しばらくユーノとカルダモンは視線をぶつけ合ったが、すぐにカルダモンの方が笑みを浮かべて視線をそらした。
「そうね。ユーノ君の言うとおりね。もうフェイトちゃんは貴方のもの、所有物なんだもの。私が手を上げてはダメよね」
妖艶にそう言って微笑むと、「それじゃあ、食事にしましょうか」と上機嫌に言う。
「…………」
そこまでの話を聞いていたなのはだったが、未だに意味がわからない。だから呆然とするしか無かった。
突然の親友との再会。けれど、親友のフェイトはユーノの所有物だと言われていて、それをユーノ本人も認めているようだ。
何かが心の中に生まれた。
それはほんの小さな異物だが、はっきりとした形をなしてしまった。
今までは、形を取らずにいつの間にか消滅していたはずのものが、確かな形を得てしまった。
けれど、なのはは初めてであるがゆえに、その存在を認識できない。
「……それじゃあ、食事にしましょう。ただ、今回からは……」
「何度も言わなくても分かっている。いいから早く出ていってくれ!」
ユーノが抗議すると、カルダモンは肩をすくめて部屋を静かに出ていった。
部屋のドアが締まり、足音が遠ざかっていくのを理解し、ユーノ、そしてフェイトは小さく息をついた。
「ユーノ君、フェイトちゃん、一体何があったの?」
わからないことだらけのなのはが当然の疑問をぶつけるが、ユーノが、
「夕食を食べながら話すよ。僕はともかく、フェイトにはしっかりとした食事を食べさせてあげたいんだ」
と、また訳の分からないことを言う。
戸惑うなのはだったが、ユーノが真剣な表情をしている事に気づき、それ以上口を挟むのを止めた。
そして、ユーノがパチンと指を鳴らすと、前日と同じようにワンプレートの食事が二人分と、それとは別に小さな小皿が床がせり上がって出てきた。
ワンプレートの料理は今回も美味しそうだったが、その小皿には、色の違う小さな錠剤が二種類乗っているだけだ。
「あっ……」
食事を見た瞬間、フェイトが小さく声を漏らし、小さく唾液を飲み込んだのがなのはにも分かった。
「はい、フェイト。ゆっくりよく噛んで食べて」
ユーノはワンプレートを一人分手に取り、それをフェイトに手渡そうとする。
「……でっ、でも……」
フェイトは遠慮をするが、視線は料理に釘付けになっている。
「僕からの命令だ。だから、食べて……」
ユーノの言葉に、フェイトは「はい、ご主人様」と応え、それを受け取った。
「なのは。君もこれを食べて」
更にもう一つのプレートを手に取ったユーノが、なのはにそれを手渡してくる。
「待って、ユーノ君。それじゃあ、ユーノ君の分が……」
「ああっ。僕はこれで十分だよ」
心配するなのはに笑みを向けて、ユーノは残った小皿を手に取ると、その上に乗っていた錠剤のようなものをつまんで、水もなしに飲み込んだ。
「待って、ユーノ君! そんなよく分からないものをくちにするだけじゃあ足りないよ。私の料理を二人で分けて……」
「ごめん、なのは。それは駄目なんだ」
「どういう事? きちんと話して! 訳が分からないよ!」
なのははついに文句を口にしてしまう。
「うん。話すよ。ただ、食事をしながらにして欲しい。君が食べないと、フェイトも食べにくいだろうから……」
ユーノは無理に笑みを浮かべて、なのはに諭すように言う。
そして、なのははとりあえずユーノの言葉に従うことにするのだった。
△
早々に食事とも言えない行為を終えたユーノが患部近くを触ってくれているおかげで、なのはもなんとか床に座ることが出来た。
しかし、どうやらフェイトも自分と同じようなことをされてしまっているようで、ユーノは右手でなのはの腰から臀部を。左手でフェイトのその部分に触れている。よって、その位置の関係上、なのは、ユーノ、フェイトの順番で並んで座ることになっていた。
そして、なのはは申し訳ないと思いながらも、食事を開始した。すると、おずおずとしていたフェイトもスプーンを料理に運び、それを口に入れる。
すると、フェイトは小さく「……美味しい」と呟き、涙をこぼしながら食事を続ける。
どれだけフェイトが飢えていたのかを理解し、なのはは胸が苦しくなる。
「ユーノ君。話してくれないかな?」
なのはは食事の手を止めず、説明を再度求める。
「うん。今から話すよ……」
ユーノは丁寧にすべてを話してくれた。
その内容を要約すると、フェイトは、なのはとユーノよりも一週間も早くこの施設に誘拐されて来ていたのらしい。そして、(ユーノは言葉を濁していたが、おそらく)なのはと同じような拷問めいた実験を受けていたのだという。
さらに食事は、朝と夕に、必要最低限の栄養が補給できるという錠剤二粒ずつ与えられるだけだったというのだ。
そこまで聞いただけでも、なのはは怒りを覚えた。だが、話はまだ終わっていない。
そして、何時間か前にカルダモンは、ユーノとフェイトを再会させたのだ。よく実験に付き合ってくれているから、その『ご褒美』としてフェイトを自由にしていいと言って与えて来たのだという。
そして、カルダモンは言った。
『この娘の実験と調教はもう大体済んだから、今度はなのはちゃんの調教をするわね。でも、あの娘は貴方にはふさわしくないから、そのフェイトちゃんがいればいいわよね』
確かにそう言ったのらしい。
けれど、当然ユーノはそんな事を受け入れなかった。
なのはもフェイトも大切な友人だと言って、カルダモンに抗議したらしい。
その結果、カルダモンは一応譲歩はしてくれた。
フェイトには今後、実験や調教は行わないと約束してくれたのだ。ただし、その代わりに彼女の事はユーノが奴隷として接し続けること。そして、彼女の分の食事は今までと変わらない錠剤しか与えられないというものだった。
さらに……
「……カルダモンは今後の食事の配分は僕に決めろと言ってきたんだ。それに加えて、食料を分け合うのを禁止された。破ったら、フェイトを処分すると言って……」
そこで、なのはの怒りは爆発する。
「酷い! 酷すぎるよ! どうしてあのカルダモンって女の人は、私達を苦しめるの⁉ こんな事をして何が楽しいの⁉」
我慢ができなかった。憤懣やるかたないこの状況が。
けれど、なのはが怒りを顕にしたことで、フェイトは顔を青ざめて、「ごっ、ごめんなさい! 怒らせてしまって申し訳ありません!」と食事の手を止めて土下座をする。
「フェイトちゃん……」
親友の変わり果てた姿に、なのはは悲しみがこみ上げてきて、またそれが怒りに変わった。
けれど、なのははにっこりと微笑んでユーノの手を離れる。そしてフェイトに近づいて、土下座を続ける彼女を抱きしめた。
「ごめんね、フェイトちゃん。驚かせちゃったよね? でも、誰ももう怒っていないから、安心して。ほら、まだ料理も残っているから、一緒に食べよう。 ねっ?」
なのはの説得に、フェイトは躰を震わせながらも、おずおずと顔を上げ、ユーノの方を見る。
「なのはの言うとおりだよ。ほらっ、食べて、フェイト」
「……はっ、はい。あっ、ありがとうございます……」
震えながらぎこちなく言葉を口にする親友の姿が痛々しくて、なのはは涙が出そうになるのを懸命に堪える。泣いてしまったら、またフェイトちゃんを怯えさせてしまうと自分に言い聞かせながら。
こうして、なのは達三人は最悪の再会を果たした。
けれど、この時はなのはもユーノも、フェイトと再会できたことを嬉しくも思っていた部分もあった。
だから、気づかなかった。
二人きりならば生じなかった問題が、これから発生することに。
そしてそれが三人の関係をゆっくりと、けれど確実に壊していくことに気づけなかったのだった。