どうして? なんで?
ユーノ君が私にこんな怖い顔をするのだろう?
だって、ユーノ君がフェイトちゃんとあんなことを、厭らしいことをしたんだよ。私というものが有りながら。
だから、私はい居ても立ってもいられなくて、自分の部屋を出てここまで来たんだ。カルダモンは鍵をかけ忘れていたみたいだったから。
私が混乱する中、不意に部屋の扉が開いた。そして……。
「失礼いたします。ユーノ様……」
カルダモンが入ってきた。けれど、彼女はいつものニヤけた笑みを浮かべず、美しい佇まいでユーノ君に頭を下げる。
「あっ、こんな格好ですみません、カルダモンさん」
ユーノ君は掛け布団を手に取り、自分とフェイトちゃんの体をそれで隠す。
「いいえ。こちらこそ、今までの数々のご無礼をお許しください。この命どころか魂を捧げても足りず、それこそ『名抜き』でも生温いほどの大罪を犯しました。いかなる罰も受ける所存です」
「いいえ。僕の我が儘を聞いて頂けたことに感謝しています。おかげで、僕は強くなれたみたいですし……」
カルダモンとユーノ君の会話が分からない。
同じ言語を使っているのに、私には分からない。
「そうだ、フェイト。もしかして君も、記憶が戻っているんじゃあないかな?」
「……はい。記憶は殆ど戻っています」
「うん。それなら、なのはの方に付いてもいいよ」
ユーノ君はフェイトちゃんにそう言うと、どこか寂しそうに微笑む。
……分からない。何がなんだかわからない。
私は、一人だけ取り残されている状況に戸惑うばかりだった。
「……いいえ。ユーノ。私は、貴方の事が好きです。愛しています。ですから、どうか貴方の側に置いて下さい。身も心も、それこそ魂さえも貴方に捧げます。『名抜き』のように、七度この魂がすり減って消滅しても、それでも貴方に喜んでもらえる、奉仕をさせて頂ける存在に生まれ変わり、お使えします」
フェイトちゃんは掛け布団から出ると、そう言ってベッドの上でユーノ君に裸で土下座した。
「……フェイト……。でも、君は、なのはを……」
「いいえ。ユーノ様。彼女の気持ちは本物のようですよ」
ユーノ君にカルダモンがそう言うと、フェイトちゃんの体が輝き出した。
そして、急速に体が成長していく。
「あっ、ああ……」
あっという間に、フェイトちゃんは大人の姿になった。胸が大きく、腰はくびれ、おしりも小さいのに肉付きがある女の姿に。
「……綺麗……」
そう思いながらも、私は何故かフェイトちゃんのこの姿を知っていた気がする。なんでかは分からない。私たちはみんな同い年で、子供のはずなのに。
今はそんなことはいいと思いながらも、でも少し違和感を感じてしまう。今のフェイトちゃんは綺麗すぎる。美しすぎる。私がなぜか持っている記憶と比較して、あまりにも。
「ふふっ、どうですか、ユーノ様。これが、フェイトに施した調教の成果です。そのフィジカルスペックは倍以上になっておりますし、女としての機能はそれ以上に上がっております。そして、彼女自身が貴方様との因果を結ぶことを希望した時点で、それは何者にも決して破れない制約になっております」
「制約、ですか?」
「はい。彼女の生い立ちは理解しております。もしも時間を巻き戻してしまった場合、あの女に酷使され続けて命を失う可能性も少なからずあったのですが、その因果よりも貴方様と出会う因果が優先されるようになりました」
「そうですか。よかった……」
カルダモンとユーノ君は、私の存在などないかのように、よくわからない話を続ける」
「ユーノ様もどうぞ元の姿にお戻り下さい。修行はほとんど終わっておりますので」
「はい。本当にありがとうございます」
「いいえ。先にも申し上げましたとおり、私は貴方様に害を加えました。どうぞ何なりと罰をお与え下さい。私はどのような罰でも謹んでお受け致します」
「それは、僕のお願いを叶えてくれたからではないですか。僕は感謝こそすれ、罰など与えられませんよ」
「ですが……」
カルダモンは本当に申し訳無さそうにユーノ君に謝り、彼はどうしたものかと困っている。
なんなのだろう、これは? だって、カルダモンは私達に酷いことをする悪い人で……。
「それでは、その申し訳ない気持ちを持ったままでいるというのが罰というのではどうでしょうか?」
「いけません。それではあまりにも軽すぎます!」
「いいえ。そんな事はありませんよ。それに、本当に僕は貴方に感謝しているのです」
ユーノ君は静かに立ち上がると、にっこりカルダモンに微笑んだ。
その笑顔が私ではなくカルダモンに向いていることに、私は戸惑いとともに怒りを覚える。
「おかげで、僕は……」
ユーノ君の体が輝いたかと思うと、あっという間に大人の姿になる。
細いのに筋肉がついていることがわかるその裸身は、私には、フェイトちゃんのそれよりも魅力的に見えた。
それに、初めて見た。大人の男性の男性器を。子供の時の少し可愛いそれとは明らかに違う、男性を象徴するシンボルは、私にはこの上なく卑猥で支配的なものに見えた。
「……あっ」
知らずにユーノ君のペニスに視線が釘付けになっていた。でも、フェイトちゃんがシーツを使って簡易な腰巻きを作ってそれを見えないように隠してしまう。その上、すごく怖い顔で私を睨んでくる。
「なのは。誰の許可を得て、私の御主人様の大切な所を見ているの?」
「えっ、いや、その……」
私は恥ずかしさと申し訳無さで言葉に詰まる。
「好意を寄せて頂いていることを知りながら、他の人に媚びを売ることを優先してユーノを蔑ろにした貴女には、ここを見る資格さえない」
フェイトちゃんはすごく怖い顔をしたまま、私に近づいてくる。
「えっ、何、どうしたの、フェ……」
私の言葉は最後まで続かなかった。
気がつくと、私の体は宙を舞っていた。そして、硬い部屋の壁に頭と肩を激しくぶつける。けれど、その箇所よりも頬が痛い。フェイトちゃんに体が吹っ飛ぶほどに叩かれた頬が。
「なっ、なんで……。どうして……。フェイトちゃん……」
あまりにも理不尽な事に、私は涙を流す。
「なんで? どうして?」
今度は私にカルダモンが近づいて来た。そして……。
お腹に衝撃を受けて、私の体は背後の壁に背中を打ち付ける。
「がっ、ぐっぅぅぅぅっ……」
今まで受けたことのない激しい衝撃に、私はあまりにも苦しくて蹲る。
「ユーノ様とフェイトの記憶が戻った以上、貴女の記憶ももうほとんど戻っているはずでしょう? それなのに自分がした罪から逃れようとしているのですか?」
そう言い、カルダモンはさらに私の顔を蹴った。鼻に鋭い痛みを感じたかと思うと、赤い液体が床にポタポタと落ちる。
分からない。
なんで、なんで、こんなふうに私は皆に怒られるの? 私は何もしていない。
……それに、私だって。私だって、ユーノ君のことが……。
そう思った瞬間だった。
私の体が輝き出したのは。
けれど、それはフェイトちゃんとユーノ君とは違った。
私の前には、一人の大人な女性が現れた。
ううん。私は知っている。この人を。ううん、この人なんて言うのはおかしい。だって、今目の前にいるのは、成長した私だったんだ。