※この作品はR-18です。

人斬り武者の幻想歌   作:紳爾零士

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長いです。詰め込みすぎました。すみません…。


五十四杯『天魔 黒葉』

「ご足労、誠に有難うございます。私はこの天狗の里、天魔の名を授かっております、黒葉(こくよう)と申します。」

 

女性は上品に頭を下げる。…天魔という名前からもう少し屈強な、ガタイのいい大男を想像していたが、見た目は文にも近しい、長い黒髪の大和撫子だった。

 

「…ぜひ、おかけください。畳の上で申し訳ありませんが。」

 

「これはご丁寧に。…それでは。」

 

言葉に甘え、吾ら一同…いや、椛以外はそこに座る。

 

「椛も、座りなさい。」

 

「…はっ。失礼致します。」

 

優しげな笑みでそう言う黒葉殿。それに答える形で椛も腰を下ろした。

 

「では、先ずは皆様に謝罪を致します。」

 

「謝罪…ですか…。」

 

十中八九、先程の天狗たちの件だろう。

…早すぎるとも思ったが、先に行った文が報告したと考えれば自然か…。

 

「はい。たった一人の天狗の身勝手な行為、客人への配慮にかけた行動、そして、あまつさえ客人の命すらも狙う非道な行為。天狗の長としてではなく、一天狗として頭を下げさせていただきます。…誠に申し訳ございません。」

 

…また頭を下げる黒葉殿。…女性に頭を下げさせ続けるのは…少し気持ちの良いものではない。

 

「…頭をお上げください。見ての通り、吾らは無傷です。それに天魔様の意思に反したあの大天狗の身勝手な行動であるということは吾らもあらかたわかっております。貴女が頭を上げる必要はありません。」

 

「ですが…。」

 

「ま、そういうこっちゃ。勝手なことした奴の為に上が謝る…。カァ〜ッ!!めんどくさいなぁ…。組織の大親分ってのは組織の奴隷にも等しいって、昔に口酸っぱく言われたわ。…やけど、今この場にはそんなこと、気にする奴なんておらへん。やから、もうええんとちゃうん?」

 

…中々良いことを言うな。太夫のやつ。

黒葉殿は少しほっとしたように頬を緩ませ、感謝の言葉を口にした。

 

「…それで、吾に会いたいと手紙には書かれていましたが…。」

 

「ええ。文の新聞も楽しく見させていただきました。果たして、新しく幻想郷に来た方はどのような方なのか…。天狗は見聞を広めなければなりませんから。」

 

そうやってにっこりと笑う黒葉殿。

 

「ふっ。なるほど。」

 

「ですが、紙面ではわからないことも多くあります。不確かなことを書く者も少なくはありません。ですから、私は気になったものは見ておきたい性分なんです。…果たして、貴方が我々にとって友となり得るのか、敵となり得るのか…。」

 

…少し雰囲気が変わった。元々、生真面目さに少しふわふわとした雰囲気を漂わせていたが…今はまるで力を抑える気がないような…。冷や汗が首筋をつたう。力の差は天と地、雲泥の差である。

 

「…ヒヒッ。なるほど?俺らが敵やった場合は、此処で人生終了ってか?上等やないか。」

 

「ええ。運動は好きなので、みなさんと遊べると思うと嬉しいです。…が、我々の同胞を殺さず、生かしてくださっているということは我々にとって危険分子ではないということ。…で、よろしいでしょうか。」

 

…収まった…?

ダダ漏れだった、殺意や黒い何かは彼女の体へと収められ、先ほどのような生真面目でふわふわとしているように戻った。…なんだったんだ、今のは。よくレミリア嬢の言う『妖力』というやつではないだろうか。…太夫以外は力の差を知った、少し怯えたような、やるときはやらねばならぬと切羽詰まったような表情をしていた。

 

「なんや、黒葉ちゃん。遊ぶ気はないんかいな。俺ァ、てっきり…そんなことはどうでもいいから、強い朱智くん達と死合うてみたいっちゅうかと思ったわ。」

 

「うふふ。それも面白そう…。後でやりますか?この堅苦しい談義が終わったら、で宜しければ。」

 

「…おい、太夫。」

 

…黒葉殿のキラキラとした純粋な目が吾に刺さる。恐らく、吾と一度やってみたいと言われるに違いない。…椛には止められたがやむを得ないか。

 

「ヒヒッ。ええやんけ。相手は人なんて滅多に会うことの出来ん、雲上人である天魔はん。そんな天魔はんと死会うなんて幸運やないか。…まぁ、俺もやりたいけど、今回は君に譲ったるわ。…残念やけど、俺、永遠亭に忘れもんしてもうてな。そのせいで半殺しにしか出来んかったわ…。」

 

太夫がやる気じゃなくて良かったな。これ以上、話が拗れるところだった。

 

「うふふ。貴方方は非常に面白い方々のようだ…。では、やりますか。明智さん。」

 

…堅苦しい談義…というのはすでに終わっていたようで。まるで子どものような無邪気な目を向けてくる。お淑やかな印象だったが、自身の欲求を隠すのは苦手なようだ。

 

「…致し方ありませぬな。しかし、吾は下級武士の末端。貴女のような方とは力の差は誰が見ても歴然です。せめて、死なぬが取り柄。不死者ゆえの業。…貴女と闘いになるのかはまた別の話でございますが…よろしいですかな?」

 

「もちろんです。私は遊んでくださるだけで結構なので。」

 

…そうにっこりと笑う黒葉殿。その笑顔には裏表やらなにやらが見えない。つまり、彼女にとってこれからのことは元より『遊び』なのだ。

 

咲夜と太夫、椛がその場からはけ、天魔、黒葉殿との一騎打ちが始まろうとしていた。黒葉殿は黒刃の大薙刀を手に取った。

 

「…なかなかの業物ですな。」

 

「刀の良し悪しはわかりません。私の父にあたる人間の持っていたもので、名を『飛龍の薙刀』と。…さて、それでは始めましょうか。少しだけ遊びましょう。」

 

…対面した天魔、黒葉は先ほどの異様な気配をダダ漏れにする。…これほどまでの大物とは紫姉さんに会った以来だ。自然と表情が強張る。彼女を前に笑っていられる余裕は…ない。

 

「ーッ!!」

 

黒葉殿から勝負は始まった。

ぶぅんという風切音と共に上から薙刀が振り下ろされる。

 

それを避けることは敵わず、2本の刀を上でバツ字にして受け止める。

 

「ぐっ…!!」

 

…なんだ…。受け止めた両腕が悲鳴をあげる。ブチブチと音を立てて、腕から血が吹き出した。

 

「あらあら。まだ、本気ではありませんよ?」

 

「チィッ…!!」

 

…薙刀を振り下ろした…だけ。技なんぞではなく、ただそれだけで腕がボロボロだ。吾はそこから後ろへ飛ぶ。

 

「うふふ。逃がしませんよ?」

 

「くっ…!!」

 

後ろへ飛んで距離を取ろうにも流石は天魔。文以上の速度で吾を追い詰め、薙刀を槍のように前へと刺し出してくる。

 

吾はそれをなんとかして避ける。

 

「…凄いわね。」

 

「あぁ。力の差は歴然、やな。江戸では幅を利かせた人斬りも、天魔の前ではただの鈍や。あの腕、見てみい。たった一振りでなんべんも斬られたみたいに血だらけや。」

 

「…あれが天魔。」

 

…避けるのも辛くなってきた。最初はそこまでの速度ではなかったものの、徐々に速度が上がり、今では全てを避けられているわけではない。

 

「ぐっ…。遊びで人を…殺す気か…?」

 

「…死んでしまったらすみません。貴方は死なないと仰ってましたので少し本気を見せても宜しいかと。」

 

次は横薙ぎの一閃を放つ黒葉。

 

それを吾は刀を十字にして受け止める。

 

「ふふっ。では、次で最後です。」

 

そのまま彼女は自身の腕を軸に刃を自身の後ろになるように戻す。

 

その後、彼女はその反動でまた横薙ぎの一閃をかます。

 

吾はまたそれを刀を右向きに十字にして受け止める。…が、先ほどよりも重い…。

 

「…流石ですね。これを受け止めるとは…。普通なら、認識もできずに首が切れてます。」

 

「…な、なにが起こったの…?」

 

「…本能か。本能であの一撃を受け止めた。…結局、どっちもバケモンやんけ…。」

 

…腕が破裂しそうだ…。

刃からじーんと広がるように骨まで響く。

 

「…ふぅ。」

 

天魔の手が止まった。薙刀が戻される。柄の刃ではない方を木の床へと落とされた。…少し目眩がする。

 

「流石ですね。頑丈で驚きました。並の人間なら、最初の一太刀で真っ二つです。」

 

「…ふっ…。まるで…褒められているように…思えないな…。」

 

天魔の黒葉殿が手を差し伸べてくる。吾はそれを受け取り、立ち上がった。

 

「…流石だ。黒葉殿。」

 

「ふふ。刀を交えたんです。その、殿というのはおやめください。刀を交えてわかりました。…今後、あなた方は黒葉の名で山への自由な出入りを認めます。」

 

「感謝致す。黒葉。」

 

そういう彼女の顔は少し鬱憤が晴れたと言わんばかりに晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、吾々はまた、天魔と話をすることとなった。なにせ、天魔は山では高貴な立場。中々、対等に話し合える相手がいないそうで。その話の中に…。

 

「…守矢神社での5番試合?」

 

「ええ。この幻想郷にあるもう一つの神社との5番勝負で、幻想郷と妖怪の山の実力者を集めて戦うとか…。お耳にしたこと、ありません?」

 

…聞いたことはない。黒葉はキョトンとしたような顔で吾らを見た。

 

「ヒヒッ。そりゃあ、面白そうな話、聞いたわぁ〜。勿論、俺も出るで。」

 

「…しかし、相手が分からない。」

 

…妖怪の山の実力者。天魔と同等、若しくは天魔以上の人物と戦うことになるということだ。

 

「…相手が分かっては面白くないやんけ。これは祭りや、祭りっ!!なんのためにやるかはわからんけど、朱智くんも出るやろ?」

 

「ダメよ。今回のことで傷だらけじゃない。」

 

嬉々としてそう言う太夫に吾の横の咲夜が釘を刺す。…たしかにだいぶ回復はしたが、腕に力を入れるだけで痛みが走る。

 

「…だが、出なきゃならないとなれば出ねばな。レミリア嬢が出ろと言うなら、必ず勝ち星を取ってくる。」

 

「…はぁ…。全く。もし、また傷だらけになりそうになったら、止めるからね。」

 

「…あぁ。」

 

そう言って咲夜の頭を撫でた。…吾には勿体ないくらい出来た女性だ。

 

…天魔邸から帰った時にはもう日が傾いていた。帰り際にあった文に今回のことを言うと大層驚かれた。勝ったわけではないので、非常に悔しい気持ちでいっぱいだったが、天狗の長と友になれるとは…奇妙な縁もあったもんだ。

 

「愈咫郎さん。ご無事で何よりです。」

 

「あぁ。」

 

山の帰り道を案内してくれた椛が言った。帰る頃にはもう身体はほぼと言っていいほど完治していた。不死の薬の影響だろうか。

 

「…今日はほんと、ご迷惑をおかけしてすみませんでしたッ!!…それと、ありがとうございます。私の話を信じてくれて。」

 

「切羽詰まった状況だったからな。」

 

…目の前で頭を下げる椛。

 

「それに知らない仲でも無かった。椛じゃなかったら信じてなかったよ。」

 

「…今度、何か埋め合わせをさせてください。」

 

「そんな、良いって。」

 

「いえっ!!今度なにかさせてくださいッ!!」

 

…吾の肩を両手で持ち、そう言う椛。…真面目なところが彼女の良いところなのだが、それでも折れないほど頑固なところもある。まぁ、短所というのは違うが。

 

「…そ、そうか。それなら…今度、酒でも一緒に飲んでくれ。」

 

「…わかりました。とびっきりのものを用意しておきます。」

 

そうはにかむように笑う椛。尻尾も揺れている。吾はそんな椛の頭に手を置き、優しく撫でた。今度はびっくりするでもなく、満足げな声を上げてくれた。…そして、妖怪の山を後にしたのだった。




この後は1話だけ閑話休題か、設定を出して、その後、5番勝負にいくかすぐいくか迷ってますw多分、今回は話のつながりもありますのですぐいくと思いますが、すぐに戦うのは違うと思うので前話的なものを1話書いてから風神録にいこうかなぁと。といっても、本物の風神録ではなくて、5番試合という形のものにしたいと思います。では次回。ではでは。
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