え、再び符離に目をやった。彼はライフルの先に着剣すると、威嚇するようにそれを徳州に向かって振るった。
「俺に構うな。お前は出来のいい正義の警官様として、勝手にすればいいだろう!」
「符…、符。何を言って…」
徳州は弟との距離を縮めようと足を踏み出す。
その瞬間、胴になにかがぶつかり衝撃が走った。
ゆっくりと視線を下ろすと、そこには知らない誰かが徳州に密着するように体を付け、手にした刃物を脇腹深くに刺し込んでいた。
「え…?」
考えが追いつかずに徳州がふらふらと後ずさると、その誰かはライフルを握った符離に陽炎のように化け、彼は憎しみのこもった真っ赤な瞳で徳州の腹から銃剣を引き抜いた。
「徳州。お前のせいで俺は――」
一気に血の気が引いた徳州は膝を折って地面に崩れ落ちる。その両足を持って符離が徳州を引きずり、ソファに乱暴に投げ捨てると、彼はさらに銃剣を振り上げた。
「待って…やめて、符!阿符!」
デジャヴが徳州の脳を横切った時にはすでに遅く、鋭い痛みが下腹部を襲い、何度も何度も腹に銃剣を突き刺す符離を止めるべく、彼は声の限り悲鳴を上げた。
***
老医から二時間に及ぶ説教を受けた後、符離は付ききりで兄の傍にいた。
夕方になり、昼を食べていなかった符離は腹を空かせていたが、日々の食事を兄に任せていた彼に調理の知識はなく、仕方なく干しブドウや出汁用の小魚を食べて空腹を誤魔化した。そしてラフな服に着替えて徳州の眠るベッドに潜り込む。どうせ傍にいるなら一緒に寝てしまえばいい。
兄の体はひどく熱っぽく汗ばんでいたが、符離は体をくっつけるようにして横になり、じりじりと熱を奪いとろうとした。
その最中、熱で朦朧とした德州が何度もうわ言を囁くのを聞いた。
(「阿符…どうして…」)
(「いたい…!いたい…!」)
(「いたいよ…もうしないで…」)
(…。)
自分のしたことを再確認するのに、これ以上の罰はないだろう。符離は呻き続ける兄をただしっかりと抱きしめ続けた。
「もうしない…。だからもう泣かないで…」
村から連れ出されて以来、気が付けばいつも徳州が隣にいた。正直小言ばかりでうんざりしていた。何度離れて欲しいと思ったことか。
しかし裏を返せばそれは、兄が常に自分のことを気にかけ、守ってくれていたという証拠でもあるのだ。
彼のもとに来てから空腹で耐えられなくなったことは一度もなかったし、寒い野外で夜を過ごしたこともなかった。ならず者に囲まれてのめされることもなかったし、村にいた時のような不当な扱いを職場で受けることもなかった。
どれほど喧嘩をしても、彼はひとつ屋根の下に必ず迎え入れてくれた。
彼にとって兄は憧れであり、太陽をふさぐ雨雲のようでもあった。
彼が居なければ自分にチャンスが回ってくる。
彼が居るから安全と安心を得られる。
まだ幼い彼にとって、この二つの矛盾と感情をすり合わせるのはとても難しかった。
しかしその心の隙間を縫って、別の不思議な感情が沸き上がってくるのを彼は感じていた。
(兄貴を傷つけずに済むように、もっと大人になりたい…。)
それは符離が初めて感じる、意志とも呼べるものだった。