「・・・・・・何故だ」
防護服を身に着けた男が力なく呟く。
男が立つのは荒れ果てた大地に突如出現する、丸く落ち窪んだ巨大なクレーターの淵。
クレーターの表面は悉く焼け焦げ、その中心には巨大な二本の柱が立っていた。
「何故なんだ」
クレーターからは冷めることのない熱波が立ち昇り、ただそこに立つだけの柱の表面を静かに溶かしている。
防護服がなければ一分ともたず皮膚や肺、眼球が焼け爛れ落ちてしまう地獄の様な場所。
そんな場所に立っていた男は膝から崩れ落ち、分厚いグローブに包まれた拳を灼熱の大地に叩き付け叫ぶ。
「お前は・・・お前は何故こんなところで終わってしまったんだぁっ!!」
男の後ろには同じ様な防護服に身を包む人だかりが、やはり呆然と立ち尽くし、あるいは身体を震わせ、身を寄せ合い男と同じ様に力なく崩れ落ちていた。
「応えてくれジェットアローン!!」
ついに男は、日本重化学工業共同体代表 J A 開発責任者、時田シロウは防護服の中で涙を流す。
「お前は世界を、未来を・・・戦う子供達を守るための盾となる筈だったのに・・・っ!!」
クレーターの中心部に立つ、胴体を無残にも吹き飛ばされ脚部のみの物言わぬ柱と成り果てた戦士に、我が子に向け、時田は尚も泣き叫ぶ。
何故だと。
どうしてだと。
「何のために私達はお前をっ!!」
防護服から漏れる慟哭は時田のものだけではなかった。
それはネルフの防護服だった。
戦自研の防護服だった。
日重の、更には下請け、電力会社までもが集い、防護服の中で嗚咽を漏らしていた。
「子供達の希望となる筈のお前を・・・」
夕暮れに染まる第三新東京市郊外で、時田達の戦いは終わりを告げた。
第二発令所内にて、モニターに映し出されていた時田達の姿にミサト達も項垂れる。
幸いにも J A の改修はミサトの報告通り既に済んでおり、内部のリアクターは全て取り外され電力のみでの起動だった。
J A に関わる誰もが、ミサトですら提案した作戦が通るものと考え根回しを行い、連携し、試運転も兼ねてポジトロンライフル設置場所の二子山山頂部を均すための土木作業用ロボットの名目で搬入していたのだがこの有様である。
日本中から集まりだしていた電力を使用しての暴走。
加粒子砲が直撃する前に送電線は外され電力供給はされていなかったものの、引き起こした爆発は相当なものだった。
人的被害はなかったものの、余りにも大きな痛手。
エヴァの不足を補う起死回生の手段が絶たれてしまったのだ。
( ・・・そんな )
それを発令所内で正しく理解し、時田達と同じくして心が折れてしまった者が居た。
( そんなつもりじゃ・・・ )
エヴァの運用を任される、現場に一番近いミサト率いる作戦課達よりも心乱し、血の気が失せ一人ふらつく女性が居た。
( だって・・・だってこんなことっ?! )
現場から遠い青葉達オペレーターの一人でもなく、ましてや保安諜報部員内の一人でもない。
「先輩?!」
「ちょっ、リツコ!?」
ネルフ技術部の長でありその要。
J A の暴走プログラムを組み上げた張本人である赤木リツコは二人に支えられ、空いたオペレーター席に力なく座らされる。
「赤木博士・・・」
「もう、だめなんですね・・・」
マギを用いて、威力が二倍以上に膨れ上がった使徒の加粒子砲に対する盾の使用可能時間を再計算し、それを報告に来ていた二課の技術者達もリツコの表情に悟ってしまう。
打つ手が無いのだと。
「ここまでなの?」
「じゃあ、ここはどうなるんだ?」
「私にわかるはずないじゃない」
「俺達どうなるんだ・・・」
あちらこちらから聞こえ始める小さな囁き声。
やがてそれは普通の話し声になり、大きな雑談となって止むことなく発令所内に響き渡る。
様々な憶測が涌き出ては消え、なかなか出ない答えに気持ち悪さだけが残り出す。
その気持ち悪さは不快感を伴い、更には不安を呼び、ついには恐怖となって職員達の心を蝕み始めた。
( ・・・不味いわね )
ミサトは周囲を見渡し焦る。
日向と青葉はまだ大丈夫だったがマヤはもう駄目だった。
司令席に一番近いオペレーター席ですらリツコを含めた数人が既に下を向いていた。
それは戦意の喪失。
集団で戦う組織において最も恐るべき敵が今、ネルフの心臓部に襲いかかろうとしていた。