会議室にて、司令副司令を除いた中央作戦指令室の何時ものメンバーとパイロットに直接関係の有る部署の職員達が集まっていた。
それぞれが手に持つ冊子には第五次チルドレン報告会の文字が。
オペレーターの一人、日向マコトの報告が続く。
「第三使徒殲滅直後から入院中のレイちゃんですが、先日の手術は成功。重篤な容体からは脱して現在は小康状態と落ち着いています」
「損傷した内臓の方はどうなったの?」
「保管されていたドナー患者のものを使用。特に拒絶反応等は見られず今の所は正常とのこと。ただ・・・」
「無茶させるな、でしょ。わ~ってるわよ。今のところテストだの実験だのさせる気もないっての。リツコもそうでしょう?」
レイの身体に関する不安点をミサトが確認し今後の方針をリツコに尋ねる。
「ええ。零号機の再起動実験は今すぐにでも始めたいところだけれど、流石にね」
「サードチルドレンを零号機に乗せての実験は出来ないんですか?」
リツコの決定に書記を務め議事を P C へ打ち込んでいた伊吹マヤが以前から推し進めていた筈の予定を尋ねる。
「本部で三度。支部でも非公式に一度。このひと月の間に起きた四度に渡るエヴァの暴走でどれだけの物と人とお金が消し飛んだか、だそうよ」
「だそうよ?」
マヤがリツコの微妙な言い回しに首を傾げ、ミサトが頭を掻きながら苦々し気にその詳細を話す。
「この前のシンジ君の出撃で副司令から大目玉食らっちゃってねえ・・・」
その副司令は副司令で国連や日本政府等、方々から大目玉を食らっていた。
外からは自意識の希薄な訓練経験もない隔離中のパイロットを使いエヴァが暴走したと見られていたらしい。
「まあ、事実ですから仕方ありませんよ」
日向の言葉に職員達がうんうんと頷く。
「う゛」
「ぐっ」
レイの時とは違い、搭乗直後ケイジ内で始まった暴走も印象悪化の原因だった。
「発令所も半壊ですしね」
マヤの言葉に職員達が溜め息を溢す。
「いや・・・その」
「まあ・・・ねえ」
そして下された法案が使徒戦以外でのエヴァの完全起動を禁止するもの。
「・・・ちょっち間が悪かっただけよ。碇司令が不在中でまともに使えるパイロットはゼロ。弐号機を半強制的に本部へ回収しようと第三支部の司令と交渉中だったのにそれを私とリツコが台無しにした、だなんて」
本来なら国連やら政府やらも間に挟んで行われる交渉等を全部すっ飛ばして戦力確保ができる機会だったらしく、それを二人の独断でみすみす逃すことになってしまったらしい。
「事前に報告ぐらいしてくれたっていいと思わない?」
この場に冬月が居れば間違いなくお前が言うなと怒鳴られかねないミサトの発言に、彼女の勢いに呑まれプラグにシンジを放り込む手伝いをしてしまったリツコも顔をしかめる。
「副司令も、あの状態のシンジ君をエヴァに乗せるだなんて夢にも思わなかったでしょうね」
もっとも、冬月が行っていた交渉に関しては当日、第三支部内で人質を取って籠城するアスカに掛かり切りという事態で成功する確率はものすごく低かった。
後日、そのことについて当の人質だった男から知らされ冷や汗をかくことに。
それら伏せられた情報について知らされることのない二人の完全な怒られ損だった。
「セカンドチルドレンについては前回の報告時と変わらず。未だに眼球の移植や腕のリハビリを拒んでいる状態です」
「まいったわねえ・・・精神汚染の方も相変わらず?」
「はい。自身と、何故かサードチルドレン以外の人間は全て死亡しているとの主張を繰り返しています」
再び会議室内に溜め息が響く。
「使徒と人類、エヴァの手により世界は滅亡・・・」
「残される少年と少女・・・」
「今、自分が見ている世界は使徒の生き残りか地球外生命体かが作る幻覚、もしくは作られた偽物・・・」
「支部内では未来予知の類いではと一部声も上がっているそうです・・・」
再度響く、深くなる溜め息。
「そこらのゴシップ誌が書いた三文記事なら鼻で笑ってやる所なんだけど・・・」
「・・・世界に三人しか居ないエヴァパイロットが言うと妙な説得力がありますよね」
「何でサードチルドレンも生き残ってるんだ?」
「そりゃあ、同じエヴァパイロットだからだろ?」
「案外、深層心理からくる恋心の暗示的なものだったり!」
「残念。セカンドとサード、互いの存在は情報のみで知るだけっすね」
「あれ?でもこの前サードがセカンドの話に興味を示したって報告上がってたぞ」
「マジか!」
一気に騒がしくなる会議室。
選ばれた世界を守る同い年の男女のパイロットという設定が憶測とも妄想ともつかない想像を膨らませる材料になっているのは間違いなかった。
異様な熱気に包まれ、もはや報告会のていを成さない室内。
そんな中、背中にうっすらと冷や汗を流す女性が一人。
( ・・・あの人が壊れたパイロットごときの回収で躍起になるだなんて、不思議に思ったものだけれど)
手元の P C に映る極秘の文字。
中身は二人の身体検査時の写真。
第三の使徒殲滅以降に出来たと思われる、二人の胸元と背中の白く薄い、丸い痣。
同じ直径。
同じ色素。
まるで、細長い槍のような物で体を貫かれた後、塞がれた傷痕のような痣。
レイには無い、二人だけのもの。
ゼーレさえも知ることのない事実。
( まさか、ね・・・ )
リツコは手元のファイルを消去する。
いずれは周知の事実となろう二人の目立つ痣を。
それでも今は知られるべきではないと。