光り輝いたなのはは、何故か二つの個体に分かれた。
一人は、分かれたことが原因か、床に倒れた今までと変わらない幼いなのは。そして、もう一人は、静かに立ちながら、こちらに冷たい視線をこちらに向けてくる、ユーノがよく知っている姿の大人のなのはだった。
「これは、いったい……」
ユーノは、なのはも自分たちと同じ様に大人の姿になるだけだろうと思っていた。それなのに何故という気持ちが、不安が沸き起こってしまう。
不安でカルダモンの方を見ると、彼女も驚いた顔をしていたので、一層ユーノは困惑する。
「……そうなんだ。私達がこの場所に囚われていたのも、幼い姿に変わっていたのも、全部ユーノ君の差し金だったんだ」
大人のなのはは、怒りを押し殺した冷ややかな声で、まるで独白のように呟く。
「それは違います。貴女とフェイトさんの調教をルシリス様から命じられたのは私です」
カルダモンがそう言って、ユーノとなのはの間に割って入る。
「そう。でも、どっちでもいいよ。……レイジングハート……」
なのはがその名を口にした途端、赤い小さな宝石が彼女の右手に現れた。そう、突然現れたのだ。
「なっ! 何故! 厳重に管理をしていたはずなのに!」
カルダモンが戸惑う中、なのははレイジングハートを使い、一瞬で裸身に白いジャケットを纏う。そして、カルダモンなど眼中にない様子で、冷ややかな目をユーノとフェイトに向ける。
「とりあえず、ユーノ君、フェイトちゃん。二人とも服を着て。そのままじゃあ、落ち着いてお話をすることもできないでしょう?」
なのはは懸命に怒りを押し殺しているようだ。本当は今にも、カルダモンとユーノに対して実力行使を試みたいと考えているのは明白だ。
「カルダモンさん、すみませんが、床に倒れている方のなのはの事を頼みます。それと、僕とフェイトの服を……」
「はい。分かりました」
カルダモンはユーノに一礼をし、幼い姿のなのはを抱えて、一旦部屋を出ていこうとした。だがそこで、大人のなのはが一言口にする。
「逃げても無駄だから……。五分以内に戻ってこなかったら……」
「馬鹿なことを言わないで頂けますか? 私はユーノ様の、殿方の命令を必ず遂行します。貴女のような唾棄すべき女と違って」
今この状態で戦えば、絶対にカルダモンに勝ち目はないのは明らかだったが、彼女は臆した様子もなくそうはっきりと答え、部屋を出ていった。
「…………」
部屋は静寂に包まれた。
ユーノもフェイトも、そして、なのはも一言も言葉を発しない。
ただ、三人の表情は同じではない。
なのはは怒っている。それも並大抵の怒りではない。自分を裏切った者に対するそれは、もはや憎悪に近かった。
フェイトは怯えている。怒れるなのはに。けれど、それは自分にその怒りがぶつけられる心配をしているのではない。彼女の大切な男性に向けられることを危惧しての感情だった。
ユーノは静観している。その表情からは思考は読めない。ただ、彼はフェイトの頭を優しく撫でて、無言で安心するように伝えていた。
やがて、カルダモンが衣類を持って部屋に戻ってきた。そして、幼いなのははベッドに寝かせてきたのだという。
それを聞いたユーノは、静かに頷き、カルダモンから受け取った下着と服を身につける。そして、それはフェイトも同様だ。
「それじゃあ、お話をしよっか、ユーノ君、フェイトちゃん。それに、カルダモンさん、貴女も……」
言葉こそ丁寧だが、なのはは、もう怒りが爆発寸前なのは明らかだった。
「それじゃあ、カルダモンさん。僕が特訓で使っていた場所に案内してくれますか? あそこなら建物に被害は出にくいでしょうし」
「……ご配慮に感謝致します」
けれど、そんななのはを尻目に、ユーノはカルダモンになにか指示を出し、なのはの提案を無視する。
「……ユーノ君?」
なのはのその言葉は、最後の警告だったのだろう。もしもう一度無視したら、それが始まりの合図にするぞという。
しかし、ユーノは至極落ち着いた口調で、
「君のお得意の暴力に訴えると言うんだろう? それならば僕は受けて立つよ。ただ、ここで暴れたら被害が甚大になるから場所を移そう」
そう言ってなのはを一瞥し、彼女に背中を向けて歩き始める。
「……わかった」
なのはも渋々だがユーノの言葉に従った。
◇
ユーノ達の後に続き、なのはもその場所に立つ。
それは殺風景な場所だった。
岩に囲まれた平地以外は何もない。どうやら今まで自分が囚われていた施設は地下にあったらしく、エレベーターで上がってここまでやってきた。
しかし、そんなことはどうでもいい。
とにかく、自分をこんなところに閉じ込めて、あんな屈辱を与えたカルダモンと、あのルシリスという女に責任を取らせるだけだ。そして、それには自分を裏切ったユーノも含まれる。
「ユーノ君。本当に私と戦うつもりなの?」
情をかけて、なのははユーノに最後の問いかけをする。
もしもこれで戦うことを止めるのであれば、手荒なことはしないつもりだった。
「ああ。僕が戦わなかったら、君はカルダモンさんを攻撃するんだろう? だったら、僕が君を止めないといけない。君を魔法に関わらせた人間として責任を取らないとね」
その言葉に、なのはの中でユーノは敵になった。
「そう……。その女の人の肩を持つんだね。やっぱりユーノ君は私を裏切ったんだ……」
「何を言っているんだい? 僕を裏切ったのは君だよ」
ユーノはそう言って、フェイトとカルダモンを後ろに下がらせて、こちらに対峙する。
「さぁ、かかっておいでよ、なのは。何でも君の思い通りにはいかないんだって言うことを教えてあげるから」
「ふざけないで! 私はそんなこと思っていない! 私は皆が……」
「もう、つまらない言い訳は聞き飽きたよ。君は誰よりも我が強くて、自分の思い通りにしようとする人間だ。魔法なんて力を持ったせいで。僕が不甲斐なかったせいで……」
(ユーノ君の言っていることは間違っている。私は皆に幸せになって欲しかっただけだ。そうだ、間違っているのはユーノ君! 私は間違っていない!)
なのはは怒りを胸に、ユーノと戦う。
そしてそれは、最初で最後の、二人の戦いだった。