※この作品はR-18です。

光の女神ルシリスの調教録   作:ルシリス様の下僕

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Ⅱ(薙切えりなと新戸緋沙子)⑧

「不味い!」

 薙切えりなの率直な感想が漏れる。

 

 新戸緋沙子は、えりながそんな不満を口にするのを止められなかった。

 

 毒味のつもりで、一応は「いただきます」と言ってから、ローリエが差し出してきた二つ部の錠剤を口に運んでみたが、おかしな苦味と生臭さがあり、決して美味しいものではなかった。しかも、このふざけた食事しか今後は出さないかのような口ぶりだった。こんな非道な事が許されるはずがない。

 これでは、早急に餓死してしまう。

 

「だっ、駄目ですよ! 私はまだ、「いただきます」以外を喋っていいとは言っていませんよ!」

 ローリエが慌てふためきながらも、えりなを嗜める。

 

 彼女には腕力では敵わない事を知っているので、えりなは口を噤み、もう一つの緑色の錠剤を口に運び、顔をしかめた。

 

「お水も飲んでくださいね。お残しは駄目ですよ」

 えりながとりあえず黙ってくれたことに安堵したのようで、ローリエはそう言って胸をなでおろす。

 

 緋沙子も水を口に運ぶが、これも決して美味いものではない。常日頃、食材はおろか水さえも高級品しか口にしてこなかったえりな様には辛いだろうと、緋沙子は心配そうにえりなを見るが、彼女は怒りを懸命に堪えながら、コップの水を飲み干した。

 

「はい。きちんと残さず食べられましたね。それでは、手を合わせて『ごちそうさまでした』を言いましょうね」

 ローリエに促され、緋沙子とえりなは言われた通りの言葉を口にする。

 けれど、明らかにえりなの瞳が怒りの色を宿していることを、緋沙子は理解していた。

 

「うんうん。そうやってきちんと言うことを聞いてくれたら、私もお二人を罰する必要がありません。お互いのためにも、今の態度を忘れては駄目ですよ」

 何も分かっていないローリエは、満足そうに頷き、緋沙子達の前に置かれた、錠剤を乗せていた紙と木のコップを回収し、それを厨房の奥に持っていき、再び席に戻ってきた。

 

「さて、それでは約束通り、発言を許可します。質問がありましたら、遠慮なく言って下さい」

 ローリエはニコニコとした笑顔でいたが、えりなが無言で彼女を睨みつけると、途端に及び腰になり座ったまま後ずさりをする。

 

「ローリエさん。貴女は何故私に、こんな不味いものを口に運ばせたのですか? それに、こんな量で本当に栄養素が取れるはずがないでしょう。貴女方は私と緋沙子を餓死させるつもりだと解釈してよろしいのかしら?」

 えりなの眼光の鋭さに、ローリエは涙目になるが、両手を握りしめて、口を開く。

 

「どっ、どうして雌豚の食事に味なんてものを考慮しなければいけないんですか! そっ、それに、私は嘘なんて言っていません。今の食事を三食続ければ、決して飢えることも喉が渇くこともありません。それに、そもそも貴女達は決して死にません。死ねないんです。その、少なくとも魂が摩耗し切るまでは……」

 ローリエの絶叫が広い食堂に木霊する。

 

「死ねない? 魂が摩耗だと?」

 緋沙子には、ローリエが何を言っているのか分からない。

 

「忘れたんですか? 私に軽く平手打ちをされて、えりなさんは普通なら即死だったんですよ。それは、緋沙子さんも同じです。でも、こうして生きているのは、女神ルシリス様の加護なんですよ」

「女神ルシリス……」

 緋沙子はその名前を聞いて思い出す。あの夢……だと思う中で、自分だけでなく、えりな様さえもいたぶり続けた女の名前だ。

 

「だっ、駄目ですよ! きちんと、ルシリス様とお呼びしないと!」

「何を馬鹿なことを! そんな事が人間にできるわけが……」

「人間には出来ませんよ。当たり前じゃあないですか。だから、ルシリス様は女神様です。とても尊い存在なのです! 先程私が何回も説明したのに、信じていなかったんですか?」

 ローリエは緋沙子に文句を言う。

 

 緋沙子はきちんとローリエの説明を聞いて、一字一句忘れないように記憶しようとしていたが、あの説明の中で出てくる女神という呼称は、ローリエ達の組織における序列に過ぎないと考えていた。

 だがもしも、もしも、ローリエの言葉が本当なら……。あのルシリスと名乗った女が女神だというのなら、どんな事柄でも有りになってしまう。

 

 馬鹿げた話だ。

 そう結論づけたい。けれど、ルシリスに初めて会った時に受けた痛みを自分は覚えている。夢だと言うには、あまりにも生々しい感覚として覚えてしまっている。

 

「何を馬鹿なことを。ローリエさん。貴女の組織が何処の国に所属しているのか知りませんが、ジュネーブ条約の締約国でさえないのですか?」

「……じゅねーぶ条約? えっ、ええと……」

 えりなの言葉に、ローリエは返答に困る。

 

「その程度のことも理解していないのですか? いいですか、その条約では、捕虜にさえ人道的な待遇をしなければならないということになっています。まして、貴女達にとって私達は大切な人質のはずです。それなのに、この扱いはなんですか。文明的な生活を送る人間であれば、他人に対する……」

 えりなの言葉は、不意に途切れる。

 それは、いきなり誰かが食堂のドアを勢いよく開けて入ってきたためだ。

 

「おだまり! 雌豚が人間の言葉が喋れるからといって、一端の口を叩くんじゃあない!」

 入ってきたのは、小柄な老婆だったが、彼女の声は雷が近くに落ちたのではと錯覚するほどの大声だった。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さいよ、ジンジャーさん。管轄外の施設で、勝手は困りますよぉ」

 ローリエ達と同じ服を身につけた小柄な老婆をジンジャーさんと呼んだのは、後から食堂に入ってきた緑色の髪のフェンネルだった。

 

「おだまり、フェンネル。この豚どもは今日が初日なんだろう? こういった勘違いをしているやつには、しっかりとお灸を据えてやるのがお互いのためというものだろうが」

 ジンジャーと呼ばれた老婆は激怒し、緋沙子達に詰め寄ろうとするが、フェンネルに後ろから羽交い締めにされてもがいている。

 

「おっ、お婆ちゃん! どっ、どうしてここに?」

 ローリエはジンジャーのことをそう呼んだ。

 

「おお、ローリエ。初仕事、頑張っているようだね。待っていなさい。お婆ちゃんがこういった馬鹿どもを相手にはどうすれば良いのか、お手本を見せるてあげるからね」

「もう! 絶対にこうなるから見学させるのが嫌だったんですよ。マジョラム様に叱られるの、私なんですから、少しは自重して下さいよ、ジンジャーさん」

 フェンネルは必死にジンジャーを止める。

 

「……何なの、いったい?」

「私にも分かりません……」

 思いも寄らない展開に、緋沙子もえりなと同様に困惑する事しかできなかった。

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