碇ゲンドウにとって感動的ではなくとも、それなりに感慨深い三年振りの再会となるはずだった。
「・・・葛城一尉、説明を」
ゲンドウが見下ろすその先の光景。
それは妙齢の女性二人と一人の少年。
少年を、自分の息子シンジを二人がかりで運ぶ部下達の姿だった。
「説明を」
『はっ、はい!』
アンビリカルブリッジ上、シンジの両脇に腕を通し運んでいた女性、葛城ミサトは慌てて敬礼しケイジ内上部に設置された、ゲンドウが立つブースへと向き直る。
当然。
運ばれていたシンジは放り出されブリッジに頭を打ち付けることに。
『ミサトっ!』
『ああっ?! ごめんなさいシンジ君!!』
シンジの両足首を両脇に抱え運んでいた女性、赤木リツコに叱責され狼狽えるミサト。
ブース内のモニターには腹心である冬月コウゾウの頭を抱える姿が流れている。
「・・・赤木博士」
『はい』
埒が明かないと見切りを付けたゲンドウはリツコに水を向ける。
シンジの両足を抱えたままという、やはり締まらない格好ではあったものの、至極真面目な顔から出てくる説明は理路整然として解り易いものだった。
いわく。
受け答えに応じようとしない。
自分で動こうとしない。
視線を合わせようとしない。
茫然自失の状態。
それはミサトと出会った直後から。
リツコと出会ってからも変わらず。
ゲンドウを視界の端に捉えてなお。
改めてシンジへ視線を向けるゲンドウは息子に呼びかける。
しかし息子からは望んだ反応は得られない。
残念ながら先程打ち付けた頭部の当たり所が悪かったようで目の焦点は合わず、半開きの口からは涎が際限なく流れている。
ブリッジ上で介抱する二人もすげなく首を振る。
「・・・冬月、レイを起こしてくれ」
『・・・仕方あるまい、か』
「ああ、仕方ない。レイ」
『・・・はい』
その後、三人は中央作戦指令室へ。
一人は本部内の医療用隔離施設へ。
一人はエヴァ初号機のプラグ内へ。
ジオフロント直上で暴れまわる使徒の影響でケイジ内の照明器具が落下するも、それに気を回す者は誰一人としていなかった。
そして第三の使徒の殲滅はエヴァ初号機の暴走でからくも成される。
ファーストチルドレン、綾波レイの入院期間延長とエヴァ初号機の中破という結果と共に。
広い病室にベッドが一つ。
ベッドを囲うカーテンはなく、横のキャビネットにはコップと水差しだけ。
少年、碇シンジにとって馴染み深い病室。
懐かしい場所。
そして、今の彼にとっては在り得ない、有る筈の無い空間。
( ・・・頭が痛い )
胸を刺される痛みと死への恐怖よりも少女との口付けを選んだシンジだったが、後頭部の痛みには耐えかねたようでベッドの上で身体を横に向ける。
( いない )
横になり、腕と胸の間にできた隙間を寂しく感じたシンジはそれを埋めようと枕に手を伸ばす。
( 夢・・・じゃないよね? )
それが指すのは、気を失うまでの間ミサトとリツコに運ばれつつ眺めていた見慣れない天井達のことなのか、それともあの赤い海での出来事なのか。
そのどちらとも以前からについてなのか。
シンジは無意識の内に唇を指でなぞる。
思い出すのは最悪な一度目と二度目。
そのどちらも胸が痛かった。
三度目以降も酷く胸が痛かった。
激痛だった。
穴が空いていた。
( 生きてるから・・・やっぱり夢? )
精神的に疲弊し衰弱した今のシンジは夢と現実はおろか、過去と現在と未来の区別も段々とつかなくなっていく。
( ・・・エヴァにも乗らなかったし、やっぱり夢なのかな )
とりあえず少女の存在とエヴァへの搭乗の有無を理由に、ここは夢の中なのだろうと納得するシンジ。
( 夢なんだから、一緒に寝てくれてもいいのに )
自分の腕の中に居ない少女への不満を愚痴りつつ、抱いた枕に顔を埋め目を閉じる。
シンジは気付かない。
頭の痛みに加えその眠ろうとする動作こそが、ここが夢の中ではなく現実足らしめているということに。
だがそれに気が付くことは万に一つもない。
何故ならこの場に少女がいないから。
その指針は揺るがない。
( ・・・寒い )
冷房の効いた病室。
人肌への餓えとともに、生理的な反応を催す。
( 夢の中、ですると・・・起きたら実際に・・・してたって、いうけど・・・ )
うつらうつらと、意識を手放し始めるシンジは痛む頭を動かすのはよろしくないと大分投げやりな理由で致す自分を納得させる。
( おねしょていど・・・なんか・・・いまさら、だろ・・・・・・あすか )
夢の中。
からかい、弄り、囃し立てる少女に言い返し、恥ずかしがりながらも文句を付ける少年の寝顔は穏やかなものだった。