「ダァァッ!!」
「ぐっ!!」
縦の一閃。踏み込みと同時に全神経を巡らせ、思いっきり振るう。
それを天狗は刃を上にし、刀を構え受け止める。
そのまま弾きあげ、また突いてくる天狗。
それを吾は刃でそれを受け止める。刃に天狗の刃が滑り、火花が散る。
「ぐぬぅ…!!」
「ふっ…。」
天狗が後ろへと飛び、構えながら睨み合う。
吾は歩きながら、天狗の動向を探る。…もちろん、構えている刀を引っ込めずに。
「…多少、腕が立つからと言って調子に乗るな…ッ!!」
そう言いながら、縦の一閃をしてくる天狗。
それにバツ字になるよう、吾も刀を振るう。
「ぐぐぐぐ…ッ!!」
「そう焦るな。大天狗ともあろうお方が…。」
「黙れ…ッ!!人間風情に…何故…ッ!!」
そのまま吾は刃を上へと弾き上げる。
刀に体を持っていかれまいと止まる天狗に吾は刃の向きを変え、下から振り上げる。
「ぐあっ…!?」
天狗の眉間から血が舞った。
それに動転した天狗は頭に血を登らせ、そのまま無闇矢鱈に切りかかってくる。…こうなれば、ただの作業だ。
吾は我が物顔でそれを全て避ける。…結構見切りやすいほど、無闇矢鱈すぎる。
「…終わりだッ!!」
「ぐおっ!?」
天狗の腹に峰を当てる。
すると天狗は白目を剥き、口から泡を吐き、倒れた。
「…斬らないの?」
咲夜が聞く。
「…別に斬らなくてもこの畜生は裁かれるだろう。無闇に殺しては紫姉さんやコイツらにも迷惑がかかるからな。」
悲しそうに倒れた大天狗を見る二人。
しかし、何処かすっきりとしたような顔に見える。相当、困っていたようだ。
「…さ、本題といこう。文、椛。天魔の元へ連れて行ってくれ。」
「…はい。わかりました。」
まるで雨上がりの晴天のように、晴れやかな文の笑みが全ての終わりを知らせた。
「山道を登っていきましょう。私は先に天魔様に今日のことを知らせてきますので、此処から先も椛に連れていってもらってください。」
「…しかし、それではまたお前は捕まるのではないか?」
「ふっふ〜ん。これでも私、幻想郷最速なのですよっ!!速さだけなら誰にも負けませんっ!!…嘘です、天魔様には負けますけど…。まぁ、それを抜いたら最速ですっ!!もう誰にも捕まりませんよ〜!!」
…などと文は胸を張って誇らしげに言った
「ふっ。そうか。」
吾はそんな文の頭を撫でる。…こういう子どもっぽいところを見るとあやしてしまいたくなる。
「あっ…えっ…ちょっ…。」
「…あ、す、すまん。」
フラン嬢や咲夜にやる感覚で…つい。文は顔を赤らめている。…見ず知らず…ではないが、こういうことを女性にやるのは…少し筋違いというやつだ。
「あややや…。ダメですよ?誰彼構わず、そんなことをしては。勘違いされてしまいますよ?」
右手の人差し指を上げ、優しく諭すように言う文。…見た目以上に生きているのは彼女もレミリア嬢と同じか。まるで年下に諭されているようで、なんとなく不思議な気分になる。
「あぁ。わかった。」
「んふふ。宜しいです。…では、私はこれで。」
それだけ言うと文はバサリと空へと飛び立った。…さて、吾らも向かうとするか。
「椛、頼む。」
「あっ、はい。」
…まぁ、今は椛について行くしかない。しかし、ふと疑問に思ったが、天魔という人物はどのような方なのだろうか。
「なぁ、椛。天魔という人はどんな人物なんだ?」
「…そうですね。頭脳明晰で種族問わず気さくに話してくださる方です。しかし、体を動かすのも好きで大抵の天狗はおろか、鬼でも勝てる者が限られるほどお強い方です。間違っても戦おうなんて思わないでください。」
「…そうか。」
…確かに命が惜しいなら戦わぬが吉だろう。
「…もしかして、戦おうとしてる?ユタ。」
「はぁ!?だーかーらー、人間が天魔様と戦うなんて死にに行くようなものですッ!!絶対、やめてくださいッ!!良いですね?」
…椛に釘を刺されてしまった。ジトーとした目で睨まれた。
「わかったわかった。…そもそも、不義理な喧嘩は売らない主義だ。」
「…そうしてください。じゃなきゃ、私が止めますんで。」
「あら、ユタ。あれって。」
「…なんや、人がせっかく逃がしたったっちゅうに、朱智くんは女二人とお散歩かいな。」
…太夫。そうか、こっち方面がさっき天狗たちに追われた玄武の沢近くか。戻ってきたってわけだ。
「そんな血だらけの顔で睨むな。…というか、誰も殺してねえだろうな?」
「ヒヒッ。大丈夫や。ちゃあんと手足は繋がっとる。」
「…あのなぁ…。」
我が物顔で笑う太夫。見たところ、傷がないことから一方的だったのだろう。…しかし、此処は酷いものだ。時期は少し早いのに、もう青々とした木々が血で紅く染まっている。
「…こりゃ、斬り殺さんでも失血で死ぬんちゃうか?」
「やりすぎるなと言ったじゃねえか。」
「ヒヒッ。やりすぎたんとちゃう。ちゃあんと加減はしたわ。やけど、コイツらが脆すぎたんや。」
…惨状はひどいものだが、死んでないことは吾でもわかる。天狗の回復力を信じるしかあるまい。
「で、朱智くん。何処行くんや?」
「…天魔邸だ。元々、天魔様…とやらに会いに行くつもりだったからな。」
「ほうか。せやったら、俺も行くわ。天狗の親玉とやらを一眼見ときたいしなぁ?」
「…勝手にしろ。」
…コイツのことだ。本当は連れて行きたくない。喧嘩狂いのコイツのことだ。天魔が強いと知れば、刀を抜きかねない。
「ほな、勝手にするわ。」
「…大丈夫なんですか?愈咫郎さん。この人が天魔様に無礼なことでもしたら…!!」
椛が耳打ちしてくる。
…椛も心配なのだろうな。この惨劇を見て…。
「…まぁ、大丈夫…とは言わないが、流石にそこまで命知らずじゃないから安心しろ。頭はいい方だと…信じてる。」
「なんや?人を狂蛇みたいに。俺ぁ確かに喧嘩も強い奴も好きやけど、
「大丈夫なんですかッ!?」
「…。」
…椛が半泣きで吾に訴えかけてくる。咲夜も心配そうに笑っているだけだ。…吾にも少し心配になってきた。命がいくつあっても足りんな。コイツと居たら。
「…なぁ、椛。あれじゃねえのか?天魔邸。」
「へっ?…ええ。あれが天魔邸です。」
…へぇ。確かにご立派だ。森の中に大きな日本庭園と大屋敷。…永遠亭やら、白玉楼やら…大きな建物を見すぎたせいで、少し小さくも思えるが…。
「…入ろう。」
「…案内します。こちらへ。」
椛に案内され、中へと入って行く。長い廊下を歩いて行き、立ち止まったのは中でも大きな扉の前だった。コンコンと椛が扉をノックすると中からどうぞと澄み切ったような声が聞こえてきた。
「失礼します。」
ガチャリと音を立てて大扉が開かれる。
そこはまるで大きな剣道場のようなところで、目の前に腰までの黒髪の女性が腰を下ろしていた。
「ご足労、誠に有難うございます。私はこの天狗の里、天魔の名を授かっております、黒葉と申します。」