そろそろマジメな話に入ると思います。
「・・・入力ミスだと?」
「は、はいっ!」
「いえ、その・・・正確には設定時点での想定ミスといいますか」
作戦決行まで残り五時間を切りネルフ本部内も俄かに慌ただしくなるなか、司令副司令の下へ新たなる問題が転がり込んでいた。
「それで、作戦にはどういった支障が出るのかね」
薄暗い公務室の中、何時も通りの姿勢を崩さないゲンドウに委縮する
「ええと、先ず大前提としてこの三ヶ月間の本部第三支部含めエヴァ起動時における失敗、もしくは暴走が五回。先程の零号機再起動成功を含めても成功率は二割を切る状態でして・・・」
「・・・そうだな」
その悲惨過ぎる成功率を改めて数字で直視することになった冬月は職員の間でオーナインシステムと呼ばれているエヴァの蔑称を思い出す。
事実、初号機に関して言えばゲンドウや冬月でさえ暴走以外でパイロット搭乗時の起動成功例を見たことがないのだ。
「・・・碇」
「構わん。続けろ」
報告の続きを聞きたくないという顔の冬月にゲンドウが首を振る。
ゲンドウとしても、現場は既に問題解決へ向け動いているであろうにも関わらず報告に来た二人の顔色の悪さから更にろくでもないことが起きた事は読み取れるため続きを聞きたくないというのが本心である。
しかし、曲がりなりにも司令と副司令であり研究者上がりという二人の立場が
「ええと、必然的にマギの出す演算結果、もとい作戦成功率はそれを踏まえたものとなってしまいまして・・・」
「つまり?」
「つっ、つまりはっ・・・そのっ!」
「何と言いますか」
しどろもどろになる二人に柄にもなくゲンドウは落ち着きなさいと言葉をかける。
マヤに至っては涙さえ見せてはいないが殆ど泣き顔で、流石に説明は無理だと判断したマコトが意を決して一歩前に。
口を開き。
「つまり ─── 」
「マギは零号機、初号機共に
「 ─── あれ?」
「確率でいえば確かに暴走する可能性は高いですが、これが今回の作戦に於いてどれ程の不安要素となり得るか、説明するまでもありません」
「先輩!!」
公務室の中、ヒールを鳴らし颯爽と現れたリツコは二人の前へ、薄っすらと涙を見せる後輩へ笑みを向ける余裕も見せ白衣を翻す。
「両機共に、正常に起動した際の作戦成功率は〇・二五以下。やはり撤退を推奨しています」
その怖気づく様な内容とは裏腹に、白衣のポケットに手を突っ込み堂々と告げる姿は先程発令所からミサトに手を引かれ連れてい行かれた弱々しいものではなかった。
そんな彼女の落ち着いた様子にマヤとマコトは、冬月でさえも期待に目を輝かせる。
しかし、安易に場の空気に呑まれない男が一人。
「初号機は元より使徒の第一射を短時間受け止めるだけの案山子。その場から一歩も動かなくても問題は無い。本命の囮は零号機だ。何故そこまで差が出る」
弛緩した空気は再び重たいものへ。
ゲンドウからリツコに、視線が移る。
「現状、零号機パイロットは歩行はおろか自力での直立姿勢すらままならないからです」
「なにっ?!」
「・・・そこまで酷い状態、何故黙っていた」
「私も先程知りました。恐らく外傷によるものではなく心因性のものでしょう」
これ以上悪くなり様が無いと思われていた事態は終に最低値を叩きだす。
足がもつれ机の縁に手をつき身体を支える冬月に、レイについては初耳だったマヤとマコトも息を飲む。
そんな中、リツコとゲンドウだけが表情を変えず互いに視線を交わし続ける。
「だとしても、我々はその微かな可能性に賭けなくてはならない」
「いいえ。その必要はありません」
「?」
そう言い切るリツコの次の言葉に、今度こそゲンドウの表情が動く。
「弐号機、来ます」