いろいろなことがありすぎて疲れたこともあり、そして、ユーノのおかげで躰の痛みが引いたなのはは、自室に戻るとすぐに眠りについた。
けれど、疲れのためか夢を何度も見た気がする。
それも、悪い夢を。
悲しくて、苦々しくて、腹立たしくて、切ない夢を。
朝になり、目を覚ましたなのはは、夢の内容は思い出せなかったが、自分が涙を流していることに気がつく。
「……どうして、私、泣いているの?」
心が重い。
まるで鉛でも飲み込んだのではと思えるほど胸が苦しくて仕方がない。
でも、こんな訳のわからない気持ちに負けるわけにはいかないと、なのはは自分の頬を両手で軽く叩く。
今は、ここから脱出することを第一に考えないと。
頭をそう切り替えたなのはは、すぐにシャワーを浴びて服を着替える。
きっと今日も、カルダモンの実験につきあわされるのだろう。
でも、心を折られるわけには行かない。
「負けない!」
なのはは気合を入れ、その時が来るのを待った。
△
覚悟はしていたつもりだった。
実際に、幼くとも意志の強いなのはは、昨日と同じ痛みならば耐えられただろう。
けれど、なのはは今日も泣き叫び、涙をボロボロとこぼす。
「あらあら。この部屋につれてこられる前の、格好いいなのはちゃんはどこにいっちゃったのかしら?」
そんななのはを嘲笑い、カルダモンは涙に濡れるなのはの髪の毛を掴み、無理やり顔を上げさせる。
なのはは今日も、躰を拘束されて右のおしりに太い注射を打たれていた。その事は昨日と変わりはない。だが、その注射器の先端の針が決定的に違うのだ。
昨日までの痛みは、針が刺さっている部分と薬液が広がる部分限定だったが、今は右のお尻全体にズキンズキンとした痛みが広がっているのだ。
「ふふふっ。昨日の針と違って、今回の針は自信作なの」
そう言ってカルダモンは空の小さな注射器を銀のトレイから一本持ち上げ、そのシリンジ部分をわずかに押し込んだ。
すると、普通よりもわずかに太く長い針のいたる部分から、様々な方向に更に細くて鋭い針が突出し始める。さながらそれは木々の枝から様々な方向に伸びる枝先のような形状だった。
それにさらにその先からも更に細かい針に枝分かれし、いくつもの突出先の針は視認するのが難しいほどだ。
「ふふっ。気絶したくても出来ないのって辛いわよね。それに、針の痛みも継続的ではなく断続的だから、慣れることがないのよ。いつまでも苦しんでね」
なのはは何も応えない。けれど、カルダモンは上機嫌だ。
いや、この言い回しは正確ではない。
泣き叫ぶだけで精一杯で、何も応えられない事にカルダモンは悦に入っていたのだから。
今日はユーノのために席を外すことはなく、カルダモンはひたすらなのはへの虐待、拷問を楽しんでいる。
長い時間がようやく終わり、シリンジが最奥まで押されて注射液が無くなった。
だが、なのはへの虐待は終わらない。
「はぁ~い。それじゃあ、針を抜くから覚悟してね」
息も絶え絶えななのはは、はやく異物を抜いて欲しい気持ちばかりで、覚悟などできるはずもなかった。
だから、無防備なところに走った更なる痛みに、
「ぎやぁぁぁぁぁっ!」
なのはは子供とは思えない、獣じみた悲鳴を上げる。
針はゆっくり引き抜かれるのだが、枝木のように広がった針の末端部分まで、全て鋭い返しが付いていたのだ。
その返しが、針を抜こうとする度に、なのはの尻肉の内部を更に傷つけていく。更にそこに酷くしみる薬液が流れ込む。
針が引き抜かれるのはそれほど長い時間ではなかったが、なのはは生き地獄を味わう。
そのため、針が全て引き抜かれると、なのはは安堵感から意識を失う事となったのだった。
△
どれだけ意識を失っていたのかわからないけれど、それほど長い時間ではなかったと思う。
もっともこの部屋には時計はなく、蛍光灯らしき明かりだけで窓もないので、時間の経過が分からない。
ズキンズキンと右のおしりが痛い。昨日とは比較にならないくらいに。
早く休ませて欲しい。
痛みで心が弱くなってしまったのだろう。私は今朝の決意など忘れて心からそれを願っていた。
けれど、私の躰は未だに拘束されたままだ。
「もう、お寝坊さんねぇ、なのはちゃんは。まぁ、魔法の処置もようやく終わったところだから、ちょうどよかったけれど」
カルダモンという名前の女の人が言っている事が何なのかわからない。
いや、言葉だけでなく、どうして私にこんな酷いことをするのかも、どうして私とユーノ君を拐ったのかも分からない。分からないことだらけだ。
「大丈夫よ、そんな警戒しなくても。今回はなのはちゃんのためにしてあげたんだから」
私の視線をそう捉えたカルダモンは、パチンと指を鳴らした。すると、私の目の前の空間に、何か長方形状の画面が出てきた。
その仕組みが気になったが、今はそこに映っている画像が問題だった。
そこには、私の下半身部分が背後からカメラか何かで撮られているらしき画像だった。
私は羞恥に顔を赤くし、悔しさを堪えるように歯をきつく噛む。
「もう! 何よ、その顔は。なのはちゃんのおしりが内出血で紫色になっていたから、綺麗にしてあげたのにぃ」
カルダモンは心外だと言わんばかりにプンプンと怒る真似をする。
「……どうして、そんなことをするの?」
今にも崩れ落ちそうな心を懸命に支えて、私は尋ねる。
「そりゃあ、大切な実験材料だもの。綺麗にしておかないと、いざというときに困るでしょう?」
何故そんな当たり前のことを聴くのかと言わんばかりの様子で、カルダモンは言葉を返してくる。
「特に、なのはちゃんの場合は、綺麗に可愛くしておかないとね。これからどんどん実験はきつくなるけれど、外面だけは綺麗にしてあげるから安心してね」
先程までの注射の影響で、おしりがどれほど変色していたかはわからないけれど、確かに外から見る分には何も普段と変わりはない。だが、本当に外から見る分だけで、未だにズキズキと痛んだままだ。
「う~ん、とりあえず、後二週間ほどで躰の改造は終わらせない駄目ね。それからは、実際にお客様に使ってもらわないと……」
カルダモンの独り言に、私は恐怖を覚える。
そんな私の表情を見たらしいカルダモンは、にぃ~と意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああっ、気になる? 気になるわよね? うんうん。それなら特別に教えてあげましょう」
その表情から聞いてはいけないと思ったが、今の拘束されている私には耳をふさぐことも出来ない。
カルダモンは今度はにっこり微笑み、
「あと二週間で、なのはちゃんにはビッチになってもらいます」
そんな訳の分からないことを言った。
「……びっちって……」
思わずそう尋ねてしまうと、カルダモンは「ああ、そこからかぁ」と頭を掻く。
「性教育って、なのはちゃんの世界では何歳から始めるんだっけ? ……まぁ、いいわ」
そう言うと、カルダモンは私の背後に回り込む。
当然拘束されているので、その様子はわからないはずなのだけれど、まだ目の前に現れ続けている画像に、彼女の姿が映る。
「ひやっ!」
恥ずかしい部分にいきなり刺激を感じ、画像に目をやると、そこには私の股間部分を優しく掴むカルダモンの姿が映っていた。
「なっ、何をするの! そんなところを触らないで!」
懸命に抗議の声を上げるが、カルダモンはそんなことはお構いなしに、恥ずかしい部分を触り続け、弄んでいく。
嫌悪感とくすぐったさを感じていたが、不意におかしな感覚が躰の内からじんわりと染み出してきた。
それは、しびれるような、それでいて気持ちいいような不思議な感覚。
「うわぁ~。いくら薬を入れているからって、もう感じ始めるの? この歳で? 本当にビッチの素質があるわね」
カルダモンは呆れたように言い、手を離した。
「なのはちゃんは、おしっこをする時くらいしか使っていないだろうけれど、この部分は、女性器、つまりは、オマンコやプッシーと呼ばれる部分は、男の人に手伝ってもらって赤ちゃんを作るための重要なところなの」
「そっ、それくらい知っているもん!」
「ふふっ、それなら話は早いわ。ここに男の人のおちんちんを挿れてもらって、精液という赤ちゃんの元を出してもらうの。それがなのはちゃんの持っている卵子と出逢えば、赤ちゃんができるのよ」
その上、つい昨日、ユーノ君のあの部分が固くなっていたことを思い出してしまい、さらに顔中が熱くなってしまう。
「その行為をセックスと言うの。子供を作るための神聖な行為ね。でも、セックスはそれだけではなくすごく気持ちがいいのよ。男の人にとっても、女にとってもね。
だから、避妊具なんていう子供を作らないですむものを作り出してでも、セックスをしたくて仕方がないのよ」
カルダモンは先生のような口調で教えてくれる。
「でも、なのはちゃんもそうやってこの世に生まれてきたのよ。その行為は悪いことなんかではないわ。それに、データによると、なのはちゃんのご両親はしっかりとした貞操観念の持ち主だったみたいだしね」
「……」
私はなんと言えば良いのかわからない。それに、データとはなんだろう?
「で・も・ね」
それまでの優しい口調が、一変し、カルダモンは嫌な笑みを浮かべる。
「男女を問わず、貞操観念なんかよりも、気持ちいいことを、快楽を優先したいという人はいるのよ。男の人ならば、誰彼構わずに好きな女を抱きたい、自分の子を孕ませたいって思う人が。
そして、女の場合は、誰のものでもいいから、おちんちんをオマンコに挿れて欲しいって考える同仕様もない、盛りのついた動物のように、貞操観念のない恥ずかしい最低の存在が」
カルダモンはクスクスと笑い、
「例えば、ほんの少し触られたくらいで感じてしまうなのはちゃんみたいな女の子ね。そんな女の子のことを『メス犬』という単語からとって、『ビッチ』と言うのよ」
カルダモンの言葉に、私は恐怖を覚えて体を震わせることしか出来ない。
「本当に最低よね。愛する人ではなく、誰彼構わずにおちんちんを受け入れる女なんて。なのはちゃんもそう思うでしょう?」
「いっ、いや……嫌ぁぁぁぁっ!」
私は怖くなって思わず叫んでしまう。
でも、それはカルダモンを喜ばせるだけだった。
「ふふっ、叫んでも駄目よ。なのはちゃんはこれからどんどん厭らしい躰に改造されていくんだから。そして、どんな男の人にでも股を開いておちんちんを欲しがる最低の存在に、『ビッチ』に変えてあげるわね」
「いやっ、嫌ぁ! どうして、どうして私にそんな事をしようとするの? 私は、ビッチなんかになりたくない!」
私は懸命に拘束から逃れようと暴れたが、頑丈なそれはびくともしない。
そんなことをしているうちに、カルダモンがゆっくり近づいてきた。そして……。
それほど大きな音ではなかったけれど、パァーンという乾いた音が部屋に響いたのが何故かはっきりと聞こえた。
それがカルダモンに頬を叩かれたからだと気づくのに少し時間が必要だった。
「黙りなさい。貴女にそんな言葉を吐く資格なんてないでしょうが!」
今までの人を馬鹿にした口調は無くなり、カルダモンは私を叱った。……そう、叱ったのだ。
「辛いことや苦しいことを抱え込む人間は多くいます。ですが、貴女は度が過ぎています。その結果、誰かに心から頼ろうとはせず、それなのに八方美人に交友関係を広げて行く。
他人に頼ることを良しとしないが故に、多くの他人に頼られることで悦に浸っている。その事に気づかないからビッチだと言っているのですよ、私は!」
……正直、何を言われているのか分からない。
でも、何かが心の内からこみ上げてくる。おかしい、だって、私はまだ子供で……。
あれっ? そうだっけ?
私は、本当に……。
「やはり、貴女の精神のあり方は病的です。こんな女ではユーノさんも不幸になってしまうでしょう。やはり、あのフェイトと言う女に乗り換えてもらうほうが得策でしょうね。彼女は無知なだけで、病んでいるわけではありませんし……」
フェイトちゃん? どうしてフェイトちゃんの名前が出てくるの?
まさか、フェイトちゃんもこの施設の中にいるの? それなら、助けないと……。
パチン!
私は何かを考えていたけれど、指の鳴る音が聞こえた。
その瞬間、私の心の中で渦巻いていた何かが急速に落ち着いていくのが分かった。
「ふふっ、どうかしたの、なのはちゃん? 余所見をするなんて余裕があるのね」
私の前には、酷薄な笑みを浮かべたカルダモンが居る。
そうだ、何を私は、ぼぉ~っとしていたのだろう。
この人は、私のことを『ビッチ』に改造すると言っていたのに。
「まだ他のことを考えられる気力は残っているようですから、左のおしりにも注射しましょうね。大丈夫、昼食は食べられないけれど、夕食はその分豪華にしますから」
「いやっ、嫌あああああああっ。もう止めて! 私を変えないで!」
私は懸命に頼み込んだけれど、カルダモンは聞く耳を持たなかった。
そして私は、また地獄のような時間を過ごすことになったのだった。