薙切えりなが座っているのは自分が毎日使っているベッドだが、そこにもう一台のベッドが並列されていることに、小早川悠斗はようやく気がつく。
「お隣の部屋から運ばせてもらった。流石に小早川殿のベッド一台では手狭だからな」
悠斗の心を読んだように、新戸緋沙子が今まででは考えられないぞんざいな口調で言う。
「でも、小早川くん。君のベッドに私と緋沙子の匂いをたっぷりつけますからね。決してとれないように、しっかりと」
今までの『悠斗様』という呼称ではなく、他人行儀な口調に二人がわざわざ切り替えた理由が悠斗には分からない。
(僕に愛想を尽かした……っていうわけじゃあないよな。……だって……)
ただでさえさほど広い部屋ではないのに、自分にえりなに緋沙子の三人に加えて、ベッドまで増えては、少々窮屈に思えるが、問題はそのベッドの枕元だ。そこには水差しや濡れタオルの類も完備されている。もちろん、悠斗はそんなものを枕元に置いた覚えはない。
本当に、これから自分と、その、セックスをするための準備を、この二人はしているのだ。
無意識のうちに、悠斗の喉がゴクリと鳴る。
悠斗も健全な思春期の男の子だ。当然異性には興味が有るし、性行為にも興味津々だ。
まして、自分が実質一目惚れした、あの薙切えりなと、彼女の秘書の美少女、新戸緋沙子の二人が相手なのだ。こんな贅沢で幸せなことなどないだろう。
けれど、不安なのだ。
分からない。この不安の原因が何なのか。
初めての性行為に戸惑っているのももちろんある。もう心臓が破裂しそうなほど鼓動が忙しない。
それに、間違いなく一服もられたようで、悠斗の股間の男性器は、痛いほどに勃起し、下着とズボンの中で苦しそうにしている。早く、射精したいと、その部分が呼びかけてくるようだ。
でも、二の足を踏んでしまう。
こんな、夢のような幸せなシュチュエーションなのに……。
「やはり、あの時のことが、心の何処かでトラウマになってしまっているようだな」
硬い口調で緋沙子がそう言い、ベッドに座るえりなよりも先に、悠斗に近づいてくる。
悠斗も椅子から腰を上げた。
「えっ? トラウマ?」
悠斗は緋沙子が何を言わんとしているのか分からない。
「大丈夫。最初は私が相手をする。それで、女の躰に慣れて自信が付けば、女の本質が分かれば、お前の心の傷は克服されるはずだ」
緋沙子の口調は今までとは違う謙ったものではない。けれど、不思議とこの口調の方が、ホッとすることに悠斗は心のうちで驚く。
「もう、気づいているだろうが、先程の食事とお風呂上がりのお茶に細工をした。それに、この部屋に充満している香にも特殊な作用が有る。その、性的興奮が増すように、女が欲しくて堪らなくなるようにな。だが、すぐに目的が果たせるとは思わないことだ。
先程言ったように、私もえりな様も、お前の浮気には腹を立てているのだから」
緋沙子はそんな事を言いながらも、何故か優しく微笑んだ。
「メインディッシュである、えりな様の前座。私は前菜のようなものだ。だが、きちんと味わってもらうぞ。私にとっても、一生で一度の事柄なのだからな」
「あっ、あの、緋沙子……。僕のトラウマって……」
悠斗は何がなんだか分からず、眼前の緋沙子と、ベッドに座ったままで、冷たい視線をこちらに向けてくるえりなの顔を交互に見ながら混乱する。
「こらっ! 少しは空気を読め。その話は後だ。……今だけでいい。私を見て欲しい。今だけは、えりな様ではなく、私だけを……」
緋沙子は静かに悠斗の右手を左手で掴み、彼の手のひらを自分の左頬に触れさせる。
「あっ!」
悠斗が驚きの声を上げると、緋沙子は苦笑する。
「そんなに怖がらなくていい。何もとって食ったりはしないから。まず、女の肌の感触に慣れていくところから始めよう」
「うっ、うん……」
右手に伝わる温かな体温。そして、きめ細やかでなめらかな頬。その感触だけで、悠斗はドキドキしてしまう。
「やはり、男の手だな。大きくて硬い」
「あっ、その、ごめん……」
悠斗はつい謝罪してしまった。
「何を謝ることがある? 私がこうしてもらいたいからしてもらっているだけだ。それに、この大きくて硬い、そして働き者の手が、私は気に入った」
緋沙子はそう言うと、細くて綺麗な指と手で、悠斗の料理ダコだらけの手を優しく撫でる。
手が緋沙子の柔らかな頬と手の感触に挟まれる。それだけで、悠斗は気持ちが良かった。
それに、緋沙子も心地よさそうな顔をしていたので、悠斗は少しだけ落ち着くことができた。
「ふふっ。次に私がして欲しいことが、分かるか?」
緋沙子は挑発するかのように微笑み、悠斗に質問を投げかけてくる。
「……うん」
悠斗は静かに緋沙子の顔の一部分を見る。それは、小さな口を彩る柔らかそうな唇。
「緋沙子……その……」
「馬鹿。こういう時は、何も言わずに行動に移すんだ」
確認を取ろうとした悠斗に、緋沙子は苦笑して瞳を閉じる。
おでこがぶつからないように、歯が当たらないようにと、おっかなびっくりだったが、悠斗は緋沙子の唇を奪った。
唇に伝わる柔らかな感触が心地良かったが、これ以上どうして良いのか分からず、悠斗はすぐに唇を離してしまう。
けれど、緋沙子はそのことに対して文句を言わなかった。そのうえで、
「ふふっ。私のファーストキスだ」
悠斗の方を見てにこやかに微笑む。
その表情に、悠斗はドキッとしてしまう。
「緋沙子……」
「……はい」
悠斗の無言の訴えに、緋沙子は従順に返事をする。そして、今度は緋沙子の両頬を両手で軽く押さえて、唇を重ね合った。
五秒ほどそのままキスをしていたが、どちらとなく唇を離す。そして、悠斗は湧き上がってきた衝動のまま、緋沙子の躰を抱きしめた。
細い、華奢な体。それなのに柔らかい。いい匂いがする。
「あっ、慌てるな! そんなにきつく抱きしめなくても私は逃げはしない」
「あっ、ごめん……」
悠斗は慌てて腕の力を弱める。
「いや、大丈夫。少し驚いただけだ。線が細いように見えても、やはり男だな。逞しいと思ってしまったぞ」
緋沙子は楽しそうに微笑む。
「ふふ。しかし、止めなかったら、私の躰のどこに触れようとしていたのか、教えてくれないか?」
「そっ、それは、その……」
「やはり胸か? それとも臀部かな?」
「いや、その……」
悠斗は何と答えれば良いのか分からずに、言葉に詰まる。
「まったく、ケダモノだな。そんなに股間を大きくして、婦女子に抱きつくなんて」
「あっ……」
緋沙子はいきなり悠斗の股間に手を伸ばし、彼のペニスをズボンの上から輪郭をなぞるように優しく愛撫する。
「生薬が効いているとは言え、すごい大きさだ。そんなに、私で興奮してくれているの?」
悠斗は何も言えず、ただペニスをやんわり刺激する愛撫に耐える。
それは本当に軽い刺激なのだが、ズボンの上からでもはっきり分かるほど勃起しきったペニスは、それだけでも達してしまいそうになってしまっていた。
「緋沙子……」
「んっ……」
悠斗は優しく、右手で緋沙子の左胸に手を伸ばしてそれを優しく掴む。
「まだ、あまり強くしないで。わっ、私が貴方にしているみたいに、優しく焦らすように触って……。そうしたら、だんだん、わっ、私の躰も準備が整うから……」
「うっ、うん……」
胸に触ったことを怒られるかと思ったが、緋沙子は色っぽい声を上げて、悠斗にどうすればいいのかを教えてくれる。
「けっこう大きいんだね、緋沙子の胸……」
少し硬い感触たが、きっとそれはブラジャーなのだろう。けれど、大きさはその上からでも分かる。
「馬鹿。恥ずかしいことを言うな……。んっ、あっ、そっ、そうだ。そこも同じように……」
悠斗は調子に乗って、空いていた左手を緋沙子のスカートに手を入れておしりに伸ばしたのだが、彼女は文句を言わずに悠斗にされるがままになっている。
右手は乳房の輪郭を確かめ、左手は柔らかなおしりの感触を楽しむ。
これはこれで気持ちいいし興奮するが、下着が邪魔だと思ってしまう。こんなものがない状態で、緋沙子の躰を存分に触りたい。
「緋沙子、その……。緋沙子の裸が見たい……」
ゆっくりと緋沙子の躰を愛撫しながら、悠斗は緋沙子にねだる。服を脱いでくれと。生まれたままの姿を見せて欲しいと。
「……すぐに脱ぎますので、どうかベッドの方に……」
「うっ、うん……」
また緋沙子がしおらしい口調に戻ったことに戸惑いながらも、悠斗は彼女の躰から手を離し、ベッドに向かう。
だがそこで、ベッドの端に腰を掛けたまま、冷たい表情でこちらを睨むえりなと視線があってしまった。
「…………」
えりなは何も言わずにベッドの端から腰を上げると、悠斗と場所を入れ替える。
(えりな、怒っている?)
悠斗はそう思うと、得も言われぬ不安感に襲われてしまう。
しかし、えりなは何も言わず、先程まで悠斗が座っていた椅子に腰を下ろすと、また冷たい視線を向けてくる。
「……え……」
えりな、と声を掛けるつもりだった。
だが、優斗は、彼女の手前で、惜しげもなく形のいい乳房を顕にした緋沙子の裸身に目を奪われてしまう。
「綺麗だ……」
適度な大きさで形の良い乳房。乳輪の大きさもバランスがいい、この上なく美しい。
悠斗がパソコンを使って、こっそり見ていたどの画像や動画に写っていた女の裸よりも、おっぱいよりも、緋沙子のそれは美しかった。
「よかった。気に入ってもらえたのなら何よりだ」
緋沙子は安堵したように微笑み、静かにスカートを脱いでいく。そしてソックスを脱ぐと、最後に恥ずかしそうに頬を赤らめながら、女の秘部を守る最後の純白の下着も下ろしていく。
「緋沙子……。すごい、綺麗だ……。本当に、それしか言葉にできない」
扇情的ながらも、緋沙子の裸身はこの上なく美しかった。やや薄暗い部屋の明かりの中で、彼女の躰が光を帯びているのではと錯覚するほどに。
「もう、褒め過ぎだ。……でも、嬉しい」
緋沙子は手で胸と股間をそれとなく隠しながら、恥ずかしそうに微笑む。
「さぁ、貴方も脱いで下さい。契を交わしましょう」
「……うん」
悠斗は頷くと、静かに衣類を脱ぎ始める。
それを緋沙子は恥ずかしそうに、けれど期待するような瞳で見ていた。
冷たい視線を向け続ける、えりなとは対象的に。