ごくん…。
「クハハハッ!!飲んだッ!!飲んだぞッ!!」
嬰章の顔が激しく歪む。
三日月形に口を歪め、ニタリと笑う嬰章。
…しかしそんなことは関係ない。薬を飲んだが、あまり実感は…。
「……グッ!?」
…なんだこれは…ッ!?
身体が…熱い。燃えるようなそんな感覚…だッ…。
「ハッハッハッ!!どうだ。妹紅。貴様の友達とやらは貴様のせいで貴様と同じ業を背負うことになるんだッ!!これこそ…本当の絶望だ…。」
「…んでッ…そんな…薬を飲んだんだよ…ッ。ユタァッ!!」
妹紅の悲痛な叫びが聞こえる。
吾は情けないことに…苦痛で地面を…のたうち回っていた。
「…蓬莱の薬は劇薬。死ぬか、それとも永遠に生きるかの二択だッ!!どうだ。妹紅。…これこそが俺の復讐だ。」
「ハァ…ハァ…。グッ…。」
胸のあたりが…息が詰まる。
…身体からシューシューと湯気が出ている。身体が人からかけ離れていくのが…わかる。目も少し霞んできた。後ろを見れば、妹紅が蹲りながらも、大声をあげているのがわかる。
「…ハァ…グッ。」
「…おっ、まだ立ち上がるか?…まだ苦しそうだが?」
嬰章が吾にそう問いかける。
吾はふらふらとする足で、その手に刀を握り、妹紅を後ろに立っていた。
「ユタ…ッ!!アンタ、ふらふらじゃないッ!!」
「…ハァ…飲まず食わずの…時もあった…。このぐらいの痛み…ぐっ…!!」
「やめとけ、やめとけ。もうボロボロじゃねえか。…痩せ我慢はやめとけよ。」
…段々と視界がひらけてきた。
だが、立つのもやっとな感じだ。今コイツと戦ったら、一瞬で吾の負け。なんとも無様…だが。
「…悪くッ…ねえなァ…ッ!!」
「あ゛?」
「…いくら無様でも…ここで足掻くが、吾の務め…ッ!!」
「…はぁ。そういう、暑苦しいの今はいいんだよ…。だったら、御望み通り、ぶち殺すのみだ…ッ!!」
嬰章は大きな翼を広げ、吾を見る。
吾の体は奴らが言う通り、ボロボロだ。…2本の刀を持ち、嬰章に構える。
「…やめろ…やめろ…。私は…もう私のせいで…人の人生を無茶苦茶にさせたくないんだよッ!!」
「…。」
後ろで妹紅が泣き叫ぶ。
…吾は精一杯、穏やかな声を出した。
「…大丈夫だ。元々、人斬り。吾の人生は無茶苦茶だ。その中で、咲夜や幽香、それに…お前に出会えた。はちゃめちゃだからこそ、面白いことだってあるだろう?」
「…お前…この状況で…なんで笑って…。」
「吾は人の笑った顔が好きだ。…お前にも笑っていてほしい。」
…あぁ、随分と身体が軽くなってきた。
吾は妹紅の方を見る。妹紅は涙を目に浮かべ、キョトンとした顔でこちらを見ている。
「…おい。嬰章とか…言ったな。」
「あん?」
「…吾が勝ったら、この娘…貰うぞ。」
「うぇっ!?」
…妹紅の気の抜けた声が聞こえる。
嬰章は大声を上げて笑い出した。
「ハッハッハッ!!テメェ、その女に惚れたのか?」
「あぁ。この子は優しい。テメェに殺されるくらいなら、吾が貰ってやった方がマシだ。」
…少なくともそう思う。吾はそこまで出来た男じゃないが、女の子一人のことを幸せにするくらいできるはずだ。
「…いいぜ。だが、そんな醜女で良かったらなァ!!そいつのおてんばは俺がよく知ってる。そいつをテメェが飼い慣らせるならやってみろッ!!」
「飼い慣らすだと?…吾は一緒に居たいだけだ。貴様みたいな屑とは違うんだよ。」
「…ハハッ。ならば、殺さねえでやるよ。お前が勝ったらなァッ!!」
嬰章は懐から短刀を取り出し、吾に向ける。…それでも勝てるという奴の自信の表れか。
「…今、テメェを倒せば、妹紅は最も絶望する。」
「…負けねえ。」
…身体中が完全に人ではなくなったのがわかる。
吾はニヤリと笑った。その笑みに嬰章が面白くないような顔をした。
「ッ!!」
「ーッ!!」
嬰章が短刀で吾を斬りつけてくる。お粗末な刀だ。
吾はそれを簡単に弾き、奴の腹に左手の蟷螂丸の横一閃を撃つ。
「ぶぐッ…!!」
「…ッ!!」
「チッ…!!」
短刀を下へと落とした嬰章。拳を握り、吾の顔を殴ろうとしてくる。
吾はその右腕を斬り落とし、バツ字に奴を切り裂いた。
「ガハッ…!!」
「…。」
惨めだな。血だらけで口から血を流し、吾を恨めしげに睨む。…笑えもしない。さっきまで力に溺れていた男が、膝をついてこちらを睨んでいる。
「…何故だ…。」
「飛ばない鳥が虎に勝てるか?…貴様は吾の得意分野を持ち出した。それが貴様の生死を分けただけのこと。」
「…ハッハッハッ!!…俺は不死身だぞ…?こんな傷…数分で…。」
…治らない。
「なっ…何故だ…ッ!!傷が…癒えない…だと…。」
「…その力に頼りすぎていた。それが貴様の敗因だ。」
「んだと…俺がいつ負けたって…!!」
「元々、貴様は吾らに勝っちゃいない。負けそうになって人質を取っただけの…屑だ。」
「…火羽。」
右手を失った嬰章。炎の大翼を広げ、こちらを睨む。
「だったら、これで終わらせてやる…ッ!!テメェら、全員もろとも、灰になりやがれ…ッ!!火羽・飛散ッ!!」
上から雨のように飛んでくる炎の羽。
それを吾は全て刀で弾く。…この羽、鉄の弾丸みたいな音がするんだよなぁ…。どうでもいいか。
「ハッハッハッ!!弾いたところで、何にもなんねぇんだよッ!!守っているだけで何にも出来ねえッ!!テメェはそういう人間だッ!!いいや、もう人間じゃあなかったなぁ?」
「…一変して変化無し。体は人に非ずとも、心は人以外の何者でもないッ!!」
吾は一番背の高い竹を駆け上る。
そのまま奴のところまで…跳び上がる。
「来いッ!!この上空で返り討ちにしてやる…ッ!!大火羽ッ!!」
奴の羽が大きくなる。
少しでも足捌きをミスれば、下に真っ逆さまだ。だが、それでも良い。
「…幻想二刀流 地獄門 『炎上馬車』ッ!!」
天空でバツ字に嬰章を切り裂いた。
「ぐっ…。」
血と共に奴は地へと落ちる。
…勿論、吾も。二人とも頭から落ちていく。
「…ユタァァァァッ!!」
「うおっ…。」
…びっくりした。
下から飛んできた妹紅が吾を空中でキャッチした。背中に妹紅の豊かに実った胸が当たっている。…少し気持ちいい。
「大丈夫っ!?怪我ないっ!?」
「…あぁ。」
姿はだいぶと滑稽だ。
頭から落ちかけた挙句、女に脇から手を入れられ持たれているのだから。
「アンタ、本当に不死身に…。」
「…良いじゃねえか。お前と一緒に入れる。ずっとな。」
「馬鹿ッ!!それであんな目にあっちゃ世話ないじゃないッ!!」
…地面に降りる。吾は妹紅の方に向くと、いつもの顔が涙に濡れていた。
「…泣くな。もう終わった。大丈夫だ。」
「ヒグッ…馬鹿ぁぁ…!!」
吾の胸に顔を沈ませ、泣いている。
吾は彼女のサラサラとした長い髪を、頭を優しく撫でた。
「…ぐすっ…ねぇ…。」
「ん?」
彼女が背伸びをした。
唇に柔らかいものが触れる。…こういうことをするとは。少しびっくりした。
「ぷはっ…。えへへ。…ご褒美…かな。」
「…ふっ。」
照れて笑う妹紅。
やっぱり、美人だ。もう一度吾は静かに唇を合わせた。
「…妹紅。吾の女になってくれぬか。」
「…んふふ。嬉しい。だって、あんなにも本気で戦ってくれたんだもん。ちょっと…恥ずかしいけど…私も…好き…かも?」
「かもってなんだ。かもって。」
「ふふっ。嘘。大好き。」
そう言って笑う彼女。
その笑顔を山に沈む黄昏の日の光が淡く照らした。
あと1話だけ続くんじゃ。
個人的には40話から宴会にしたいんだけどね。まぁ、あとはトントンと…。特にもこたんは初めて書くからもっといっぱい書きたいですね。では次回。ではでは。