「……はぁ、はぁ……」
なんとか生き残ることができた。
自動操縦の兵器を動作不能にするという課題を、何とかユーノは今回も完遂した。
攻撃魔法が全く使えないユーノがそれをやり遂げられたのは、それらの兵器が複数台だったから。
兵器自体は同型機種からの攻撃を自動で回避するようにプログラムされていたが、それが完全に有効なのは通常時だけだ。
そこに気づいたユーノは、すぐに同士討ちをさせるという手段に至った。
いや、それしか方法が無かった。
複数の兵器に結界を張り、わざとそれを破壊させるほどの貫通性の高い強力な攻撃をさせる。だが、それを繰り出した瞬間に結界を解除し、自分の防御にすべての力を注ぐ。
後は互いの通常とは異なる状況での攻撃を互いにぶつかり合わせれば、自滅するという訳だ。
しかし、言うのは容易いが、これを実行するのは難しいうえに常に命がけだった。
防御の魔法には自信はあるが、日が経つほどに兵器の性能が上がっていき、スピードも破壊力も行動も変わっていく。
それらを自分の中の魔法の力の残量と相談をしながら観察し、撃破する方法を見つける。それができなければ死んでしまう。
自分はもちろん、なのはも……。
カルダモンは言った。
もしもユーノが、カルダモンの望む結果を出せ中なかった時には、つまり彼が絶命した場合は、なのはを殺すと。または、それ以上にひどい目に合わせると。
『これ以上、なのはを苦しめるわけにはいかない』
その一心で、ユーノは命がけの戦いを繰り返していたのだ。
ただの少女だったなのはを戦いに巻き込んだだけではなく、こんな誘拐にまで。
ユーノは自身の不甲斐なさを責め、血が出そうになるほど拳を強く握りしめた。
ただ、戦闘が終わった事により施設の扉が空いたのを確認し、ユーノはそこに向かう。
そして、大きく息を吐き、呼吸を整えながら強張った顔を普段のそれに戻していく。
今日、カルダモンは戦闘が始まる最初しか自分のところに来なかった。
なにか別の用事ならばいいが、なのはにまたなにか酷いことをしているのではないかと不安になる。
でも、また夕食時になればなのはに会えるのだ。
だから、それまでに気持ちを落ち着けることにユーノは努めるのだった。
△
夢を見ていた。
よく分からない夢を。
私の目の前には、二十代前半くらいの金色の髪が長い優しい顔立ちのメガネを掛けた男性が立っている。
本来であれば私の視線はもっと低いはずなのに、夢だからなのだろう。少し視線を上げるだけでその人の顔が見えた。
「なのは。その、今年のクリスマスはもう予定が入ってしまっているかな?」
その男性は、少し震える声で私に尋ねてくる。
「その、もしも都合が付けば、二人で出かけない? 最近、うちの近所にできた……」
(えっ? この声ってユーノ君?)
訳がわからないけれど、目の前の男性の声はユーノ君の声だった。
普段のそれよりずっと低い声だが、私はどうしてかそれを確信する。
『ごめんね、ユーノ君。クリスマスは、ヴィヴィオを連れてフェイトちゃんと食事に行くことにしているの。また次の機会に誘ってね』
私は何も喋っていないのに、誰かが私に似た声で申し訳無さそうに言う。
でも、私はその言葉に違和感を覚えた。
ヴィヴィオという名前に聞き覚えはないけれど、フェイトちゃんも一緒ならば、ユーノ君も一緒に誘えばいいのにと思う。その方が楽しいし、フェイトちゃんも喜ぶはずだ。
「あっ、そっ、そうなんだ。ごめんね」
大人になったユーノ君らしき男性は、寂しそうに笑う。
『ううん。せっかく誘ってくれたのにごめんね。この埋め合わせはきっとするから』
そう明るく言う声に、私は自分の耳を疑った。
やっぱりこの声は私だ。
普段と違い、ゆっくりとした大人っぽい喋り方だけれども、間違いなく私の声だ。
そして、私と同じ声の女性は、ユーノ君に背中を向けて歩きだしてしまう。
私の視界も同じように切り替わってしまったが、何とか振り向こうとすると、意識だけが背後を向き、背後を見ることができた。
ユーノ君は顔を俯けて無言だった。
ただ、凄く寂しそうなのが分かった。
何か言葉を掛けたかった。
でも、私は声を出せない。
それに、どんどんとユーノ君から距離が離れていってしまう。
(止まって! 振り返って! ユーノ君が悲しい顔をしているの!)
私は懸命に訴えるが、躰がやはり言うことをきいてくれない。
(ユーノ君、本当に悲しそうなのに! どうしてこんな酷いことをするの!)
私のその言葉がようやく届いたのか、動きが止まった。そして、知らないはずなのになぜか分かる顔が、大人になった私の顔がこちらに向けられる。
『どうしても何も、もう用済みだからでしょう? 高町なのは』
(えっ?)
『一人でジュエルシードを集めると言っていたユーノ君に手を貸して、<誰かの役に立つ>という事ができたし、<魔法>という力も得たおかげで、世界が一気に広がった。
でも、これ以上あの人は、ユーノ君は困っていない。だから、別の困っている人を探さないと』
(何を……、何を言っているの? ユーノ君が困っているんだよ? それなのに……)
『フェイトちゃんはいいよね。まだいろいろ不慣れなことが多いし、放っておけない危うさもあるもの。それに、ヴィヴィオは幼いから、私がついていてあげないと。
私のことをママと言ってくれるあの娘が相手なら、もっと私は<助けることができる>もの』
(なんで……。どうして笑っているの……。ユーノ君は今困っているのに! 悲しんでいるのに!)
『駄目だよ。だって、ユーノ君は自分一人でも、私が居なくても何でもできてしまうもの。そして、私を助けようとしてくるはずだから。そうしたら、私はそれを受け入れることしかできなくなる。その気持ちと同じくらいの何かを返すことができなくなってしまうから」
(酷いよ。酷すぎるよ、そんなの! )
『心配しなくても大丈夫。完全に切ったりはしないから。もしも困ったことがあったら<助けて上げられるように>交友は続けていくよ』
(……おかしい。そんな考え方、絶対おかしいよ!)
『大丈夫。そんな考えをするのは今だけだから。成長するにつれて貴女も私と同じになるの』
(私は違う! そんな風にはならない!)
『……無理なの。だって、私は自分を認めてあげられないから……。それが、私と貴女。<高町なのは>の本質だから。辛いことや苦しいことを抱え込むだけ抱え込むくせに、自分を肯定できるときが、誰かを助けているときしか無い人間だから』
(…………)
△
セットしていた置き時計のアラームで、なのはは目を覚ました。
そして思い出す。
ひどい拷問で体力を奪われたせいか、頭痛までしてきたので、夕食の時間まで少し眠ることにしたのだった。
おしりが痛く、ベッドに腰を下ろすことさえできないので、なのはは部屋に戻ってシャワーを浴びた後すぐに、ベッドにうつ伏せで眠たのだ。
「……」
酷い夢を見た。見てしまった。
あんな人間が自分の成長した姿だとは思いたくない。
でも、妙に現実味がある内容だった。
「私、最低……」
なのはは枕に顔を埋める。
しばらく動きたくなかったが、夕食に行かねばいけない。
ユーノと顔を合わせなければならない。
なのはは何とかベッドから降り、指定された部屋に向かおうとするのだった。