…始まりの煽りが入る。…が、双方なかなか動かない。そりゃそうだ。この勝負は速攻戦。天狗と戦うなら…人にとっちゃ油断はできない。
「…レミリア嬢。」
「ふふっ。…天狗如きに私の咲夜が劣るは訳ないわ。貴方ならわかるでしょ?」
「…心配など毛頭してはいませぬ。…咲夜なら、簡単に勝ってみせるでしょう。」
…第一試合にしてはとてつもない静寂。会場には美女が二人、睨み合いながら歩いている。…だが、そろそろ動き出す。
「ーッ!!」
「ッ!!」
咲夜が文の首を狙って蹴りを放つ。
それを文が蹴りで止める。会場では美人の美脚が交差している状態である。
その後、二人とも後ろへと跳び、距離を放つ。お互い、冷静だ。
先に仕掛けたのは咲夜。咲夜は文へと走り込み、近づき、逆手に持ったナイフで切り刻もうと振るう。
それを文は屈み避け、足払いをかける。
「くっ…!!」
咲夜はそれをくらって転倒するも、受け身を取り、また立ち上がる。
「流石ですねぇ。メイド長さん。」
「貴方、手を抜いてるわね。さっきの蹴りも…その気になれば、私の顎に入れられたでしょ?」
「ふふ。そんなご謙遜を…ただ…。手加減はしておりますがね。」
…咲夜も文もまだまだ力を隠している様子だ。二人とも笑いながら、距離を詰めている。…しかし…。
「…何故、飛び道具ではなく、肉弾戦を…。」
「恐らくだけど、飛び道具だと咲夜に勝ち目が少なくなるわ。相手は天狗。…じゃなくても弾幕勝負なら妖怪に分がある。体力やら妖力やらの差はあるからね。想像力も生きてた分だけあるはずよ。…それに、厄介なのは天狗ってところ。考えてるところにつけ込まれて一気に出し抜かれるわ。…速さも勿論、頭の回転も速いってこと。」
隣のレミリア嬢がそう言った。
「…なるほど。」
つまりは咲夜のナイフよりも天狗の弾幕の方がずっと速く、そして、咲夜が考えるよりも先手を文は考えることができる…ということか。
「…まぁ、咲夜が本気を出せば勝てない相手じゃないわ。」
「…だな。」
『おっと!!お互い拮抗しておりますッ!!』
『先ずは様子見ってとこだね。お互いに。』
「さぁッ!!いきますよッ!!」
文が地面を蹴って突っ込んでくる。
それを咲夜が右に転がって避ける。
しかし、文は即座に翻し、背後から咲夜を蹴った。
「ぐっ…!!」
「さぁッ!!私の速さを止められるものなら止めてみなさいなッ!!」
『おおっとッ!!射命丸選手ッ!!怒涛の進撃だッ!!十六夜選手の周囲を飛び回り、前方から後方から左から横から斜めからッ!!四方八方よりその速さで撹乱し、十六夜選手を攻めまくるッ!!』
『これは逃げられないね。一発目を避けてもそのすぐ後に追撃が来る。もしも顎にでも入れば、怯んだ隙にやられる。考えたね。』
…たしかに。その速度は目にも止まらないほど。咲夜の周りをまるで虫のように飛び回り、撹乱しながら時折、蹴撃を咲夜へと打つ文。
…咲夜は防戦一方である。
「上げてきたわね。…でも、咲夜もそろそろ本気よ。」
「さぁ、さぁ…さぁさぁさぁッ!!」
どこから飛んでくるかわからない文の蹴り。
それを時折流し、時折避けるもくらう咲夜。しかし、流石というべきか。いずれの攻撃も急所を避けている。
「…しかた…ないわね…ッ!!」
「なにをするつも…
りですかッ!!」
『なっ!?』
周りがざわつく。…そのはずだ。たった数秒前。時計すらも刻むことのできない数秒前。文の抜けられないほどの速さと攻撃の檻の中に閉じ込められた咲夜が、文の背後に立っているのだから。
『こここ、これはッ!!なんということだろうかッ!!先程まで文字通り手も足も出なかった十六夜選手がなんと、射命丸選手の背後に立っているではありませんかッ!!』
「…一体なにを…!!」
「ふふ。さあね。…ここからは本気で行くわよ。文。」
「くっ…!!」
冷静さを乱したか、文が前からまた突っ込んでくる。
が、次の瞬間、文の目の前から咲夜は消えた。
焦ったように後ろを向くと、文の頬に切り傷が現れた。
「…一体、何が…!!」
「考える時間は与えないわよ。」
「くっ…!!」
文の首元に汗が伝う。
咲夜はナイフを3本、持って美しく笑っている。
「…能力の相性ね。速さを生業とする天狗でも、流石に止まった時の中では動けない。咄嗟に反応できる貴方みたいな人じゃないと咲夜は無敵よ。」
…文が弱いわけじゃない。ただ、相性が悪かっただけだ。
「さぁ、終わりにしましょ?うふふ。…幻象『ルナ・クロック』」
怪しげに笑い、米粒状の弾幕を飛ばし、また時が止める咲夜。
文は弾幕を交わしたまま、気がついたら周りからやってくるナイフを避けなければならない状況に立たされていた。
「くっ…!!」
「終わりよッ!!」
「ッ!?」
…ナイフを隠れ蓑にして、向かってくる咲夜。
ナイフを避けるのに手間取っていた文は更にやってきたナイフを避けることは敵わず、身体にナイフが数発被弾した。
「…ぐはっ…。」
…当たりどころが悪かったのか、文は血を吐きながら倒れた。
誰がみても勝ち負けは明確である。
『第一試合勝者は、博麗神社サイド、十六夜ぃぃ…さーくーやーッ!!』
「やった、やったわっ!!ふっふーんっ!!当然よッ!!私の咲夜だものっ!!ねぇっ!!愈咫郎っ!!」
あまりに嬉しいのか、立ち上がりながら喜びの声をあげるレミリア嬢。羽がパタパタと動いている。
「あぁっ!!」
本当によくやった。吾も嬉しくなる。
…吾は立ち上がり、走りながら咲夜のところへ行く。
「咲夜…!!」
「ユタっ…!!」
…相当頑張ったのか、足元がふらふらである。文の蹴りが相当効いたようだ。
「わっ…!!」
「おっと。」
前からこけそうに咲夜を吾は胸で受け止める。
咲夜が困ったようにはにかみ笑った。
「ごめんなさい。ちょっとよろけちゃって…。」
「…ふっ。仕方ない。ちょっとごめんな。」
「えっ…ちょっ、ちょっと…!?」
…よろける咲夜を吾はお姫様抱っこで抱き上げる。
「み、みんなが見てるからぁ〜…!!」
顔を赤らめてふにゃけた顔で吾を見る咲夜。今更何をとも思うが…まぁ、労うくらいはさせて欲しい。
「…せめて、このくらいはさせてくれ。」
「う…うん…。」
…少ししおらしいな。さて、帰るとするか。
「…ん?」
帰り際に誰かとすれ違った。…いや、誰かというのはおかしいな。それは浪人笠を被った派手な着物の男だった。間違いない。この幻想郷でそんな男は…。
「おい、太夫。何して…。」
太夫は此方に振り返ると、浪人笠を上にあげ、口元で指を指す。しぃーと静かに口元に笑みを浮かべ、太夫は吾らと逆方向へ歩いて行った。
「…なんなんだ?」
「次は…魔理沙のはずよね?」
…そんなことを話しながら帰る。
「アンタら…こんな時に限って、またイチャイチャイチャイチャと…。」
「まぁ、良いじゃねえか。霊夢。彼氏いないからって妬むなよ〜。」
元の場所に霊夢がジト目で此方を見て、魔理沙がニヤッと笑って此方を見てくる。藍に至っては羨ましそうに此方を見ている。
「はっ!?べ、別に…妬んでなんかないし〜?」
「ハハッ!!そう言って、目が泳いでるぞ?おいおい。」
…肘で突っつく魔理沙に霊夢が拳骨を落とす。自業自得だ。吾は咲夜を永琳に預ける。吾のことを少し苦手にしているようだが、今日はふっと笑ってくれた。少し嬉しい。
「そういえば、魔理沙。なんでお前、ここにいるんだ?さっき太夫が入ってったが…。」
「あぁ。変われって言われたんだよ。…あいつ、どうしたんだ?次の相手見るなり、変われって。いつもみたいに笑いながら…いや、いつも以上に笑ってやがったな…。どうしたんだ?」
…相手見るなり変われと言った?
魔理沙も咲夜もレミリア嬢も吾もキョトンとしている。霊夢に至っては、額に青筋を立てて少しキレている。
『さぁ!!第一試合はとても白熱してましたねッ!!5番勝負は良い開幕を迎えさせてもらいましたッ!!』
『うんうん。これで博麗神社は一勝、守矢はまだまだ巻き返せるよ。さぁ、注目の第二試合は!?』
『第二試合選手を紹介しますっ!!まずは守矢神社サイドッ!!…荒れ狂う風雨の女王。その速度は射命丸文を抜き、実質的な幻想郷最速ッ!!天狗達の長にして、妖怪の山の女王ッ!!天魔、黒葉ォォォォッ!!』
…天狗達が叫び出す。なんだ。そういうことか。長い艶やかな黒髪を揺らしながら、壇上に立つ黒葉。手には薙刀ではなく、太刀を腰に帯刀してある。
「たくさん遊んで良いんですよね!?よしっ!!私、頑張りますっ!!」
目をキラキラさせて、左手でガッツポーズをする黒葉。
『そしてそして、博麗神社サイドは…。あれ?選手が変わったみたいですッ!!それではご紹介致しますッ!!…幻想郷にやってきたもう一人の侍。正義に狂い、全てに狂い、その生き方はまさに狂蛇。永遠亭の毒蝮、千石三太夫ゥゥゥゥッ!!』
「ヒヒッ…いっちょやったろやないか。なぁ?黒葉ちゃん?」
浪人笠を上へと脱ぎ捨て、ニヤリと笑いながら顔の前で白鞘をゆっくりと引き抜く太夫。キラリと光る刀身に太夫の顔が映った。
「はっ!?次は太夫さんなんですね!?…手加減はしませんよぉ。」
「ヒヒッ。任せや。…言うとくけど俺ァ朱智くんより…強いでぇ?」
お互い剣を抜き、刀を構えて向き合う。…睨みながらではなく笑いながら。
『第二試合、ファイトッ!!』
その声とともに黒葉が横一閃に刀を振るった。
次回は黒葉対太夫です。
では次回。ではでは〜。