ポップが風呂から上がって部屋に戻ってくると、驚くべきことが起こっていた。
一つはベッドがシングルからキングサイズに置き換わっていたこと。
スペース的にベッド一台を置くにしては広いなぁとは思っていたが、このピッタリの収納具合からすると、おそらくこれが本来の姿なのだろう。
ただ、一体どうやってこのベッドを出し入れしたのかがまるで分からない。このままでは間違いなく入口のドアを通り抜けることは出来ないはずだし、いちいち分解して組み立てるようなことをしていたら時間がかなり掛かる。
少なくとも、自分が風呂に入っていた時間内に、そんな作業を行うのは不可能だろう。
「……マァムとメルルが何かをしたんだろうけれど、一体何をしたんだ?」
思い返してみると、自分が鼻血を垂らしてしまった時も、体に触れずに血を止めてくれた。一体あれは何という呪文なのだろう?
「ああっ、やめやめ。今は、そんなことよりも!」
ポップは大きなベッドに顔からダイブした。
スプリングが効いたベッドと敷布団と掛け布団の柔らかな感触に、ポップは嬉しくなる。
いや、それは正確ではない。
これからこのベッドで行う行為に、大好きな二人の少女との初体験に、心をときめかせているのだ。
マァムとメルルの二人は、少しだけ準備があるからと、ポップに先にベッドで待っていてくれるように頼んできたので、ポップはそれを了承した。
すぐにでも行為に及びたい気持ちがなかったわけではないが、初めての一夜は、きちんとしたものにしたいとポップも考えた。
「ポップさん。湯冷めをしないように、バスローブを身に着けて置いてくださいね」
メルルが別れ際にそう言っていたが、部屋に戻ると綺麗に折りたたまれた純白のバスローブが置かれていた。
あまりこういったものは着慣れていないので違和感はあるが、どうせすぐに脱ぐことになるのだから、別に問題はないだろう。
「すげぇ良かったよなぁ……。マァムのおっぱいも、メルルのおっぱいも……それに、口であんなふうに……」
思い出すだけで、頬が緩み、股間のイチモツが出番はまだかと言わんばかりに固くなっていく。
「ポップ。今晩は、最高の思い出にしましょうね」
マァムは頬を朱に染めながらも、別れ際に見せてくれた、あの可愛い笑顔が忘れられない。
「ようやく、俺も本当の意味で男になれるんだなぁ。しかも、マァムだけじゃなくてメルルとも……」
献身的な二人の奉仕を思い出し、ポップは今か今かとその時を待つ。
もっとも、マァム達の話では、この浴室は隣の部屋からも繋がっているらしく、二人はそちらの部屋からやって来たのだと言っていた。だから、きっと躰を洗い、部屋に戻ってから準備をするはずなので、もうしばらく時間は掛かるだろう。
「ああっ、早く二人共、こないかなぁ……」
ポップはそう思いながらも、何故か不意に急激な眠気に襲われ始める。
けれど、抵抗しようとさえ出来なかった。
あまりにもその眠りが心地よかったから……。
△
「……んんっ。なんだ、ここは……」
気がつくと、ポップは柔らかな枕の上で眠っていた。
温かくて柔らかくて、とても心地の良いその枕は、匂いもいい。それに頭もすっぽりと収まって……。
「ふふっ。お目覚めですか、ポップ様」
目を開くと、水色の髪の美女が間近で微笑んでいた。
「なっ! だっ、誰だ! あんたは?」
ポップは自分が美女に膝枕をされている事に気づき、慌てて飛び起きる。
こんな所をマァムとメルルに見られたら、せっかくの初めての夜が……。
「ご心配なさらないで下さい。ここは私の管理する神殿の中。今、ここにはポップ様と私しかおりません。そして、時間の流れがポップ様の世界とは異なりますので、少しばかりお話をしても、何も問題はありません」
水色の髪で露出度の高い奇怪な姿の美女は、恭しくポップに膝をついて頭を垂れた。
「……いっ、いや、チョット待ってくれ。ええと、なんだかあんたに見覚えが……」
ポップは少し頭を捻り、その美女の名前を思い出す。
「確か、ルシリス。光の女神ルシリスとか名乗っていたよな?」
名前を思い出すと、この女神にいろいろと過激なスキンシップをしてしまったことを思い出し、ポップは顔を真っ赤にする。
「私のようなもの名前を覚えておいて頂き、ありがとうございます」
ルシリスは心から嬉しそうに笑ったが、その顔が曇る。
「申し訳ございません。本来であれば、私のような醜女がポップ様に再び姿を晒すことなどあってはいけないことなのですが、どうしてもポップ様にお渡ししたいものがございまして、このような無礼をしてしまいました。なにとぞ、お許しくださいませ」
ルシリスはそこまで言うと、姿勢を正座に変えて、深々とこちらに向かって平伏する。
「いっ、いや、待ってくれ! 俺はなにも無礼だなんて思ってないから。その、とりあえず顔をあげてくれよ」
ポップがそう懇願すると、「ありがとうございます」と言い、ルシリスは頭を上げてくれた。
「……その、なんだ。夢だと思っていたけれど、昨日の晩に見たのは、夢ではなく現実だった訳なのか?」
ポップは表情を引き締めて、ルシリスに尋ねる。
「はい。私がポップ様をこの神殿にお呼びしました」
ルシリスの答えに、ポップは「そうか」と小さく頷く。
「すると、今朝からマァムとメルルの様子がおかしかったのは、あんたの仕業なんだな?」
「はい。仰るとおりです。昨晩お約束させて頂きましたとおり、ポップ様の素晴らしい生命の滴を受け止める、最上の雌をお届け致しました」
ルシリスの言葉に、ポップは顔に手をやり、頭を振るう。
「そうか。あんたが全ての元凶か。……そうだよな。そうじゃあなければ、俺なんかにあの二人があんなに……」
ポップの体が震える。そして、彼の瞳からは涙がこぼれ落ちる。
「いいえ。ポップ様は勘違いをなさっています」
「勘違い? なにが勘違いだって言うんだよ⁉ あんたがあの二人の心を弄って、俺を好きになるように仕向けたんだろう⁉」
ポップの声には、明らかな怒気が込められていた。
「いいえ。私は、配下の者を使い、あの二人に女としての分を、男性にどの様に使えるべきかを躾けただけです。それ以外のことは何も行っておりません」
ルシリスは笑顔で、温かな慈愛溢れる笑顔で断言した。
「はじめから、マァムさんもメルルさんも、貴女様に好意を抱いていたのです。そして、雌としての再教育を受けた結果、その気持ちがどれほど恐れ多くもありがたい気持ちなのかということに気づいただけでなのです」
「……信じられねぇよ。そんなことを言われても……」
ポップは自信がなかった。自分なんかをあの二人が本当に好きになってくれていたのかが。
「メルルさんは三年間。マァムさんは五年掛かりました。雌としての心構えや教養を身に着けて、自らの卑しい気持ちを排斥するのに」
「えっ? 三年間? 五年?」
「はい。私は、自分の管理する世界に魂を移動させる力を持っています。そして、その世界で新たな肉体を与えて、彼女達に再教育を施しました」
ルシリスの言っていることが、ポップには理解できない。
「私の管理する世界から脱出するには、『管理者』と呼ばれる者から合格をもらわなければなりません。ですが、その基準はかなり厳しいものです。なんの覚悟もなく日々を過ごしていては決して合格にはたどり着けません。
ですが、マァムさんとメルルさんは、それをやり遂げました。それはひとえに、貴方様にもう一度会いたい気持ちからです。その気持ちだけを糧に、彼女達はやり遂げたのです。その気持ちは、決して作られたものなどではありません」
ルシリスはそう言うと、静かに立ち上がった。
「不安にならないで下さい、ポップ様。貴方様は、間違いなく立派な男性です。英雄と呼ばれる存在です。そのような人物に、雌が好意を抱くのは当然のことです」
ルシリスは微笑む。心から嬉しそうに。
「…………」
ポップは何も言えず、顔を抑えて泣き崩れた。
「ポップ様。どうか泣かないでください。周りの女達の態度があまりにも悪かったがために、貴方様は心に傷を負っておられただけですから」
泣き崩れるポップを優しく胸で抱きしめ、ルシリスは彼の頭を撫でる。
「本当に、女は愚かなのです。それは、一通りの躾を受けてもまだ完全とは言えません。すぐに楽な方に楽な方に流れようとして、また男性を不幸にしてしまう可能性があります。
先程、マァムさんとメルルさんが暴走したせいで、ポップ様が気絶してしまいそうになってしまわれたのがその証左です。ですから……」
ルシリスは撫でていた手を止め、何かを唱えた。
瞬間、ポップの体に異変が起こり始める。
「なっ、なんだ、これは……。あっ、熱い! 股間が……」
ペニスが、そして睾丸が熱い。
「すみません。少しだけ我慢をして下さい。すぐに熱は治まりますから。それと、女を骨抜きにする知識もお渡ししています。これらを駆使して、あの二人に誰が主人なのかをしっかりと覚え込ませて下さいませ」
「なっ、何を……したんだ?」
ポップは熱に苦しみながらも、ルシリスの顔を見た。
彼女は泣いていた。
笑いながら泣いていた。
それは、とても美しい笑顔だった。
「一方的で申し訳ありません、ポップ様。けれど、もう時間が来てしまいました」
ルシリスは手をかざし、ようやく体の熱が引いてきたポップの体に光を纏わせる。
「雌豚の調教も、アフターケアも終了致しました。ですので、もうお会いすることはございません。そして、元の世界に戻られれば、貴方様の記憶からは、私に関するものは全て消えてしまいます。
ですが、私は貴方様が幸せになられることを心よりお祈り致しております。どうか、お幸せに……」
「まっ、待ってくれ、ルシリス!」
ポップはそう呼びかけたが、ルシリスはただ微笑むだけだった。
そして、ポップの意識はそこで途切れる。
そして、次に目覚めたときには、ポップも悲しく微笑んでいた女神のことは綺麗サッパリと忘れて、目をさますのだ。
今まで、ルシリスが幸せに導いてきた、他の男性と同じように。