ポップは喜びで胸がいっぱいだった。
ついに、ついにマァムと両想いになれた。
しかも、キスをした。
ファーストキスをマァムと。大好きな女の子と……。
あの時のマァムの可愛い姿を思い出しただけで、顔が緩んできてしまう。
それだけで、もう幸せの絶頂だった。
……けれど、今日の宿の部屋に一人だけ案内され、そこで一人で食事を食べる羽目になると、流石にそんな高揚感も冷めてきてしまう。
そうなると、この一人部屋としては少々大きすぎる贅沢な部屋が、寂しさをいや増していく。
「遅いな、二人共……」
話し合いが終わったのならば、顔を出してくれるはずだ。
だから、浴場にも行かずに待っていた。しかし、一向に二人が戻ってくる様子はない。
皮肉なものだとポップは思う。
この宿屋は、食事を各部屋で食べるスタイルしかないらしく、もしも昼間にマァムと気持ちを確かめ合わなければ、三人で食事を楽しむことができたはずだ。
……きっと、それはそれで幸せなことだったのだろう。
マァムとの仲が深まったことを嬉しくこそ思うことはあっても、それを後悔なんて絶対にしない。
その気持ちに嘘はない。
けれど、メルルの事を思うと、胸が痛む。
初めてだったから。あんなに真っ直ぐな好意を向けてくれた女の子に出会ったのは。
「いつまでも、先延ばしにできることじゃあねぇ。男一人に女が二人……。選ばないといけない。優柔不断でいるわけにはいかないんだ……」
そう口に出して自分に言い聞かせても、心がざわつく。胸が痛む。
特に、今日、メルルが見せてくれた自分が知らなかった一面を思い出すと、堪らなくなってしまう。別れが辛いと、別れたくないと思ってしまう。そんな事が、許されるはずがないのに……。
「最低だ、俺は……」
ポップは自嘲し、拳を握りしめた。だが、それも直ぐに嘆息に変わる。
「そう言えば、部屋にも風呂がついているんだっけか」
考えることに疲れ切ったポップは、頭を切り替える。
この部屋に案内してくれた従業員の女性が、たしかそんな事を言っていたはずだ。
もっとも、それほど大きくはないらしいので、共用の大浴場をオススメしていたが。
「……駄目だ。少し頭を冷やそう。温泉にでも浸かれば、気持ちも楽になるかもしれない」
森を歩き回ったので、汗もかいてしまっている。
それに、マァム達が戻ってきたら、きっと長い話をすることになるはずだ。今のうちに汗を流しておいた方がいいだろう。
ポップはそう考え、着替えと備え付けられていたタオルを手に、部屋の風呂に向かうことにした。
△
「思っていたよりも広いな……」
服を全て脱いで浴室に足を運んだポップが抱いた感想は、それだった。
てっきり、家庭の風呂のように、シングルベッド一つ分くらいの洗い場と、人一人が入れる程度の浴槽を予想していたポップは、その広さに驚く。
流石に五人も入れば狭苦しいだろうが、一人で入るには十分すぎる大きさだ。
床も切り出されて研磨された石が敷き詰められ、本当に豪華だと思う。
けれど、それ以上の感想はない。
そんなことよりも、メルルの事が気がかりだった。
「メルル……」
洗い場で体を清めようと思い、備え付けの小さな背もたれのない椅子に腰を下ろしたものの、あまりにも気がかりすぎて、つい彼女の名前を口に出してしまう。
口に出したからと言って、どうなるわけでもないのに……。
「……はい。お呼びですか、ポップさん」
耳を疑った。
あまりにもメルルの事を考えすぎたために、幻聴が聞こえたのかと思った。
けれど、その声がした方を、背後を振り返ると、そこには、美しく流れるような黒髪の少女が立っていた。
白い湯着だけを身に着けた姿で、ポップの背後に立っていたのだ。
「めっ、メルル……。本当に、メルルなのか?」
信じられない。まったく気配がなかった。
たった今、この場に現れたとしか思えない。
「はい。マァムさんと一緒に、ポップさんのお背中を流しに来ました」
メルルは悪戯っぽく微笑み、背後を見る。
その視線の先には、同じ様に湯着だけを身にまとったマァムが笑顔で立っていた。
「なっ、なんで二人が……。話し合いをしていたはず……。って、悪りぃ!」
メルルとマァムの湯着はとても薄いようで、彼女たちの乳房の先端部分の位置が透けて見えてしまった。そのため、ポップは慌てて後ろを向いた。
「ポップさん。どうか、こちらを向いて下さい。その、私の貧相な体では、お気に召さないかもしれませんが……」
メルルの寂しげな声に、ポップはどうしていいのか混乱する。
訳がわからない。
話し合いはどうなったんだ?
なんで、二人がこんな格好で風呂に入ってくるんだ?
自分が、男が入っているのに……。
いや、そうだ、メルルとマァムは、どうやって音もなく風呂に入ってきたのだろう?
違う、違う、違う。
そんなことよりも、今は振り返るかどうかだ。マァムも見ているのに……。
って、そうじゃない……。
思考がまとまらない。
頭で処理できる情報量の限界を超える出来事に、ポップの頭は混乱する。
経験はないが、混乱呪文を、メダパニをかけられたのかと思うほどに、混乱し続ける。
「ポップ。前を向いてはくれないの?」
マァムの声が聞こえた。
その声は、メルルと同じ様に悪戯っぽい響きを含んでいる。
けれど、頭が混乱しているポップには、そんな機微など理解できるはずがない。
「……メルル。お願い」
「はい。マァムさん」
二人が何かを言ったのが分かった。
するとすぐに、ポップの体を優しい輝きが包み込む。
それはとても温かかった。
心地良かった。
それに身を委ねると、気持ちが落ち着いてくる……。
まるで、幼い頃、母親の胸に抱きしめて貰っていた時のように。
「なんなんだ、この光は……」
ホイミやベホイミなどではない。こんな効果の呪文を自分は知らない。
「ポップさん。落ち着かれましたか?」
メルルは今度は優しく声をかけてくる。まるで、たった今感じた、母親のような優しい声だ。
「大丈夫です。怖くないですから……。こっちを向いて下さい……」
この声には不思議な力でもあるのだろうか?
気がつくと、ポップは前を向いていた。
そこには、扇情的な姿の少女が二人。
薄い湯着だけを身に着けた少女が……。
「なっ!」
ポップの口から、驚きの声が上がる。
メルルとマァムの二人は、静かに身に着けている最後の衣を解き始めたのだ。
たった一枚の布を、少しだけ時間をかけて二人は脱いでいく。
恥ずかしそうに頬を紅潮させながら。けれど、優しく微笑んで。
メルルの女の部分が、乳房が顕になる。
とても形が良くて美しい、丸い膨らみが姿を見せる。
先端の部分は美しい桃色で、乳輪の大きさも程よい。
それは、扇情的と言うよりも、美しいと表現するしかできないものだった。
「……綺麗だ……」
間の抜けた声で、ポップは思ったことを呟く。
すると、メルルは恥ずかしそうに、けれどどこか嬉しそうに微笑む。
「本当に、綺麗よね。メルルの躰……。でもね、こっちも見てほしいわ」
今度はマァムの声に誘われて、ポップはそちらに視線を移す。
するとそこには、メルルのものよりも大きな乳房が二つ並んでいた。
大きいのに、まるで形が崩れない。
鴇色の乳輪も乳房の大きさの割には小さくて美しさを損なわない。
その先端は上を向き、張りのある惚れ惚れするような蠱惑的な乳房。
「綺麗だ……。メルルに負けないくらいに……」
ポップの言葉に、マァムは頬を朱に染め、「よかった」と柔らかく微笑む。
「メルル……」
「はい」
マァムの言葉に、メルルは頷き、二人は静かにポップの前まで歩み寄ってくる。
歩く振動で、乳房が揺れる。
ポップの目は、ますますその部分に釘付けになってしまう。
そんな不躾な視線を受けながらも、二人はポップの間近まで来ると、床に膝を付き、更に手を前について恥ずかしそうに微笑む。
そして……。
「ポップさん。お背中を流させて頂いても、よろしいでしょうか?」
「どうか、私達の躰で、清めさせて下さい」
頭を下げたかと思うと、上目遣いにこちらを見ながら、そんなとんでもないことを言い出したのだった。