青い少女が目を覚ました時そこが何所なのか、自分が何所で寝ていたのかが直ぐに理解できなかった。
何時もの心静かにできる打ちっ放しのコンクリート柄の部屋でもない。
ここ最近でようやく慣れ始めた、昼でも夜でも眩しく感じてしまう白い病室でもない。
「?」
だがそれは少女の勘違いだった。
そこは間違いなく零号機の起動実験失敗以来、長期療養する羽目になった病室である。
よく見ればそうだと直ぐに気が付くことが出来た筈なのに、少女は気が付かなかったのだ。
そうだとは思えなかったのだ。
「・・・・・・はな」
未だ右目の眼帯と右腕のギブスを外せない少女は明いた左目を大きく開き周囲を見渡す。
そこにあるのは色の洪水。
赤、青、黄。
紫に桃に橙に。
ベッドを囲むように。
少女を囲むように。
色とりどりの花束が。
山になる程の生花が溢れていた。
「そこにあるもの全部、あなたに贈られたものよ」
掠れた小さな少女の声に応えたのは別の声だった。
その声の方向に少女は首を向け何とか身体を起こそうとするも声の主、ミサトに止められる。
彼女の手にもまた満開の小さな向日葵が。
「まったく格好つけちゃって。普段お見舞いしないような連中ばかり挙って花束なんか選ぶんだから。私の置き場がなくなっちゃうじゃない」
「そう思うんだったら、あなたも活けるの手伝ってちょうだい」
「あら。リツコも来てたの?」
複数の花瓶を台車に乗せ病室に入って来たリツコはまた増えてると頭を振る。
「ドアに花束お断りの札でも掛けとこうかしら」
「止めときなさいって。花が縫い包みとかの小物に代わるだけよ」
「だとしても、水替えの面倒が無くなるぶんだけマシだわ」
ミサトの持つ向日葵をさっさと取り上げるリツコは手頃な花瓶に挿していく。
「・・・いまいちね。そこのデルフィニウム、取ってちょうだい」
「デル・・・何?」
「青い星型のやつよ」
「ああこれね」
複数の花束を組み合わせ、ああでもないこうでもないと活ける二人の姿に少女、綾波レイは首を傾げ問う。
「なんで・・・ですか」
「ん?」
「・・・え?」
それは困惑。
「どうして・・・ですか?」
それは疑問だった。
いままでの病室にはなかったものだった。
自分の、コンクリート柄の部屋にだってなかったものだった。
それが何故、自分に送られるのか。
勿論、知識では知っていた。
こういった場合どの様にすればいいのか。
どの様に行動するのが普通なのか。
それでも少女は理解しきれなかった。
そんな、心底不思議だと言わんばかりのレイの表情にミサトは微笑む。
「良かったわね、レイ」
「・・・なぜ?」
体中が酷く重く、まともに動かすことさえ出来ない現状の自分。
そんな自分を見てなお、少女の傍に寄り添い動かし難い右手をとって、ミサトは何故か嬉しそうに良かった良かったと頷く。
「皆あなたのことを想って、心配してたのよ」
「みんなって・・・だれ?」
少女は知っている。
その答えを。
それでも掠れた声で。
わずかに震える声で尋ねてしまう。
「ネルフのみんなからよ」
「・・・ほんとうに?」
「ええ。本当に」
「あたたかい」
「そう。皆の気持ちがあったかくて、嬉しいのね」
自分の頬を伝う熱を持った気持ちに、少女はもう混乱しない。
そっと指を添え、受け止めてくれる人が確かに居たから。
「ありがとう、ございます。葛城一尉」
「水臭いわね~。ミサトでいいわよ、れーい」
とぼけた声から贈られたそれが、偽りでないと信じたくて。
「・・・ミサトさん。ありがとう」
「ん。どういたしまして」
一気に満たされるそれが、自分にも意味のあるものだと信じたくて。
「・・・・・・リツコ、さん?」
それの存在を確かめたくて。
「・・・・・・別に、構わないわよ」
「素直じゃないわねえ~」
少女はその日、一方的ではない繋がりを確かに感じたのだった。