チックタックと時間が進む。…もう小説も終盤まで読み進めてしまった。ここに来て五冊目くらいか。
「…咲夜。」
すぅすぅ…と寝息を立てて横向きに吾の方を向きながら眠る咲夜の体をゆする。随分と寝心地がいいのか、それとも相当、疲れが溜まっていて眠りが深いのか。…ともかく、早く起こさなければもうすぐ夕暮れ時だ。
「…おい。咲夜。」
「ん…んんぅ…。」
…ダメだこりゃ。
頬を突っついても反応しない。…というか、柔らかいな。クセになる。
「…しょうがないな。」
…そんなことを言いながら、吾は寝息を立てる咲夜の唇を奪う。そうすると大体、咲夜は起きる。そういうところがとても可愛らしいと思う。…現に今、パチクリと目を動かし、舌を入れてきた。…今はそういう時間じゃあない。
「あっ…。」
「早く起きろ。…約束の時間だ。」
「むぅ…。まぁ、良いわ。夕方までって約束だものね。…お嬢様方のこと、頼むわよ?」
「あぁ。任せろ。」
そう言うとにっこりと微笑み、立ち上がる咲夜。…最後に頬にキスをして立ち去って行った。
時刻は午後8時。どんちゃん騒ぎの宴会に所狭しと並べられた酒や料理。まさに豪華絢爛である。
「わぁー!!」
フラン嬢もご満悦の様子。今日はレミリア嬢と美鈴が先に行ったので吾はフラン嬢の護衛兼付き添いとして、フラン嬢と共にやってきた。繋がれた手は咲夜よりも小さくてとても可愛らしい。
「ねーねー!!早くお姉様達のとこ、いこーよ!!」
「御意のままに。」
フラン嬢と共に博麗神社境内近くにマットを広げたレミリア嬢と美鈴の元へ行く。…本当に活気に満ちている。まるで一つの祭りのようだ。
「フラン。こっちよ。」
「あっ!!お姉様ぁ!!」
…フラン嬢はレミリア嬢を見るなり、飛び出して行った。そのフラン嬢をレミリア嬢が抱き止める。…本当、仲のいい姉妹だ。
「愈咫郎。ありがとう。ここはもう良いわ。」
「…それでは。挨拶回りに行って参ります。」
…恐らく、幽香や妹紅もいるだろう。
レミリア嬢に一礼し、その場から立ち去る。…紫姉さんや妖夢にも会いたいところだ。
…さて。
「おっ。愈咫郎くんじゃないか。」
「慧音先生。…それと…妹紅?」
早速、大体、博麗神社の入り口あたりで慧音先生と妹紅の二人と出会った。…だが、妹紅が慧音先生の後ろに隠れて出てこない。
「…一体どうしたんだ?」
「それは…私の口からは言わないほうがいいだろう。ほら、妹紅。」
「…笑わないでね。」
ボソリと妹紅が呟く。…そして、慧音先生の影から出てきたが、これは驚いた。妹紅は長い後ろ髪を纏め、首元を露わにしている。
「…え、え〜と…。お、おそろ〜い…なんちゃって。」
「…。」
…言葉が出ない。恥ずかしそうに笑うその顔は実に綺麗で、赤と白のリボンが実に似合っている。
「な、何か言ってよ…。は、恥ずかしい、じゃん…。」
「…いや、その…き、綺麗だ。」
…普段、髪を下ろしている女性が頸を見せるとここまで綺麗になるのか。.すると妹紅の顔が真っ赤にぽっと染まった。
「…あ、ありがと。」
「良かったじゃないか。妹紅のやつ、愈咫郎くんに見せたくて私に頼んできたんだよ。髪、結ってくれって。」
「ほお。」「ちょっ!?け〜ね〜!!」
…それはそれは。
顔を真っ赤にしてポコポコと先生を殴る妹紅。先生も笑顔でそれを食らっている。
「あはは。」
「あははじゃないッ!!言わない約束だったじゃんッ!!」
「ふふ。でも、本当に似合ってるぞ。妹紅。」
「そ、そうかな。」
吾がそう言うとモジモジとしながら、恥ずかしそうにはにかむ彼女。吾は乱れぬようその頭をポンポンと優しく叩いた。
「…私と彼氏とじゃ態度が随分と違うじゃないか。」
それをジト目で睨む先生。
「おや、先生も頭叩いて欲しかったのか?」
「違う。…まぁ良いか。妹紅が誰かに褒められているのを見て、私も悪い気はしないからな。」
…慧音先生は気を張りすぎだと思うが。
「そろそろ行くよ。」
「おや、私らとは飲んでいかないのか?」
「挨拶回りで時間がかかるのでな。…だが、妹紅とは後々飲ませてもらうよ。その時に慧音先生も来ると良い。」
「あぁ。ありがとう。」「またね。ユタ。」
小さく手を振る二人に手を振りかえし、そこを後にした。…さて、次は何処に行こうか…。
「…ん?」「あ゛?」
…なるほど。結構近くに永遠亭組が居るんだな。
「貴方は…。」
「…その節は誠にすまないな。永琳
大体、妹紅達よりは少し遠く、だが、対面に八意永琳、鈴仙ともう一人、そして、千石三太夫の姿があった。
「いえ、八雲紫から聞きました。月の使者は幻想郷の結界が厚すぎて来れないとか。」
「…それは良かった。」
永琳女医に笑みが溢れる。
「…で、そっちは何してるんだ?」
「朱智くん、そんに睨まんでもええやんか。俺はこの人らの付き添いで飲みにきた。…みんな、了承済みや。こないなええとこで一人ぎょうさん、彼女はん連れて飲もうと思っても…無駄やで?」
「そんなことはしてない。」
太夫は足をだらぁっと崩して、熱燗を飲んでいた。顔は素面とそこまで変わらず、始めたばかりなんだというのがわかった。
「人付き合いの嫌いなお前がこんなところに姿を現すなんてな。」
「騒ぎあるところ、三太夫ありや。人付き合いが嫌いやのうて、俺ァ縛られるのが嫌いなだけや。…ちゅうか、人に変わったちゅう前にお前が一丁前に変わっとるやんけ。俺が知っとる君は女より殺しが好きな、根っからの悪人やったやろ。」
「…ふっ。人は変わるんだよ。お前も変わってるじゃないか。」
「…ヒヒッ。全くや。」
…そう笑う奴は意外にも綺麗な顔をしていた。…というのもニヤァというようないやらしい笑みしか見たことのなかったからだ。
「…早行きや。まだ、君が話したい相手はおるやろ?」
「あぁ。またな。」
「…ほなまたな。」
歯を見せ笑う太夫に別れを告げ、吾は次に何処行こうかなどと考えながら、歩み出した。