『久し振りのプラグスーツでしょ。着替えて少しは落ち着いたかしら』
「下半身丸出しのままイキっぱなしで悪かったわね」
『・・・く、首の具合はどう?』
「物足りない感じ。シンジの手の方が冷たくて苦しくてもっとドキドキした」
『アンタねぇ・・・いい加減止めなさい!!発令所の皆も聞いてるのよ?!』
「今更じゃない」
薄暗いエントリープラグの中、パイロットシートの背もたれに足を向け逆さまな状態のアスカは顔を膝に埋め丸くなっている。
スピーカーから届くのはどこか懐かしささえ感じる発令所のざわめきとミサトの怒鳴り声。
それが更にアスカの羞恥を煽る。
「・・・使徒とかどうでもいいからシンジと一緒に死なせてぇ」
『止めなさい。司令も聞いてるのよ』
「あんたのバカ息子、ファーストキスは最悪だったけど二回目以降のクロスキスは中々好かったわよ」
プラグ内で唯一発光し眩しかったモニターが消え、スピーカーもホワイトノイズが流れたのちに停止状態へ。
期せずして暗闇と静寂に包まれたプラグの中、アスカは残った片目を緩く閉じ生温い液体を薄く開いた口から再び肺の奥深くまで吸い込み入れ替える。
時折外から響く振動がアスカの堅く強張った肩を揺すり解していく。
( ・・・落ち着く )
アスカは自身の母親、惣流・キョウコ・ツェッペリンの胎内にいた頃の記憶など持ち合わせてはいない。
それでもきっと、
( ママがずっと覚えていてくれるから )
赤い少女は考える。
女性のみが経験する、妊娠から出産に至るまでの過程を。
体内で生命を創り産み出すという、動物が有史以前から持ちうる普遍的であり壮絶な大仕事を。
( ・・・ありがとう )
アスカは疑わない。
ここがこんなにも心地良いのは自身の母親が、キョウコがそれを覚えているからだと。
身籠りどんどんと膨らむ腹部に例え不安や恐怖があろうとも、産まれてくる自分を愛おしく想っていてくれたからだと。
( 大好きよ、ママ。・・・愛してる )
返事はなくとも、心は触れ合えることを知る少女は語りかける。
( これからも一緒にいてくれる? ─── うん。あたしもよ、ママ )
それはつまり、少女の知る弐号機の実存を認めることであり、延いてはこの世界が幻覚や妄想、張りぼてで出来た偽物の類ではないという事実を認めるわけでもあり。
( けど、今だけは許して )
手錠の鎖で首を絞め気を失い、弐号機の中で目が覚めた瞬間に全てを悟ってしまったアスカは再び狭いシートの上で足を伸ばし大声で暴れ出す。
「何でまだ生かしてんのよっ?!反逆と内乱は一発で銃殺でしょ!?いっそひと思いに殺しなさいよぉッ・・・!!」
再度、羞恥心に苛まれる思春期の少女は母の宥める心の声に身を縮込ませてゆく。
「絶対フィフスインパクト起こしてシンジと一緒に死んでやるんだからぁ」
いくら弱々しくとも絶対に見過ごしてはいけないレベルのヤバい決意表明は誰に知られることもなくプラグ内レコーダーのログの中に埋もれて行く。
沈黙でもって応える弐号機の存在もまた。
「・・・説得は出来たんだな?」
「 ─── はい!!」
その自信に満ちた返事に発令所内の誰もが、味方のはずであるリツコでさえもがミサトを不安と疑念の目で見つめていた。