…此処に来るのは三度目か。一度は異変の時に、二度目は妹紅を宴会に誘うときに。あのときは…藤原嬰章とかいう奴と死合った。苦い記憶だ。流石に迷いの竹林の道はある程度、覚えたな。妹紅の家への道は完璧なはずだ。…おそらく。
「…ふぅ。」
…やっと着いた。竹が高すぎて、小窓から出る火の煙が見えない。…引き戸を軽く叩く。中から返事が返ってきたので、少し扉の前で待つ。ガラガラと音を立てて、扉が開くと家主が家から出てきた。
「あっ。ユタ、いらっしゃい。」
「あぁ。」
扉から出てきた彼女はいつものモンペに加え、上から白い割烹着を着ていた。何故だろう。すごくマッチする。髪もあの宴会のとき同様、束ねられている。
「今、何してた?煙が立っていたようだが。」
「あー…。お昼時だからね。ご飯作ってたんだ。上等な筍も取れたし、慧音からキノコとか色々貰ったしさ。筍ごはん作ってたんだけど…。間違えて、ちょっと多めに作っちゃってさ。」
「…ふむ。」
…筍ご飯か。中々この季節ならではの食べ物だ。…ぐぅ〜…と腹の音が鳴った。
「むっ。」
「あははっ♪わかった。じゃあ、準備するから上がって、上がって?」
口角を上げ、花のような笑顔で笑う妹紅。口元には八重歯が見えている。…さて、お言葉に甘えて上がるとするか。
「…おお。たしかにいい匂いがする。」
「でしょでしょっ!!食べたらたまげるから、期待しててね〜。」
…鼻を通る出汁のいい匂い。無性に食欲がかられる。…まぁ、後は隣の妹紅が終始微笑んでいて、非常に愛くるしいというところか。
後座に腰を下ろし、妹紅を待つ。竃の火をふぅ…ふぅ…と竹筒を使い、ご飯を炊いている。…ふと気になったのだが、紅魔館はどうしているのだろうか。白玉楼は竃だったし、幽香の家は飯盒炊爨だったような…。
「はいっ!!いっちょあがり、おまちどおさまっ!!」
「…おっ。」
妹紅がもりもりに注いだ茶碗を持ってくる。ほのかに金に染まった米粒とこれまた金色の筍がいい塩梅で、とても美味そうだ。隣のキノコの吸い物も、いい匂いがする。
「…いただきます。」
米を箸で掴み、口に持っていく。
…美味いな。こりゃ。薄口かと思えば、しっかりと出汁の味わいがして、しかし、主張しすぎることはない。優しい出汁とシャキシャキと歯応えの良い筍の味が米にまで染み付いている。
「どう…かな。」
妹紅が心配そうに此方を覗き込む。
「…美味い。」
「そっか。…ふへへ。そっか〜。」
はにかみながら、顔を真っ赤にしてやんやんと身体をくねらす妹紅。…照れているのかな。
「…ご馳走様。」
「あれ?もう食べちゃったの?」
「あぁ。美味しかったよ。…さて、皿洗いはするからゆっくり食べててくれ。」
「うん。ありがとう。」
…そう言い、ニコッと笑う妹紅。
というか、自分の家のように皿洗いをするなど言ってしまったが、大丈夫だったろうか。まぁ、大丈夫だろう。
皿洗いを終え、一息つきたいと縁側に出る。鬱蒼と茂る竹林が風に靡き、ざわざわと音を立てている。静かではないが、悪くはない。
「よいしょ。」
隣に妹紅が座る。割烹着は脱いでおり、いつもの妹紅だ。髪も解いている。
「もう良いのか?」
「うん。慧音にでもやろうかとあれだけ炊いたんだけど、流石に食べきれなくってね。…ユタは今日、いつ頃帰るの?」
「いや、今日は泊まるつもりで来たのだが…。迷惑だったか?」
「あっ。そう。大丈夫だけど…そんなフラフラして大丈夫?私らは貴方のこと、知ってるからわかるけど、他の人から見たらどう見えるかわからないよ?」
…ふむ。確かに。亭主というわけではないが、男が定住もせず、彷徨うのは少し格好がつかないか。
「…まぁ、大丈夫だ。一応、紅魔館に住んではいるし。お前らにも役目があるだろ?…だったら、吾がかけつけた方がいい。」
「ふーん。…まぁ、あなたらしいっちゃらしいか。」
そう言ってすり寄ってくる妹紅。
肩と肩が当たり、髪が首元に当たって少し痒い。
「…最近、涼しくなってきたね。」
「秋だからな。」
…季節の変化が顕著に現れている。…夜は少し肌寒い。今は妹紅が寄ってきて、暖かいが…。
「…後何年、こうして夏が終わって、冬が来て、春になって…。考えたことある?不死身になったっていうのはそういうことだよ。気を長くして、生きないといけない。自分より先に誰が死んでも悔やめない。…貴方、何も考えずに不死身になって、後悔してない?」
「後悔…か。…武士に後悔などないものよ。死ぬのに躊躇うのが愚か者、殺すのに躊躇うのが度胸なし。…後悔持たぬが侍よ。…ただ主人の為にかける命が無くなっただけ。人斬り侍としての朱智愈咫郎は死んだ。最早、後悔などあるものか。」
…きっぱりしておかねば、惨めなことになる。今は紅魔館の住人としての朱智愈咫郎なのだ。死なぬも恥なら生きぬも恥。
「たとえ、吾より先に友を…恋人を失ったとして。彼女らが幸せに旅立つその姿を…間近で見れればそれで良し。…ただ、少し寂しいのかもな。一人なら。」
「…安心してよ。私がその分だけ、い〜っぱい甘えるからさ。」
そう言って妹紅がにっこりと微笑んでくる。吾はそんな妹紅の頭を優しく撫でると、目を細めてとても気持ち良さそうな声を上げた。
「…この話は終いにしよう。…不死でも不老でも、今を楽しめる人間が悔い無く死ねる人間だ。…そして、今を楽しめる蓬莱人は明日も楽しめる蓬莱人だ。なら、遺憾無く楽しもうじゃあねえか。」
「そうだね。」
徐々に日が傾き、緑の竹林が橙に染まっていく。
…哀愁漂うその風景に妹紅はふっと微笑んだ。
次はエロでも書きます?ひっさしぶりの。
アンケートですけど、皆様、ありがとうございました。この小説の終わりは決めてません。気長に書いていくつもりです。ただまぁ…その中でそういう展開を絶対書かないとは断言致しかねますが、皆様のご意見を聞くに予想通り、結構な数の人がお嫌いなようで…。このままだと1000話あたりで、咲夜さんと愈咫郎くんのお別れ会になりかねませんので、どうするかですね…。
さて、9月なのでそろそろ風神録を…となると、厄介なのは天狗でしょうか。秋の妖怪の山はさぞ色鮮やかでしょうなぁ…なんて。風神録は独断と偏見で少し趣向を変えさせて頂きます。…と言ってもオリキャラが出るわけではございません。その前の天狗の話では出るでしょうが…まぁ、名も無きキャラはその程度…で止めといてくださいw
次はまだもこたんとイチャイチャさせるつもりです。…では次回。ではでは。