十二月二十五日にご予約頂いた一組のお客様は、お昼の来店だった。
両親と小学校低学年くらいの女の子二人。四名様だったが、特段問題なく、普段以上にご満足して帰って頂けたと、小早川悠斗は思う。
特に、薙切えりなと新戸緋沙子の二人が、女の子が好みそうな盛り付け等を考案して伝えてくれたので助かった。
でも、このままではやはり行けない。
いつまでも二人に甘えているわけにはいかないのだ。
だから悠斗は、お客様が帰られたあとも、えりなと緋沙子につきっきりで料理技術を学ばせてもらった。
幼い頃から料理人の両親の姿を見て育ったというアドバンテージなど、この二人の技術の前ではなんの役にもたたないということを見せつけられた。
でも、大事なのは、明日の自分が今日よりも優れた料理人になっていることだ。
「あまり根を詰めすぎても逆効果です。今日はこの辺りにしておきましょう」
緋沙子の提案に、悠斗も頷く。
「お風呂の準備ができていますので、悠斗様からお入り下さい」
「あっ、うん。お言葉に甘えさせてもらうね」
悠斗は、指導してくれた女性陣の労をねぎらって、先に入って貰いたいのだが、それは絶対に二人が良しとしないので、諦めてゆっくりお風呂で疲れを癒やすことにした。
お風呂を上がり、交代でえりながお風呂に入る。
緋沙子は何やらパソコンとにらめっこをしながら、データを打ち込んでくれている。
「悠斗様、お茶をお淹れしましょうか?」
忙しい中でも、自分のことを気にかけてくれることを嬉しく思いながらも、緋沙子の仕事の邪魔をしては悪いと思い、悠斗はそれをやんわりと断り、冷蔵庫から牛乳を取り出し、それをコップ一杯ぶん口にすると、自分の部屋に戻る旨を緋沙子に伝える。
緋沙子に言われ、この冬休みは苦手科目の復習を課せられているので、クリスマスと言えども気は抜けないのだ。
「後ほど、お茶をお持ち致しますね。それと、今晩の食事も期待していて下さい。あっと驚く料理をお出し致しますから」
「うん。楽しみにしているよ」
夕食をご褒美と考え、しっかり勉強しよう。悠斗はそう思い、居間を後にし、自室に向かうことにした。
「あれっ?」
郵便受けに随分と分厚い封筒が挟まっていることに気が付き、悠斗はそれを確認する。
封筒の表面には、『小早川 悠斗 様』と書かれていたが、裏面には、何も書かれていなかった。
また怪しげな商品のカタログだろうか?
そう思った悠斗だったが、何故かこの封筒に心惹かれてしまう自分に気がつく。
「まぁ、いらなかったら捨てればいいか」
悠斗はそんな軽い気持ちで、配達物を手に、自室に戻った。
部屋に戻った優斗は、勉強机に向かい、とりあえず封筒を開けてみることにする。
その中身は、白を基調とし、金色の美しい模様が記された、豪華な装丁の本だった。
そして、本とは別に一枚の紙が同封されていた。
それに目を通すと、悠斗の頭の中に、誰かの、女の人の声が流れ込んできた。
『悠斗様。大変準備が遅くなり申し訳ございませんでした。お約束の雌豚の出荷準備が完了致しました。こちらの本は注文カタログになっておりますので、お好きな個体をご注文下さいませ』
どこかで聞いたことがある気がする女性の言葉。
そして、その女性は、確かに何人もの雌豚と呼ばれる人間の女性を用意すると言っていた。
その記憶はある。いや、この紙を見て蘇ってきた。
けれど、肝心のその女性の顔が思い出せない。美しい女性だった気がするが、思い出せない。それは、姿だけではなく名前もだ。
『本の使い方は直接、悠斗様の頭の中に伝えておきます。ですが、この本は悠斗様の権利であり、決して義務ではありません。お好きな時に、お好きな人数をお出し頂ければ行幸と存じ上げます』
女性の声は寂しげだった。
どうしてこんなに物悲しいのだろう。
分からない。でもきっと、これが彼女との最後の会話になる事がなんとなく理解できてしまう。
『どうか、お幸せにおなりくださいませ。小早川悠斗様……』
「まっ、待って……」
思わず悠斗は声を上げたが、頭に響く声は、それを境に全く聞こえなくなってしまった。
「……今の声が、えりなと緋沙子を調教したという女神様の声だったのかな?」
寂しい気持ちが胸をよぎる。けれど、そんな気持ちもすぐに消えていった。
(とにかく、本を開いてみよう)
悠斗は分厚い想定の本を開く。けれど、それは正確には本ではなかった。
「これは、本の形をしたタブレットなのかな?」
本の形態をしているが、開ける箇所は真ん中一箇所のみ。そこで開くと、滑らかな鏡のような面が現れ、そこに『雌豚カタログ』の文字が浮かび上がってくる。
電源などはなくても、このページを開くことで起動する。そして、ここには何億人もの女の膨大なデータが収められている。
悠斗は初めて触れるはずのこの媒体の使用方法がすぐに理解できた。
収容されている女のデータは膨大で、ここから好きな女性を選ぶことができる。
そして、選んだ女性は、この世界に『予め存在していた』ということになる。だから、戸籍等の心配もいらない。ただ、急激に世界を変えるのは危険が伴うため、一日注文できるのは、十人までが限度のようだ。
その代わり、選べる人数に制限は設けられていない。
仮に人数が増えすぎても、先に上げた理由で予め存在していたことになり、この世界の人口維持のキャパシティも上がるので心配がないという、もう凄すぎて頭がおかしくなりそうなテクノロジーの塊だった。
とりあえず、悠斗はこれを使ってみようと思った。
まだ注文をするつもりはないが、中身を見ないことには始まらない。
とりあえず、タブレットのように触れてみる。
これで、後はランダムにすればとりあえずいいはずだ。
すると、大きな本の見開きページ上に、十人の女の子の顔から肩までの画像が映る。
その画像を見ると、彼女達は何も身に着けていないように思えた。
ごくっと悠斗の喉が鳴る。
知らぬ間に、つばを飲み込んでいたようだ。
悠斗は深呼吸をして、その中で一番自分が可愛いと思う女性の画像をタップした。
すると画面が切り替わり、画面には一糸まとわぬその女性の裸身が浮かび上がる。
それだけではない。生まれや性格、身長体重スリーサイズは元より、細かい癖や性格、性癖、性感帯、調教前の性格などといった、、個人情報がわんさかと表示された。
しかも、この媒体の優れているところは、その画像部分に触れていると、自然に情報が頭の中に流れ込んでくることにある。だから、いちいち字を読む必要はないのだ。
性経験の有無。出産の有無なども分かるだけでなく、自慰行為の回数さえ記載されている。
ちなみに、悠斗が選んだ画像の女性は、自慰の経験すらない乙女だった。
「えりなや緋沙子だけでなく、こっ、こんな可愛い子が更に……」
悠斗は再びつばを飲み込む。
昨日、えりなと緋沙子の二人と、濃厚な初体験を済ませ、その後も明け方近くまでセックスに明け暮れていたというのに、悠斗の精力はすっかり回復し、溢れんばかりだった。
少し前までとは精力がまるで違う。
そう言えば、包茎もいつの間にか治っていて、それから性欲が増したのだった。
そこで何があったのかはまるで思い出せないのだが……。
思わず、注文する意志を本に送り込みたくなったが、悠斗はすんでのところで思いとどまる。
まずは、もっと内容を確認してからだ。
それに、料理に関する職業経験のある女性の方がいいだろう。
(これは、慎重に選ばないと……)
そんな事を思いながらも、悠斗は緩みきった顔で、今度は胸の大きさや年齢などで絞って検索をし、いろいろな女性の個人情報と裸身を覗き見る。
悪いことをしている自覚はあったのだが、あまりにも楽しくてその作業に没頭してしまった。
そう。没頭してしまったのだ。
勉強など全くせずに、ただただ自分好みの女の子を見つけては、その個人情報と裸身を楽しみ続けてしまったのだ。
何度も部屋のドアをノックされたことにも気づかないくらいに。
後ろに、誰かが立っていることにさえ気づかずに。
「すっ、すごいなぁ、これは。躰もアップで見れるし、見ようと思えば、アソコの中身だって分かるんだから……」
性的衝動を覚えてから、初めてポルノ雑誌を見た少年のように、悠斗はこの媒体を楽しみ続けていた。
不意に、ポン! と肩に手を置かれるまでは。そして、
「楽しそうですね、悠斗様……」
という、地獄の底から聞こえてくるような低い女の声を耳にするまでは……。
肩に置かれた手の感触と、その声に、悠斗は自分の後ろにいるのが緋沙子だということを理解する。
そして、後でお茶を持ってくるといっていたことを思い出した。
まぁ、思い出したところでもう手遅れだった。
「ひっ、緋沙子……。そっ、その、これは……」
「説明は必要ありません。これからは、あの女神の力を感じます。……そうですか、私とえりなの純潔をようやくもらって頂けたと思ったら、今度は早速新しい奴隷の物色ですか……」
緋沙子の声は低い。こんな声は聞いたことがない。
「いっ、いや、その、さっきこれが届いて、どんなものか試してみただけなんだ……」
「そうですか。私が何度ノックしても、お部屋に入らせて頂いても気づかないほどにご熱心のようでしたが……」
悠斗はこれ以上はまずいと思い、画面に触れている手に命令を乗せて、起動を止める。
すると、ただの真っ白なページの見開きに変わった。
「あらっ? もうお止めになるのですか? 私は悠斗様の忠実な雌豚奴隷ですよ。御主人様の楽しみを止めさせるつもりなどありませんのに……」
言葉とは裏腹に、緋沙子からは明らかに怒気を感じる。
まずい、まずい、まずい。
悠斗はダラダラと冷や汗をかきながら、硬直する。怖くて後ろを振り向けない。
「ああ、そう言えば、そろそろ夕食ですとお伝えに来たんでした。えりなと二人でお待ちしておりますので、どうぞ悠斗様はごゆっくりお楽しみ下さい。
大丈夫ですよ。私達は、いつまででもお待ちしていますから。……ええ、いつまでも……」
背中がゾクゾクするが、振り向いたらまずい。ショック死してしまうかもしれない。
本能的にそれを悟った悠斗は、「すぐに行きます!」とだけ返事をする。
すると、緋沙子はお茶を静かに机において部屋を出ていった。
悠斗は、過呼吸寸前だった息を整えようと、大きく息を吐く。
(まっ、まずい。早く行かないと!)
頭ではそう思うものの、呼吸が乱れて行動に移せない。
それでも早急になんとか息を整え、悠斗は急ぎ居間に向かうのだった。