ドキドキする。
心臓が口から飛び出てしまうのではないかと心配になるくらいに。
あれだけ痛かったおしりが、今はただただ気持ちがいい。
知らない、こんなこと。こんな恥ずかしいけれど気持ちいいことがあるなんて。
でもなんだか不思議な気持ちが沸き上がってくる。
それが最初は何なのか分からなかったけれど、私はそれが煩わしさなのだと気がついた。
それは、優しく労っておしりをマッサージしてくれているユーノ君の行為に対するものではない。私なんかの頼みをきいてくれているユーノ君には感謝しかないのが素直な気持ち。
でも、煩わしいのだ。
もっとユーノ君の体温を、おしりに伝わる温かさを全身で感じたいのに、服が邪魔で仕方がないのだ。せめて下着だけになれば、もっと幸せな気持ちになれるはずなのにと思ってしまう。
「ユーノ君……」
「なに、なのは? もしかして、痛かった?」
ユーノ君は心配そうに、私のおしりをマッサージする力を緩めてしまう。
「ううん。その、すごく気持ちいいから、大丈夫。その、嫌だろうけれど、もう少しお願い……」
「いっ、嫌なんかじゃあないよ」
「……でも、ユーノ君、手と腕以外、私から離れているよ」
ずるいと自分でも思う。ユーノ君の優しさに甘えていることを自覚している。でも、もっとしっかりこの躰を抱きしめて欲しい。体中に服越しでも体温を感じさせて欲しい。
「その、それは……」
「気持ち悪いよね……。いきなりおしりに触ってほしいなんて言う女の子なんて……」
私は言葉とは裏腹に、潤んだ瞳でユーノ君に懇願する。ぎゅっと私を抱きしめてと。強く私に貴方を感じさせてと。
おかしいとは思う。普段の私ならこんなに恥ずかしいことをお願いなんて出来ない。それも、こんな優しさに漬け込むような方法をとったりはしない。
でも、頭がぼぉ~っとするのだ。躰から湧き上がってくる熱に理性が何処かに追いやられてしまうのだ。
「そっ、そんなことないよ! ただ、その……。なのはに嫌われたくないから……」
最後の方はものすごく小さな言葉だったけれど、私の耳にははっきりとその言葉が聞こえた。
「私がユーノ君を嫌いになったりするわけないよ。だから、お願い、ユーノ君……」
「でも……」
ユーノ君は少し迷っていたが、やがて片手を私のおしりから離して、その自由になった方の手で、私の躰を手繰り寄せてしっかりと抱きしめてくれた。
まだお互い子供だけれど、しっかり分かる。女の子と男の子の違いが。
男の子の体はやっぱりたくましくて固い。それに、下腹部に当たっている硬い感触は、きっと……。
私は今頃になってものすごく恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする。けれど、それはユーノ君も同じだった。
ユーノ君は、この男の子の反応を私に知られたくなくて抱きしめるのを躊躇っていたのだと理解した私は、改めて自分が異性にすごいことをさせてしまっていることに気がつく。
でも、そのことを後悔はしない。
だって、顔から火が出そうなくらい恥ずかしいけれど、嬉しい気持ちもあったから。
私なんかの躰に触れることで、男の子の部分が反応してくれた。それは、ユーノ君が私の躰に触れて興奮してくれているということ。
私だけが気持ち良いのではなくて、ユーノ君も私の躰に触れることに興奮してくれていることが、楽しいと思ってくれているであろうことが嬉しい。
一歩通行な気持ちではないことが、この上なく嬉しかった。
「ユーノ君って、とってもあったかいね……」
「なのは……」
私がそう言って微笑むと、ユーノ君が驚いた顔をし、そしてバツが悪そうに顔を俯け、「ごめん……」と謝る。
ずるいと思った。
そんな顔をされたら、私から大丈夫だと言わなければいけない。
恥ずかしいことを、口にしなければいけない。
でも、自分も先程ずるい方法を使って抱きしめて貰ったのだ。だから……。
「……私は、嬉しいよ。ユーノ君が私を女の子だと見てくれて。そっ、その、興奮してくれて……」
恥ずかしさで少し声が上ずってしまったが、私は素直な気持ちをユーノ君に伝える。
「なのは……」
ユーノ君は驚いた顔をしたかと思うと、私をきつく抱きしめてくれた。
「自分の気持ちに気づくまでに時間がかかったけれど、僕はきっと出会った頃から、君のことが、なのはの事が好きだったんだと思う」
「……ユーノ君……」
突然の告白に、私の頭はパニックを起こしてしまう。
「疎遠になって、君が振り向いてくれなくなっても、僕の気持ちは弱まるばかりかどんどん強くなって行ったんだ。……君が近くにいないことが同仕様もなく辛かった。他の皆と幸せそうに笑う君を見ているのが、悲しくて仕方がなかった」
「……ユーノ君。それはきっと悪い夢だよ。だって、私がそんな事をするわけないもん」
「ははっ。そうだよね。君はずっと僕に優しくしてくれているのに、なんでこんな事を僕は言っているんだろう?」
ユーノ君はそう言って苦笑したけれど、その瞳から透明な滴がポロポロとこぼれ落ちていた。
私はそれを見て、どれほど自分が鈍感なのかにいまさら気がつく。
「私、高町なのはは、ユーノ君の事が大好きです。本当に、大好きなんだよ……」
泣きじゃくるユーノ君の背中を優しくさすりながら、私は自分の気持ちをユーノ君に伝えた。
「なのは……」
「これが、その証拠だよ……」
私は俯いたユーノ君の唇に、静かに自分のそれを重ね合わせた。
ファーストキスは大事だってアリサちゃんが言っていたけれど、まったく惜しいなんて思わない。むしろ、ユーノ君が相手で嬉しいって思う。そして、このキスでユーノ君に気持ちが伝わるのならば、元気になってもらえるのならば、これに勝るものはない。
「なのは……。なのは!」
躰が痛いくらいにユーノ君がきつく抱きしめてくる。
でも、私は拒まなかった。
きっと、ユーノ君の夢の中の私は、よほど酷いことをユーノ君にしたのだろう。
だから、こんなに気持ちが溢れるまで心配をさせてしまったのだ。そんな心配などしなくても大丈夫なのに……。
「なのは……」
ユーノ君は力を緩めたかと思うと、とても真剣な表情で私を見つめて来た。そして、私の顎に優しく手をやる。
「……はい……」
私が静かに頷くと、今度はユーノ君が私の唇に自分の唇を当ててくれた。
優しい、気遣いのあるキスだった。
それから、私達はしばらく無言でお互いの温もりを確かめあっていたが、カルダモンのやってくる足音が聞こえたので、慌てて離れた。
ユーノ君から離れると、またおしりの痛みがぶり返してしまったが、こころなしか最初のときよりは痛みが和らいでいる気がする。
この時の私にとって、ユーノ君とのキスはとても自然で嬉しい行為だった。
……ただ、後に私はこの行為を後悔することになる。
自らの罪と向かい合ったそのときに、激しく後悔する事になるのだ。