夜遅くに目が覚めたと思った。けれど、壁掛け時計を確認すると、もう一時間か二時間ほどで、日が昇り始めるくらいの時間帯だった。
「ははっ。昨日の晩も、自重しないとって言いながら、結局夜遅くまでやっちまったもんな」
ポップは自分の両隣で静かに寝息を立てるマァムとメルルに、優しい目を向ける。
(昨日で休みは終わり。今日からは、ダイの行方を捜さないとな)
大魔王バーンと共に戦った、大親友の事を思い出し、ポップは決意を固める。
ダイを見つけたら、話さなければいけないことがたくさんある。
いや、その前に、あの爆発の際に自分一人だけ巻き込まれることを選んだことに対する文句のほうが先だ。
(俺が、マァムだけではなく、メルルともこういう関係になったことを知ったらどう思うだろうな? いや、あいつはそういったところはドライだから、気にしないか。
それよりも、他の皆との定時連絡の際に、話さなきゃいけないだろうな、やっぱり)
気が重くないといえば嘘になる。
けれど、ポップはそのことから逃げるつもりはない。
(マァムもメルルも、俺の女だ。しっかり俺が守っていかねぇと)
愛しい二人の少女の寝顔を再び交互に見て、ポップは微笑む。この二人を守るためならば、自分はどこまでもやれる気がする。
昨晩も体を酷使したのだが、眠気はあまりない。だからポップは二人が目覚めるまで、この幸せな気持ちに浸り続けることにした。
△
この宿では朝食はバイキング形式で、大広間に足を運ぶ必要がある。
夕食のように部屋に運ばれるのも、その、いろいろとした後だと困るので、これはこれでありがたい。
今朝も、マァムとメルルの寝起きの裸姿を見ても自重できたのは、食事を食べに行かなければいけないという理由があったからも大きい。
「はい、ポップ」
一通り好きなものを取ろうと思ったが、二人に、席を取って待っていて欲しいと言われたので待っていると、マァムが自分の分も取らずに、ポップの分の朝食を取ってきてくれた。
「おお、サンキュー」
自分の好物をしっかり選んできてくれているばかりか、野菜なども多くてバランスが良い。あまりにも至れり尽くせりなので申し訳なく思い、昨日はそれくらい自分でやると言ったのだが、マァムとメルルはぜひやらせて欲しいと言ってくるのだ。
「ポップさん、お待たせしました」
メルルはトレーに、三人分のオムレツを乗せて戻ってきた。
オムレツなどは、料理人が注文を受けてから目の前で必要な個数を焼いてくれる形式なのを昨日知ったので、分担して確保をしてくれたようだ。
「ポップ。お腹が空いていたら、先に食べていて。私とメルルはもう少し掛かりそうだから」
「いや、一緒に食べたいから待つさ。慌てなくていいから、ゆっくり選んでこいよ」
ポップの言葉に、マァムとメルルは「はい」と元気に返事をし、自分たちの分を取りに行った。
「ははっ。幸せすぎて怖いくらいだ……」
二人の愛しい女の可愛い笑顔を思い出しただけで、頬が緩む。
つい数日前には、こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
それから少し待つと、二人が自分たちの分の食事を持ってきた。その際に、ポップの分のスープまで持ってきてくれたのだから、心遣いがきめ細かい。
温かいものは温かいうちに食べてもらいたいという気持ちが込められた行動だ。
「それじゃあ、食べるとしようか」
そうポップが音頭を取り、食事を開始する。
この宿の食事は美味しい。けれど、そうより強く思えるのは、二人が居てくれるからだ。二人が、自分のことを心から好きで、愛してくれているから。
「ポップ。ここのオムレツも美味しいけれど、メルルの作る卵料理は更に美味しいのよ」
店の人の耳に入らないように、マァムが小声で話しかけてくる。
「へぇ~、そうなんだ。それはぜひ食べてみたいな」
「もう、マァムさん。そんな恥ずかしいことを言わないで下さい。……でも、ポップさんが喜んでくださるのなら、私、頑張りますね」
頬を朱に染めて、嬉しそうに微笑むメルルが愛おしい。
「ポップ。メルルほどではないけれど、私も料理を修行しているの。よかったら、それも食べてくれないかな?」
「もちろん食べるさ。美味いのを食べさせてくれよな」
「ええ。頑張るわ。そして、ダイを見つけて後処理が全て済んだら、私とメルルに、毎日貴方の食事を作らせてね」
恥ずかしそうにしながらも、満面の笑顔でそう言ってくれるマァムが可愛くて仕方がない。
「はっ、ははっ。それなら、家を建てたいな。報奨金もダイが見つかるまで保留にしていただろう? それを使ってさ。……その、大都市でなくてもいいし、そんなに大きくなくてもいいから、俺達の家を建てて、そこで三人で暮らして……」
きっと、それは幸せな日々だろう。そして、その未来は近いうちにやってくる。そんな予感がする。
「素敵ね。ただ、調理場とお風呂は少しこだわりたいわね」
「本当に素敵です。きっと、楽しい毎日が続くと……。いいえ、皆さんで楽しい日々を作っていきましょう。私達三人で」
自分の何気ない夢に、マァムとメルルは賛同してくれる。それが、この上なく幸せだった。
「……ありがとう、二人共。俺はまだまだ未熟な人間だけど、これからもよろしく頼む。俺も、精一杯頑張るからさ」
「ええ。改めてよろしくね、ポップ、メルル」
「はい。占わなくても分かります。きっと、幸せな時間が待っています。ですから、頑張りましょう」
「よっ、よし。冷めてしまう前に食べようぜ」
思わず涙がこぼれそうになったポップは、ごまかすように食事を再開する。
二人は気を利かせてくれたのか、何も言わずに微笑み、ポップに倣う。
<<ポップ様……。どうか、幸せな日々をお送り下さいませ>>
不意に、ポップは誰かの声を聞いた気がした。
初めて聞くはずなのに、何故か聞いたことがあるような気がする不思議な声を。
「ポップさん、どうかなさいましたか?」
メルルに尋ねられたが、気のせいだとポップは結論づけて、「なんでもない」と言って微笑む。
この幸せをいつまでも守っていこう。
ポップは再度そう決意を固めるのだった。
ファイルⅠ(マアムとメルル) 完