明日は、この場所に連れてこられてからの初めての休日。
それがユーノの犠牲の上に成り立っていることを理解している高町なのはは、罪悪感とともに眠りについた。
だが、目を覚めた時には、もう昼過ぎだった。
「ごめんね、ユーノ君……」
連日の拷問じみた実験の影響で、体が休息を必要としていたのだろう。だから誰にも起こされることがなかったためにこんな時間まで眠ってしまった。
そんな言い訳が頭に浮かび、なのはは一層罪悪感に押しつぶされそうになる。
「……とりあえず、シャワーを浴びよう……」
なのはは自分に言い聞かせるように言葉を口に出し、シャワー室に向かう。
シャワーと歯磨きを済ませたなのはが服を身に着けたタイミングで、コンコンと入り口のドアがノックされた。
わざわざノックをするのであれば、カルダモンではないだろう。
なのはは「はい」とそれに応え、入口に向かう。
入口のドアに触れると、そこには金色の髪の友人が、フェイトが湯気の立っている温かな料理の乗ったプレートを持って立っていた。
「よかった。目を覚ましていたんだね、なのは」
フェイトは嬉しそうに微笑み、「昼食だよ」と言って、なのはにプレートを静かに手渡してくる。
「あっ、ありがとう、フェイトちゃん。……その、もしかして、朝食も運んでくれたのかな?」
「……うん。勝手に部屋に入ってごめんね。なのはが気持ちよさそうに眠っていたから……。朝食も一応部屋に置いておいたんだけれど、すっかり冷めてしまったから回収もさせてもらったの」
フェイトは困ったように微笑む。
「……ごめんね。貴重な食事を……」
今日もユーノ君は食事を取らずに、あの薬のようなものを飲んだだけなのだろう。それなのに、自分は寝過ごして食事を無駄にしてしまった。それは、ユーノ君の気持ちを無下にしたということだとなのはは落ち込む。
「あっ、その、大丈夫。ご主人様は、なのはが眠っていることを知って喜んでいたから」
表情から察してくれたのだろう。フェイトはそう言ってくれる。
「ユーノ君が?」
「うん。『ゆっくり休んでくれているのならなによりだよ』と言って笑っていたから」
「……ユーノ君……」
なのはは罪悪感とともに、胸の奥が温かくなるのを感じる。
どれほど彼が自分を大事に思ってくれているのかが分かり、ぽろぽろと涙もこぼれ落ちてきた。
「なのは、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
なのははにっこり微笑み、なんでもないよと言わんばかりに笑顔を見せる。
「……そう。それなら、よかった……」
フェイトは何故か少し顔を俯けていたが、すぐに顔を上げて微笑んでくれた。
――だから、なのはは気が付かなかった。
この時のフェイトの声が、少しだけ低かったことに。
「あまり長話をしていると、カルダモンにご主人様が注意されるかもしれないから、部屋に帰るね。食器は後で片付けに来るから、部屋の前に置いておいて」
「うん。ありがとう、フェイトちゃん」
なのはは笑顔でお礼を言うと、フェイトは小さく頷いた。
そして、フェイトはなのはの部屋を後にした。
だから、なのははドアが閉まった後に、フェイトがどんな顔をしていたのか知らないのだった。
△
この施設からの脱出方法などを考えたが、結局それは徒労に終わった。
レイジングハートを奪われて、魔法が使えない私には何もできることは出来ないことを思い知らされただけだった。
部屋の外に出ることも考えたが、下手に見つかれば、自分だけでなく、ユーノ君とフェイトちゃんにも迷惑がかかってしまうと思うと、行動に移せなかったのだ。
私は結局、ユーノ君とフェイトちゃんと夕食を食べて談笑し、部屋に帰ってきた。
何もせずに、ただの休養にこの貴重な時間を使ってしまったのだ。
けれど、ユーノ君は、「顔色が少し良くなったね」と言ってくれた。
それだけが救いだ。
また明日から辛い時間が訪れる。けれど、耐えて三人で脱出できる機会を待つしかない。
私はそう考え、早めに休もうと思った。
けれど、そこで不意に部屋のドアが開かれた。
そこにはカルダモンが立っている。
「なっ、何の用なの!」
私は精一杯の強い声で、カルダモンを威嚇する。
「あらっ、一日休んだら、すっかり生意気な口を利くようになって。これは明日からの実験をより過酷にしないと駄目ね」
「くっ……」
悔しげな顔を擦る私に、カルダモンはにっこり微笑む。そして、左手の指をパチンと鳴らした。
「えっ?」
驚く私を後目に、カルダモンは天井の一部が降りてきて、巨大なスクリーンとなったことに満足気に頷く。
「もう、冗談よ。実験は万事予定通りに進めるわ。じっくり貴女をビッチに変えてあげるから、楽しみにしておいてね」
「わっ、私はそんなものにはなりません!」
私の宣言に、カルダモンは何がおかしいのか喉で笑う。
「ふふっ。いつまでそんな事を言っていられるかしらね」
カルダモンは楽しそうに言い、
「まぁ、躰の方はバッチリ実験で淫らにしてあげるけれど、なのはちゃんをほんとうの意味でビッチに変えるためには、やっぱり性的な知識を覚えさせる必要があると思うの」
そんな訳の分からないことを続ける。
「でも、なのはちゃんに教えても、素直に覚えようとしないでしょう? 脳に直接データを送り込む方法もあるけれど、少しのミスで廃人になってしまうから、それももったいないわ。だから、自主的に勉強してもらおうと思ってね、教育用の動画を流すことにしたわ」
「そっ、そんなもの、見ません!」
私は懸命に否定したが、カルダモンは以外にも、「ああ、見たくないなら見なくてもいいわよ。見るか見ないかは任せるわ」と言ってきた。
私がその事を怪訝に思っていると、カルダモンは直ぐ側まで来て、片手で持てるくらいの大きさの縦長の長方形の物体を私に見せてきた。
「貴女のいた世界のテレビと操作方法は同じよ。この電源ボタンを押すことで映像を止められるわ。そして、これで音量調整。大丈夫。この部屋は防音だから、外に漏れることはないわ」
「ですから、私はそんな物を見ませ……」
私の言葉は最後まで続かなかった。
突然部屋に、声が響き渡ったから。
よく知った女の子の声が。……フェイトちゃんの声が。
「ちなみに、この放送は生放送。今、ユーノ君のお部屋で実際に起こっている事よ。それじゃあ、ごゆっくり。音漏れ防止のために部屋の扉は鍵をかけておくからね」
カルダモンは驚愕する私を放って、部屋を出ていった。
けれど、私は眼の前の画面に映される映像に魅入られていた。
そこには、フェイトちゃんとユーノ君が同じベッドに横たわっている姿が映し出されていたのだ。
「あの、ご主人様……。今日こそは、私にご奉仕をさせて下さい……」
フェイトちゃんはユーノ君の背中に抱きついている。
掛け布団を掛けているはずなのに、何故かそれが半透明で、二人の姿がよく見えてしまう。
「だっ、駄目だよ、フェイト。こんな事をしなくていいから。僕は君とそんな事をするつもりは……」
「ですが、私と同衾をカルダモンに命じられてから、ご主人様は安眠できていないと思います。私のせいでお辛い思いをさせているかと思うと……」
フェイトちゃんはユーノ君を背中から抱きしめて、「失礼します」と言うと、右手をユーノ君の股間に伸ばして行く。
「駄目だよ、フェイト。触らないで……」
「やっぱり、固くなっています……」
罪悪感で赤くなるユーノ君。そして、何故かどこか嬉しそうに微笑むフェイトちゃんに、私の喉はカラカラになっていく。
「私の躰で反応して下さっているんですよね? なのはではなく、私で……」
フェイトちゃんは微笑んでいた。けれど、それは普段の彼女のそれとは全く別のものだった。その笑みに浮かんでいるのは、羞恥と女としての愉悦。
自らの躰で、魅力で、雄を反応させた事に対する雌としての喜びと、他の雌ではなく、自分が選ばれたという特別性に陶酔した笑みだった。
何故、愉悦という言葉が頭に浮かんだのか。こんな事を知らないはずの幼い自分がこの行為をここまで明確に認識できるのか。
それを疑問に思うほどが出来ないほど、私は大切な人と親友の二人が織りなす情事から目が離せない。
そして、二人の行為はそこから更に淫らなものになっていくのだった。