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サブタイ変えました。
駅のホームで小さな男の子が泣いていた。
泣きながら小さな手を父親の背に向かって伸ばしていた。
父親は、男はその小さな手に気が付きながらも振り向くことなく電車に乗り姿を消した。
ゲンドウはその光景を、泣きながら蹲る小さな息子の背中を改札口の後ろから眺めている。
『駆け寄って抱きしめてあげればいいのに』
駅舎の待合室に立つ誰かの呟きをゲンドウは無視する。
( ─── らしくない )
真新しい無人の発令所内、オペレーター席のフロアで小さな女の子が横たわっていた。
男が周囲を見渡せば見覚えのあるヒールが転がっていた。
首の骨が折れているのか、軽い女の子の身体を男が抱き上げれば顔があらぬ方向を向いた。
ゲンドウはその光景を、迫り上るカスパーの機体の上から眺めている。
『二人を引き合わせる必要なんてなかったのにね』
迫り上るバルタザールの上に立つ誰かの囁きをゲンドウは無視する。
( らしくない )
父親を引き止めようと手を伸ばすこともなく、自らの意思で背を向け遠ざかる少年に男は声をかけなかった。
三年後、頭を打ち付け気を失う息子に男は呼びかけることしか出来なかった。
『・・・・・・』
( ・・・・・・ )
後日、葛城一尉は副司令と医療スタッフ達から厳重注意を受けていた。
「本部の総司令殿はお優しい。壊れたパイロットを生かしたまま捕えよとは」
「お望み通りあのパイロットは既に君達本部の管轄だ。好きにしたまえ」
「私はもう疲れた。悪いが一足先に盤面から上がらせてもらうよ」
「もう君と会うこともあるまい。・・・なあに、家族と一緒に長い休暇に旅立つだけだ。気にしないでくれたまえ」
『羨ましいだなんて思っちゃだめよ』
「君にも良い旅路があらんことを」
( らしく、ない )
ケイジで暴れる初号機。
隔壁を次々と突き破り第一発令所指令室に侵入し通過する初号機。
使徒の触腕を掴みコアを蹴り飛ばす初号機。
男はその記録映像を、掃除と機材移殖と人員移動を済ませた第二発令所指令室のモニターで眺めていた。
『・・・あの二人に任せて大丈夫?』
( ・・・・・・ )
後日、葛城一尉と赤木博士は副司令と医療スタッフ達から更なる厳重注意を受けていた。
少女の病室の前にネルフ職員による数人の列が出来ていた。
廊下を歩いて近付いてくる男の姿に職員達は慌てるが男もそれどころではなかった。
「・・・見舞いか」
「はいっ!」
「最初の使徒撃破からの面会謝絶がようやく解けたので・・・司令もですか?」
「ん、ああ ─── 」
見れば見舞品を手に銘々並んでいた職員達が病室への出入り口から離れ、背筋を伸ばし直立不動で廊下の両脇に整列していた。
「 ─── いや。別件で通りかかっただけだ。余計な気は回さなくていい」
「そ、そうでしたか・・・」
「あっ!もしかし息子さんのお見舞いに?」
成る程と職員達が顔を見合わせ納得するなか、男は慌ててそれを否定した。
「シン・・・サードチルドレンは今、使徒戦後の検査で面会は ─── 」
「えっ?!」
「 ? 」
男の応えに職員の一人が驚いていた。
その職員は見舞の花を二束、抱えていた。
「・・・私が預かっておこう」
勿論、例え父親であろうと本部の総司令官であろうと医師でもない男の勝手が許される筈もなく、さりとて捨てることも持ち帰る気にもなれなかった男は売店でお金が足りず花が買えないと騒いでいた少年に押し付けていった。
男の背中に頭を下げる、少し萎れてしまった花束を大事そうに抱える少年の横顔をゲンドウは静かに見詰める。
『本当、らしくないわね』
「ああ。らしくない」
声は直ぐ隣、ゲンドウの耳元で。
「またぞろ問題か?」
「・・・いや」
ゲンドウの意識は第二発令所内へと戻る。
「問題は無い」
通話の切れた受話器を置き、ゲンドウは口元で手を組む。
作戦決行まで残り三時間を切り、受話器越しに上がる職員の報告の声も緊張で落ち着きのないものだった。
「碇司令」
それは発令所内部も同じであり、オペレーター席のフロアから司令席を見上げるミサトの声も硬く。
「残りはセカンドチルドレンの到着を待つばかりです。こちらは赤木博士に任せ我々作戦課も現場に赴き指揮を採りたいと思います」
「・・・そうか」
ゲンドウは鷹揚に頷く。
絶望的な状況からアスカの説得を成功させ弐号機の運用を可能にした結果、新たな作戦の成功率は二割弱となっていた。
だが二割弱。
たかが二割弱。
ゲンドウは司令官という立場からは勿論のこと、一個人としても “ されど ” と続けることは出来なかった。
「サードチルドレンの容態はどうだ」
「・・・安定はしています。が、依然として寝たきりの状態です」
「搭乗は可能だな」
「それはっ・・・搭乗し、シンクロさせるだけならば」
段々と目付きが鋭くなるミサトに返される言葉は熱も帯びず、平淡そのものだった。
「ならば出し惜しみは不要だ。盾だろうと囮だろうと構わん。好きに使え」
「ですが、今の段階で急には・・・」
「今作戦の状態を維持したまま初号機を投入した際の成功率。一度も考えなかったとは言わせん」
「だとしても、そう大差はあるまいよ」
思いがけない横入りにミサトは深く息を継ぐ。
だが冬月の言葉に強い主張はなく、これ以上ゲンドウが職員との軋轢や不信感を生み出させない為の、ただ冷静さを求めての発言であり。
「大差はなくとも僅かな差が命取りになることもある。成功の可能性は上げるに越したことはない」
「・・・・・・」
そして今の今まで至って冷静なゲンドウが聞く耳を持つ筈もなく、冬月にしても狙われ自爆の選択もありえる本部内よりも初号機共に外の方が安全かもしれないという思惑もあり早々に口を閉じてしまう。
「例え次に同じ様な戦いがあろうと、今勝たなければその次に繋ぐことも出来ん。我々に妥協の余地は無い」
心無い正論。
それはゲンドウにとって都合の良いものだった。
司令官という皮を被り、これが本来の自分なのだと自身に言い聞かせる様に、周囲の人々を、息子を、耳元でざわつく雑音を己の目論見の為に突き放してみせる。
「・・・パイロットが全滅の憂き目に遭ってでも、ですか?」
「パイロット喪失のリスクが低いと話したのは君だ」
「ですが碇司令、彼の心は今 ─── 」
「くどい」
「 ─── っ」
ゲンドウはミサトを見下ろし権力でもって命令を下す。
「初号機パイロットを使え」
「・・・承服しかねます」
レイの時と同様、使徒戦とは違う緊張感に包まれた発令所内の人間全てが注目する二人のやり取り。
絶望的な状況から脱却したとはいえ、多くの職員が不安を抱え見守るなか、話はゲンドウにとって思わない方向へと進む。
「・・・ですが、初号機を投入した際の成功率は二割強。三割には届きませんが確かに上昇が見込まれます。碇司令の仰ること自体に間違いもなければ反対する理由もありません」
意味を咀嚼し頭の中を巡る疑問。
命令への拒否。
理由。
動機。
そしてゲンドウの中で今一番忌避してやまない、可哀そうな存在への単なる “ 同情 ” という安っぽい言葉が導き出された瞬間、それは怒号と共に吹き出した。
「ならば議論の余地は無い!今すぐサードチルドレンを初号機に乗せ待機させろッ!」
「出来ません!」
「何が言いたい葛城一尉!!」
憤りのままに席を立ち、部下を見下ろす男に失望はなかった。
期待されることを嫌う男は人に期待することなもかった。
人を信用せず、人を動かすのならば必ず男の意思が介入する余地を作り、手を回し、策を弄して来た。
だからこそ男は自身が作り出した現状を、今現在、自身が立たされている予想外の状況そのものに対し憤っていた。
「碇司令。どうかお願いします」
J A への失策程度、些細なものだった。
第三支部司令の一家揃っての消息不明など気に悩む必要すらないものだった。
たった一つの目的の為、利用できるものは全て利用し尽くしてきた男だった。
「私が言える立場でないことは重々承知です。それでもどうか」
造りモノの少女が男の与えたモノ以外に執着を見せるようになった。
贈りモノに囲まれ、それを大事そうに抱える、物欲を見せる少女の姿など想像していなかった。
「寝たきりの彼を戦いに出すというのなら」
パイロットという立場に執着し、女として男に求められることを望んでいた少女が立場を捨ててまで自身と同じ子供の少年を求めだした。
子供らしからぬ、それでいて幼さ故の、歯止めの利かぬ性欲を会ったこともない相手にぶつけるその姿に困惑した。
「貴方が」
家族愛に飢え、内向的で傷付きやすい少年が殻の中に籠りだした。
ただただ幸せそうに眠り続け、食事も排泄も着替えも人任せに、ベッドの上で夢に耽るその姿に男は ─── 。
「父親として・・・いいえ、司令という立場でも構いません。どうか」
ゲンドウはその場で声を発することも出来ず立ち尽くす。
静かに立ち、頭を下げる部下を見下ろす。
それは責任の放棄ではなかった。
もし、責任の所在で語るのならばそれは間違いなくゲンドウの方にあった。
「どうか息子さんを、貴方の手で送り出してあげてください!!」
部下の隣には。
「自らの望みを口にしない彼を、私は自分の手で乗せることはもうできません」
その隣にも。
更に隣へ。
下のフロアへ。
更に更にと下げられる頭が、顔が。
病室の前で見知った顔が続いた。
「司令官という立場も損な役回りばかりだな、碇」
「・・・・・・」
発令所内の誰とも目が会わないゲンドウに、目を逸らすことは許されなかった。
ゲンドウの内面なんて知るかとか考えながら打ってました。