気がつくと、小早川悠斗は大きな建物の前に立っていた。
その建物は先程まで居た場所と似たような、何処かギリシャ建築を思わせる建物で、その荘厳さにあっけにとられる。
「ここは、いくつかある神殿のうちでも、特に厳しい躾を行うことで有名な場所です」
悠斗の隣りにいるルシリスが、彼の手を優しく握りしめて微笑みを向けてくるが、その言葉はどこか不穏に聞こえた。
「しっ、躾ですか?」
「はい。女という生き物は、すぐに楽な方に楽な方にと怠ける怠惰な存在です。ですので、そういった醜い心を矯正し、殿方にお使えするに相応しい存在に躾けております」
ルシリスはやはり笑顔で、そんなとんでもないことを口にする。
「あら、申し訳ございません。まずは、羽織るものが必要ですね」
ルシリスはそう言うと、悠斗の額の前に手をやる。
すると、全裸だった優斗は、白い貫頭衣、キトンを身に着けた姿に変わった。
「こっ、この服は?」
常識では考えられない出来事の連続で、悠斗はただただ驚くことしかできない。
「ふふっ、よくお似合いですよ。いくら姿が見えないとはいえ、殿方をいつまでも裸にさせておくのは不敬この上ありませんので」
ルシリスの言葉に、悠斗はまた疑問を覚える。
「あっ、あの、見えないって、どういうことですか?」
「はい。ご説明させて頂きます。私と悠斗様は、現在は<精神体>と呼ばれる状態なのです。普段の体と構造的な違いは有りませんが、この世界のものから干渉を受けません」
「えっ、ええと……」
「すみません、言葉で説明するよりも、体験なさって頂いたほうが早いですね。悠斗様、私達は今、台地の上におりますが、空を飛ぶイメージをなさって下さいませ」
ルシリスの言葉に、悠斗は言われたとおり簡単にイメージしてみる。体が浮かび上がるイメージを。
「わっ!」
すると、それが当たり前のように、悠斗の体全体が宙から僅かに浮かんで、その高さで固定される。
「ふふっ、お上手です。元に戻りたい時は、大地を踏みしめるイメージをしてくださいませ」
「あっ、はい」
今度も言われたとおりにイメージしてみると、当たり前のように地面の上に移動し、その場に立つことができた。
「この世界の存在がある部分までは、どのような高さ、また低さにも対応できますが、まぁ、その必要はございませんね。さて、それでは参りましょう。遅くなってしまっては、品評に際し使えがあるかもしれませんので」
「品評?」
「はい。悠斗様のお気に召す個体がいればよろしいのですが……。さぁ、参りましょう!」
相変わらず、ルシリスの言うことの意味を、悠斗は理解できない。
けれど、ルシリスは少女のような無邪気で楽しそうな笑顔で、悠斗の手を取り、建物の正面入口ではなく、その横の建物の壁に向かっていく。
「壁も関係ありませんので、ご安心下さい。高さ等の座標調整は私の方で行いますので、悠斗様はごゆっくりご鑑賞下さいませ」
ルシリスの声には、悪戯っぽい響きがあった。それは、この壁の向こうにある何かを見せて、驚かせようとしているからだろうと悠斗は推測する。
けれど悪意はまるで感じなかったので、悠斗はルシリスに手を引かれるままに、建物の壁に近づき、そこを当たり前のようにすり抜けて通過した。
そして、建物の中に入った悠斗の目には、三十人近くの、若くて美しい少女が一糸まとわぬ姿で裸身を晒して立っている姿が飛び込んできた。
「なっ!」
見てはいけないものを見てしまった罪悪感で、悠斗は慌てて少女達に背中を向ける。
そして、てっきり少女達の悲鳴が続くと思ったのだが、彼女達はこちらに気づいた様子はない。
「悠斗様。どうか、こちらを向いてくださいませ。恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
ルシリスの優しい言葉に、しかし悠斗は顔を前に向けられない。
「そっ、そんな事を言っても……。なっ、なんで、ここにいる女の子達は裸なんですか?」
「ふふっ。今が、この神官達の運動の時間だからです。体を動かし続けるのではなく、逆に体を固定して動かないでいることで体幹を鍛える鍛錬ですね」
ルシリスの言葉は、回答になっていない。
「まずは、今日の運動の内容説明の最中のようです。さぁ、今のうちに、品評を始めましょう」
訳のわからない悠斗を置いてきぼりにし、ルシリスはニッコリと微笑み、彼に裸の少女達の姿を見るように促すのだった。
△
ここはどうやら少々広い部屋のようなのだが、見渡す限り、悠斗と同年代くらいの少女達の裸身だらけだった。
胸やおしりの大きな少女もいれば、小さな少女も、その中間くらいの少女も居る。
髪が長い娘もいれば、短い娘もいる。
だが、彼女達に共通している事柄もある。
それは、どの少女も皆、愛らしく、そして美しいことだ。
皆、細い腰つきをしているが、それはただ痩せているのではなく、きちんと健康的に鍛錬を続けているからこそのもので、卑猥な気持ちを抜きにしても、彼女達の躰は美しいと悠斗は思う。
そして、そんな彼女達は今、その裸身を惜しげもなく悠斗の前に晒し、皆同じポーズを取って、彫像のように動かずに居る。
体験したことはないが、ヨガのようなものなのだろうかと、悠斗は思った。
「ふふっ、悠斗様。女の胸は、大きい方がお好みですか? それとも小さい方がよろしいですか?」
少女達に気づかれないことをいいことに、歩いて様々な方向から、美しくも卑猥な裸身に見とれている悠斗に、ルシリスが嬉しそうに尋ねてくる。
「あっ、あの、その、やっぱり……大きい方が……」
これだけガン見をしておいて、今更恥ずかしがっても仕方がないので、悠斗は自分の性癖をルシリスに伝える。
「では、この娘などいかがでしょう? 胸の大きさはこの中では二番目ですが、一番の娘よりも形がいいと思われます。それに、おしりの肉付きもいいですが、きちんとしまっていて、こちらの形も悪く有りません」
ルシリスも少女達の間を歩き回りながら、少女達の品評をし、悠斗に勧めてくる。
「わっ! 本当に大きいなぁ。それに、すごく綺麗な顔をしている……」
その少女は黒髪で、タレ目の優しそうな顔つきの少女だった。
ルシリスは悠斗の言葉に嬉しそうに微笑み、その黒髪の少女の額に手を近づける。
「……なるほど。とりあえずこの娘をキープしておきましょう。性格的にも温和で従順なようですので」
何をしたのかは分からないが、ルシリスは満足そうに微笑み、話を続ける。
「悠斗様。二千人ほど雌豚をご用意するとはいっても、いきなりその人数を悠斗様の世界に送り込んでは、いくら認識を歪められるといっても、齟齬が出るかもしれません。まずは身の回りのお世話をする雌豚を二、三人選んで頂きまして、それからは資料をお送りいたしますので、それを使って選ぶ方法を取らせて頂きたいのですが」
「あっ、その、よくわからないですけれど、ルシリスさんのやりやすい方法で結構です」
訳がわからない優斗は、そう答えることしかできない。それに、目の前に魅惑の女体があるのだ。話に集中などできるはずがない。
そう、話に集中できるはずがないと思っていた。だが……。
「そう言えば、悠斗様に無礼を働いた、『薙切えりな』という者を、現在、牢獄に閉じ込めて調教を行っております。その惨めな姿を見るのも一興かと存じ上げますが、いかがなさいますか?」
思いもしなかった名前を耳にし、慌ててルシリスの方を振り返った優斗は、是非彼女のもとに連れて行って欲しいと頼み込む。
眼前に広がるたくさんの美しい裸体よりも、悠斗は、あのとき見た少女の顔を見たいと思ってしまったのだった。