…少し撒いたか。流石に白狼天狗よりも鴉天狗の方が撒くのに疲れる。
「…で?文は何処にいる。」
不揃いの山道を草鞋で踏みしめながら走る。右も左もわからんと流石に不利なので、半ば強制的に連れてきた椛に道を聞く。
「文さんは天狗宿舎にいるかと。怪しいのは白狼天狗宿舎ぐらいですから。」
「と言うことは、椛も場所をよく知らないということだな。」
「…はい。」
間が空いてポツリと呟く椛。
「じゃあ、そのッ!!白狼天狗宿舎とやらに行くぞ。いなけりゃ、妖怪の山中を虱潰しに周るしかねぇ…!!」
「はいッ!!…あっ!!来ましたッ!!鴉天狗達がわらわらと追いかけてきてます。」
横目で後ろを見る。…たしかに。所狭しと黒い羽根を持った天狗達が追ってくる。さっきよりも人数増えてら。
「チッ…!!」
「えっ?なんで止まって…!!」
「…最悪だ。」
…走る足を止める。…目の前には崖。大きな川に滝が流れている。…一度、回り道をしたいが…。
「追い詰めたぞッ!!人間畜生めッ!!」
「…玄武の沢ですか。」
「…。」
飛び込んではまた振り出しに戻る。しかし、右も左も…無論前も囲まれた。
「椛隊長を離せッ!!さもなくば、此処で斬り伏せるッ!!」
「…隊長?」
「…一応、白狼天狗内では隊長の座にいます。元はただの哨戒天狗でしたが、天魔様が私の能力をかってくださって…。」
…なるほど。白狼天狗、鴉天狗が種族名で哨戒天狗、大天狗が役職ということでいいか。そして、天魔様が一番上で、更に天狗社会は成り上がり制。だからこそ、平の天狗が隊長の座まで上り詰められた…と。…それを人質に取られたんだ。天狗達は大慌てだろうな。だが、中には冷静な奴もいる。その大多数が鴉天狗だ。
「…。」
「…見つけたぞ…!!人間…!!」
「…大天狗様…。」
腕の中の椛が呟く。
…執念深さだけは畏敬の念すら覚えるな。青筋立てて、鋭い目つきで睨んでいる。
「ちょこまかちょこまか逃げやがって…!!今度こそ、殺す…!!」
「…椛のことはどうでもいいのか?」
「…ふん。そんな女、代わりなんていくらだっている。私達、鴉天狗を置いて出世したが、所詮は白狼天狗。能力を持っているだけの木偶だ。…天魔様には、優秀な人材だったが侵入者に殺された…とでも、適当に言っておくさ。」
…周りの鴉天狗達がドッと笑い出した。逆に白狼天狗達はバツの悪い顔をしている。
「…良かったよ。アンタが救いようのない外道で。」
「…なんだと…?」
「…遠慮なく、斬れる。」
吾はニヤリと笑い、大天狗を見る。大天狗は吾をキィっと睨む。
「ハッ!!もう少し冗談くらい面白いことを言ったらどうだ!!左手にお荷物を持って、この人数を相手にすると?笑いどころか、欠伸も出ないわッ!!」
「…大丈夫だ。…そもそも吾が斬るわけじゃあないからな。」
「…なに?」
…隣の茂みから口笛が聞こえてくる。その音に天狗達がざわめき出した。
「下手な口笛だな。」
「ヒヒヒッ。そう言うなや、明智くん。彼女に言うて勝手に人呼んどいて。」
さらに茂みから声が聞こえる。
シュバっと音を立てて、一人の天狗の腹にナイフが突き刺さった。…ん?ナイフ?
「おい、太夫。お前の他に誰が…。」
「あら。私が来ちゃダメだった?」
茂みをかき分け、二人の人物がやってくる。一人は千石三太夫。…もう一人は十六夜咲夜であった。
「ダメだって言ったじゃないか。」
咲夜が来たら、天狗と幻想郷の間で面倒なことになる。だから、太夫を呼んでくるよう、言ったのだが…。咲夜はキョトンとしたような顔で吾を見る。
「大丈夫よ。レミリアお嬢様達のご飯は置いてきたわ。」
「そういう意味じゃ…。」
「私が見てないと貴方は無理するし、勝手なこともするもの。どんなことになってもちゃんと私が見ておかないとね。」
「ヒヒッ。鬼嫁やなぁ。そのうち、尻に敷かれるんちゃう?」
にっこりと笑う咲夜とニヤリと笑う大夫。そして、頭を抱える吾。…はぁ。全く。
「…心配なのよ。うちの彼氏様は優しい人だから、無理しちゃうの。」
「よう出来た娘やんけ。明智くん。」
「お前に言われなくてもわかってる…。咲夜、絶対、吾のそばから離れるなよ。」
「うん。わかってる。…ユタは私のこと、守ってくれるものね。」
…吾は少しこの微笑みに弱いと思う。
まぁ、咲夜のことだから守らなくてもうまくやるだろうが、せめて好きな女の前では格好つけたいものだ。
「…貴様ら、一体何者だ…ッ!!」
「…畜生に名乗る名など持っとりゃせんわ。…明智くん。メイドちゃん。俺がコイツら全員相手する。」
そう言い、白鞘を構える太夫。
…まあ、コイツならこのぐらいやってのけるか。
「ハッ!!後から来たお前の方が冗談が言えるようだな。その男よりも貧弱そうな貴様が、我々全員を相手にすると?笑わせる。」
「…他人を見た目で判断するなっちゅういい見本になったるわ。…ほら、早行きや。」
「…助かる。」
「通すとでも思っているのかッ!!」
まるで壁のように立ち塞がる大天狗とその取り巻き。それに向かって吾と太夫は走っていく。
「此処は通さないッ!!」
一人の鴉天狗が吾の前に立ち塞がる…が。
後ろから飛んできた白鞘が肩に突き刺さり倒れた。
「ヒヒッ。なんや、浮気はあかんで?俺がぎょうさん相手したるさかい…俺と遊ぼうやッ!!なぁッ!!」
そう言い、胸から短刀を出し、引き抜く太夫。
そのまま周りの鴉天狗達を手当たり次第、斬り伏せていく。
「おいッ!!太夫ッ!!出来るだけ死人は出すなッ!!」
「そな無茶な。」
「隙やりッ!!」
此方を向く太夫を背後から斬りつけようとする天狗。
しかし、その太夫に正面から斬り伏せられた。
「ぐあぁぁぁッ!!」
「朱智くんッ!!コイツらは俺を殺しに来とんや。其れ相応の覚悟ってもんが必要やろッ!!」
「だからといって、後が面倒だッ!!これからそいつらの親玉に会うんだッ!!」
吾も目の前からやってくる天狗を片手ではあるが斬っていく。咲夜が援護してくれるから、簡単に進めるが…。
「…わかった、わかったッ!!やけど、多少は斬りつけるで。妖怪やから、丈夫やろ。」
「…ありがとうッ!!」
…此処は太夫に任せて吾は椛の指示通りに走る。
「くそっ…!!私は奴らを追うッ!!お前らはその狂人を殺せッ!!」
「は、はいッ!!」
そう言い、後ろから大天狗が追ってくる。
…まぁ、いい。また撒くだけだ…ッ!!
「…まぁ、いいか。美味しいとこは君にあげるわ。明智くん。…さて。覚悟しろや、天狗ども…。千石三太夫、満を辞して出陣やぁ〜ッ!!」
まぁ、狂人だしね。何げ、三太夫の戦闘シーンは初ですね。この後、死ぬほど書くことになるから、ここはあんまり深掘りしませんが…。