なのはがフェイトと再開してから数日は、同じような日々が続いた。
とは言っても、それは決して安穏な日々ということではない。
なのはが違和感を感じ始めたのもここからだった。
相変わらずひどい激痛を伴う薬剤の注入が行われていたのだが、その箇所がおしりだけでなく、胸や股間部分に変わっていったのだ。
そして、失禁を抑えきれない程の痛みを毎回与えられる。でも、その中で、別な感覚も少しずつ生まれてきていることに気づいてしまった。
痛いのに、その中にそれを何処か心地いいと感じるようになってきているのだ。
なのはは自分の躰が、カルダモンの言うとおりに淫らなものに変わっていることを理解し、不安と恐怖を懸命に抑える。
それに……。
朝も昼も夜も、自室から出て、あの部屋で三人で食事をさせられることになったのだが、まともな食事を三食食べられるのは二人だけ。あとの一人は錠剤が二錠。しかも、朝にそれを飲んだら終わりなのだ。
「駄目だよ。今日はユーノ君が食事を食べる番だって約束したじゃない!」
なのははつい声を荒らげてしまう。
この一週間、ユーノは何かと理由をつけて自らは錠剤を飲むことを選び、なのはとフェイトにそれを飲ませようとはしなかった。
明日は私が錠剤を飲むと、なのはが何度も言っているのに、ユーノは決してそれを聞いてはくれない。
「僕は、大したことはやらされていないから……」
ユーノは困ったように笑い、なのはを、そして、正気を取り戻し始めたフェイトを宥め、錠剤を飲み込んだ。
でも、なのはは知っている。
『ユーノ君はすごいわねぇ。攻撃系統の魔法が使えないだけで、体術の才能もあったなんて。ついついどこまでできるのかなって、実験にも熱が入ってしまうわ』
カルダモンが彼女の躰を改造する過程で、ユーノのことを褒めていたから。
魔法で癒やしているのだろうが、体の傷が消えきっていない日もある。
それは、かなりの深手を負い、魔法の力でも治しきれないほどになっているということ。
「このままじゃあ、ユーノ君が倒れて……。ううん、ユーノ君が死んでしまうよ!」
なのはは瞳から涙をこぼしながらも、懸命にユーノに訴える。
嫌だ。こんな訳のわからないところで、ふざけた実験でユーノ君が死んでしまうなんて。
「……大丈夫だよ。僕は、なのはとフェイトを残して死んだりはしないから」
言葉とは裏腹に、ユーノの顔には疲労の色が濃い。
どうしてこんな無茶を、無理をするのだろう。
私がどれほど心配していると思って……。
なのはが怒りとともにそう思ったときに、不意になにかが頭をよぎった。
それは、ユーノ君が怒っている顔。
涙を流しながら、悲しみと不安と怒りが織り交ぜになった必死な表情。
そして、頭の中に誰かの声が聞こえてくる。
『貴女にそんなことを言う資格があるのですか? 周りを気にせずに無茶をして、心配をかけてばかりいたのに? 他者の心配を、忠告を無視して無茶をしていたのに?』
その声とともに、映像が浮かんでくる。
それは、もう少しだけ成長した自分。
……ああ、そうだ。あれは十一歳の時だ。
溜まりに溜まった無茶のツケで、任務中に大怪我を負ってしまった。
あの時、ユーノ君は病院に駆けつけて。私が意識を取り戻すまでそばにいてくれただけじゃあなく、意識を取り戻した私を抱きしめて、私を叱ってくれた。
そして、つらいリハビリの際にも何度も顔を出してくれて。励ましてくれて。
それなのに、私はそれからも何度も無茶をして……。
『そう。心配してくれる男性を、高町なのはという最低の我儘な女は、八方美人であろうとするビッチは、軽んじていた。侮辱していた』
もう一度頭に響く侮蔑の込められた言葉に、なのは力なく崩れるように冷たい床に腰をおろし、両手で顔を抑えて震えだす。
「なのは! どうしたんだ?」
「なのは! どうしたの?」
ユーノとフェイトの心配する声が聞こえ、なのははそちらを向く。
そこには、心から自分のことを心配する二人の顔があった。
……こんな優しい気持ちを、自分は軽んじていたのだ。
「ごめんなさい……。ユーノ君、フェイトちゃん……。私は、私は……最低……」
気持ちばかりで意味が通じない言葉を繰り返し、なのはポロポロと涙をこぼし続ける。
「なのは……。疲れているんだよ、きっと。……大丈夫。僕がなんとかするから。カルダモンに掛け合ってみる。とりあえず、フェイトと一緒に朝食を食べていて」
ユーノはなのはの頭にポンと手をやり微笑むと、部屋を出ていこうとする。
「駄目です、ご主人様。そんな要求をしたら、また無茶なことをやらされるに決まっています!」
不意に、フェイトがそう言って止めようとする。
その言葉に、なのはは今までも、自分の知らないところでユーノが無茶をしていた事を理解する。そしてそれは、自身のためではなく、自分やフェイトのためであることは容易に想像できた。
「フェイト……。なのはを頼むよ」
ユーノは困った顔をしながらも、微笑んで部屋を出ていった。
「……ご主人様」
フェイトは心配そうに、閉じたドアの方を見つめ続けている。
それから、フェイトはなのはに食事を一緒に食べようと促してきた。
ご主人様――ユーノが私達のために譲ってくれたのだからと言って。
なのははその言葉に頷き、食事を口に運ぶことにした。
「……大丈夫だよ。ご主人様の事は、私に任せておいて」
同じ部屋で過ごしているフェイトが、優しくなのはに語りかける。
それは、優しい言葉だったのだろう。
けれど、なのははここで何かが心のうちから湧き上がってくるのを感じた。
黒い、ドス黒い感情が、なのはの心を塗りつぶしていく。
「うん。お願いね、フェイトちゃん……」
それでも懸命にその気持ちを抑え込み、なのははなんとか笑顔を作る。
そして、食事が終わって間もなく、カルダモンがユーノと一緒に部屋にやってきて、なのはに対する実験を今日は中止する事を告げてきたのだった。