「はぁ、はぁ……」
ユーノ・スクライアは呼吸を乱しながらも、懸命に目の前に迫る四足歩行の機械の弾丸を魔法で障壁を使って防ぐ。
なのはと別れさせられて、別室に閉じ込められたユーノは、自分の傷をひとまず治した。
だがすぐに、あのカルダモンと名乗った女に、幽閉された施設の奥に連れ出され、そこの広場で自動操縦型と思われる兵器四台との戦闘を強要された。
逆らえば、自分もなのはにもペナルティを課すと言って。
現在のところ、四足歩行のこの兵器が使用してくる攻撃は実弾による乱射と、圧縮された魔法エネルギーをレーザー状に繰り出す攻撃のみ。
そのどちらもユーノは魔法で完璧に防ぐことはできる。だが、それだけだった。
ユーノの魔法はバインドや防御、そして治癒である。その性能はかなりのものだが、彼は攻撃魔法が使えない。そのため、ジリ貧になってしまう。
「くっ!」
全方位を守る障壁を作り続けるのはエネルギーの効率が悪い。そのため、ユーノは兵器達から距離を取り、その姿を視界に捉えることで、個別に防御魔法で防ぎ、力を温存するしかなかった。
「うんうん。ユーノ君。貴方は本当に才能があるわね。この程度の兵装では貴方の魔法を貫くことはできそうもないわ」
カルダモンは嬉しそうに、しかしユーノの動きを事細かに確認しながら、手にした何かの端末にリアルタイムで入力していく。
「でも、このままでは勝機はないわよ、ユーノ君。弾切れやエネルギー切れを狙っているんだろうけれど、その程度じゃあ、私が望むデーターは得られないわ」
勝手なことを言うカルダモンの声は、戦闘中のユーノの耳にもよく聞こえる。きっとなにか魔法を使用しているのだろうと推測される。
分からないことだらけだ。
何故自分となのはをこの女は攫い、こんなことをさせているのか?
そもそもここはどこなのだろうか?
そんな疑問は尽きないが、今は戦闘に集中しなければいけないと、ユーノは疑問を頭の隅に追いやる。
「まぁ、最初だからヒントを上げるわね。私は貴方にこの四台を行動不能にしてもらいたいの。そのポテンシャルを貴方は持っている。けれど、戦いに慣れていない貴方は、防戦するしかないと考えてしまっているのよ」
カルダモンが訳のわからないことを言うが、ユーノはそんな言葉に従ってやる理由はない。
けれど……。
「もう! せっかくヒントをあげたんだから頑張ってよ。もしも、あと十分以内に全機を戦闘不能に出来なかったら、なのはちゃんがどうなるか分からないわよ?」
そう続いた言葉に、ユーノは悔しそうに奥歯を噛みしめる。
「なのはには手を出すな!」
「それなら、さっさと倒してしまって。十分を過ぎたら、なのはちゃんの腕を片方切り落としちゃおうかなぁ~」
カルダモンは満面の笑みを浮かべて、ふざけたことを言う。
ユーノは追い詰められる。
だが、どちらにしろあと十分も戦えるほどの余力はない。
(どうすればいい? どうすれば……)
ユーノは懸命に考え、打開策を模索するのだった。
△
高町なのはは、頭を握りつぶさんばかりの勢いで掴むカルダモンの手をどうにかして振りほどこうとしたが、幼いなのはの力ではそれは叶わなかった。
部屋と同じ様に白い壁に囲まれた廊下を引きづられ、なのははすぐ近くの部屋に文字通り投げ捨てられる。
「あうっ! ううううっ……」
なんとか頭を打ち付けることだけは避けられたが、背中を固い床面に痛打し、なのはは呻く。
「あらあら、ごめんなさい。なのはちゃんが自分の立場を理解してないようだから、お姉さん、ちょっと乱暴に扱っちゃったわね」
カルダモンは形式だけの謝罪を口にするが、その口元には笑みが浮かんでいた。
だが、なのはは先程まで掴まれ続けていた頭と、背中を打った痛みでそれどころではない。
「もう、なのはちゃんてば大げさよ。この程度のことでそんなに苦しそうに。これからもっと苦しい思いをするんだから、こんなことじゃあショック死してしまうわよ」
カルダモンはクスクスと嗤う。
「なっ、何をするつもりなんですか!」
なんとか呼吸が整ったなのはが気丈にも尋ねるが、するとカルダモンは一層笑みを強め、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、部屋の奥に置かれていた機械が動き出し、そこから太いワイヤー状の物体が何本も伸びてきて、なのはの小さな躰を拘束していく。
「なっ、何! いやっ、いやぁぁぁぁっ!」
太い、直径三センチはあるワイヤーは、うねうねと動き、さながら触手のようだ。それが躰に纏わりついてくる不快感に、なのはは悲鳴を上げる。
両手両足だけでなく胴体にもそのワイヤーは巻き付き、なのはの自由を奪うと、今度はそれらが動き出し、彼女を強制的に立ち上がらせる。
「う~ん、腕じゃあ面白くないわね。やっぱりここは……」
カルダモンは何かを思いついたのか、もう一度指を鳴らし、機械に指示を与える。
「あっ、何を……」
なのはは躰を反転させられ、部屋の奥の方に顔を向けさせられる。すると、そこにはよく分からない数値が記載してある、自分の身長以上に大きな電子機器があった。
その機器のいたるところから、拘束するワイヤーが伸びてきていることをなのはは初めて理解する。
「あっ、いやっ……」
抵抗しようとしたが、ワイヤーの力には逆らえず、なのはは頭はそのままに、足を広げられ、おしりを高くあげる恥ずかしい姿勢をとらされる。
そして、見えないがスカートがカルダモンの手によってたくし上げられたのが分かった。
「いやっ、止めて!」
なのはは周知で暴れるが、いくら振りほどこうとしてもすべて徒労に終わる。
「ふふふっ。可愛いおしりね。茹でた卵みたいね」
「いっ、いや! 触らないで!」
同性とはいえ、他人に勝手に臀部を撫でられることに怖気が走り、なのははやめるように懇願する。
「恥ずかしそうにしているなんて余裕ね。それとも、これから何をされるか、想像がつかないお馬鹿さんなのかなぁ?」
カルダモンはなのはのおしりから手を離したが、もちろんそれは、なのはの訴えを聞き届けたからではない。
カルダモンは拘束されて動けないなのはの顔の近くまで歩いてきて、銀色のトレイを見せてきた。
そこには、なのはが見たこともない大きさの医療器具が。この躰に巻き付いた太いワイヤー二本分はありそうな太さと、二十センチを超えるほどの長さがある注射器が太い針付きで置かれている。
「……あっ、ああっ……」
なのははその注射器を見て、顔を曇らせ、躰を震わせる。
「うんうん。いい顔ね。ようやく何をされるか分かったみたいね。なのはちゃんの考えているとおりよ。これから、なのはちゃんの可愛いおしりにこのお注射を、打・つ・の」
恐怖に震えるなのはの頬を、カルダモンは愛おしそうに撫でる。
なのはは恐怖で、それをやめるように言うことさえ出来なかった。
「ああっ、しまったわ。どうせなら服を脱がせておけばよかったわね。間違いなく失禁するほど痛いから、服を汚されてしまうわ」
カルダモンは少し悩んでいたが、「まぁ、いいわよね」と一人で納得し、なのはの顔から手を離すと、彼女の後ろに、おしりの方に回る。
「やっ、止めて! いやっ、いやぁぁぁっ!」
なのはは再び暴れるが、何度やってもワイヤーはびくともしない。
「もう、暴れないの! 大丈夫よ。この注射はゆっくり、じっくりと機械によってシリンダーが押される仕組みだから、安全よ」
カルダモンはそう言い、再びなのはのスカートをたくし上げて、腰の部分にスカート部分を腰の辺りに纏める。
「さぁ、これからたっぷり時間を掛けてお注射をしてあげる」
カルダモンは、指を鳴らし、別の機械を動かし、そこに極太の注射器をセットした。
「こぉら。そんなに嫌がらないの。もう小学三年生でしょう? 注射なんかで泣いていたら笑われちゃうわよ」
暴れ続けるなのはに、カルダモンは聞き分けのない子供を諭すように言う。けれど、
「まぁ、とは言っても、この注射器の極太の針は、スズメバチの針なんかを参考に工夫に工夫を重ねてあるの。思いっきり刺された人が苦しむように。だから、大人でも間違いなく泣き叫ぶわ。ショック死する人もいるくらいにね」
すぐにそう言葉を続けて、酷薄に微笑んだ。
「この注射の中の薬も、それはもう痛いわよ。しかも、躰に入って時間が経つ度に変化して、別の痛さを味あわせてくれるの。これを、ゆっくりゆっくり、躰が痛みに慣れないように、痛覚が麻痺しないように打ってあげるからね」
「いやっ、いやぁっ……。止めて……。止めてください……」
なのは自らの体内に、訳のわからない液体を入れられることに恐怖し、止めてくれるように懇願する。
「そんなに喜んでくれて、嬉しいわ。それじゃあ、私はユーノ君の今日のデーターを纏める作業があるから、また後でね。ああっ、この部屋は防音だから、好きなだけ泣き叫んでも大丈夫よ」
なのはの懇願に眉一つ動かさずに、カルダモンは笑顔で片手を振って部屋を出ていく。
そして、なのはの長くて苦しい時間が、拷問が始まったのだった。