…今日の夜は人妖ごちゃ混ぜどんちゃん騒ぎ、博麗神社での宴会だ。紫姉さんから聞いたのだが、夕方ごろに家事のできる者をあらかた集め、全員分の料理をしてもらいたいとのこと。勿論、咲夜にも伝えないといけないのだが…。
「ん?」
「んふ〜。」
…さっきから吾の後ろをフラン嬢がついてくる。後ろを見れば、笑顔で小首を傾げてくる。…なんというか、主人殿の妹君には失礼だが、子犬のような愛くるしさだ。…決して顔には出さぬが。
「…何か用か?」
「ん?何か面白いことないかと思って。暇だなぁってなってたら愈咫郎が前を通ったから。ねぇ?遊ばない?」
「…しかし、咲夜に今日のことを伝えねば。」
「え〜。」
咲夜の部屋に行こうと足を進める。…後ろで文句を垂れるフラン嬢。少し待っていただけやしないだろうか。伝えるだけなのでと伝えるも、吾の後ろから離れない。…はぁ。
「…咲夜にこのことを伝えたら、後で遊んでやるから。」
「ほんと!?じゃあ、咲夜に言うまで待ってる!!」
…さっきまで機嫌を損ねていたのに、一気ににぱーとあどけない笑顔になるフラン嬢。…こういうところを見れば非常に子どもらしいと思う。
「咲夜。」
咲夜の部屋の扉をノックする。…返事がない。呼びかけにも反応がない。
「ねー、入ってみよっ。」
「…しかし…。」
…居ない間に部屋を物色するなど、失礼ではないか?
「入ってみようよ〜!!フラン達が来てるのに、居ない咲夜が悪いんだからっ!!」
「…致し方ない。」
フラン嬢を抑えられる気が今はしない。吾は後ろめたい気を抑え、扉のレバーに手をかけた。…中は非常に綺麗だ。吾の部屋と間取りは同じだし…何か変わっているわけでもない。
「普通だね。」
「…まぁ、真面目だからな。」
女の子らしいところというと…ベッドの上にクマのぬいぐるみがあるところか。
「あっ!!ねーねー!!」
「ん?」
フラン嬢が机の上から何かを持ってくる。…あまり触りすぎたらダメだと思うが…。それは…耳かきの棒か?
「フランが耳かきしてあげる〜!!」
「…いや、それは…。」
…流石にダメだ。主人の妹君にお手を煩わせるなど。…フラン嬢を見れば、不貞腐れたように口元を膨らませている。
「…そ、そうだ。吾が僭越ながら耳かき致しましょう。」
「ええー…。フランがしたいのに…。」
…少しフラン嬢の顔が暗くなる。…心が痛むが仕方ない。吸血鬼の耳かきが怖いのも事実だが、それよりフラン嬢にさせるというのがやはりダメだと思う。
「ここだと咲夜が帰ってくる可能性もあるし…それに、移動すればすれ違いになってしまうかもしれないし…。フラン嬢がやりたいとおっしゃられるのは嬉しいが、それはまたの機会に。」
「むぅ…。じゃあ、わかった!!」
「…ふふ。では。」
吾は咲夜のベッドに座り、膝を叩く。
するとフラン嬢はトコトコと歩いてきて、吾の膝を枕に横になる。…髪がサワサワと当たって少しくすぐったい。
「…いくぞ?」
「…うん。」
…少しおとなしくなるフラン嬢。
先ずは右耳から…。といっても匙加減がわからん。少し弱めにしてみるか。
「フラン嬢の耳は綺麗だな。」
「…うん。いつも、咲夜が二人分してくれるんだ。それが気持ちよくて…フラン、いっつも寝ちゃうの。」
「ふふ。それはそれは。」
なんとも微笑ましい。
「咲夜のお膝より愈咫郎のお膝の方が硬いねー。」
「まぁ、男と女だからな。さ、入れるぞ。」
「うん。」
フラン嬢の耳に耳かきの棒をゆっくりと入れる。
「んっ…。」
「…痛いか?」
「んーん?…気持ちいいよ?」
フラン嬢から少し艶やかな声が出る。…流石に幼児体型とはいえ、吸血鬼なので立派な女性。外に聞かれれば大惨事だ。
「んっ…!!」
「わ、悪い。痛かったか?」
「ん…ちょっと。」
…む。それは悪かったな。少し力を弱めよう。
「…あっ…。ちょっと気持ちいい。」
「ふふ。それは良かった。」
…少し奥に耳かきを入れる。フラン嬢も気持ちいいのか、ピクッビクッと時折り、動く。…動かないでいて欲しいものだが…。しかし、なんとも掃除し甲斐のない…もとい、なんとも綺麗な耳穴だ。
「なんか…お父さんか、お兄ちゃんが出来たみたい…。」
「フラン嬢にはお姉さまがいらっしゃるではないか。」
「…だって、お姉様、忙しいとか言って構ってくれないし…。遊んでくれる人なんて美鈴くらいだよ?その美鈴も毎日、遊んでくれるわけじゃないしさ。」
…悲しそうな消え入りそうな声だ。
「ねぇ、愈咫郎は遊んでくれる?」
か細い…実にか細い声だ。子どもらしく寂しいという気持ちがよく伝わってくる。…吾は静かに彼女の耳をほじくる。
「あっ…そこ…。」
「…フラン嬢が望むのであれば。しかし、吾は弱いゆえ弾幕ごっこなるものはできぬ。…それでも良いならご一緒致します。」
「ん…いいよ。」
…よし。ここまでかな?
フラン嬢の耳は本当に綺麗で、やることがなかった。咲夜の手際の良さが改めて伺える。
「…あ。」
「ん?」
フラン嬢が前を向いて、指を向けている。
…そこには、扉から入ってきたであろう咲夜の姿があった。
「…なにしてらっしゃるんですか?」
…穏やかな口調だが、少し冷ややかな印象を覚える。ちょっとだけ無機質な顔に苛立ちが見える。
「さ、咲夜こそどうしたの?」
「…私の部屋に戻ってきましたら妹様の艶やかな声が聞こえましたので何事かと…。」
「み、耳かきしてもらってたのよ。ね、愈咫郎?」
「あ、あぁ。」
「み、耳かき?…その…淫らなことではなく?」
…やはりな。外に聞かれりゃ、先ず勘違いされる。…咲夜の顔がほんのりと赤くなる。…というか、まだやっているのだから、見たらわかるだろうに。
「愈咫郎、も、もういいよ?」
「…あ、あぁ。わかった。」
「ありがとうっ!!愈咫郎っ!!じゃあ、咲夜っ!!私はいくからねっ!!」
「ふぇ?は、はい。」
…バタンっ。
扉の閉まる音が室内に響く。…咲夜の顔がほのかに赤い。
「…。」
無言で隣に触る咲夜。
「…なんで、私の部屋にいるの?」
「…咲夜のことを探していた。紫姉さんから、博麗神社に来てくれって。宴会の準備に。…ってなにしてる。」
「…。」
…寝転がり、吾の膝に頭を乗っけてくる咲夜。…くすぐったい。
「…。」
「…全く、フラン嬢に妬いてどうする。」
咲夜の頭を撫でる。普段はこういうことをしない彼女だが、自分の知らないところで自分の部屋で自分の知っている人同士がこういうことをしているから少し甘えたくなったのだろう。
「…別に、妬いてないわ。…ただ一仕事前の愛情補給。」
「なんだそりゃ。…じゃあ、別に膝枕じゃなくたって…。」
「…もうちょっとこのままで居たいの。…だめ?」
「…ふふ。ダメなわけないだろ?」
咲夜の顔にふと笑みが戻った。
「今度、ユタも耳かきしてあげるわ。」
「お。いいのか。それは助かる。」
…咲夜の耳かきは気持ちいいと言われたからな。少し楽しみだ。
「ねぇ、ユタ。少し眠いわ。…このままちょっとだけ寝てもいい?」
「…まぁ、夕方まで時間もあるしな。良いよ。」
「んっ…ちょっとだけ…おやすみ。」
…はにかみながらそう言う彼女。吾の膝の上で健やかな寝息を立て、眠り始めた。…どうせ動けないし、持ってきた本でも読むか。