ネルフ、ドイツ第三支部内。
支部内の施設でも比較的明るい、外の日差しが多く取り込めれる一室。
部屋の中の照明器具を無くすためか、嵌め殺しの大きな窓にカーテンはかかっていなかった。
入居前の、壁紙の貼り付けも済ませていない様な色のない室内。
そんな殺風景な室内には一台のベッドと一人の少女が。
少女は血の付いた病院着を纏い、ベッドの上で膝を抱え丸まった姿勢で微動だにせず、窓の反対側奥の壁にある出入口を黙って力なく睨みつけている。
少女の左目には医療用の白い眼帯がかかり右目には深い隈が。
包帯が厚く巻かれた右腕は力なくベッドの上に投げ出されその手首には手錠が、鎖はそのままベッドの脚に繋がれている。
私室というよりは病室。
病室というよりは監獄に近いその一室で部屋の主は、惣流・アスカ・ラングレーは訪れることのない少年の姿を待ち続けていた。
「・・・サードチルドレン、碇シンジを連れてこい、ねえ」
その少女の様子を部屋の外、廊下の壁に掛けられたモニターから眺めている男、加持リョウジが呟く。
少女が求めてやまない少年の名前を。
( 第三の使徒殲滅後、本部と張り合う研究員達の独断専行で急遽始まった、実戦で観測された A T フィールドのデータを用いてのエヴァ動作実験。その結果がこれとは。リっちゃんの鼻で笑う姿が目に浮かぶな )
加持は先日ようやく本部に送れた資料の内容を時系列順に追って思い返す。
実験前はサードよりも使徒を殲滅したファーストに強い関心を持っていたアスカ。
研究員達に煽られる様にして意気揚々と弐号機へ乗り込むも実験開始直後に暴走。
百を超える高シンクロ状態に陥った瞬間に気絶。
その際、施設内の電力部に接触し弐号機は小破。
同時にパイロットもフィードバックにより負傷。
「左目は完全に失明。右腕も掌から肘辺りまで縦に割け神経もズタボロ・・・」
パイロットが気を失ったままの状態で手術は始まり、その後下された診断結果は惨憺たるもの。
少なくない研究員達の死傷者と資材の損失を出した事故だったが、その研究員達の独断専行が招いた面からも、支部内の人間は巻き込まれ乗せられただけで大きな傷を負ってしまったアスカに同情的だった。
「・・・にも関わらずこの有様、か」
加持は吊られた自分の左腕を摩り苦笑する。
廊下には物々しい雰囲気が漂っていた。
モニターを眺める加持を挟むように立つ黒服の屈強な保安諜報部員達に、部屋の出入り口と廊下の両端を完全武装で巡回する固い表情のネルフ職員達。
「流石、ネルフの天才エースパイロット。自分で言うだけはあるな」
アスカが同情的に見られたのはほんの数時間。
彼女の残った目が開くまでの、ほんの短い間だけだった。
「ドイツ第三支部で起きた錯乱した弐号機パイロットによる特殊監査部 加持リョウジを人質に取った立て籠り・・・ようやく方が付いたらしいな」
「・・・ああ」
薄暗い司令官公務室内。
ネルフ本部の総司令と副司令の囁くような会話。
「何でも件の少女はお前の息子を御所望だったとか。何時の間に二人の接触を?」
「記憶にない」
語られるのは本部の職員達へ知らされることなく過ぎ去って行くこと。
「第三支部の連中はこの不祥事、委員会からの言及を極力避けるため、セカンドチルドレンは外部からの洗脳の可能性有りと決め付け早々に処分したがっているようだがどうする。この苦しい時にのんびりと新たなパイロットを選出している暇はないぞ」
「処分される前にこちらで回収する手筈は整っている。アダムに関してもだ。これ以上好きにはさせん。問題はない」
その聞き慣れた単語に副司令、冬月は顔をしかめる。
「諸々の回収については心配しておらん。彼の随伴もあるしな」
「では何だ」
冬月は深い溜め息をこぼし、何時ものごとく机に肘を付き手を口許で組んで語る男、ゲンドウへ向き直る。
「第三使徒上陸以降、エヴァの起動は公式非公式問わず暴走のみ。本部支部共に出る損害は使徒ではなくエヴァによるものの方が甚大」
「・・・・・・」
冬月からゲンドウヘ向けられたのは至極真っ当な不安だった。
それは計画以前の問題。
そして。
「今やネルフ内外において一番信頼されているエヴァパイロットがレイただ一人なんだぞ?!」
そして計画の全貌を知る者達にとって、これほど不安になる理由もなかった。